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【るいは智を呼ぶFD ~明日のむこうに視える風~】
るいは智を呼ぶFD ~明日のむこうに視える風~



メーカー暁WORKS
シナリオ■■■■■■□ 6.5
グラフィック■■■■■■□ 6.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■ 7
主人公補正■■■■■■■■■ 9
総合【C+】 69点

男の娘ゲーは高みへ登る

08年ダークホースであった「るいは智を呼ぶ」のファンディスクです。サブキャラだった恵、央輝、宮和に焦点を当てた3つの個別ルートが描かれ、また本編にてぼかし気味だった恵の呪いや麻耶の真意などが明かされます。

本編とは別軸の物語を描いておりボリュームも申し分なく、FDとしては正直出来がいいですね。各ヒロインとのアフターを描くFDがFD足らしめられている中、そもそもキャラゲーに食指があまり動かない僕にとってはこういう構成をとっているのがファンディスクの正しい在り方だと言いたいです。

どうしても前作プレイ済み前提の文章になってしまいますので、それを踏まえて読んでいただければ。


【シナリオ】
男の娘主人公の和久津智とまわりに集った5人の少女たち。各々は、人間の領域を越えた能力と、踏んではいけない呪いを併せ持っています。例えば皆元るいであれば、人外魔境な身体能力を得るかわりに、未来の約束をしてはいけない、などですね。加えて同じ運命を持つ本編サブキャラだった尹央輝と才野原恵。彼女たちを交えてシナリオは別の方向に進んでいきます。

本作は、本編共通ルートのパルクールレースを終えたあたりを起点としていますね。だいぶ序盤からの再構成ストーリーとなりますが、一応本編の伏線回収ルートであった茜子ルートまで見ていることが、ある程度前提になってきますね。まあ本編をやらずにFDだけやる人などまずいないと思いますが……。

メインストーリーから分岐するのは、智の学友宮和、裏社会に生きる央輝、謎めいた言動で智たちと関わる恵。本編でも人気がありシナリオ的にも重要であった彼女たちのルートがあるのはFDならでは。


本編ラストで明らかになっていた、様々な未来から望む未来を手繰り寄せる智の双子の姉である麻耶の能力を仕掛けに使ったシナリオ群。ギャルゲーの特長であるルート分岐という仕組みをシナリオに絡ませたのは評価です。彼女が見せたいくつかの未来分岐が各シナリオとして展開されるというカラクリで、本編のストーリーですらもその一端であるという設定ですね。

央輝ルートが個人的には好きでしたかね。んなぜならば!本編の央輝はそのツンケン具合が最高に光っていたため、智と恋人になるツンデレ央輝は全俺待望の展開だったからです。シナリオ自体は彼女を仲間に引き入れていくという地味なものでしたが、兎にも角にもキャラが萌へる!

本編トリックスターの恵ルートは、その人の命を奪うことで自分の命を繋いでいく能力という設定から、詰んだ展開しか想像できませんが、最後は智が殺人を肯定して二人で生きてゆくという陰りのあるものでした。本編では恵は死にますので、ある意味恵の救済ルートではあるのですが、どうにもやりきれないですね。

この恵の存在があったからこそ本編は名作になりえたといっても過言ではありませんでしたが、FDに関しても恵あっての作品でしたかと。

終幕、智、恵、麻耶の3人しかいない世界での演出は良かったですね! 本当は既に死の運命内にいる恵、本当はもう人として破綻している麻耶との、刹那的な世界の中での奇跡的な心の通わせ合いは何とも切ないものがありました。

本作、結局言いたいことはとてもシンプルで、自分はひとりでは生きていけない……違うな。自分はひとりでは生きていたくない、という答えを最後まで追いかけ続けるシナリオでした。希望を追いかけると絶望もついてくるが、自分はひとりではない。呪いこそあるが皆もいる。悪があるからこそこの世は美しく成り立つ。そして、そんな世界を敢えて選ぶ。

つまり麻耶は、智と麻耶ふたりだけの平和な世界を智に提示するのですが、智は例え呪われていたとしても仲間たちと生きる道を改めて選ぶのですね。

まあ、シナリオ的にはやはり本編の方がはるかに優れています。結局のところは非常にシンプルでまっすぐなテーマなところを、それを回りくどく時間をかける構成にしてテーマに向かっていった感は否めません。ただ、その過程で見せてもらった、智をはじめとした同盟メンバー、恵、麻耶、央輝の魅力を引き出すという意味では、実にFD的であり、これで良かったように思えます。


【グラフィック】
グラフィックは特に変わらずで、特徴こそありますが問題なく世界観を演出しています。ただ、智のコスプレや智をメインにおいたHシーン絵など、智の魅力を引き出すための絵が多かったようなきがします。やっぱり智が一番人気あるんでしょうねえ笑。

【キャラクター】
FDって、作品をまたぎますので、俄然キャラへの愛着が湧くんですよね。特に智といったら、その可愛さに拍車をかけていて、本当に男であることがもったいない笑。なんなんですかね、この可愛さは……男の娘という意外性とかそういうのをはるかに超えた高いところにいますよね、彼女は。いや、彼は。いや、彼女は。

そして同盟メンバーが全体的に地味なのは変わらずで、特に本作彼女たちに焦点のあたる展開はありませんので、余計に影が薄いです。本編でも魅力を放っていたサブキャラの尹央輝、才野原恵がこのFDにおいても突き抜けた魅力を放っていました。

また、初登場のキャラも何人かいますが、良かったのは央輝まわりのキャラですね。大陸同郷、別勢力リーダーの姚任甫さんは「男の娘」大好きなカリスマにて智の隣人という完全なる設定勝ち。央輝の養父の不器用な優しさも良かったですし、そう考えると央輝ルートはキャラで魅せた感じがありますね。

あ、それからですね。本編では無声だった智に対して佐本二厘さんが声を当てているのですが、これが滅茶苦茶いいのです! 彼女の出演作は何本かプレイしていますが、僕の中では本作智の演技が群を抜いていますね。

【音楽】
歌付OPとEDは新規の曲ですね。挿入歌も1曲あります。ただ、本編OP曲「絆」のメロディラインが相当に高レベルだったこともあり、どうしても比べてしまいますね。でも全体的には出来はいいです。新曲、旧曲おりまぜながらいいバランスを保っていると思います。


以上、るい智FDでした。
いや、なんといいますか。
つまりですね、えーと……。

智かわいいよ智


関連レビュー: るいは智を呼ぶ


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

魔法少女まどか☆マギカ レビュー
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2011年冬アニの大本命にして、近年まれに見る話題性を持って邁進していた「魔法少女まどか☆マギカ」がついに最終話まで放送され完結しました。

奇しくもその内容が東日本大震災と重複するような描写もあり放送自粛されていたわけですが、ともあれひと月遅れで放送されたのはうれしい限りです。最終回は読売新聞朝刊に全面広告ってのもビビリましたね笑


まどかが魔女の定義を書き換えることにより宇宙の法則が変わるという、最後は思った以上に壮大にまとまりましたが、伝説級のアニメとして今後残っていくだろう本作においては、小さくまとまるよりはこれくらい派手な方が良かったと思います。

大きな決心がその瞳に宿ってからのまどかの強さと愛、共に戦い続ける思いを固めるほむらの意思(ほむらの武器が弓に変化しているのは涙でしょう!)、純粋なさやかの優しさ……、多感な少女たちのそれぞれの決意をこの「魔法少女」というファンタジーで見事に魅せてくれました。


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さて、せっかくですのでレビューをしたいと思います。

結論から言ってしまうと、期待を裏切らない傑作アニメだったのではないでしょうか。僕個人としても毎週楽しみにしていましたし、世間的な評価も非常に高く、具体的な数字に表れる影響力も前人未到の快進撃を続けていました。



しかし思うわけです。なんでまたここまで多くの人をひきつけることができたのか、その面白さは一体どこにあったのか。魔法少女モノという設定は使い古されたテーマですし、正直それほど魅力的なテーマとも僕は思いません。蒼樹うめてんてーの絵もおおいに人を選ぶでしょう。

色々考えられる点はあると思うんですが、僕個人としては、「演出力」と「構成力」、この2点があまりにも抜きんでていた、そう思っています。


まずは演出力です。

このアニメには、これでもかというほどの「ギャップ」が詰め込まれていました。そもそもハードボイルドにしてハッピーエンドを描けない虚淵玄さんが魔法少女モノを描くというのが大前提としての大きなギャップであり、エロゲにて彼の作品を知る人間は、その時点でこのアニメに途方もない魅力を感じました。うめてんてーの絵、魔法少女モノという煌びやかさと、ダーク路線なアニメはとても結びつきません。そして実際始まってみると、当然のように虚淵節満載のひどく陰鬱な展開が待っていました。このギャップに、虚淵玄を知らない視聴者も引き付けられたはずです。

勧善懲悪に則る王道の魔法少女モノのテンプレートを次々と裏切る展開。序盤3話での主要キャラの早すぎる喪失、次々と明らかになる魔法少女のカラクリ、味方のはずだったQBの真意、ほむらの伏線と行動動機……、見た目のかわいらしさと思春期の少女を前面に出しながら、彼女たちがどう考えても不幸にしかならない詰んだ展開は壮絶なギャップを僕らにもたらしました。

さらに、シャフトによって色づけされる、アニメの枠をこえた演出の数々。特に、毎回毎回写真を切り貼りしたかのような、ロシアアバンギャルドの要素をモロに突っ込んだ魔女との戦闘シーン。これもまた蒼樹うめ絵とのギャップを演出していたと思います。

ロシアアバンギャルドに興味がある人はこのあたりのPVは響くでしょう。
Franz Ferdinand 「Take me out」


また、黒、灰といった影をベースとしたうえで色彩を効果的に差していくサイケデリックな色調使い。これはシャフトお得意の演出ですね。歪んでいく少女たちの思いや、煮え切らないまどかの思考にこのサイケさは綺麗にはまっていて、見事なものでした。



そして構成力。

前にも少し述べたのですが、ここは虚淵玄さんのプロフェッショナルさを垣間見ました。彼は、ゲーム畑のライターですが、こと本作においては完全にアニメ畑に思考を切り替えていました。いや、そもそも虚淵さんのゲーム自体も冗長にせず映画のように見せる作品ばかりですので、考えてみれば彼は構成力に特化したライターだったのでしょう。

アニメというものは、1話15分×2、さらに7日間の期間が空いて次話という大きな制限を受ける媒体です。いってみれば構成力がモノをいう表現媒体であり、彼の構成力がゲーム以上に試される状況だったと思います。

そして結果どうたったかといえば、1話の中において、序盤で伏線要素をちりばめ、中盤で入る魔女演出、そして終盤での伏線解消と次への引きの残し方、とてもバランスが良かった。大きな視点でみても、序盤でのマミさん退場を皮切りとしてキャラそれぞれの顛末が、実に練られた構成で僕らを引き付け続けました。



もちろんシナリオが非常に良かったことは言うまでもありません。個々の少女たちの悲痛な願い、魔法少女と魔女を対比させたシナリオは時に繊細に、時にダイナミックに僕らを引き付けましたし、特に、溜めに溜めて放送されたほむらの伏線解消回、時間遡行を用いた彼女の心情描きこみの激熱第10話は、本作ピークタイムであるとともに、近年アニメの中でも神回と呼べる位置づけになると思います。

ラストも、魔女化のシステムを改変することで完全ハッピーな世界になるかと思いきや必ずしもそうではなく、魔法少女を救済するに留めて戦いは終わらない、というビターに落ち着けたのも虚淵さんらしい味がありました。

ただ、そのシナリオのポテンシャルを限界以上に引き上げた新房監督、シャフトスタッフの演出力、アニメを意識した虚淵さんの構成力、ここに賛辞を送りたいのです。



いや、非常にいい作品でした。僕のまわりでも、あまりアニメを見ない友人や同僚さえもまどかマギカは見ていた、という話をちらほら聞きます。

未放送騒動も含め盛り上がりに盛り上がった魔法少女まどかマギカ、堂々完結です!!

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装甲悪鬼村正
装甲悪鬼村正



メーカーNitro+
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■■■■ 10
キャラクター■■■■■■■■■□ 9.5
音楽■■■■■■■■■ 9
テーマ■■■■■■■■■ 9
総合【S】 94点

正義乱舞祭

まさに読んで字の如く入魂の作品です。「正義」をテーマに添え、本来のニトロらしさを前面に出し泥々に捏ねあげて高く高く積み上げた作品でした。

2009年最高峰と呼ばれる作品ゆえ期待も大きかったのですが、ここまでの完成度を見せられたら諸手をあげるしかないってなもんですね。

【シナリオ】
舞台は少し異なる黎明期近代日本をベースとした国家、大和。この世界における最強兵器は「劔冑」と呼ばれる装甲型の鎧。劔冑を装甲した武者たちは空を舞い、鉄塊をも破壊し、最強の戦闘兵器としてこの時代の軍事を支えています。先の戦争により敗戦国たる大和は現在戦後の混乱期……、圧政を敷く六波羅幕府、大和の占領元でありながらも沈黙を貫く大英連邦を主とするGHQ、権力の奪還を目指す朝廷と、未だ大和の治安は定まらぬ日々。さらに、出現とともにその場にいる全ての人間を殺戮する謎の武者「銀星号」の存在が人々の生活に影を落とします。

そしてそんな謎の武者銀星号にひとり立ち向かう、深紅の劔冑「村正」と、その仕手である警察官、湊景明。果たして村正や銀星号の行動意図とは? 六波羅幕府やGHQの目論見とは? 大和全土を巻き込んだ激動の戦乱が今明けようとしています。


以上、ざっくり粗筋ですね。基本的に主人公は景明なのですが、冒頭第一章においての彼は脇役であり、まずは首都鎌倉に住む高校生たちを主軸として物語が進みます。突如失踪してしまった悪戯好きなリツを、クラスメイトの雄飛、小夏、忠保が捜索するという展開です。

そして、主観的に動いていて完全にメインキャラと思わせていた彼らを惨殺や蹂躙など容赦なく不幸のどん底に叩き落すシナリオは、実に狂った鬱展開でしたね。探し人のリツは既に惨殺済みで登場すらせず、さらにヒロイン小夏を四肢切断してレイプさせるとか、レーサーになる夢を追いかけている忠保の目を潰すとか、主人公格の雄飛を斬首で殺すとか、どんだけだよと。もうホントどんだけだよと。

体験版もここまで、当時かなり話題になっていたことを記憶しています。つかみとしては良くも悪くも巧く出来ていると思います。


つかみの第一章、そして景明を主点に添えるメインストーリーは二章からとなりますね。

とにかく濃ゆいシナリオですが、そのシナリオの構成、各キャラクターの動かし方、緻密によく練られています。各々の登場人物は、それぞれの行動理念をもってしてシナリオにうまく絡んでいますし、さらに、六波羅、GHQ、景明が属する朝廷サイドのパワーバランスのとり方や、覇権を取るための各々の策略などの政治的な思惑も、押し引き絶妙なバランスで描かれます。

そして、長いストーリーに多勢なキャラクターと、読み手にも体力を求める作品ですが、実は起承転結に忠実にのっとった綺麗な構成をしていますね。一、二、三章は、各キャラの境遇や行動を説明することと、銀星号という存在を読み手に訴えかけるためのシナリオ群です。話は別物ですが章の持つ役割は全て共通しています。ここが相当量のボリュームを持った「起」

四章は景明の回想シーンにて話の受けと作品世界の広がりをもたらす「承」。ここで景明の妹の光が銀星号の仕手であり、二体の村正を兄妹で使うことになってしまった経緯が描かれます。大体の伏線が解消され、後半に向けての準備が整う感じですね。

そして以降個別ルートは、六波羅やGHQの面々を絡めた政治的な戦争と、景明と銀星号の因縁を交差させながら話が進みます。すさまじく動的に進む物語と、景明やヒロインに次々と試練が襲い掛かるまさに「転」。ラストは大抵ビターな結末が用意される「結」

上記、起承転結のそれぞれのエピソードの中身各々も、やはり起承転結を綺麗に組み立てた洗練された構成であるのは読めばわかると思います。



さて、「正義」とは何かを貪欲に描くのが本作の肝だと思います。正義という概念は、何をもってして正義とするのか、善だろうが悪だろうが殺人は殺人という真理を突く子供にはわかるまいなテーマですね。

敵をひとり殺すことで味方もひとり殺すことになる「善悪相殺」という恐ろしい縛りを持つ妖甲村正。ですがそれは名工村正一門が、各々の正義と悪は表裏一体にて立場が変わればどちらにも転ぶ、という真理と葛藤を見出してしまった先にあるものでした。

この作品がシナリオ的に成功できたポイントは、「敵味方含めて各々が己の正義を貫いている」、ここにあります。その分ボリュームは凄いですが、シナリオやキャラの描き込みは凄いですよ!



正義を盲信する少女、綾弥一条ルートは、正義のお手本ともいうべき図式、「勧善懲悪」を考察するルートです。正義を語るうえではずせないこのテーマ、上記した真理を証明せんと正義を打とうとする景明と、平和を求めて己の正義を貫く一条の、正義と悪を対比させる最後の一騎打ちシーンは胸が奮えました。敢えてその答えを提示しないビターなラストも良しです。


GHQの大尉、大鳥香奈枝ルート、非常に考えさせられるルートでした。景明は、本来優しい人間でありながらも信じた者たちを村正の呪いにより手にかけ続けていますので、精神的にはもう崩壊しかかっているのですね。すべてが終わった後に自分が「正義に裁かれ殺される」から、自分をギリギリ行動に駆り立てることが出来る。この一点が在ることで彼はなんとか自分の存在を保っているのですね。

しかし彼の状況を鑑み、与えられようとする恩赦に対して、彼は自分の拠り所をなくしかけます。許されること即ち彼が救われることではないのですが、そこで、雄飛の復讐のために景明を絶対殺すと断言する香奈枝の存在は、矛盾するように彼の生きる糧となるのです。この狂気的な場のもたせ方は本当に見事です。正義、裁きを圧倒的な理由から描いたこの構図、鳥肌が立ちました。


そして最も重厚で読み応えのある村正ルート。村正側から見た回想シーン、村正が本来の人間の姿を得る展開、互いを利用しあうのではなく互いを真のパートナーとして戦う決意をする関係性など、劔冑"村正"いう存在に強く焦点が当たります。景明と村正、ともに善悪相殺の真理を受け入れ、そのうえで自分たちはどうあるべきか……、それまでの章や他ルートで葛藤していた道をふたりで模索する展開はメインルートにふさわしい出来です。

また、銀星号の正体である、光が本当は過去の病魔から脱しておらず、銀星号事件や目の前で動いている元気な光は、彼女が深い眠りに入ったときの夢の具現であるというカラクリも鮮やかでした。銀星号の異常なまでの強さ、達観すらある圧倒的な信念、夢物語ほどの野望、それは光の夢であるがゆえの純粋化された思いの具現。非常に美しかった。

ただまぁ個人的には、ラストの地中深くに眠る金神様を呼び起こすくだりから、光が神になってしまうあまりにも派手な流れは、それまでの闇の底を這うようなストーリーを置き去りにして一気にエンターテイメント色が出てきてしまうため、もっと裏を行ってほしかった気はありますね。宇宙空間での戦闘とか笑。

ですが、それくらい無敵極まりない銀星号を倒すのが、許せない自分を先に殺す、つまり自害することで、愛する光を打破するという、作品テーマともいうべき善悪相殺にもとづいた方法だったこと、これには僕は大賛辞を送りたい!! 長いストーリーの中で、景明が呪われた自分をいかに憎んでいたか、そして光をいかに誰よりも大切に思っていたかを丁寧に描いていたからこそ、本当にこのシーンは存在感を放っています。この方法の成功は、必然的に光を景明が愛していたことを証明するため、光も救われるんですよね。思わず目頭が熱くなりました。


まあその後に、村正編と称してエピローグと呼ぶには長すぎるほどのエピローグがあるのですが、これは村正とのイチャラブ展開ですので、オマケ的なもんかと。クライマックスのピークタイムは上記「善悪相殺」を用いた光の打倒シーンです。


以上長くなりましたがシナリオ雑感ですね。奈良原一鉄さん、はじめてプレイしましたが、構成立てのうまい方ですね。もう少し全体の肉をそぎ落とせればもっと広く愛されるライターさんになると思います。



【グラフィック】
ニトロプラスですから、大工数をかけて素晴らしいゲームに仕上げてくるであろうことは想像できていましたが、それにしてもこのグラフィック、ゲームデザインは素晴らしい。作品の雰囲気を最大限に引き出す全体的なデザインはさすがのニトロですね。

また、世界観に準じて縦読みなのですが、これも最後まで気にならず読み進めることができました。気になる人は気になるかもしれません。

さらに、一枚絵のクオリティの高さ、枚数の多さも言及しておきたいところですね。なまにくATKさんですか、うまいですねえこの方。なまにくあったかい、と読むのですか笑。ずーっとニトロでは彩色担当だったのですが、本作にて初めてのキャラデザ、原画担当とのことです。もともと素晴らしい実力をお持ちの方であったとは思うのですが、初作品にてこの仕事ぶりは感嘆ものです。肉感的でバランスのいいキャラクターと、表情の作り方、構図、どれをとっても高い次元でまとまっています。

劍胄などの3Dまわりも力が入っていますね。グラフィック点は総合的に文句ナシの出来でしょう。


【キャラクター】
まず! 蜘蛛かわいいよ蜘蛛

ただの鉄の鎧だと思っていた蜘蛛が、あんなに可愛いとは。後半に出自が明かされ人間の形を取ることに成功もしますので、そこからの村正は可愛らしかったですね。若かりし頃に劔冑となったため、若干未熟なところも好印象です。

主人公の湊景明、彼はその背負った呪いや本来のキャラから、銀星号を打破する目的以外にはさして能動的ではないんですね。そこが上手かった。普段は恐ろしくダウナーながらも、使命に突き動かされて苦しみながらも懸命に行動している様が怖いくらい丁寧に描けていて痛々しかったですね。

また、善悪の表裏一体を謳う物語であるだけに、サブキャラクターの描きこみも非常に深かったです。一見敵サイドに見える六波羅面々やGHQ各々のキャラクターにも彼らなりの行動動機がしっかりと説明されます。特に六波羅の四公方である、茶々丸、童心、獅子吼、雷蝶、彼らのキャラ立ちといったら! 各々の行動理念、人間臭さ、そして勇猛さといった要素は四者四様に目を見張るものがあります。景明はまだしも、ヒロイン勢は哀しいかな完全に食われていました。

話の楔役となる湊光も良かったな。彼女の正義の描き方は狂気的で美しく、圧倒的です。景明に、兄であると共に父としての愛情をも求め、その歪んだ倫理観を正当化するために神になろうするというこの発想。ライターの力量を感じさせます。


【音楽】
音楽も作品世界観を底上げする雰囲気のあるBGMばかりです。日常シーンは和楽器やコントラバスを用いた生楽器の音色を中心に添えた綺麗なBGMが、戦闘シーンはニトロ本来の得意とするゴリ押しのギターロックが、うまいこと場面場面で機能していたように思えます。

歌付曲は5曲。ニトロ節全開で熱を上げるOP「MURAMASA」は作風によく合っていますね。個人的にはイントロが切なくEDや泣き所で流れる「落葉」、ベースを走らせるサビでの突き上げが格好よく且つ使いどころがうまい「The Call」が好きです。


以上、バルドスカイと並び、2009年度最高峰と呼ばれる装甲悪鬼村正でした。全方位的にニトロプラスの底力を見ました。合掌。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム