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【勝 ~あしたの雪之丞2~】
勝 ~あしたの雪之丞2~



メーカーALICE SOFT
シナリオ■■■■■■■□ 7.5
グラフィック■■■■■■■■ 8
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■ 6
スポ根■■■■■■■■■□ 9.5
総合【B】 73点

前作は前説

エルフ発の青春ボクシング物語「あしたの雪之丞」の続編です。まさか続編が出てくるとは意外でしたね。前作をプレイしていることがある程度前提となってくるため、採算性の問題からシリーズものってなかなか冒険できないと思うのですが、エルフのそういう英断は好きです。ただ、前作プレイは必須です!

【シナリオ】
前作の主人公雪村雪之丞がボクシングをやめて転校するきっかけとなった、スパー中に意識不明に追い込んでしまった親友……、この親友こそが本作の主人公久保勝です。意識不明から目を覚まし復学するものの、ドクターストップにより一筋だったボクシングは辞めざるを得ず、スポーツ特待生だったため学力も出席日数も追いつかず留年、と鬱屈した日々を過ごすことになります。そんな彼を支える周囲の人間と持ち前の明るいキャラクターで状況を打破する彼のヒューマンドラマです。前作の雪之丞&せりなTRUE ENDの続きとして本作は展開します。


さて、前作と比してどうだったかというと、「前作よりはるかに良い」というのが大方の意見で、僕も賛成です。神作品として崇める人もいるくらい人気がありますね。ただ、僕は前作も普通に好きでしたので、シナリオ的に大きな差があるかというとこれは多分そこまで劇的なものではないと思うんです。ライターも同じ方ですし。では何が違ったかというと、キャラクターや設定の造形、ここに尽きると考えています。

前作の主人公は、意図せずとも加害者になってしまった人間でした。現実に耐え切れず逃避してきたダウナー気質の主人公、そんな主人公を恨み追いかけてくる晶子や明男、負を起点にしたシナリオを主人公とヒロインで共に歩み行く決意をする……そういった類のシナリオ群でした。春日せりなという稀に見る天真爛漫な良メインヒロインがシナリオを仕切るため、世界観は明るいものになっているのですが、要は表面的な設定の見え方とシナリオ展開が同じなんですね。これはこれで王道で良いと思いますが。

一方、本作は被害者側の人間ですから、彼を支える周囲が前提として温かい。プラス、彼の性格も非常にアッパーに突き抜けている。周囲を明るくする主人公と彼に同調するヒロインたち、と非常にノリが明るいため、より青春ものの雰囲気が出ていますね。前作では復讐キャラとして描かれた実妹の晶子も、本作においては健気で素直な本来の側面で描かれますし、権造といった強烈なギャグ要員の友人もいます(しかしこいつが実に熱い笑)。表面的には前作以上に明るい。しかしその実、ヒロインたちは親の浮気、父親の就職難、身分違いな家庭、自身の病気など、結構ヘビーな家庭事情をそれぞれ抱えています。勝自体も心の底にはボクシングに対する捨てられない葛藤が渦巻いてます。

このあたりのキャラクター造形の差が、如実な完成度の差につながっていると僕は考えています。



勝がかなりアップテンポな人間なのに加えて、脇を固めるメインヒロインのあきらや友人の権造、勝の母ちゃんなどのキャラが強烈に立っていますので、とにかく話のテンポが良いです。ギャグシーンも勝を起点に動きますので実に楽しげな雰囲気でサクサクさくさく読めてしまう。さらにシリーズものの強みを最大限に活かし、せりな、雪之丞をはじめとした前作の登場人物たちが惜しげもなく話に絡んできますので、シナリオに深みと広がりを与えていますね。

ま、このあたり高評価になってくるのは、前作ありきだからですけどね~。本作を単独作品として立てた場合にどこまでいいものになったかは正直わかりません。シナリオ的にはもう一息だった前作の設定やそこから派生していたキャラを、存分なまでに今作の世界内で噛み砕いて良質な作品に仕上げて開放した、そんな感じです。ゆえに前作本作の2作品まとめて「あしたの雪之丞」としての評価をしたいところですね。


ヒロイン勢をあげときましょう。メインヒロインは水島あきら。勝の相棒的ポジションに位置し、黒髪ポニテにして当時としては画期的なダウナー系ヒロイン笑。シナリオ自体も親の浮気や傷害事件騒動など、作中最も悲惨めなタイプでしたか。

あきらの友人の病弱っ子桜瀬由美子、見た目超かわいい笑。彼女は前作のとあるキャラが意外なまでに熱い働きをします。ボクシング部の新人マネージャー藍川ちはる、この子も見た目かわいい。彼女もどうにもならない重めな家庭環境が主題でしたが、当時と違い今や僕も社会人であり、また不況のこのご時世、あんま笑えないっすわ。そして財閥令嬢の三枝マキ、身分違いの恋愛を描くちょっと全体からみると浮いたシナリオですが、勝が竹を割ったような性格なのでライトに描かれていて良かったと思います。元カノという設定も効いていましたね。

そして前作ヒロインの一角であった、勝の妹久保晶子。このシナリオはとても出来がいいです。何がいいかって、恋愛劇じゃないところがいい。そりゃそうです、主人公の実妹です。実は血の繋がりがなく恋愛モードになるとか、実妹との禁断の恋愛になるとか、全くないです。ここにあるのは、失恋の痛手を引きずる晶子と、彼女を誰より大切に思う兄の家族愛シナリオ。晶子のエロシーンが無いことなど惜し……当然のことでしょう!


うーん、粗がないので悪い点をあまりあげられないな……。そうだなあ、強烈な印象に残るシナリオだったかというと、実はそうでもなく、正直このレビューを書くにあたり多くを忘れてしまっていたという当たり障りの無さが難といや難ですかねえ。しかし、どのシナリオも起伏と奥行きがちゃんと備わっていて、呼応するEDもしっかり作られている、なかなか優等生な作品でしたね。

2作品の集大成として描かれる、全ルート消化後の追加のシナリオも非常に熱いです。前作の主人公雪之丞と、本作の主人公勝の拳での語らいですね。ふたりの本気の勝負により、雪之丞はプロボクサーとして、勝は彼のトレーナーとして生きていく決意をします。シナリオもキャラ構図も、ひと世代前のスポコン青春ものの極みといった感じがしましたよ。



【グラフィック】
原画は前作同様ながせまゆさん。相変わらず魅力ある素敵な絵ですね。一枚絵の魅力が良きかなです。絵的に好きだったのは特に桜瀬由美子ですかねー。前作の由希みたいに、おしとやか病弱キャラって絵的にもあんまりそそられない子が多いのですが、この子は例外的に反則なまでにかわいいですね。

また、女の子のアップばかりで枠内を埋めようとせず、色々な要素を書きこむ一枚絵も素晴らしいと思います。鹿島学園側の5人がカウンターでラーメン食べてるカットとか印象に残ってます。こういう一枚絵を用意するってのは大切だと思いますね。そしてさすがのエルフ、塗りは綺麗ですし量も申し分ないですし、立ち絵、エフェクト、システム的な部分も問題なしですね。


【キャラクター】
前作の主人公雪之丞君は、最近のエルフでいえば土天冥海さん系といいますか、内省の多い背負ってしまう系のキャラクターでした。対して本作の主人公勝君は、往年の蛭田作品に現れそうな、バカであけすけでノリも良いが、土壇場では決める男として描かれています。どっちが読んでいて気持ち良いかは一目瞭然ですね。主役が突き抜けてかっこいい話は大抵面白くなるもんです。

本作ではトリックスターとして描かれるその雪之丞君も、せりなと付き合い過去を払拭したせいか、勝へのアシストの数々は前作のダウナーぶりからは想像できないほどにイイ奴として描かれます。主人公の面目躍如ですか。

女性陣は全体的には前作の方が良かったかなぁ…、と正直思いますが、キャラ絵とあいまって魅力はありますよ。でもやっぱ前作のメインヒロイン春日せりなを超えるヒロインはいませんでしたね~。ま、せりなは本作にもガンガン出てくるし、勝とのからみも面白いからいいんですけどね。


【音楽】
BGMは全体的にはほとんど印象に残っていません、が、歌付きのOP曲はなんか頭に残ります。前作のへんてこな歌付き曲のようでなくて良かったです。

以上、あしたの雪之丞2でした。もしかしたら評価厳しめかもしれません。全体的には欠点がほとんどなく、ビギナー向けの作品ですね。まぁ2010年である今、今更この作品をビギナーに薦めるってこともしませんが笑。


関連レビュー: あしたの雪之丞



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【大悪司】
大悪司



メーカーALICE SOFT
シナリオ■■■■■■■■■■ 10
グラフィック■■■■■■■■■■ 10
キャラクター■■■■■■■■■■ 10
音楽■■■■■■■■■□ 9.5
睡眠不足■■■■■■■■■■ 10
総合【神】 99点

大熱中祭

僕のエロゲ人生の中で、最長プレイ時間を誇るエロゲです。はじめてプレイしたのは大学生の夏頃で、当時は連日徹夜徹夜徹夜徹夜徹夜……。なんともったいないことをしていたのでしょう……と言うとでも思いましたか?? 充実した日々でした笑。

やりこんでもやりこんでもコンプリートが見えないボリューム感。鬼畜王ランスのシステム系譜を受け継ぎつつも、ランスシリーズではなく完全オリジナルとしてリリースされた本作、奇抜な設定にシナリオ、魅力を持った主人公とクセのあるキャラクターたち、そして何よりもやり込み要素の深すぎるゲームシステムと、当サイトにて神作品の評価を与えるにふさわしい作品です。


【シナリオ】
架空の世界、男性上位国家であるニホンが、女性絶対主義であるウィミィとの太平洋戦争に敗れるところから物語は始まります。南地への出征にてニホンを離れていた極道「わかめ組」の若頭山本悪司は、戦争の終結とともに故郷オオサカへ帰郷しますが、そこで待っていたのは、ウィミィ女性優位の思想のもと、女性幹部に乗っ取られた組の現状でした。組に居場所は既になく追い出されてしまう悪司ですが、弱小の地域奉仕青年団を手始めにのっとり影番を務めると共に、わかめ組の奪還、そして先にあるオオサカ制圧に乗り出します。


……という非常に面白い設定を持っていますね。

最初は、市会に賄賂を送り犯罪行為を黙認させることで、敵対するわかめ組との抗争を始めるところからスタートしますが、その後も別勢力が次々と台頭してきて、抗争の日々に明け暮れることとなります。どういった動きを取るかによってストーリーや各キャラの行動は様々な形に分岐し、最初の抗争相手であるわかめ組ひとつとっても、比較的穏便に悪司の下にくだる流れもあれば、女性幹部が軒並み不幸な目に合い四国からの助っ人であった狂人に組を乗っ取られる流れもあります。行動によっては、メインヒロインの一角であるわかめ組所属、加賀元子ですらも死亡してしまいますし、様々なキャラの境遇が悪司の指示、行動次第で変わっていくさまは、何周ものプレイ地獄を確実なものとします笑。


地域制圧シミュレーションではありますが、シナリオはしっかりしており、百人以上にも渡るユニークユニットの多彩さに比例して、イベント数も本当に豊富です。

ヒロインは6人いまして、マルチエンド形式を取ります。ひとりは中華料理屋「水陸両用」で働く白民華。悪司の想い人であり、ヒロインの中で唯一カタギの世界に生きている女の子になります。ゆえに、彼女と結婚すると売春宿が開けなくなり、資金繰りがしんどいことになるのが厳しく、ゲーム的にもつまらなくなってしまいますね。アクの強い悪人だらけの本作にとって、非常に存在感の薄いキャラであり、ヒロインの中でも位置づけとしてはメイン格なのでしょうが、ほとんど印象に残らない薄幸のヒロインかと思います。ちなみに水陸両用には民華の友人として見当かなみを仲間に出来るため、かなり上がりますた(しかもランスシリーズに反して、強いw)。

悪司の幼なじみであるわかめ組の加賀元子、僕は彼女が殺ちゃんの次に好きです。彼女はシナリオの展開上、輪姦されてしまいます。気丈で力強い彼女がそのトラウマを抱えながらも悪司に寄り添う構図はたまらないものがあります。単純な萌えではない、複雑な事情の上に成り立つ萌えはなんともいえない愛着を沸かせますね。エピローグは清々しいもので、救いがあり良かったです。

戦犯として軟禁状態にあるニホン軍の乃木大将の孫娘、乃木喜久子。祖父同様、広い視点と気丈な居振る舞いで悪司を惹きつけていきます。特にこれといった山もありませんが、乃木家に通い、大将と親睦を深め、大将の戦犯処刑や結婚などを経て、エピローグは幸せな家庭を築くといった比較的温かなシナリオです。

ウィミィ日本支部の空軍士官、プリシラ・ヴァドル。戦時中に悪司に抱かれ、彼のことを忘れられないで入るツンデレ。彼女とのエンディングはハードボイルドしていていい感じです。

イタメシ屋で働いているイタリアンマフィアのアンリ・ペロリ。民華ルートクリア以降に、民華、ペロリを選択することで水陸両用の代わりに彼女のルートに入ることが出来ます。悪司の恋人や、料理店の従業員という設定など、民華の裏ルートといった位置づけでしょうか。その正体は悪魔で、人間界のみならず魔界制覇に乗り出すエピローグです。ちょっと蛇足感ありますかね。

そして最後に人間凶器、岳画殺。年の程は中学生くらいなのでしょうが、祖父山本一発の娘であるため、親等的には悪司の義理の叔母にあたります。小さく可愛らしい外見ながらも、ロケットランチャーを用いたゲーム内屈指の攻撃力と年齢不相応な冷静さなどから、アリスソフトが生み出した名キャラクターとして非常に高い人気を誇ります。もちろん僕も大好きなキャラです。


まぁ、こういった作品でのシナリオは、よくあるエロゲのように読み込む物語というよりはゲーム全体の中のいちパーツとしてうまく機能しているイメージです。各イベントでのテキスト量はそう多いものではありませんが、アリスソフトならではな超秀逸なゲームシステムを活かすためのバランスのよいシナリオですね。ひとつひとつのイベントは、濃いキャラをベースにした笑いありほろりとした感動ありの粒ぞろいです。



【グラフィック】
システムが肝なのですが、せっかくなので詳細に書いておきましょう。

ゲームシステムは非常に秀逸です。ターン制になっていまして、まず参謀役の島本から管理地域の情報、活動報告があります。次に地域フェーズ、これはマップ上でのイベントフェーズになりますね、一番の肝の部分です。各地域で起こっているイベントを選択実行することで、そのイベントを進行させます。地域自体で起こっているイベントもあれば、特定のキャラを特定の地域に配置させることにより発生するイベントもあります。それは、シナリオの流れを決定づける重要なものや、仲間を増やすもの、どうでもいいものまで万別です。考えながらイベントを選択することになりますね。


次に部下フェーズ、ここでは仲間のパラメータを上げたり女性キャラをこましたり(やったり)できます。仲間は、バトルの際に重要になる戦闘能力や、配置されている地域を治める統治力はもちろんのこと、男ならば忠誠心、女ならば愛情値というパラメータがあり、これは放っておくと下がっていき離脱・謀反につながりますので、このフェーズやアイテムなどを駆使して自軍の士気は常に高いものにしておかなければなりません。まあ、なかなかうまくいかないもんですが。


次に、調教の館を建てていれば、売春宿フェーズがあります。3人いる変態調教師(タマネギ、小春、千住)をどの売春婦につけるか、誰を店で接客させるかなどを設定します。女性キャラならば大抵売春婦として金稼ぎを強要することが可能で、その売春宿の毎月の売上は自組織の資金源としてははずせない要素となっています。さらに、売春宿専用の調教、売春イベントも多くの女性ユニークユニットに用意されておりますので、どうしてもそのあたりも攻めたくなってきてしまうのですね~。前のプレイでは戦闘要員としておおいに活躍したキャラを、次のプレイでは買春イベントの回収ために売春婦としてしまう……そんな鬼畜な流れを当たり前のように行なってしまう笑。

少し逸れますが、次作「大番長」も名作ですが、やはりそれでも大悪司を推してしまう理由は、肩の抜け具合や遊びのシステムがどうしても大悪司のほうが優れているから、ですね。特にこの「売春宿」制度の画期的さといったら凄い。大悪司はヤクザものがメインキャラですので、賄賂、風俗、強盗、強姦、殺人……と当たり前のように犯罪事が主人公サイドでも横行しており、こういった要素がゲームの面白さを底上げしているのは間違いありません。


そして戦闘フェーズですね。任意に地域配置した部下を駆使して敵地域を奪いとるもよし、何もせずに成り行きを見守るもよし。他地域に攻めこむには大きな出費がありますし、負傷をすれば回復のためにやはり出費があります。戦争はお金がかかりますね。懐事情や仲間の体力を考えながら自陣を増やしていきます。


そしてこの戦闘システムがまたよく出来ているんです! 説明が難しいんですが……。一度の戦闘では、その戦闘になった地域にいる、味方、敵で人数が多い方の組織のキャラの人数分、タイマン戦闘を行うことになります。わかりにくいですかね。例えば、悪司勢力が4人配置されているある地域にて、敵勢力5人が攻めこんできた場合などは、5回分のタイマン勝負が行われます。

一回の勝負では、その地域に配置しているキャラが戦闘可能なわけですが、基本的にタイマンは、各々の攻撃のぶつけ合いです。またキャラごとの特性として、近距離、中距離、遠距離の3パターン、攻撃距離が決まっています。距離の長い方が先制して攻撃出来るとともに、本作、自分の攻撃が直撃すると比較的高い確率で相手攻撃の無効化が発生するので遠距離なほど有利……かと思いきや、キャラのパラメータ要素として回避率というものもあり、さらに攻撃力も単純に近距離なほどに高いので、これもまた選択を考えなければなりません。また、各ユニークユニットは、色々なパラメータや要素を無視する必殺技を持っていたりしますので、それの使いどころも見極めたいところです。

そして捕獲システムというものがあり、これがもうゲームとして凄い秀逸。イベントの流れで仲間になるキャラも勿論いるのですが、大抵の敵キャラは戦闘フェーズの中で、HP10以下で戦闘を終えさせて捕獲することが仲間にする条件なんですね。で、これがなかなか難しい。そもそも仲間にしたい敵が都度タイマンに出てきてくれるとも限らないし、与えるダメージが少ないと戦闘自体に勝利したとしても当然捕獲できません。逆にダメージを当てすぎてうっかり殺してしまったりもしますので、ただ攻撃力の高いキャラばかり揃えてガチンコに敵勢力を撃破すればいいというものでもないのが戦闘フェーズのやり込み要素の肝です。防御系のキャラ、攻撃力の低いキャラ、相手への攻撃力を極端に抑える「手加減」攻撃の使えるキャラなどをうまく配置しないと、なかなかうまいこと仲間を増やすことができません。仲間にしたいキャラを捕獲出来たときの高揚感ときたら凄いですよ!!

そんな戦闘フェーズを経て、最後に他組織フェーズで他組織内で進行しているイベントを見て1ターンです。盛り盛りだくさんですね。


シミュレーションゲームとしての難易度も絶妙な適度さで、易しすぎず難しすぎず。敵対組織も複数ありますので、2周、3周目でのシナリオ変化や追加キャラクターなどもあり、やり込み要素はあまりにも深い!廉価版が出ている今となっては最強のコスパゲームかと思います。


ゲームシステムは以上。次にグラフィックですが、一枚絵の圧倒的な多さはたいしたものです。アリス大作は看板原画家が総出でキャラ分担しますが、どの原画家さんも本当に魅力ある絵を描く方なので、安心できます。色々なタイプの絵を見ることができますね。ただまぁ拷問系の一枚絵は見る方もしんどいなあ、って絵が結構ありますが……。


【キャラクター】
主人公は山本悪司、ランスか悪司かってほどにアリスソフト随一の魅力を持ったキャラですね。外見的に優れているわけではないのですが、フィジカルもメンタルも尋常ではなく、性格も豪傑ならば女性の扱いもお手の物、というまさにあらゆる道を極めた文字通りの極道です。

キャラクターは上記した通り、ユニークユニットだけで100名以上登場するため、敵味方含めてあまりにもバラエティに富んでいます。当初の悪司まわりの勢力に加え、敵対勢力はわかめ組、高山組、ピーチマウンテンといったヤクザもの勢力から、那古教といった宗教団体、そして現在のニホンを統治下におくウィミィ……と、組織も多岐に渡ります。もちろん各組織に属さない単独のキャラクターも多数います。

そのなかでも特に印象に残っているのは、女性ユニットですと、上記ヒロイン群の殺ちゃん、元子。それから、市議会の山沢麻美、デザインも超かわいく正義漢のある彼女が不幸な目にあうのはたまらんです。しかも戦闘要員としても超優秀。あとは元子もそうですが、わかめ組女頭のや幹部の晴子、そしてPMのリンダ支倉姉妹などのヤクザもの女性陣がかっこよかったですかね。那古教の凄腕土岐遥は可愛くてキャラも凄く好きなのですが、仲間にするのが大変な割にはにエロシーンが萎える系で残念。

男性ユニットで好きだったのは、悪司もそうですが祖父の山本一発がまた凄まじい。あまりの強さに反則キャラというか、裏キャラ的な位置づけにいる彼ですが、悪司以上の豪傑ぶりは気持ち良かったですね。戦闘力が高くて印象に残っているのは、悪司のお目付け役だった大杉や、わかめ組旧幹部の加賀のおっちゃんですかね。それからゲーム途中で雇える傭兵たちはどのキャラもデザインと設定が立ちまくっているうえにめちゃくちゃ強いので、サブのさらにサブでありながらも全員印象に残っています。あとは戦争のトラウマで死にたがりになってしまい、実際ほっておくと自殺してしまう長崎旗男さんとか使い勝手がよくて印象にありますね。でも戦争未亡人と恋に堕ちると自殺しなくなるというのもいい話。初期に仲間になる不良高校生鬼門始も使い勝手が良かったですかね。悪司の成長と連動して成長するのでほっといても強くなります。あとはシナリオによってはわかめ組を乗っ取る素敵医師ですか。ヤク漬け&包帯でミイラ状態というデザインも強烈でした。

【音楽】
音楽はShadeさん……ではないのですね。DragonAttackさんですね、Shadeリフの印象が強烈なアリスソフト作品ですが、武侠ゲームで派手な演出も十分なアリスらしいBGMの数々です。既に凄いのですが、まぁこれでShadeさんだったらさらに凄い熱いことになってたのかも、とどうしても思ってしまったりもします。…が、まぁそれは野暮ですね。十分な出来だと思います。


以上、大悪司でした。
しかしかつてこんなに面白いエロゲがあったでしょうか。 ここまではまったのはFF、ドラクエシリーズかクロノトリガーかくにおくんシリーズか……。そういった往年の名作ゲームに並べて名前を挙げたくなってしまうエロゲなんです。


関連レビュー: 大帝国



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【Scarlett】
Scarlett



メーカーねこねこソフト
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■■■■ 8
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■□ 7.5
境界線■■■■■■■■ 8
総合【A】 82点

それぞれの居場所

ねこねこソフト解散作品ということで(これを書いている今は復活しているのですが)、当時話題になった作品ですね。諜報活動を舞台とした一級エンタメ作品で、一息で読めるテンポの良さは見事です。

【シナリオ】
しかしまあやってくれますね、このシナリオのレベルの高さは。果たしてエロゲである必要はあったんでしょうか笑。良くも悪くも隙なくしっかりと硬派に高いところまで積み上げられたシナリオだと思います。

国家暗部でありながら、であるがゆえに人の興味を引く、諜報機関を舞台とした作品です。それもニトロプラスのPhantomのような派手なタイプのハードボイルドエンターテイメントではなく、情報戦や心理戦をメインとした妙に生々しいスパイものです。メインライターは片岡ともさん、マニアックな知識に裏打ちされた、独特の文章を書く人ですね。しかし知識を見せつける独りよがりなものに決してならず、あくまで読み手がわかる体を崩さないところにプロ意識を垣間見ることができます。

ふたりの主人公の視点から見る手法がとてもうまく機能しています。ひとりは別当・和泉九郎・スカーレット。国家以上の権力を持つ高級諜報員です。そしてもうひとりが大野明人、我々と同じ一般人サイドにいる普通の高校生。この住む世界の違うふたりの視点を行き来して交差する物語を紡いでゆく点がうまかった点ですね。ただ、一般人である読み手の気持ちを代弁するためにメイン主人公は明人であったと思うのですが、1章以外は完全に九郎が主人公格になっていました。

メインのヒロインは、明人の相手として別当・和泉しずか・スカーレット、九郎の相手としては同級生にして現在日本陸軍にて諜報員として働いている葉山美月がいますが、二人とも魅力的に描かれていますね。話への重要度も各々非常に高く、必要不可欠な存在感を備えています。

全4章からなる一本道の物語です。1章は日常に漠然とした不安と不満を頂いている明人が、九郎の妹にして別当家の一員であるしずかと関わることで、その非日常に手を伸ばす様が描かれます。一方で九郎たちにとって諜報活動は日常の情景ですので、そのギャップに読み手をうまく引きつけていきますね。別当・スカーレット家当主であり九郎の父親である八郎が切り札として育てていた謎の少女アメリアの存在を軸に、高級諜報家の活動の仕方や存在意義、事件の盛り上げ、一般人である明人の思い、などを過不足なく説明して魅せていくバランスの良い章です。導入としては完璧かと。

2章は、南アフリカの小国を舞台にした、九郎のスパイ活動の日々に焦点を当てています。話としては本作の性格がいちばんよく出ている話だったんじゃないですかね。小国の政権争いをめぐっての諜報活動が描かれますが、出演キャラが満遍なく活躍しますし、人間ドラマも綺麗に描けていて悪役討伐もスカッと終わります。

3章は、しずかの出自に関わる過去の一連のヒューマンドラマ。東西ドイツ時代、東側の遺伝子研究医レオン・ハイルマンの人生が描かれます。具体的には、しずかの母親となる少女エレナとの出会いと、彼女の娘イリカとの生活、そして死を間近としたイリカを救うための彼女のクローンがしずかというかなり黒めな過去話ですね。ラスト、レオンとしずかの丘のシーンは感動せざるをえませんね。

ただ、この設定はメインヒロインの重要設定でしたので、後半戦に生かしてほしかった気もしますが……、ま、インパクトのある泣かせどころの章であっただけに印象に残っていますが、この章は幕間の過去話に過ぎないんですけどね。敢えて触れないのもそれもまた良しでしょう。

ちなみに、この章は唯一ライターが片岡さんではなく、木緒なちさんが担当しています。木緒さんは、この変化球的な片岡ともさんの設定群の狭間で一章分のシナリオを任された状況、やりにくかったと思うのですが、グッジョブと言わざるを得ないですね。スカーレット3章の功績は後々彼の代名詞のひとつとなるに違いありません。


そして最終章は、明人にふりかかるどうしようもない災難をベースに、それぞれの人間関係を交差させる巧みな展開。短かったかな、という気もしないでもないですが読み応えはありました。重水と原子炉の輸出を材料に国家発言権を上げようとする意図や、宇宙空間で外部の監視衛星と手ごまの監視衛星が重なるタイミングを見計らって脱出用ヘリを戦闘機B-2と海面の間に隠す方法など、発想がマニアックすぎます。

また、ラストシーンはめちゃくちゃ良かったですね。しずかとともに日常に戻った明人と、偶然出会った九郎との一瞬の交差。わからないふりを敢えてする九郎、美月とそれでも期待してしまう明人。それでも交わらない。しかし最後の最後に九郎が粋な計らいをしてくれる……。3章のダイナミックな感動も良かったですが、この渋くて切ないラストシーンは非常に染みるものがありました。



と、いうわけで全体的にテンポよく長すぎずまとまっていますね。ただ、2章のような諜報活動の話が3,4章の間にもうひとつあって多分ちょうどいい尺だったんじゃないかな。私見ですが。

さて、この物語のベースには、九郎たち諜報員としての非日常に憧れる明人、そして明人のような普通に憧れる九郎、しずか、といった実に単純な対比があります。この単純根幹があるからこそ、物語に動きがあっても彼らのスタンスや心理がブレず、しっかりしたシナリオが形成されます。

日常から非日常、そしてラストにまた日常へと戻る明人を主人公にすることで、僕ら日常ベースで生きている人間の共感を得る構図はいいですね。そう考えると主人公の明人があまり活躍しないのも、しずかが技術こそあれど諜報活動を行わないのも、最終的に二人を日常、現実へ戻す前提があるからなのでしょう。殺人や犯罪など抵抗なく行える引きもどせないところまでいってしまえば、やはり日常に戻る際に違和感が残りますから。

僕たち人間は、現実と非日常の境を認識して、誰しもが非日常にあこがれながら時には突っ走り、時には挫折して、気持ちに折り合いをつけることで大人になっていきます。非日常に入り込んだとしても途端にそこは自分にとっての日常となり、やはり折り合いをつけることに奔走することになる。言ってしまえば非日常なんてものは結局入り込むことのできないものなのかもしれませんね。そういう曖昧でビターな感覚をラストシーンは非常に象徴的に描けていると思います。


まあ、設定が非常に面白いのですが、正直無理ないか?ってシーンや、九郎に人間味がありすぎて高級諜報員としては難がある点、最高峰のはずの技術なども意外と簡単に突破できちゃうのね、って場面もあるにはあります。明人を見ていると、日常/非日常の線の「越えられない壁」感をあまり感じないのも確か。ですが、エンターテイメントとしてそれらしく見せることにも成功できていますし、問題ないでしょう。

名作です。


【グラフィック】
ねこねこソフト解散を決めたラスト作品だったのが理由かどうかはわかりませんが、一枚絵のバリエーションが多くて嬉しい限り。エロシーンが極端に少ないから全体数が少ないのかな? 数はそう多いわけではないんですけどね、日常のなにげないシーンや、通常必要ないだろうカットに至るまで一枚絵が用意されていますので多く感じます。そのCGもどれも綺麗ですね~。特にしずかのデザインはかなりGood!

余談ですが、初回版パッケージではしずかがアイスを食べている絵なんですが、これって、ラストシーンの明人の「土産にアイスを買っていこう」という独白へのオマージュですかね。実際しずかがアイス食べてるシーンなんて出てこなかったですからね。ん、ありましたっけ?

【キャラクター】
第二の主人公である高級諜報員、九郎のかっこよさが際立っています。言動、頭の切れ、そして人間味。さらに公式の場でも常にアロハシャツ笑。明人なんて霞んでいるもいいところで、1章以外は普通のサブキャラ扱いといっても過言ではないです。と、いうか別当スカーレット家ですね。父親八郎の飄々としたキャラクターも、しずかの健気さとデレ寄りのツンデレもとても魅力的でした。

個人的には、レベルの高い諜報員がもう何人か出てきてくれたら話に広がりが出たかなと思っていますが。フリーランサーのナセルと高級諜報員のマザランのみでしたので。

そして声優さんの力演が光ります。別当の現当主である八郎には数々の怪演が光る若本さん、ギャグ一切なしのシリアスモードで、彼独自の語り口を少し抑えた渋い演技がたまりません。そしてキャリアウーマン美月役が意外や意外、まきいづみさんなんですね。あの独特のロリボイスが強烈な印象にある彼女ですが、なかなかどうして、こういう声もあるんですね。そして僕が好きな声優さんで必ず挙げる2名、籐野らんさんがしずか役、夏野こおりさんがアメリア役というのもポイント高いですよ。


【音楽】
全体的にジャジーで大人っぽいBGMが多いですかね。個々の曲はいいのですが、細かい話をすると、音がちょっと電子音に寄り過ぎているため、曲が軽くなってしまっています。せっかくジャズテイストな曲ばかりを揃えたのですから、生音寄りの音作りにこだわってくれたら良かったですね。

エピローグに合わせて流れるED「Loose」は名曲でした。曲自体も良いのですが、ラストシーンがとても美しいので、相乗で良く聞こえます。


えー、以上Scarlettでした。埋もれがちな名作って感じですかね。評判の高さは前々から知っていましたが、プレイはしばらく経ってからでした。いい作品でしたよー。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム