2ntブログ
エロゲ レビュー ブログ
【俺たちに翼はない】
俺たちに翼はない



メーカーNavel
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■■■■ 8
キャラクター■■■■■■■■■□ 9.5
音楽■■■■■■■■■□ 9.5
テキスト■■■■■■■■■■ 10
総合【A+】 89点

テキストモンスター

未完の名作と呼ばれた「それは舞い散る桜のように」は、良くも悪くも王雀孫、西又葵の名をエロゲ界に轟かせました。それから数年の時を経て、企画からは実に6年、延期に次ぐ延期で前作同様不安いっぱいな事前展開をみせ「幻の作品」とまで言われた本作、マスターアップされた瞬間のユーザー期待は、それはそれは高かったことでしょう。

【シナリオ】
シナリオは王雀孫さん、非常に色のある文章を書く人です。主人公と周囲のキャラの距離感が絶妙なため、大勢の登場人物がいて、キャラクター性がバラバラ、且つヒロインの顔が同じ(笑)という本作ながらも、そのバランス感や言葉のテンポは見事であると思いました。シナリオ、というよりも「テキスト」が秀逸という印象でしたね。このテキストの巧みさを、シナリオの妙ととるかキャラ造形の妙ととるかはなんとも言えませんが……。

季節は真冬、舞台は都市柳木原。緩やかな学園生活を送る鷹志、喫茶店アレキンダーの常連であるフリーライター鷲介、夜の柳木原で何でも屋を営む隼人、町のどこかに今日も集う若者たちのありふれた恋物語が今描かれます。……と、話自体には明確な目的や進行があるわけではなく、多重人格の主人公まわりに集まった人物たちとの生活群像劇となります。群像劇スタイルの話ってそうそう見ないです。明確な目的が無い分間延びしてしまう恐れが非常に大きく、本当に難しいんですね。

そして、実は王雀孫さんのテキストは、存外に教訓めいた説教系テキストでもあるのですが、それを全く鬱陶しく思わせないほどに文体が巧みです。人格障害を抱える者や、社会の隙間で逞しく生きる者たちが語る台詞は苦々しくも実に真理を突いており、それを各キャラの明るい語り口で見事に覆い隠している様は素晴らしいと思います。

主人公視点であることを逆手に取り、各章の主人公が当初別人であると思わせる構成がまた良かったです。それぞれの主人公まわりの話を展開させ、各章のサブキャラも微妙にリンクさせていくことで、徐々に主人公が多重人格だという結論に迫っていきます。この設定は凄く面白い。ですが、これは一方で設定倒れして破綻をきたす可能性も非常に高い。そこを書ききった本作からは、やはり彼の文章力の高さと、話題の引き出しの多さを垣間見ることができるわけですね。


上記したように、各章にて主人公の人格が変わりますが、僕個人としては、飄々として軽快な鷲介と、硬派でありながらもどこか三枚目的に描かれる隼人の語り口はかなり好みでした。全方位的な会話応酬と周囲のキャラとの絡ませ方が、テンポよく展開されていて読んでいて気持ち良かったのですが、逆に内向的で優しい鷹志や人格的に飛んでいる伽楼羅の語り口などは肌に合わず、かなり頑張って読むことになりました。そこが難といえば難なのですが、すべてが同一人物の言葉なのだと考えると、その煩わしささえも脱帽のテキストですね。

多重人格が確実なものになってからは、後半の物語をどう収束させていくかが見物ですが、共通パート終盤までの選択肢により、各ヒロインとの事情に絡ませつつ残る人格が決定され、ルート分岐、収束させていきます。


学園生活が中心となる鷹志(たかし)ルート。ヒロインは、同級生の渡来明日香山科京。唯一、自身が多重人格であることを知らず、「負け知らず」という役割を負うことで結果として「ネガティブな感情を持てない」彼は、感情の許容を超えると妄想の世界グレタガルドへ旅立ってしまいます。そんな彼と、同様に心の病を大なり小なり抱えていた彼女らが徐々に通い合っていくシナリオです。鷹志編は本作のベースの章ではあるのですが、俺つばチームの先鋒戦としては非常にシナリオの出来もキャラも弱く、位置づけとしては難しい役割だったなぁと思っています。

喫茶アレキサンダーのバイト生活が中心となる鷲介ルート。ヒロインはアレキサンダーの同僚にして新鋭作家の玉泉日和子。共通パートでも群を抜いて勢いのある鷲介パートですが、個別に入ってからのテンポの良さはとどまることを知らずにむしろキレが増しております。シナリオ的にはあまり突っ込んだところにいかないため、ひたすらアレキサンダーと出版社まわりの「陽」な世界観にて、キャラ、音楽を材料に素晴らしい空気を保ちます。特に店長狩男の滑り知らずのギャグを筆頭に、紀奈子さんのノリの良さ、同僚英里子から頻繁に放たれる目から鱗な言葉たち、そしてヒロイン日和子が歩み寄りを見せることによる青天井の愛らしさ。俺つば高評価の原因の大きなところは案外このアレキサンダー組の掛け合いの面白さによる気がしています。

夜の柳木原市を派手に描く隼人ルート。ヒロインは、柳木原の夜の顔であるジャンキー鳳翔の妹、明るく孤独な鳳鳴。共通パートは、アウトローで最も話を揺り動かすパートでしたから、個別でも柳木原市の「陰」をベースに鷲介編とは違った意味で濃い魅力のキャラたちが派手に動きまわります。主人公の多重人格に憧れる鳳翔が意欲的に活動しますので、抗争、ドラッグ、復讐と最も話が激しく展開するルートであり、ゆえに最も見所の多いルートでもあります。さらに、クレープ屋のパル姉さん、AVスカウトのプラチナ、ラーメン屋のメンマ、露店商の黒人マルチネスといった、付かず離れずを保った隼人まわりの大人の仲間たちの存在感が絶妙で、ところどころで語られる彼らと隼人との仲間意識には熱くなるものがあります。

鷹志編、鷲介編、隼人編と、時間が昼から夜に進むとともに、主人公の周囲の人間たちも子どもから大人へと変化していくのですね。本作は人間群像劇ですからキャラの描き込みこそが肝要となりますが、章の経過とともに、キャラの深みが増してくるこの構成の取り方は非常に好感がもてます。


3主人公ルートを見ると、最終ルートの、基本人格である鷹志(ようじ)編に突入します。ヒロインは義妹の羽田小鳩。僕は隼人編までをクリアした時点で、せっかくの多重人格なんだから、各主人公と別パートのキャラ同士を、パートを超えて立体的に絡ませることが出来ればさらに奥行きが出たかなあ、と思っていたのですが、それを包括的に表現していくのが最終章の本ルートでした。5人の人格が統合され、日々を一貫して鷹志一人が動くことで、集大成的な話を形作る展開は非常に良かったと思います。

彼自身が多重人格になるきっかけとなった伏線も余すことなく説明され、アリスを筆頭に各章のサブキャラたちにも読後感の良いエピソードが用意され、ヒロイン小鳩もかなり愛らしく且つ意志の強い魅力的なヒロイン像として描き切り、まさに大団円ともいうべきTRUEルートでありました。

このルート、凄いのが鷹志の言葉や独白。彼独自のものに加え、他4人の語り口がところどころに潜まされているところにテキストの丁寧さを読み取ることができ、巧いなあと思いましたね。


「俺たちに翼はない」、このタイトルはとてもいいですね。まさに俺たちに翼なんてものはないんです。どのルートでも各々現実を受け入れ、前向きに生きる決意をするストーリー収束は胸に残るものがありました。


【グラフィック】
「判子絵」と揶揄される西又葵さんの絵ですが、確かにまごうことなき判子絵であり、見分けをつけづらいのは確か。鳴と小鳩なんておんなじじゃないですか笑。ですが、ひとつひとつの絵自体はとても魅力的で、可愛らしいのもやはり確かです。服装のセンスはぶっ飛んでいますが笑。

全編アニメーションで制作されたOPムービーはクオリティ高くて見ごたえあります。曲もいいですからね。サビ部分で、LR、チケドン、バニィDが出てくる絵面を見て一体どんなゲームなんだと思ったものです笑。あと、OP内で最も印象に残るカットは紀奈子、英里子、狩男の横ピースのシーンだと思うのですが、この子達ヒロインちゃうんかい、とも思いましたね笑。

また、最終章導入時にもうひとつOPムービーがあったのには上がりました。


【キャラクター】
まず、主人公の多重人格を綺麗に描き分けたという点が評価です。好きな人格もあれば、肌に合わないものもある、恐らくユーザーは皆そう感じていると思いますが、それはキャラクター造形がよく出来ていたことに他なりません。上記したように、ゲームの主人公的な描かれ方をする隼人や鷲介は非常に好感度が高い反面、伽楼羅といったぶっ飛びキャラに感情移入するという人はほとんどいないと思います笑。ただ、伽楼羅の言葉や発想はすさまじいものがありましたけどね。翔が憧れるのもよくわかる。

圧倒的にキャラ作りがうまかったのは、鷲介パートの面々。キャラとテキストだけで凄まじい完成度を誇るほどの名キャラたちのオンパレード。普段エロゲやりながらひとり笑うことなんてまず無いんですが、狩男や鷲介には何度かリアルで吹かされましたし、女性陣は全員攻略キャラでもいいくらいです。

そしてこれも上記しましたが、隼人パートの仲間たち。パル、メンマ、プラチナ、マルチネス、アリス……夜の柳木原で生きる大人たちの悲哀と優しさにはだいぶ心が動きました。基本爽やかな流ればかり用意される女性陣の中でも唯一「失恋」という役どころを負わされる香田亜衣の切なさも良かったですね。


【音楽】
音楽は全体的にかなりレベルが高いです。ドラムやベースといったビート系、ギターカッティングにアナログさを追求しているのは好感度高いですね。「世界が平和でありますように」といった穏やかな曲から、鷲介編で流れる「きんきんクールビューティー」「やばいよやばいよ」といったアップテンポでスウィングする曲まで、どれも音使い、メロディの流れいずれもセンスが良く、さらにこの手のゲームではあまり無い「Julie&Anna&時男」「ヘテロクロミア」のようなベタベタなトランス、ドラムンベース調の曲なんかも揃っています。

挿入歌含めて歌付曲も豊富にありますが、特にOP曲「Juwelry tears」ですね。リフレインするピアノとスピード感ある小気味良いドラムが特徴的な名曲だと思います。


以上俺つばでした。いやはや、世界が平和でありますように――。


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【Star TRain】
Star TRain



メーカーmixed up
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■■ 8
キャラクター■■■■■■■□ 7.5
音楽■■■■■■■□ 7.5
青さ■■■■■■■■■□ 9.5
総合【B+】 78点

青春の痛みはかけがえなく

なんてことない作品でした。ごくごく普通のテーマを等身大のキャラが探す、それだけの話であるというのに、なぜこんなに胸が痛くなるんだろう。特筆すべきは、その「普通」をロマンチックに優しく描いたライターの丁寧さです。

【シナリオ】
かつて星降る夜に出会った主人公の司と年上の少女奈美。長年憧れを抱き追い続けてきた彼女に告白をした司は、晴れて奈美と恋人として歩みを進めることになります。ですが、彼女の気持ちが真の恋心ではないことに気づく司。彼女を想うあまり悩みに暮れる彼が、彼女の幸せを願い夏祭りの夜にとった行動は……。


いいですね。終わってから始まる恋。青春時代の切なさをギュッと詰めたかのような甘酸っぱいテーマがたまりません。誰もが幸せになれる恋愛なんてない、本当にそう思います。 誰かが思いを遂げようとすると必ず誰かが泣くことになる、これが恋愛のシビアなところであり、だからこそかけがえのないものでもあります。そういったテーマに正面からぶつかる本作、とても好感が持てます。

司と奈美が別れて1年後、過去の傷が癒えないまま再び夏を迎える場面から本編スタートとなりますが、1年位ウジウジと平気で引きずるのが思春期の恋愛です笑。

正直、文章のテンポはあまりよくないですね。文章の組み立てに慣れていないといいますか、日常的なシーンには必要性の感じられないシーンも多く、中での会話もだいぶ平坦なため、読むのが面倒になってくる場面がそれなりにあったように思えます。特に飛鳥、蓬ルートはもっとすっきりとまとめられたはずですね。

ですが登場人物、特に主人公の瑞々しさといいますか、等身大さはとても丁寧に描けており、「しっかりしろよ」と思う一方で「ああ、当時確かに俺もこんなふうに煮え切らなかったなあ」と、彼の恋愛における葛藤が非常になつかしく、微笑ましくも感じられました。自分にも思うところがあるからこそ応援したくなる主人公と言えます。男なら誰しも経験している恋愛の痛みを、男なら誰しも理解できうる弱く幼い主人公が葛藤する、ここが本作人気の肝だろうと思います。まあ、ヒロインと別れる都度、長期間に渡り欝寸前まで追い込まれるあたり繊細すぎるとも思わないでもないですが……。


各ヒロインを追いかけます。まずは幼馴染の遠日奏ルート、好きな気持ちが溢れているのに素直になれない幼馴染、主人公が超絶朴念仁ですので、彼女の頑張りを応援するルートでしょうか笑。司同様、等身大の女の子としての丁寧さを感じられるキャラとシナリオでした。

幼馴染が恋人同士になるって、実際にはそうそう無いことだと思うんです。どちらかがどちらかを好きなることも基本は無いと思います。ですから、幼馴染がすんなり恋人に、というギャルゲ的な流れではなく、そういった幼馴染としての距離の取り方の難しさや、司と奈美の過去があるがゆえに踏み込めなかった彼女の葛藤を主軸に据えたのが功を奏していたと思います。思い悩む彼女の心情描写が非常に丁寧で痛々しく、彼女はきっとライターさんにとても愛されていますね。トゥルールートのラストシーンでも司と彼女の「Start Line」として物語は閉じられますし、ライター七烏未奏さんの名前文字を取っているくらいですしね。


貧乏少女夢原飛鳥ルート、親の愛に飢えるヒロインの典型のようなルートでしたかね。幸せに対する絶対的な信念を持つ彼女、最後はその幸せを手にし、母親とも和解し、円満にまとまりました。母親の不器用な接し方や、現実の赤貧生活が、彼女の人生観、自己分析力をしっかりと形作っています。リアルなまでに歳相応の登場人物たちの中で、キャラの可愛らしさに反して唯一少し大人びているのが彼女でした。

優等生神崎蓬ルート、理想の追求がテーマとなっています。各々過去の恋愛を痛みとして抱えながら付き合う二人が、本当に向き合うまでの過程を描きます。これ、凄く青々しくて若さ溢れるテーマですね。そして司を諭すことでストーリーを動かすのが麻衣子でした。確たる思いに自信の持てない司に対して麻衣子が放つ「恋愛なんてそういうもんよ、なんだかんだ気になってんでしょ」という話の導き方は、理想恋愛論からは程遠いものではありますが、実に現実的且つ共感しうるもので、個人的には好感が持てます。

本作通しで言えるのですが、この白鳥麻衣子という友人キャラが、ギャグ、シリアス両面で神々しいまでに生きていて、時に司を強い力で導く関係は個人的に好きな構図でした。そして、飛鳥、蓬とくっついてしまうルートの奏が本当に可哀想なんですよねぇ……。奈美はおろか新参の他ヒロインに司を持って行かれるルートでまで、彼女の後悔描写を描かなくても……僕は胸が痛かったですよ。


そして3ルート消化後に登場する羽田七美ルート。突如司の前に現れる奈美によく似た謎の少女七美との短い生活、心の通わせ合い、そして七美の死、さらに幸せの考察と彼の再スタートが描かれるトゥルールートになります。非常に丁寧に丁寧に「幸せ」というテーマを追い求めますが、僕が「いいなぁ」と思ったのは、幸せの求め方が実に十代の少年少女らしさに満ちていたということです。

「幸せ」という難しいテーマ。20代くらいでなんとなく気づく、日々当たり前に起こっていることの愛しさや周囲の人間の大切さ、そして弱い自分と向きあい認めること……。17,8歳の気づくか気づかないかのギリギリのラインから、それらに気づいていくまでの成長を、哲学的に論理的に格好つけて読ませていくのではなく、とても青臭く手探りに、拙さに満ちた展開で見つけていくんです。ここがいい。

晃先生や高音さんといった大人から司に投げかけられる意見も、良い意味での「大人らしさ」に満ちた、曖昧でそれでいて正しい諭し方で、胸が梳く思いでしたね。

大好きだった奈美との辛い別れ、大好きになれた七美との死別。自分にふりかかったこの試練を受けて、対峙するのはあくまで司自身なんです。自分自身を乗り越えるために、周囲の友人たちの優しさを受けながら幸せのあり方を探ろうとするシナリオの丁寧さは評価です。そしてこれから大好きになるかもしれない奏とのエピローグを見せ、ユーザーに未来を託す閉じ方も非常に演出として良かったですね。


一方で疑問に思ったのは、幕間に入る銀河鉄道「Star Train」の描写の必要性は果たしてあったのか、それから、七美が奈美にそっくりな少女という伏線は是非活かしてほしかった、この二点ですね。ところどころで引き合いに出す宇宙や星空、「幸せ」を探し求めるテーマや、カムパネルラと七美を重ね合わせる設定など、「銀河鉄道の夜」のオマージュとなっているのは言うまでもありませんが、タイトルと設定に引きずられて、シナリオ内にその設定の必然性がイマイチ欠けていたように思えたのは残念なところ。さらに後者、七美と奈美の関係性。司は、奈美に似ていたからこそ七美に関わろうとしたのであって、最終的に二人は全く関係ない存在だったというのは設定的にあまりにも勿体無く、何かシナリオに絡ませてほしかったなぁ、と。

なんといいますか、本作、奈美の使い方が少しもったいないのですね。彼女はオープニングで司の心に傷を落とす役割を負っていて、扱いも一見メインヒロインの様相なのですが、役割は本当にそこまでなのです。以降はほとんど登場せず、登場しても既に新しい彼氏がいたり、司が吹っ切れていたりと、本編からは離れた位置にいる存在となってしまっています。ま、奈美の1年後に七美、そしてさらにその2年後に恐らく奏……と、ヒロインが移りゆく様は、「1ルート1ヒロイン」という美少女ゲーの王道から逸れた、現実に即した良展開だとも思っているんですけどね。


シナリオ担当は七烏未奏さん。上記したとおり文章自体は洗練されておらず拙い印象を受けます。しかしそのキャラに紡がせる言葉の数々はとてもリアルで切なく、ライターさんのこの作品にかける強い思い入れが感じられます。青春真っ只中の登場人物たちと同様、そのシナリオも荒削りながらも純度が高く、微笑ましさを覚える作品ですね。正直それほどよく出来た物語だとは思わないのですが、それでも評価したくなってしまうのは、何度も言いますが、青春の痛みと成長を丁寧に描き上げることに成功しているからです。

僕も、当時抱えていたどうしようもない胸の痛みを、心地良く懐かしい痛みとして思い出してしまいました。



【グラフィック】
原画担当は、やすゆきさん。シンプルめですが、幼すぎず、表情は可愛く、個人的にはとても好きな絵柄です。構図の引いた一枚絵や、立ち絵などアンバランスな部分があることも否めませんが、いい表情を切り取った素敵な一枚絵が非常に多くあります。

それから、話の合間に入る黒板の絵はちょっと必要なかったかな。


【キャラクター】
シナリオでも書きましたが、主人公をはじめとした登場人物の等身大さはとても丁寧に描けています。個人的に一番好きだったのは、幼馴染の遠日奏。気持ちを隠し切れない不器用なかわいさは異常。風音さんの司を探るような不安気な演技もずば抜けて光っていました。さすがだなぁ、と。これまでの風音さんの作品の中で一番かもしれません。

また、シナリオの楔になりきれませんでしたが、奈美も個人的に好きです。ギャルゲらしからぬとても現実的な女の子ですよね。それから、麻衣子、大樹、晃ちゃんといった脇役の活躍どころを豊富に用意している点も「わかって」いますね。


【音楽】
90年代良質J-POPのようなOP「Star TRain」がいいですね。EDも同様の雰囲気で良曲ですし、音楽はいいと思います。BGMも夏をイメージする爽やかなものが多いですね。さほど目立つものはありませんが、全体的にいい意味でおとなしく、作品に寄り添うように貢献しているBGMの数々です。


以上、Star TRainでした。いいタイトルですね。
「きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んでいこう。 by 銀河鉄道の夜」


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【大帝国】
大帝国



メーカーALICE SOFT
シナリオ■■■■■■■□ 7.5
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■■■■■□ 9.5
音楽■■■■■■■ 7
親切設計■■■■ 4
総合【B+】 77点

アリス信者涙目

発表から実に2年の時を経て、大悪司、大番長といったアリスソフトの看板シリーズである大シリーズの後継作品としてリリースされた本作。第二次世界大戦をモチーフにした宇宙戦争をベースに、魅力の詰まった登場人物たちがドンパチを繰り広げる史上最強SLGの期待を一身に受けてリリースされました。

ですが結論から言ってしまうと、大悪司はおろか大番長の壁も越えられなかった、実に惜しい作品だったと思います。

【シナリオ】
おおまかな流れは前2作と同様、自軍である日本軍が世界各国と戦い宇宙を制覇する、この目的に向かって邁進する陣地取りゲームです。シナリオフェイズ→戦術フェイズ→選択イベントフェイズ→他国フェイズ、という流れも大体共通していますかね。

ガメリカ、エイリス、ソビエトという3大国を軸に、進撃を開始する日本とドクツ、その他勢力として中帝国、イタリン、オフランス、さらに各国植民地としての様々な国家……第二次世界大戦の枠組みを利用した絶妙なバランス設定。日本は帝という少女を頂点に据える天皇制を敷いた弱小国家、主人公は日本の新任海軍長官です。

まずはなんといってもアリスソフトの肩の抜け具合の絶妙さですね。モテモテかつ豪胆な海軍長官がなんだかんだ敵国のキャラを取り込みながら日本を勝利に導いてしまう大雑把な展開、ファシズムもといファンシズムといったアイドル至上主義の国家、子供の思いつきで実行される極端な共産主義、独善的且つ米ソに操られる中国、などなど危ないネタも適度に取り込みながら、くすりとさせてくれる場面が盛り沢山です。また、史実に基づいて三国同盟や日ソ共同宣言、連合国などの展開があったのも実に胸熱でしたね。

上述の通り日本が宇宙を制覇するとEDなのですが、その過程は万別で、他国の攻め方や同盟を締結するかといった行動次第で、各国の顛末や仲間になるキャラが変化します。中でも、天才レーティアが一人で国政を背負いすぎ機能不全をおこすドクツ、フロンティアスピリッツ溢れるガメリカ提督のダグラスが財閥の権力と争う展開、貴族たちの政治腐敗により葛藤する女王セーラ、恩師の教えを穿った形で体現するカテーリンの共有主義……と主要人物たちの苦悩と絡めた各展開はとてもうまく描けていると思います。


ですが、正直言うと少しシナリオは弱かったかな。戦術パートがメインというのはこれまでの大シリーズ共通ではあるのですが、シナリオパートに割かれている力が薄いことに加え、山のようにあるイベントフェイズの中からは1ターンにつきひとつしか選択できません。それも、戦術パートの難易度が非常に高いため、キャラたちとのイベント消化をしている余裕がなく、いかに戦力増強できるかというイベントをどうしても選んでしまいがちですので、どうしてもシナリオが薄く見えてしまうのは否めませんでした。

後述しますが、エンディングもキャラに特化した誰々ENDというものがほとんどありませんので、これまでのシリーズに則ってヒロイン数名に個別に用意されている方がシナリオの厚みが出たように思えますね。ただ、各勢力の主力キャラをしっかり仲間にしたうえで展開される真ENDに関しては、人間たちの連合艦隊が大怪獣や別宇宙の天敵とラストバトルを繰り広げるという激熱展開で、凄く良かったですね。カテーリンの持つ人心を操る石や、柴神様という「神様」の存在などもただの設定乙ではなく実は伏線だったという使い方も見事でした。

また、展開により、人間を蹂躙してガメリカを滅ぼす機械人間集団COREというのが出現するのですが、彼らを主人公に据えた陵辱編大帝国を別途作ったのは発想としては素晴らしいですね。大悪司と違って、主人公勢力に鬼畜人間がいませんので、鬼畜要素を別ストーリーとして展開させたのは面白い試みだと思います。さらに言うと、人間だった頃のキングコアの回想シーンやラストの切ない締め方など、意外なまでにこのキングコア編のシナリオが良い。……のですが、本編シナリオにもっと力を入れたうえでこのキングコア編があれば素晴らしかったんだけどなぁ。



【グラフィック】
アリスのSLGは、飽きないゲーム性、洗練されたシステムまわりが秀逸ということが前提ですが、こと本作において評価できないのは、まっことこの部分でおます。実に惜しい。

本作戦闘パート、単純な火力勝負になってしまう点がもったいないですね。互いの攻撃は絶対にその数値分きっちり当たりますので、ガチンコで戦艦の攻撃数値積み上げの高い方がただ勝利する――、これではより多くの戦艦を配備できる指揮値の高い提督を優先的に登用し、ひたすら火力押しで倒すことがものを言うようになります。 これまでのシリーズと違って、キャラクターの色に依存しない指揮値次第な戦闘システムはガチすぎて淋しいですね。

さらに、前2作は、敵捕獲システムというものがあり、相手を瀕死状態に追い込んだうえで勝負に勝つと敵を捕獲できるというシステムが超秀逸でした。倒し切ってしまっては仲間にする機会を失ってしまうということですね。これにより、味方戦力も火力を調整したり、全滅まで追い込まない手加減攻撃を使えるキャラを重宝したりといった絶妙さがあったのですね。加えて、必殺技や攻撃回避といったランダム要素も非常に大きかったため、なんとか相手を戦闘不能寸前まで追い込み戦闘終了し、好きなキャラをゲットできたときは、文字通り声を出して喜んだものです。今回は戦闘に勝てば自動的に捕獲できてしまうので、そういうテンションの上がりがないんですよねー。


エリアが広いのに反して1ターン内でのキャラ移動がたった2マス限定、戦域に配備できるのが4提督までなので数押しがきかない、戦闘中に提督の配置換えがきかない、ダメージを食らうと回復するまでその提督を攻め込ませることが出来ないうえに回復が遅い、負けると強制ゲームオーバー……といったあまりにも不利な仕様が目白押しです。マゾゲーや詰将棋、パズル系ゲームが元々好きな人には良いかもしれませんが、僕をはじめ多くのユーザーは、あくまでライトに長く楽しくプレイしたい、キャラ同士の面白展開が見たい、という意識が前面にあるでしょうから、正直しんどい仕様でした。


凄くよく出来ているんですけどね、そうだなぁ……、らしくないほどに気が利いていない、そんなイメージですね。


ですが追記として、ユーザーの不満意見を吸い上げたかのようなシステム改善+自作キャラを登用できる神パッチが配布されています。こういうことさらりとやれるあたりは流石のアリスソフトですねえ。


【キャラクター】
各国実在の歴史人物をモチーフにした、濃さ満載の100名にも及ぶキャラクター陣、本当に素晴らしいです。こういった多彩なキャラ作りはアリスソフトの専売特許で感心してしまいますね。日本勢のメンツに加えて各国の代表レベルのキャラたちですね、ドクツのレーティア、エイリスのセーラ、ソビエトのカテーリン、ガメリカのダグラスなどは本当に事前情報のキャラの立ち方が凄かった。ガチで上がるOPムービーを見ていただければわかるかと思いますが、こんなに発売前わくわくしたエロゲはかつてあっただろうかというほどです。

ですが、本当に本当に残念ながらその良キャラクターたちを生かしきれていません。主要キャラたちに用意されたイベントは内容が希薄且つ、ひとつひとつが短く小出しになってくるので、いまひとつ感情移入がしきれません。

これはシナリオとシステム上の責任になります。とにかくキャラが多いというのもあるにはあるのですが、同様の大悪司や大番長と比べてなぜ本作だけこんな印象を抱くのか、これは実質のヒロインルートが本作には無いことが原因でしょう。彼女たちの重要度が、サブ女性キャラと比べてそうたいして変わらない。悪司や番長は、各々ヒロインとの話を中心としたルートが明確に立てられているうえで、更にいろんなキャラとの小イベントがあり、重厚さを感じることができました。本作は、ヒロイン格含めて小イベントだらけなのですね、ここだと思います。

主人公東郷長官について。悪司は清濁併せ呑む豪傑、狼牙は熱血好青年、そして本作主人公の東郷長官は、飄々としたカリスマ、といった赴きでしょうか。男やもめで娘がいるという設定も相まって、個人的にはかなり好きな部類の主人公です。

予想以上にいい奴でキャラ立ちしていたのは参謀の秋山と研究所所長の平賀津波。全体的に日本帝国のキャラが凄く良かったですね。帝ちゃんは超絶かわいかったですし、東郷を敵対視している山下利古里陸軍長官、ギャグ要員でしかない宇垣さくら外務長官、一度も出番がないという斬新な笑いをもたらす猫平内務長官、といった長官たちに、BL好き、ヤンキー、人妻、好々爺と、主要提督たちのキャラ旺盛さも◯。

各国の提督も皆キャラがよく立っており、印象に残らない提督を作らないそのキャラ作りの巧みさはアリスソフトだからこそだと思っています。


【音楽】
主題歌の「The Day Take Off」が頭ひとつもふたつも抜けていまして、ラストバトルで流れる本曲も激熱でしたね。ただ、他に決定的な曲がありませんため、どうしてもこの曲しか印象に残っていない部分が難でしょうか。



以上、大帝国でした。実に、惜しい……!

ま、とはいっても「気づけば朝」「いつのまにか何十時間プレイ」のような中毒性は確かにあったんですけどね。


関連レビュー: 大悪司


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【るいは智を呼ぶFD ~明日のむこうに視える風~】
るいは智を呼ぶFD ~明日のむこうに視える風~



メーカー暁WORKS
シナリオ■■■■■■□ 6.5
グラフィック■■■■■■□ 6.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■ 7
主人公補正■■■■■■■■■ 9
総合【C+】 69点

男の娘ゲーは高みへ登る

08年ダークホースであった「るいは智を呼ぶ」のファンディスクです。サブキャラだった恵、央輝、宮和に焦点を当てた3つの個別ルートが描かれ、また本編にてぼかし気味だった恵の呪いや麻耶の真意などが明かされます。

本編とは別軸の物語を描いておりボリュームも申し分なく、FDとしては正直出来がいいですね。各ヒロインとのアフターを描くFDがFD足らしめられている中、そもそもキャラゲーに食指があまり動かない僕にとってはこういう構成をとっているのがファンディスクの正しい在り方だと言いたいです。

どうしても前作プレイ済み前提の文章になってしまいますので、それを踏まえて読んでいただければ。


【シナリオ】
男の娘主人公の和久津智とまわりに集った5人の少女たち。各々は、人間の領域を越えた能力と、踏んではいけない呪いを併せ持っています。例えば皆元るいであれば、人外魔境な身体能力を得るかわりに、未来の約束をしてはいけない、などですね。加えて同じ運命を持つ本編サブキャラだった尹央輝と才野原恵。彼女たちを交えてシナリオは別の方向に進んでいきます。

本作は、本編共通ルートのパルクールレースを終えたあたりを起点としていますね。だいぶ序盤からの再構成ストーリーとなりますが、一応本編の伏線回収ルートであった茜子ルートまで見ていることが、ある程度前提になってきますね。まあ本編をやらずにFDだけやる人などまずいないと思いますが……。

メインストーリーから分岐するのは、智の学友宮和、裏社会に生きる央輝、謎めいた言動で智たちと関わる恵。本編でも人気がありシナリオ的にも重要であった彼女たちのルートがあるのはFDならでは。


本編ラストで明らかになっていた、様々な未来から望む未来を手繰り寄せる智の双子の姉である麻耶の能力を仕掛けに使ったシナリオ群。ギャルゲーの特長であるルート分岐という仕組みをシナリオに絡ませたのは評価です。彼女が見せたいくつかの未来分岐が各シナリオとして展開されるというカラクリで、本編のストーリーですらもその一端であるという設定ですね。

央輝ルートが個人的には好きでしたかね。んなぜならば!本編の央輝はそのツンケン具合が最高に光っていたため、智と恋人になるツンデレ央輝は全俺待望の展開だったからです。シナリオ自体は彼女を仲間に引き入れていくという地味なものでしたが、兎にも角にもキャラが萌へる!

本編トリックスターの恵ルートは、その人の命を奪うことで自分の命を繋いでいく能力という設定から、詰んだ展開しか想像できませんが、最後は智が殺人を肯定して二人で生きてゆくという陰りのあるものでした。本編では恵は死にますので、ある意味恵の救済ルートではあるのですが、どうにもやりきれないですね。

この恵の存在があったからこそ本編は名作になりえたといっても過言ではありませんでしたが、FDに関しても恵あっての作品でしたかと。

終幕、智、恵、麻耶の3人しかいない世界での演出は良かったですね! 本当は既に死の運命内にいる恵、本当はもう人として破綻している麻耶との、刹那的な世界の中での奇跡的な心の通わせ合いは何とも切ないものがありました。

本作、結局言いたいことはとてもシンプルで、自分はひとりでは生きていけない……違うな。自分はひとりでは生きていたくない、という答えを最後まで追いかけ続けるシナリオでした。希望を追いかけると絶望もついてくるが、自分はひとりではない。呪いこそあるが皆もいる。悪があるからこそこの世は美しく成り立つ。そして、そんな世界を敢えて選ぶ。

つまり麻耶は、智と麻耶ふたりだけの平和な世界を智に提示するのですが、智は例え呪われていたとしても仲間たちと生きる道を改めて選ぶのですね。

まあ、シナリオ的にはやはり本編の方がはるかに優れています。結局のところは非常にシンプルでまっすぐなテーマなところを、それを回りくどく時間をかける構成にしてテーマに向かっていった感は否めません。ただ、その過程で見せてもらった、智をはじめとした同盟メンバー、恵、麻耶、央輝の魅力を引き出すという意味では、実にFD的であり、これで良かったように思えます。


【グラフィック】
グラフィックは特に変わらずで、特徴こそありますが問題なく世界観を演出しています。ただ、智のコスプレや智をメインにおいたHシーン絵など、智の魅力を引き出すための絵が多かったようなきがします。やっぱり智が一番人気あるんでしょうねえ笑。

【キャラクター】
FDって、作品をまたぎますので、俄然キャラへの愛着が湧くんですよね。特に智といったら、その可愛さに拍車をかけていて、本当に男であることがもったいない笑。なんなんですかね、この可愛さは……男の娘という意外性とかそういうのをはるかに超えた高いところにいますよね、彼女は。いや、彼は。いや、彼女は。

そして同盟メンバーが全体的に地味なのは変わらずで、特に本作彼女たちに焦点のあたる展開はありませんので、余計に影が薄いです。本編でも魅力を放っていたサブキャラの尹央輝、才野原恵がこのFDにおいても突き抜けた魅力を放っていました。

また、初登場のキャラも何人かいますが、良かったのは央輝まわりのキャラですね。大陸同郷、別勢力リーダーの姚任甫さんは「男の娘」大好きなカリスマにて智の隣人という完全なる設定勝ち。央輝の養父の不器用な優しさも良かったですし、そう考えると央輝ルートはキャラで魅せた感じがありますね。

あ、それからですね。本編では無声だった智に対して佐本二厘さんが声を当てているのですが、これが滅茶苦茶いいのです! 彼女の出演作は何本かプレイしていますが、僕の中では本作智の演技が群を抜いていますね。

【音楽】
歌付OPとEDは新規の曲ですね。挿入歌も1曲あります。ただ、本編OP曲「絆」のメロディラインが相当に高レベルだったこともあり、どうしても比べてしまいますね。でも全体的には出来はいいです。新曲、旧曲おりまぜながらいいバランスを保っていると思います。


以上、るい智FDでした。
いや、なんといいますか。
つまりですね、えーと……。

智かわいいよ智


関連レビュー: るいは智を呼ぶ


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

魔法少女まどか☆マギカ レビュー
o0343020811160694407.png

2011年冬アニの大本命にして、近年まれに見る話題性を持って邁進していた「魔法少女まどか☆マギカ」がついに最終話まで放送され完結しました。

奇しくもその内容が東日本大震災と重複するような描写もあり放送自粛されていたわけですが、ともあれひと月遅れで放送されたのはうれしい限りです。最終回は読売新聞朝刊に全面広告ってのもビビリましたね笑


まどかが魔女の定義を書き換えることにより宇宙の法則が変わるという、最後は思った以上に壮大にまとまりましたが、伝説級のアニメとして今後残っていくだろう本作においては、小さくまとまるよりはこれくらい派手な方が良かったと思います。

大きな決心がその瞳に宿ってからのまどかの強さと愛、共に戦い続ける思いを固めるほむらの意思(ほむらの武器が弓に変化しているのは涙でしょう!)、純粋なさやかの優しさ……、多感な少女たちのそれぞれの決意をこの「魔法少女」というファンタジーで見事に魅せてくれました。


8da6ed9f-s.jpg


さて、せっかくですのでレビューをしたいと思います。

結論から言ってしまうと、期待を裏切らない傑作アニメだったのではないでしょうか。僕個人としても毎週楽しみにしていましたし、世間的な評価も非常に高く、具体的な数字に表れる影響力も前人未到の快進撃を続けていました。



しかし思うわけです。なんでまたここまで多くの人をひきつけることができたのか、その面白さは一体どこにあったのか。魔法少女モノという設定は使い古されたテーマですし、正直それほど魅力的なテーマとも僕は思いません。蒼樹うめてんてーの絵もおおいに人を選ぶでしょう。

色々考えられる点はあると思うんですが、僕個人としては、「演出力」と「構成力」、この2点があまりにも抜きんでていた、そう思っています。


まずは演出力です。

このアニメには、これでもかというほどの「ギャップ」が詰め込まれていました。そもそもハードボイルドにしてハッピーエンドを描けない虚淵玄さんが魔法少女モノを描くというのが大前提としての大きなギャップであり、エロゲにて彼の作品を知る人間は、その時点でこのアニメに途方もない魅力を感じました。うめてんてーの絵、魔法少女モノという煌びやかさと、ダーク路線なアニメはとても結びつきません。そして実際始まってみると、当然のように虚淵節満載のひどく陰鬱な展開が待っていました。このギャップに、虚淵玄を知らない視聴者も引き付けられたはずです。

勧善懲悪に則る王道の魔法少女モノのテンプレートを次々と裏切る展開。序盤3話での主要キャラの早すぎる喪失、次々と明らかになる魔法少女のカラクリ、味方のはずだったQBの真意、ほむらの伏線と行動動機……、見た目のかわいらしさと思春期の少女を前面に出しながら、彼女たちがどう考えても不幸にしかならない詰んだ展開は壮絶なギャップを僕らにもたらしました。

さらに、シャフトによって色づけされる、アニメの枠をこえた演出の数々。特に、毎回毎回写真を切り貼りしたかのような、ロシアアバンギャルドの要素をモロに突っ込んだ魔女との戦闘シーン。これもまた蒼樹うめ絵とのギャップを演出していたと思います。

ロシアアバンギャルドに興味がある人はこのあたりのPVは響くでしょう。
Franz Ferdinand 「Take me out」


また、黒、灰といった影をベースとしたうえで色彩を効果的に差していくサイケデリックな色調使い。これはシャフトお得意の演出ですね。歪んでいく少女たちの思いや、煮え切らないまどかの思考にこのサイケさは綺麗にはまっていて、見事なものでした。



そして構成力。

前にも少し述べたのですが、ここは虚淵玄さんのプロフェッショナルさを垣間見ました。彼は、ゲーム畑のライターですが、こと本作においては完全にアニメ畑に思考を切り替えていました。いや、そもそも虚淵さんのゲーム自体も冗長にせず映画のように見せる作品ばかりですので、考えてみれば彼は構成力に特化したライターだったのでしょう。

アニメというものは、1話15分×2、さらに7日間の期間が空いて次話という大きな制限を受ける媒体です。いってみれば構成力がモノをいう表現媒体であり、彼の構成力がゲーム以上に試される状況だったと思います。

そして結果どうたったかといえば、1話の中において、序盤で伏線要素をちりばめ、中盤で入る魔女演出、そして終盤での伏線解消と次への引きの残し方、とてもバランスが良かった。大きな視点でみても、序盤でのマミさん退場を皮切りとしてキャラそれぞれの顛末が、実に練られた構成で僕らを引き付け続けました。



もちろんシナリオが非常に良かったことは言うまでもありません。個々の少女たちの悲痛な願い、魔法少女と魔女を対比させたシナリオは時に繊細に、時にダイナミックに僕らを引き付けましたし、特に、溜めに溜めて放送されたほむらの伏線解消回、時間遡行を用いた彼女の心情描きこみの激熱第10話は、本作ピークタイムであるとともに、近年アニメの中でも神回と呼べる位置づけになると思います。

ラストも、魔女化のシステムを改変することで完全ハッピーな世界になるかと思いきや必ずしもそうではなく、魔法少女を救済するに留めて戦いは終わらない、というビターに落ち着けたのも虚淵さんらしい味がありました。

ただ、そのシナリオのポテンシャルを限界以上に引き上げた新房監督、シャフトスタッフの演出力、アニメを意識した虚淵さんの構成力、ここに賛辞を送りたいのです。



いや、非常にいい作品でした。僕のまわりでも、あまりアニメを見ない友人や同僚さえもまどかマギカは見ていた、という話をちらほら聞きます。

未放送騒動も含め盛り上がりに盛り上がった魔法少女まどかマギカ、堂々完結です!!

c54d99bb.jpg