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エロゲ レビュー ブログ
【夏ノ雨】
夏ノ雨



メーカーCUBE
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■□ 7.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■□ 7.5
10代■■■■■■■■■ 9
総合【B+】 78点

王道の証明

とにもかくにもセオリーどおりの展開なんですね、本当に。舞台は夏の季節に田舎の学校、幼い頃に一度出会っていたヒロイン、その少女が家に転がり込んでくる展開、幼馴染のおっとりおねえちゃん、スポーツ少女の親友型ヒロイン、教師との禁断の恋……と、どれもどこかでよく聞く設定ばかり。宗介のサッカーや家庭といった、わかりやすく張られる伏線。良い意味でテキストにくせがなく、この設定の中で無理なく綺麗にまとまるストーリーが心地良いです。

【シナリオ】
夏真っ盛りの或る日、今日も授業をサボり、土手でのサッカー練習に明け暮れる宗介、いつもと変わらぬ生活、いつもと変わらぬ田舎の風景。そこへ見慣れない制服の少女が通りがかります。転校生とおぼしき雰囲気ながら、他人との接触を受け入れようとしない少女ですが、短い時間の中での宗介の行動により、わずかながらも心を開こうとしてくれます。親友の一志や翠に高らかに恋の予感を宣言する宗介ですが、帰宅してみるとまさにその少女が自宅に。これから異母姉弟として同居する旨を母から伝えられ、しかも彼女は改めて完全拒絶の姿勢を宗介に向けてしまいます……。


と、まぁ「エロゲあるある」要素を揃えたってなものです。特にマークしていたライターでも絵師でもメーカーでもありませんでしたので、本来であればもうこの手の直球恋愛モノはおなか一杯、とスルーしていたかもしれません。ですが、そういった今となっては当たり前すぎる設定を揃えた作品であるというのにかなりの高評価を得ていることが僕は気になっていました。気がつけばPC18禁ゲームの歴史も、もう20年にもなりますよね。本当にいろいろなエロゲが世に出てきました。この手の王道学園恋愛ものも90年代なかばくらいで打ち止め感が正直あったと思うんです。ですから、ここへきて無名にして超王道作品が高評価を得るというのは、逆に言うと、純粋に本当に良い作品である証拠なのかなと思いました。

ヒロインは4人と一見少なめですが、正直4人くらいがちょうどいいです。プレイ順にひとりひとり追ってみましょう。

まずは、クッキング部の顧問、美沙ちゃん先生。おっとりしつつも芯のある社会人の女性を丁寧に描けていたと思います。彼女は、正確に言うと姪ですが、育て子を抱えているというのが一番の楔の設定となります。凄く重なったのは、「瑠璃色の雪」の雪那さんですね。知っている人いるのでしょうか……フロッピー時代の傑作純愛ゲーです。先に母親との出会いがあり、のちに商店街で迷子になった娘と出会うという展開、仕事や生活に疲弊するヒロインや子守りを通して時間を重ねる中で母娘両輪で感情移入していき、彼女たちを支える決心をする主人公、と構図は近しいものがありますね。雪那ルートは小さな幸せを掴みにいく温かなルートだった記憶がありますが、本シナリオも娘を介在させることで、非常に優しさに溢れた雰囲気を保っていたと思います。良かったですね。

幼なじみのひな姉ルート。ひな姉は昔から宗介のことが好きで、一方で親友の一志が彼女のことを想っていますので、展開も予想できますし、実際その通りの展開となっていきますね。逆に宗介がひな姉のことを好きになる過程の書き込みがあっさりしすぎだとは思いますが、まあこの手の構図は、悪い言い方をすれば流れに乗りさえすれば外すことはそうありませんので、安心して読むことができましたかね。付き合いだしてからは平坦で予想の範疇を出ない無難なシナリオだったと思います。

メインヒロインの理香子ルート。シナリオとしての出来は一番いいと思います。父親の浮気離婚と母親の育児放棄という過去のトラウマからギリギリのバランスを保っている主人公の家族にとって、異母姉弟の理香子という存在は非常に難しい存在です。同時に、理香子にとってもその生い立ちは決して幸せなものではなく、主人公一家が微妙な存在であることは言わずもがなですね。彼女自身の不器用で意固地な面も手伝い最初はどうしようもない状態からスタートし、他ルートでもその難しさはよく描かれているのですが、その問題をじっくり解きほぐしていくルートですね。話の流れとしてはやはり王道ではあるのですが、丁寧さがよく伝わってきますね。初めて家族として本音を出し合い歩み寄りを見せるシーンや、宗介が理香子にプロポーズするシーンは本作最大の山場かな、とても良かったですね。

そして親友のルート、これが個人的にツボついてました。実はずっと大好きでした、というのではなく、気になるアイツが大好きに発展してしまいましたという、瑞々しさに溢れた展開が凄くいいですね。この、真の意味での友人発恋人行の設定って、実はありそうであまり見ない設定なんですよね。大半の友人ヒロインというのは、もともと主人公のことが大好きであるパターンが多いのです。一方で翠と主人公は、多少気にはなる程度の思いはあったかもしれませんが、本当に"親友"という色が濃い。ですから彼女は、最初から理香子との恋愛を嘘偽りない気持ちで応援してくれていますし、主人公の恋愛にともに泣いたり笑ったりしてくれます。だからこそ、翠本人と恋に落ちた時の破壊力というものは凄いんですね。友人としての関係が強すぎたため、恋人になってからの距離を測り合うふたりの様にはニヤニヤ間違いなしです。シナリオ自体も、友情とサッカーを軸にしたスポ根ものの超王道で、ライターさんのいい意味での実直さに強い好感が持てます。エンドロール前とラストの一枚絵が主人公、翠、一志のものであるというのもシナリオで何が重要だったかを示しているでしょう。個人的には一番好きなルートで、かなり余韻の残るルートでした。Goodです。

しかし、翠ルートを筆頭に、宗介、翠、一志の仲良し3人組の関係の作り方、話への絡ませ方の描写は実にいい感じですね。翠、ひな子ルートでは、必然的に一志が強く話に絡んできますし、他ヒロインルートでも頑張ってお節介を焼いてくれたり一緒に泣いてくれる翠の存在は大きいものがあります。友情にも厚めに焦点を当てるのは、青春ものとしての役割を如何なく発揮してるといえるでしょう。

苦言を呈すると、ひな姉や美沙ちゃんが他ルートだとなぜかほとんど出てこないことや、翠と初Hをするイベントの流れ、理香子ルートでの理香子が宗介から頑ななまでに離れようとする理由、ひな姉ルートでの依存症など、書き込みの薄い"投げ設定"な部分はあるものの、全体として概ね丁寧ですので十分な出来を保っています。ダイナミックな展開もなく、等身大なシナリオなのですが、王道をいくシナリオをじっくりと紡ぎ、はずすことのなかったバランス感覚を評価したくなるシナリオでしたね。


【グラフィック】
2人の絵師さんがヒロイン2名ずつ担当していますが、ともに標準以上のお仕事をしているかと思います。個人的には、翠とひな姉の絵……カントクさんですかね、人気絵師さんですが、やはり良かったですね。でも理香子、美沙ちゃんも十分な出来ですよ。

【キャラクター】
それなりに行動的ですがそれなりに思慮のまわらない主人公は、等身大の青々しさがあって好感が持てます。理香子、翠、一志といった主人公まわりの人間たちも「出来すぎない」それなりさがうまく描けていると思いました。全体的にメインキャラは弱くも懸命に生きるキャラたちばかりで皆好感が持てます。キャラ設定も実に王道的なんですけどね。

佐本二倫さん、安玖深音さんなど、特徴的ながらも人気・実力を併せ持つ声優さんが声まわりを固めます。その中でも注目したいのは美沙ちゃん役の澤田なつさん。美沙は、CVが表の世界で活躍している福圓美里さんだというのも密かに話題になりましたね。彼女の、息の切れ目といいますか、言葉の抜け方といいますか非常に特長的ですね。設定的には存在感の出しづらいキャラだと思うのですが、声優さんの力が光っていた印象です。

【音楽】
全体的に夏の青臭さを体現する穏やかなBGMが多く良かったと思います。これといって強烈に残るBGMがあるわけではないのですが、そつのない印象ですね。中でもよかったのは、温かな「遥かな空」、切ない回想シーンで使われた「守るべきもの」、泣き所の「繋がる両手」あたりですかね。

以上、夏ノ雨でした。王道はやはり「良い」から王道と呼ばれるのですね。当たり前のことを再確認したような気がします。エロゲビギナークラス推奨ゲーですね。


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【殻ノ少女】
殻ノ少女



メーカーInnocent Grey
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■■■□ 9.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■■□ 8.5
惨劇■■■■■■■■■ 9
総合【A】 84点

救われない美学

前作「カルタグラ」で見せた、戦後を舞台としたサスペンスエンターテイメント。その、18禁ゲームでありながら全くユーザーに媚びない世界観と重厚怜悧なシナリオは個人的に大当たりで、InnocentGreyという会社は、今後が楽しみな会社のひとつとなりました。そして本作、同様の世界観を貫いたのは嬉しい限りです。

【シナリオ】
舞台は前作「カルタグラ」と同じ戦後間もない東京。前作は上野が舞台でしたが、今回は新宿・吉祥寺間の中央線沿線が舞台となります。自分が現在同エリアに住んでいることもあって、より思い入れを込めながら読んでいた気がしますね。

時は昭和三十一年、戦後の動乱期。世間では身体の一部と子宮を切り取られた少女が遺棄される猟奇殺人が横行。私立探偵の時坂玲人は、かつての同僚である警視庁捜査課の魚住から事件捜査の協力を依頼され、また同時期に、妹紫が通う私立櫻羽女学院から、行方不明の少女の捜索依頼も舞い込みます。不可解な要素を含みながらも増加する犠牲者と交差する2つの依頼された事件、そして6年前玲人自身に降りかかった凄惨な事件、「自分を探して欲しい」と玲人に依頼する少女、様々な事柄がひとつに収束してやがて壮絶な事件が形を結び出します。

……しかしこのメーカーさんは、四肢切断とか子宮切除とか好きですね……。長編サスペンスでありながら、まったくダレずに最後まで読ませる展開は相変わらず見事です。エロゲにしておくにはもったいないくらいの凛とした世界観と原画、BGMは高いレベルで昇華されていますし、殺人という動的場面が次々に差し込まれるため、好きな人は一気に没頭すると思います。

感情移入を促す伸びやかなシナリオでありながら、登場人物が次々と不幸な目にあっていってしまうのは、うまくもあり、つらくもあり、サスペンスとしてやれるだけのことはやってやろうという気概を感じます。世界を唯一明るく構築する綴子が惨殺されてしまうのも「やめたげてよぉ」でしたし、何よりもユーザーサービスと見せかけた前作主人公の秋五や和菜ですら展開によって惨劇の対象になってしまうあたり、いつ誰がやられてもおかしくない緊張感にはらはらさせられました。

導入から中盤にかけて猟奇殺人事件を追いかけ、その犯人が暴かれ事件が収束したと見せかけて主人公やメインどころのキャラに焦点が当たる事件へと展開していく流れは、前作カルタグラと同一のものですね。序盤は犯人探しのミステリーながら、主人公が探偵役から当事者へと役割が変質していってしまうのも同じです。この流れは単体としてみれば非常に長編物語然りとして個人的に好きですが、比べると前作の方がより鮮やかだったこともあり、前作と同じパターンにしなくても良かったのかも、とも思いましたかね。

それから各所で言われていることですが、ミステリーの傑作、京極夏彦「魍魎の匣」の密室トリックをオマージュした展開はやはりあざとかったですね。オマージュといいますか、そのままですので。ただそれを差し引いても物語としては非常によく構成されており、テキストもキャラクターも自然に動き出すような雰囲気を保ちますので、そのカラクリ部分が惜しい所ではありましたかね。終盤の盛り上がりも、もうひと山欲しかったというのが正直なところで、葛城シンや朱崎先生といった実質犯や、西藤医師が黒幕というのは、予想の線上すぎて前作の動きの激しかった展開に比べると少々華が欠けると感じました。それから、これも前作に比べて、主人公が巻き込まれた過去の事件の必然性が少し弱かった気がしますかね。現在の事件と似ている性質を持ち、かつ主人公のトラウマとなっている事件ですので、終盤においての切り込み方はもっともっと深くて良かったですし、主人公の心をガンガンに揺さぶってもらって良かった。

ですが、母性を求めて殻の少女を作ることに妄執する間宮心爾、そしていみじくも殻の少女になることを余儀なくされてしまった冬子の存在感。姿が変容してなお心爾に救いを与えることのできる彼女の神聖性、ここの描き方は本当に感心してしまうくらいに巧みなものがありました。そして、すべての登場人物が物語に絡みだして意外な点が線でつながっていく後半の構図の作り方は前作を凌駕しています。玲人が運命に翻弄されながらも確信に迫っていく様は読む手が止まりません。ラストも良かったですね。主題歌のタイトルがラストシーンに絡んでくるとはやるじゃないですか。

ただ、本当にこの話はビターです。かなり滅入る展開ばかりで、まさかのメインヒロインも四肢切断のうえ結ばれないのがトゥルーですし……。犯人サイドの狂気が比較的に成就され、多くの伏線を見事につなげながらも敢えてハッピーに持っていかないシナリオは強く評価したいですけどね。各キャラの置かれている境遇を考えると、完全無欠のハッピーエンドではなく、このようなビターな締め方をするほうがよりしっくりくるものです。ですが、精神的には解決したように描かれますが、ふと冷静になると普通の根源的な幸せを求めたくなってしまうのがユーザー真理というもので、やっぱり各登場人物を魅力的に描けているだけにわかりやすいハッピーを用意してくれても良かったなぁ、なんて思っちゃったりもするんですけどね。

また、例えば八木沼の過去話など伏線として投げられたままの話や、紫やステラといったもう少し描いてほしかったキャラなども多々おります。これは今作がカルタグラの延長として描かれたように、今後のイノグレ作品で描かれていくものなのでしょう。このレビューを書いている現在「殻ノ少女2」の制作が決まっているようですので、そういったひとつひとつの作品を越えたつながりに期待したいところです。


【グラフィック】
原画担当は杉菜水姫さん、僕の大好きな原画家さんのひとりです。世界観に会った美しいCGは健在、惨殺シーンや死体の絵まで丁寧に描かれているものですから、本当に良い仕事をしているってなものです。エロゲとしては異質なまでに美しく、艶のある原画に関しては文句なし、圧倒的な原画家さんと言えましょう。 システムとしての捜査パートも面白かったです。ただ、画面クリックでヒントを拾っていくものはちょっとわかりづらかったかな。

デモムービーは作品世界観をうまく表現した非常に美しいものに仕上がっています。ほとんどを白で覆い、主題歌「瑠璃の鳥」とあいまって高い次元でまとまっています。


【キャラクター】
非常に多くの登場人物がいますが、未登場のまま殺されてしまう女生徒たち以外は、シナリオゆえに皆よく印象に残っています。全体的にシリアスですが、夏目さんや森夜月といった、息抜き役を与えられたキャラもいまして、バランス感は見事なものでした。しかし上記しましたが、次々に良キャラが不幸な目に合っていってしまう展開には、なんともいたたまれない思いでいっぱいです。

主人公は時坂玲人、前作と同じ、元警官の探偵です。前作主人公の秋五よりもかっこよいですね。行動力も判断力も男前なところがありますし、また、前作のように彼以上の存在感で場を食ってしまう七七や冬史のようなキャラがいないということもあるかもしれません。彼を支える友人の魚住も、働きとしては申し分ないですが、やはり前作冬史と比べてしまうともうひと踏み込みほしいところでした。

メインヒロインは朽木冬子。自分のルーツをさがす、とらえどころのない女学生です。あどけない声優さんの演技も良い方向に作用していて、飄々としていながらも年相応の不安定さを抱えるキャラ作りは非常に丁寧に描けていました。だからゆえに魍魎の匣よろしく四肢切断での救命、その後も誘拐され行方知れずとなってしまう顛末には切なさが残ります。基本的に、話のメインに立つ櫻羽女子高の生徒たちには、感情移入してはいけません。なぜならほとんど惨劇を受けてしまうからです(涙)。チョイ役といって差し支えない佐藤さんが無傷だっただけで、ほかは全員殺されるか行方不明になってしまいます。特に綴子……。くっ。。。

また、妹の紫や終盤の伏線キャラとなるステラなどは玲人との距離感が絶妙で、素晴らしかった。だからゆえにキャラクターが非常に良かっただけにシナリオで活かしきれなかったところが惜しいですね。

【音楽】
冬の冷気をまとった凛としたBGMの数々が清々しいですね。日常音楽もシリアスなものも非常に良いです。笛の音のメロディ展開が綺麗な紫のテーマ「Lilac」、メインBGM「殻ノ少女」が印象に残っています。そしてなんといっても主題歌「瑠璃の鳥」でしょう。エロゲ主題歌史に残るメロディラインを誇る、秀逸な出来の曲だと思います。


以上、殻ノ少女です。しかし突き抜けてますねえ、このメーカーさんは。あまりにも硬派すぎてエロゲとしての評価は正直しにくいんですが、こういう作品は多くの人にプレイしてもらいたいと思いますね。


関連レビュー: カルタグラ ~ツキ狂イノ病~


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム