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【大帝国】
大帝国



メーカーALICE SOFT
シナリオ■■■■■■■□ 7.5
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■■■■■□ 9.5
音楽■■■■■■■ 7
親切設計■■■■ 4
総合【B+】 77点

アリス信者涙目

発表から実に2年の時を経て、大悪司、大番長といったアリスソフトの看板シリーズである大シリーズの後継作品としてリリースされた本作。第二次世界大戦をモチーフにした宇宙戦争をベースに、魅力の詰まった登場人物たちがドンパチを繰り広げる史上最強SLGの期待を一身に受けてリリースされました。

ですが結論から言ってしまうと、大悪司はおろか大番長の壁も越えられなかった、実に惜しい作品だったと思います。

【シナリオ】
おおまかな流れは前2作と同様、自軍である日本軍が世界各国と戦い宇宙を制覇する、この目的に向かって邁進する陣地取りゲームです。シナリオフェイズ→戦術フェイズ→選択イベントフェイズ→他国フェイズ、という流れも大体共通していますかね。

ガメリカ、エイリス、ソビエトという3大国を軸に、進撃を開始する日本とドクツ、その他勢力として中帝国、イタリン、オフランス、さらに各国植民地としての様々な国家……第二次世界大戦の枠組みを利用した絶妙なバランス設定。日本は帝という少女を頂点に据える天皇制を敷いた弱小国家、主人公は日本の新任海軍長官です。

まずはなんといってもアリスソフトの肩の抜け具合の絶妙さですね。モテモテかつ豪胆な海軍長官がなんだかんだ敵国のキャラを取り込みながら日本を勝利に導いてしまう大雑把な展開、ファシズムもといファンシズムといったアイドル至上主義の国家、子供の思いつきで実行される極端な共産主義、独善的且つ米ソに操られる中国、などなど危ないネタも適度に取り込みながら、くすりとさせてくれる場面が盛り沢山です。また、史実に基づいて三国同盟や日ソ共同宣言、連合国などの展開があったのも実に胸熱でしたね。

上述の通り日本が宇宙を制覇するとEDなのですが、その過程は万別で、他国の攻め方や同盟を締結するかといった行動次第で、各国の顛末や仲間になるキャラが変化します。中でも、天才レーティアが一人で国政を背負いすぎ機能不全をおこすドクツ、フロンティアスピリッツ溢れるガメリカ提督のダグラスが財閥の権力と争う展開、貴族たちの政治腐敗により葛藤する女王セーラ、恩師の教えを穿った形で体現するカテーリンの共有主義……と主要人物たちの苦悩と絡めた各展開はとてもうまく描けていると思います。


ですが、正直言うと少しシナリオは弱かったかな。戦術パートがメインというのはこれまでの大シリーズ共通ではあるのですが、シナリオパートに割かれている力が薄いことに加え、山のようにあるイベントフェイズの中からは1ターンにつきひとつしか選択できません。それも、戦術パートの難易度が非常に高いため、キャラたちとのイベント消化をしている余裕がなく、いかに戦力増強できるかというイベントをどうしても選んでしまいがちですので、どうしてもシナリオが薄く見えてしまうのは否めませんでした。

後述しますが、エンディングもキャラに特化した誰々ENDというものがほとんどありませんので、これまでのシリーズに則ってヒロイン数名に個別に用意されている方がシナリオの厚みが出たように思えますね。ただ、各勢力の主力キャラをしっかり仲間にしたうえで展開される真ENDに関しては、人間たちの連合艦隊が大怪獣や別宇宙の天敵とラストバトルを繰り広げるという激熱展開で、凄く良かったですね。カテーリンの持つ人心を操る石や、柴神様という「神様」の存在などもただの設定乙ではなく実は伏線だったという使い方も見事でした。

また、展開により、人間を蹂躙してガメリカを滅ぼす機械人間集団COREというのが出現するのですが、彼らを主人公に据えた陵辱編大帝国を別途作ったのは発想としては素晴らしいですね。大悪司と違って、主人公勢力に鬼畜人間がいませんので、鬼畜要素を別ストーリーとして展開させたのは面白い試みだと思います。さらに言うと、人間だった頃のキングコアの回想シーンやラストの切ない締め方など、意外なまでにこのキングコア編のシナリオが良い。……のですが、本編シナリオにもっと力を入れたうえでこのキングコア編があれば素晴らしかったんだけどなぁ。



【グラフィック】
アリスのSLGは、飽きないゲーム性、洗練されたシステムまわりが秀逸ということが前提ですが、こと本作において評価できないのは、まっことこの部分でおます。実に惜しい。

本作戦闘パート、単純な火力勝負になってしまう点がもったいないですね。互いの攻撃は絶対にその数値分きっちり当たりますので、ガチンコで戦艦の攻撃数値積み上げの高い方がただ勝利する――、これではより多くの戦艦を配備できる指揮値の高い提督を優先的に登用し、ひたすら火力押しで倒すことがものを言うようになります。 これまでのシリーズと違って、キャラクターの色に依存しない指揮値次第な戦闘システムはガチすぎて淋しいですね。

さらに、前2作は、敵捕獲システムというものがあり、相手を瀕死状態に追い込んだうえで勝負に勝つと敵を捕獲できるというシステムが超秀逸でした。倒し切ってしまっては仲間にする機会を失ってしまうということですね。これにより、味方戦力も火力を調整したり、全滅まで追い込まない手加減攻撃を使えるキャラを重宝したりといった絶妙さがあったのですね。加えて、必殺技や攻撃回避といったランダム要素も非常に大きかったため、なんとか相手を戦闘不能寸前まで追い込み戦闘終了し、好きなキャラをゲットできたときは、文字通り声を出して喜んだものです。今回は戦闘に勝てば自動的に捕獲できてしまうので、そういうテンションの上がりがないんですよねー。


エリアが広いのに反して1ターン内でのキャラ移動がたった2マス限定、戦域に配備できるのが4提督までなので数押しがきかない、戦闘中に提督の配置換えがきかない、ダメージを食らうと回復するまでその提督を攻め込ませることが出来ないうえに回復が遅い、負けると強制ゲームオーバー……といったあまりにも不利な仕様が目白押しです。マゾゲーや詰将棋、パズル系ゲームが元々好きな人には良いかもしれませんが、僕をはじめ多くのユーザーは、あくまでライトに長く楽しくプレイしたい、キャラ同士の面白展開が見たい、という意識が前面にあるでしょうから、正直しんどい仕様でした。


凄くよく出来ているんですけどね、そうだなぁ……、らしくないほどに気が利いていない、そんなイメージですね。


ですが追記として、ユーザーの不満意見を吸い上げたかのようなシステム改善+自作キャラを登用できる神パッチが配布されています。こういうことさらりとやれるあたりは流石のアリスソフトですねえ。


【キャラクター】
各国実在の歴史人物をモチーフにした、濃さ満載の100名にも及ぶキャラクター陣、本当に素晴らしいです。こういった多彩なキャラ作りはアリスソフトの専売特許で感心してしまいますね。日本勢のメンツに加えて各国の代表レベルのキャラたちですね、ドクツのレーティア、エイリスのセーラ、ソビエトのカテーリン、ガメリカのダグラスなどは本当に事前情報のキャラの立ち方が凄かった。ガチで上がるOPムービーを見ていただければわかるかと思いますが、こんなに発売前わくわくしたエロゲはかつてあっただろうかというほどです。

ですが、本当に本当に残念ながらその良キャラクターたちを生かしきれていません。主要キャラたちに用意されたイベントは内容が希薄且つ、ひとつひとつが短く小出しになってくるので、いまひとつ感情移入がしきれません。

これはシナリオとシステム上の責任になります。とにかくキャラが多いというのもあるにはあるのですが、同様の大悪司や大番長と比べてなぜ本作だけこんな印象を抱くのか、これは実質のヒロインルートが本作には無いことが原因でしょう。彼女たちの重要度が、サブ女性キャラと比べてそうたいして変わらない。悪司や番長は、各々ヒロインとの話を中心としたルートが明確に立てられているうえで、更にいろんなキャラとの小イベントがあり、重厚さを感じることができました。本作は、ヒロイン格含めて小イベントだらけなのですね、ここだと思います。

主人公東郷長官について。悪司は清濁併せ呑む豪傑、狼牙は熱血好青年、そして本作主人公の東郷長官は、飄々としたカリスマ、といった赴きでしょうか。男やもめで娘がいるという設定も相まって、個人的にはかなり好きな部類の主人公です。

予想以上にいい奴でキャラ立ちしていたのは参謀の秋山と研究所所長の平賀津波。全体的に日本帝国のキャラが凄く良かったですね。帝ちゃんは超絶かわいかったですし、東郷を敵対視している山下利古里陸軍長官、ギャグ要員でしかない宇垣さくら外務長官、一度も出番がないという斬新な笑いをもたらす猫平内務長官、といった長官たちに、BL好き、ヤンキー、人妻、好々爺と、主要提督たちのキャラ旺盛さも◯。

各国の提督も皆キャラがよく立っており、印象に残らない提督を作らないそのキャラ作りの巧みさはアリスソフトだからこそだと思っています。


【音楽】
主題歌の「The Day Take Off」が頭ひとつもふたつも抜けていまして、ラストバトルで流れる本曲も激熱でしたね。ただ、他に決定的な曲がありませんため、どうしてもこの曲しか印象に残っていない部分が難でしょうか。



以上、大帝国でした。実に、惜しい……!

ま、とはいっても「気づけば朝」「いつのまにか何十時間プレイ」のような中毒性は確かにあったんですけどね。


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テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム