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エロゲ レビュー ブログ
【ボクの彼女はガテン系】
ボクの彼女はガテン系

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メーカーelf
シナリオ■■■■■■■□ 7.5
グラフィック■■■■■■■■■■ 10
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■□ 6.5
NTR■■■■■■■■■■ 10
総合【B+】 78点

NTR極まれり

NTR(寝取られ)のかゆいところに手を届かせる作品だったと思います。それ即ち私の大好物です。やってくれますね、これだからエルフ信者はやめられません。

【シナリオ】
事前情報まったく無しで、エルフHPには「ボクの彼女はガテン系/彼女がした事僕がされた事/巨乳妻完全捕獲計画/ボクの妻がアイツに寝取られました。」と4タイトル表示のみ。わかっていたのは原画の一部が「下級生」シリーズの門井亜矢さんということくらいで、いったい短編オムニバス形式なのか一連の作品なのかそれすらもわからないままリリースに至りました。DMM独占のダウンロード販売のみというのも、販促を全く行わない方針(?)に貢献し、謎の作品としてユーザーをおおいに戸惑わせました。結果としては、主人公とヒロインの馴れ初めを描く純愛ストーリー、結婚後のNTR展開シナリオ、間男視点のシナリオ、主人公視点のシナリオと、すべてが一連のゲームにして、多角視点を持つ良質ゲーでした。

時間にしては10数時間程度の短いゲームなのですが、とにかくNTR満足度がハンパではないため、コスパは高いと言えましょう。

僕なりのNTR持論を語らせていただくと、NTRで一番大事なのは「感情移入」です。ヒロインとの関係や、キャラの感情が読み手側に大きく浸透しているからこそ、そのあとの落差ですね、ヒロインが堕ちてしまう状況に魅せられるのだと思うのです。単純なエロを求めるのではなく、純愛だったり壮大なシナリオだったりと、美少女ゲーとしての"格"を備えないと実はいいNTRシチュエーションは出来上がりません。ですが、その一方でNTRってのは、泣きゲーなんかと比べて人気のあるジャンルではありませんので、大きく工数を割いたところでメジャー作品として売れて回収ができるとは考えにくい。このギャップがNTRゲーの難しいところであり、また存在が貴重なところでもあります。ですから、本当は体力のある人気メーカーこそがこういったジャンルを攻めてもらいたいのですが、大手メーカーが敢えてNTRを攻めるというのは、成否のリスクやブランドイメージを考えるとやっぱり少し難しいんですね。

だからこそ、エルフがここまでのNTRゲーを完成させたことは歓喜なわけです。


本作は、最初に主人公視点で徐々に美咲と仲良くなっていく過程が丁寧に丁寧に描かれています。閉塞したジリ貧の生活の中で奇しくも建設現場の土方として働くことになってしまった主人公と、現場のチーフを務めていた美咲。彼がいかに多くの葛藤と共に心を開いていったかを、美咲がいかに主人公のことを大切にしているかを、出会いのシーンからしっかりと切なく紡いでいます。第一章とも言うべき「ボクの彼女はガテン系」パートの流れは普通の純愛ゲーといっても差し支えなく、短いながらもとても綺麗な作品としてまとまっています。そしてこれこそが苦しいながらも後半のNTR展開に実に活きてくるのですね。

第ニ章「彼女がした事僕がされた事」では、数年後の彼らの家庭生活を描きつつも、徐々に伏線を張り、最後に主人公がNTRに気づくところまでですね。場面場面で「あぁ、この時多分寝取られてるんだろうなぁ」というのも何となくわかるため、主人公が哀れになります。

第三章「巨乳妻完全捕獲計画」、最初の舞台である建設現場、そこの元請けである会田建設常務の会田視点のストーリーとなります。1章の純愛シナリオや途中途中でどこか美咲のおかしかった場面でのカラクリといいますか、裏で起こっていた寝取りの過程が描かれます。人の良さそうな顔をして人格的にネジが飛んでいる人間をとてもうまく描いていますね。こういう変人を描かせるとエルフは本当に光りますね。この章あたりからエロシーンも加速しだし、美咲の健気さに心は痛みっぱなしです。

そしてラストの第四章「ボクの妻がアイツに寝取られました」。これは第二章以降の展開を主人公視点に戻して進みます。TRUEルートでは、少し歪んでいながらも家族としての元鞘におさまることのできた彼らですが、目覚めてしまった性癖は維持するという、まぁ本人たちがそれで良いならば……といった独特の結末ですね。作風が作風ですから純愛な締め方というのも無いのかもしれませんが、エルフらしいというかなんというか。


しかしまさか会田の件が一応の落着をみせたあとにおでん屋の大将がNTRに絡んでくるとは思いませんでしたよ笑。気味の悪さもエルフらしさに満ちていて、ねっとりとしたNTRを最後にひとやま展開します。また、ラストに主人公と美咲のHがあるのですが、ここでの彼女が純愛パートでもあったガテン系時代の口調に戻るのが粋な演出でした。個人的には、美咲の主人公に対する想いが最後まで堕ちないところが非常に良かったです。僕は身も心も落ちてしまうNTRはもはやNTRではなく不倫、恋愛に昇華してしまっていると思うのですね。心は保っている反面、身が堕ちてしまうからこそ、本来のパートナーに対する葛藤や反省が重なり、NTRやエロシーンの言葉にリアリティ、背徳感が増すんです。

しかし最近のエルフは土天冥海さんに救われた感がありますね。土天冥海さんのテキストって凄く独特ですよね。一文一文短く語りかけるかのような文体で時として稚拙なところもありますし、主人公も実に頼りない。ですが、エルフの創る世界観とあいまって、徐々に一歩ずつおかしな方向に進んでいる雰囲気を作るのが非常にうまいです。

予想外の名作です。


【グラフィック】
まずは門井亜矢さんの描く美咲が最高ですよ。下級生シリーズで僕は並々ならぬ思い入れがまずありますし、私情差し引いても非常にかわいらしく魅力的な絵柄ですから、この絵が寝とられに喘ぐというのはもうたまらないですね。エルフのエロシーンでのアニメーションも随所に盛り込まれ場を盛り上げます。ゆずちちさんの描くサブヒロイン、ナオの絵もかわいいですね。

時折、エロシーンにおいて子宮の断面図に精子が注ぎ込まれるカットが差し込まれるのが賛否両論ではあるみたいですが、僕は別に嫌いではなく、グラフィックは総じて文句のない最高の出来と言えるかと思います。

【キャラクター】
グラフィック同様、美咲のキャラクターが随一ですね。ガテン系時代は気風のいい姉ちゃんキャラを、婚約後はよく気の利く良妻を、ヒロイン役が彼女に集約される分、時間軸と合わせて彼女の雰囲気やキャラクターもうまく変えていますが、どの美咲も実に魅力的です。

主人公に関しては特に言及する点はありません。土天冥海さんの描く主人公は共通してアクがなく弱々しいですが、それは今回も共通していますね。会田や大将といったエルフ特有の変人枠、ポーカーフェースの策士塩崎くんも狂っていましたし(この人、ナオの先輩を殺していたんですね)、少ない登場人物は皆エルフらしさに溢れていますね。ですが、最初にも言いましたが美咲がすべてとなりますね。

と、見せかけてヒロインがもう一名います。塩崎くんの奥さんであるナオ。NTRの別次元ステージに上ってしまっている塩崎君のおかげで可哀想な目に合っている彼女ですが、その分美咲に負けじと濃厚なエロシーンを展開します。元が大人しくて彼の後ろに控えるといったタイプのNTRとは遠いところにいそうなタイプなだけに、余計上がるものがあるのかもしれません。美咲と対比させる意味でもいいヒロインでした、

【音楽】
第一章では切なげなピアノのBGMが印象に残っていますね。全体的にはこれといったヒットチューンがあるわけでも力を入れているわけでもないですが、最近の土天冥海系作品は共通して音楽が息をひそめるイメージです。これはこれでありかなと。

以上、「ボクの彼女はガテン系/彼女がした事僕がされた事/巨乳妻完全捕獲計画/ボクの妻がアイツに寝取られました。」でした。タイトルが長いっ。


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テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【夏ノ雨】
夏ノ雨



メーカーCUBE
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■□ 7.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■□ 7.5
10代■■■■■■■■■ 9
総合【B+】 78点

王道の証明

とにもかくにもセオリーどおりの展開なんですね、本当に。舞台は夏の季節に田舎の学校、幼い頃に一度出会っていたヒロイン、その少女が家に転がり込んでくる展開、幼馴染のおっとりおねえちゃん、スポーツ少女の親友型ヒロイン、教師との禁断の恋……と、どれもどこかでよく聞く設定ばかり。宗介のサッカーや家庭といった、わかりやすく張られる伏線。良い意味でテキストにくせがなく、この設定の中で無理なく綺麗にまとまるストーリーが心地良いです。

【シナリオ】
夏真っ盛りの或る日、今日も授業をサボり、土手でのサッカー練習に明け暮れる宗介、いつもと変わらぬ生活、いつもと変わらぬ田舎の風景。そこへ見慣れない制服の少女が通りがかります。転校生とおぼしき雰囲気ながら、他人との接触を受け入れようとしない少女ですが、短い時間の中での宗介の行動により、わずかながらも心を開こうとしてくれます。親友の一志や翠に高らかに恋の予感を宣言する宗介ですが、帰宅してみるとまさにその少女が自宅に。これから異母姉弟として同居する旨を母から伝えられ、しかも彼女は改めて完全拒絶の姿勢を宗介に向けてしまいます……。


と、まぁ「エロゲあるある」要素を揃えたってなものです。特にマークしていたライターでも絵師でもメーカーでもありませんでしたので、本来であればもうこの手の直球恋愛モノはおなか一杯、とスルーしていたかもしれません。ですが、そういった今となっては当たり前すぎる設定を揃えた作品であるというのにかなりの高評価を得ていることが僕は気になっていました。気がつけばPC18禁ゲームの歴史も、もう20年にもなりますよね。本当にいろいろなエロゲが世に出てきました。この手の王道学園恋愛ものも90年代なかばくらいで打ち止め感が正直あったと思うんです。ですから、ここへきて無名にして超王道作品が高評価を得るというのは、逆に言うと、純粋に本当に良い作品である証拠なのかなと思いました。

ヒロインは4人と一見少なめですが、正直4人くらいがちょうどいいです。プレイ順にひとりひとり追ってみましょう。

まずは、クッキング部の顧問、美沙ちゃん先生。おっとりしつつも芯のある社会人の女性を丁寧に描けていたと思います。彼女は、正確に言うと姪ですが、育て子を抱えているというのが一番の楔の設定となります。凄く重なったのは、「瑠璃色の雪」の雪那さんですね。知っている人いるのでしょうか……フロッピー時代の傑作純愛ゲーです。先に母親との出会いがあり、のちに商店街で迷子になった娘と出会うという展開、仕事や生活に疲弊するヒロインや子守りを通して時間を重ねる中で母娘両輪で感情移入していき、彼女たちを支える決心をする主人公、と構図は近しいものがありますね。雪那ルートは小さな幸せを掴みにいく温かなルートだった記憶がありますが、本シナリオも娘を介在させることで、非常に優しさに溢れた雰囲気を保っていたと思います。良かったですね。

幼なじみのひな姉ルート。ひな姉は昔から宗介のことが好きで、一方で親友の一志が彼女のことを想っていますので、展開も予想できますし、実際その通りの展開となっていきますね。逆に宗介がひな姉のことを好きになる過程の書き込みがあっさりしすぎだとは思いますが、まあこの手の構図は、悪い言い方をすれば流れに乗りさえすれば外すことはそうありませんので、安心して読むことができましたかね。付き合いだしてからは平坦で予想の範疇を出ない無難なシナリオだったと思います。

メインヒロインの理香子ルート。シナリオとしての出来は一番いいと思います。父親の浮気離婚と母親の育児放棄という過去のトラウマからギリギリのバランスを保っている主人公の家族にとって、異母姉弟の理香子という存在は非常に難しい存在です。同時に、理香子にとってもその生い立ちは決して幸せなものではなく、主人公一家が微妙な存在であることは言わずもがなですね。彼女自身の不器用で意固地な面も手伝い最初はどうしようもない状態からスタートし、他ルートでもその難しさはよく描かれているのですが、その問題をじっくり解きほぐしていくルートですね。話の流れとしてはやはり王道ではあるのですが、丁寧さがよく伝わってきますね。初めて家族として本音を出し合い歩み寄りを見せるシーンや、宗介が理香子にプロポーズするシーンは本作最大の山場かな、とても良かったですね。

そして親友のルート、これが個人的にツボついてました。実はずっと大好きでした、というのではなく、気になるアイツが大好きに発展してしまいましたという、瑞々しさに溢れた展開が凄くいいですね。この、真の意味での友人発恋人行の設定って、実はありそうであまり見ない設定なんですよね。大半の友人ヒロインというのは、もともと主人公のことが大好きであるパターンが多いのです。一方で翠と主人公は、多少気にはなる程度の思いはあったかもしれませんが、本当に"親友"という色が濃い。ですから彼女は、最初から理香子との恋愛を嘘偽りない気持ちで応援してくれていますし、主人公の恋愛にともに泣いたり笑ったりしてくれます。だからこそ、翠本人と恋に落ちた時の破壊力というものは凄いんですね。友人としての関係が強すぎたため、恋人になってからの距離を測り合うふたりの様にはニヤニヤ間違いなしです。シナリオ自体も、友情とサッカーを軸にしたスポ根ものの超王道で、ライターさんのいい意味での実直さに強い好感が持てます。エンドロール前とラストの一枚絵が主人公、翠、一志のものであるというのもシナリオで何が重要だったかを示しているでしょう。個人的には一番好きなルートで、かなり余韻の残るルートでした。Goodです。

しかし、翠ルートを筆頭に、宗介、翠、一志の仲良し3人組の関係の作り方、話への絡ませ方の描写は実にいい感じですね。翠、ひな子ルートでは、必然的に一志が強く話に絡んできますし、他ヒロインルートでも頑張ってお節介を焼いてくれたり一緒に泣いてくれる翠の存在は大きいものがあります。友情にも厚めに焦点を当てるのは、青春ものとしての役割を如何なく発揮してるといえるでしょう。

苦言を呈すると、ひな姉や美沙ちゃんが他ルートだとなぜかほとんど出てこないことや、翠と初Hをするイベントの流れ、理香子ルートでの理香子が宗介から頑ななまでに離れようとする理由、ひな姉ルートでの依存症など、書き込みの薄い"投げ設定"な部分はあるものの、全体として概ね丁寧ですので十分な出来を保っています。ダイナミックな展開もなく、等身大なシナリオなのですが、王道をいくシナリオをじっくりと紡ぎ、はずすことのなかったバランス感覚を評価したくなるシナリオでしたね。


【グラフィック】
2人の絵師さんがヒロイン2名ずつ担当していますが、ともに標準以上のお仕事をしているかと思います。個人的には、翠とひな姉の絵……カントクさんですかね、人気絵師さんですが、やはり良かったですね。でも理香子、美沙ちゃんも十分な出来ですよ。

【キャラクター】
それなりに行動的ですがそれなりに思慮のまわらない主人公は、等身大の青々しさがあって好感が持てます。理香子、翠、一志といった主人公まわりの人間たちも「出来すぎない」それなりさがうまく描けていると思いました。全体的にメインキャラは弱くも懸命に生きるキャラたちばかりで皆好感が持てます。キャラ設定も実に王道的なんですけどね。

佐本二倫さん、安玖深音さんなど、特徴的ながらも人気・実力を併せ持つ声優さんが声まわりを固めます。その中でも注目したいのは美沙ちゃん役の澤田なつさん。美沙は、CVが表の世界で活躍している福圓美里さんだというのも密かに話題になりましたね。彼女の、息の切れ目といいますか、言葉の抜け方といいますか非常に特長的ですね。設定的には存在感の出しづらいキャラだと思うのですが、声優さんの力が光っていた印象です。

【音楽】
全体的に夏の青臭さを体現する穏やかなBGMが多く良かったと思います。これといって強烈に残るBGMがあるわけではないのですが、そつのない印象ですね。中でもよかったのは、温かな「遥かな空」、切ない回想シーンで使われた「守るべきもの」、泣き所の「繋がる両手」あたりですかね。

以上、夏ノ雨でした。王道はやはり「良い」から王道と呼ばれるのですね。当たり前のことを再確認したような気がします。エロゲビギナークラス推奨ゲーですね。


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【Star TRain】
Star TRain



メーカーmixed up
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■■ 8
キャラクター■■■■■■■□ 7.5
音楽■■■■■■■□ 7.5
青さ■■■■■■■■■□ 9.5
総合【B+】 78点

青春の痛みはかけがえなく

なんてことない作品でした。ごくごく普通のテーマを等身大のキャラが探す、それだけの話であるというのに、なぜこんなに胸が痛くなるんだろう。特筆すべきは、その「普通」をロマンチックに優しく描いたライターの丁寧さです。

【シナリオ】
かつて星降る夜に出会った主人公の司と年上の少女奈美。長年憧れを抱き追い続けてきた彼女に告白をした司は、晴れて奈美と恋人として歩みを進めることになります。ですが、彼女の気持ちが真の恋心ではないことに気づく司。彼女を想うあまり悩みに暮れる彼が、彼女の幸せを願い夏祭りの夜にとった行動は……。


いいですね。終わってから始まる恋。青春時代の切なさをギュッと詰めたかのような甘酸っぱいテーマがたまりません。誰もが幸せになれる恋愛なんてない、本当にそう思います。 誰かが思いを遂げようとすると必ず誰かが泣くことになる、これが恋愛のシビアなところであり、だからこそかけがえのないものでもあります。そういったテーマに正面からぶつかる本作、とても好感が持てます。

司と奈美が別れて1年後、過去の傷が癒えないまま再び夏を迎える場面から本編スタートとなりますが、1年位ウジウジと平気で引きずるのが思春期の恋愛です笑。

正直、文章のテンポはあまりよくないですね。文章の組み立てに慣れていないといいますか、日常的なシーンには必要性の感じられないシーンも多く、中での会話もだいぶ平坦なため、読むのが面倒になってくる場面がそれなりにあったように思えます。特に飛鳥、蓬ルートはもっとすっきりとまとめられたはずですね。

ですが登場人物、特に主人公の瑞々しさといいますか、等身大さはとても丁寧に描けており、「しっかりしろよ」と思う一方で「ああ、当時確かに俺もこんなふうに煮え切らなかったなあ」と、彼の恋愛における葛藤が非常になつかしく、微笑ましくも感じられました。自分にも思うところがあるからこそ応援したくなる主人公と言えます。男なら誰しも経験している恋愛の痛みを、男なら誰しも理解できうる弱く幼い主人公が葛藤する、ここが本作人気の肝だろうと思います。まあ、ヒロインと別れる都度、長期間に渡り欝寸前まで追い込まれるあたり繊細すぎるとも思わないでもないですが……。


各ヒロインを追いかけます。まずは幼馴染の遠日奏ルート、好きな気持ちが溢れているのに素直になれない幼馴染、主人公が超絶朴念仁ですので、彼女の頑張りを応援するルートでしょうか笑。司同様、等身大の女の子としての丁寧さを感じられるキャラとシナリオでした。

幼馴染が恋人同士になるって、実際にはそうそう無いことだと思うんです。どちらかがどちらかを好きなることも基本は無いと思います。ですから、幼馴染がすんなり恋人に、というギャルゲ的な流れではなく、そういった幼馴染としての距離の取り方の難しさや、司と奈美の過去があるがゆえに踏み込めなかった彼女の葛藤を主軸に据えたのが功を奏していたと思います。思い悩む彼女の心情描写が非常に丁寧で痛々しく、彼女はきっとライターさんにとても愛されていますね。トゥルールートのラストシーンでも司と彼女の「Start Line」として物語は閉じられますし、ライター七烏未奏さんの名前文字を取っているくらいですしね。


貧乏少女夢原飛鳥ルート、親の愛に飢えるヒロインの典型のようなルートでしたかね。幸せに対する絶対的な信念を持つ彼女、最後はその幸せを手にし、母親とも和解し、円満にまとまりました。母親の不器用な接し方や、現実の赤貧生活が、彼女の人生観、自己分析力をしっかりと形作っています。リアルなまでに歳相応の登場人物たちの中で、キャラの可愛らしさに反して唯一少し大人びているのが彼女でした。

優等生神崎蓬ルート、理想の追求がテーマとなっています。各々過去の恋愛を痛みとして抱えながら付き合う二人が、本当に向き合うまでの過程を描きます。これ、凄く青々しくて若さ溢れるテーマですね。そして司を諭すことでストーリーを動かすのが麻衣子でした。確たる思いに自信の持てない司に対して麻衣子が放つ「恋愛なんてそういうもんよ、なんだかんだ気になってんでしょ」という話の導き方は、理想恋愛論からは程遠いものではありますが、実に現実的且つ共感しうるもので、個人的には好感が持てます。

本作通しで言えるのですが、この白鳥麻衣子という友人キャラが、ギャグ、シリアス両面で神々しいまでに生きていて、時に司を強い力で導く関係は個人的に好きな構図でした。そして、飛鳥、蓬とくっついてしまうルートの奏が本当に可哀想なんですよねぇ……。奈美はおろか新参の他ヒロインに司を持って行かれるルートでまで、彼女の後悔描写を描かなくても……僕は胸が痛かったですよ。


そして3ルート消化後に登場する羽田七美ルート。突如司の前に現れる奈美によく似た謎の少女七美との短い生活、心の通わせ合い、そして七美の死、さらに幸せの考察と彼の再スタートが描かれるトゥルールートになります。非常に丁寧に丁寧に「幸せ」というテーマを追い求めますが、僕が「いいなぁ」と思ったのは、幸せの求め方が実に十代の少年少女らしさに満ちていたということです。

「幸せ」という難しいテーマ。20代くらいでなんとなく気づく、日々当たり前に起こっていることの愛しさや周囲の人間の大切さ、そして弱い自分と向きあい認めること……。17,8歳の気づくか気づかないかのギリギリのラインから、それらに気づいていくまでの成長を、哲学的に論理的に格好つけて読ませていくのではなく、とても青臭く手探りに、拙さに満ちた展開で見つけていくんです。ここがいい。

晃先生や高音さんといった大人から司に投げかけられる意見も、良い意味での「大人らしさ」に満ちた、曖昧でそれでいて正しい諭し方で、胸が梳く思いでしたね。

大好きだった奈美との辛い別れ、大好きになれた七美との死別。自分にふりかかったこの試練を受けて、対峙するのはあくまで司自身なんです。自分自身を乗り越えるために、周囲の友人たちの優しさを受けながら幸せのあり方を探ろうとするシナリオの丁寧さは評価です。そしてこれから大好きになるかもしれない奏とのエピローグを見せ、ユーザーに未来を託す閉じ方も非常に演出として良かったですね。


一方で疑問に思ったのは、幕間に入る銀河鉄道「Star Train」の描写の必要性は果たしてあったのか、それから、七美が奈美にそっくりな少女という伏線は是非活かしてほしかった、この二点ですね。ところどころで引き合いに出す宇宙や星空、「幸せ」を探し求めるテーマや、カムパネルラと七美を重ね合わせる設定など、「銀河鉄道の夜」のオマージュとなっているのは言うまでもありませんが、タイトルと設定に引きずられて、シナリオ内にその設定の必然性がイマイチ欠けていたように思えたのは残念なところ。さらに後者、七美と奈美の関係性。司は、奈美に似ていたからこそ七美に関わろうとしたのであって、最終的に二人は全く関係ない存在だったというのは設定的にあまりにも勿体無く、何かシナリオに絡ませてほしかったなぁ、と。

なんといいますか、本作、奈美の使い方が少しもったいないのですね。彼女はオープニングで司の心に傷を落とす役割を負っていて、扱いも一見メインヒロインの様相なのですが、役割は本当にそこまでなのです。以降はほとんど登場せず、登場しても既に新しい彼氏がいたり、司が吹っ切れていたりと、本編からは離れた位置にいる存在となってしまっています。ま、奈美の1年後に七美、そしてさらにその2年後に恐らく奏……と、ヒロインが移りゆく様は、「1ルート1ヒロイン」という美少女ゲーの王道から逸れた、現実に即した良展開だとも思っているんですけどね。


シナリオ担当は七烏未奏さん。上記したとおり文章自体は洗練されておらず拙い印象を受けます。しかしそのキャラに紡がせる言葉の数々はとてもリアルで切なく、ライターさんのこの作品にかける強い思い入れが感じられます。青春真っ只中の登場人物たちと同様、そのシナリオも荒削りながらも純度が高く、微笑ましさを覚える作品ですね。正直それほどよく出来た物語だとは思わないのですが、それでも評価したくなってしまうのは、何度も言いますが、青春の痛みと成長を丁寧に描き上げることに成功しているからです。

僕も、当時抱えていたどうしようもない胸の痛みを、心地良く懐かしい痛みとして思い出してしまいました。



【グラフィック】
原画担当は、やすゆきさん。シンプルめですが、幼すぎず、表情は可愛く、個人的にはとても好きな絵柄です。構図の引いた一枚絵や、立ち絵などアンバランスな部分があることも否めませんが、いい表情を切り取った素敵な一枚絵が非常に多くあります。

それから、話の合間に入る黒板の絵はちょっと必要なかったかな。


【キャラクター】
シナリオでも書きましたが、主人公をはじめとした登場人物の等身大さはとても丁寧に描けています。個人的に一番好きだったのは、幼馴染の遠日奏。気持ちを隠し切れない不器用なかわいさは異常。風音さんの司を探るような不安気な演技もずば抜けて光っていました。さすがだなぁ、と。これまでの風音さんの作品の中で一番かもしれません。

また、シナリオの楔になりきれませんでしたが、奈美も個人的に好きです。ギャルゲらしからぬとても現実的な女の子ですよね。それから、麻衣子、大樹、晃ちゃんといった脇役の活躍どころを豊富に用意している点も「わかって」いますね。


【音楽】
90年代良質J-POPのようなOP「Star TRain」がいいですね。EDも同様の雰囲気で良曲ですし、音楽はいいと思います。BGMも夏をイメージする爽やかなものが多いですね。さほど目立つものはありませんが、全体的にいい意味でおとなしく、作品に寄り添うように貢献しているBGMの数々です。


以上、Star TRainでした。いいタイトルですね。
「きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んでいこう。 by 銀河鉄道の夜」


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【大帝国】
大帝国



メーカーALICE SOFT
シナリオ■■■■■■■□ 7.5
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■■■■■□ 9.5
音楽■■■■■■■ 7
親切設計■■■■ 4
総合【B+】 77点

アリス信者涙目

発表から実に2年の時を経て、大悪司、大番長といったアリスソフトの看板シリーズである大シリーズの後継作品としてリリースされた本作。第二次世界大戦をモチーフにした宇宙戦争をベースに、魅力の詰まった登場人物たちがドンパチを繰り広げる史上最強SLGの期待を一身に受けてリリースされました。

ですが結論から言ってしまうと、大悪司はおろか大番長の壁も越えられなかった、実に惜しい作品だったと思います。

【シナリオ】
おおまかな流れは前2作と同様、自軍である日本軍が世界各国と戦い宇宙を制覇する、この目的に向かって邁進する陣地取りゲームです。シナリオフェイズ→戦術フェイズ→選択イベントフェイズ→他国フェイズ、という流れも大体共通していますかね。

ガメリカ、エイリス、ソビエトという3大国を軸に、進撃を開始する日本とドクツ、その他勢力として中帝国、イタリン、オフランス、さらに各国植民地としての様々な国家……第二次世界大戦の枠組みを利用した絶妙なバランス設定。日本は帝という少女を頂点に据える天皇制を敷いた弱小国家、主人公は日本の新任海軍長官です。

まずはなんといってもアリスソフトの肩の抜け具合の絶妙さですね。モテモテかつ豪胆な海軍長官がなんだかんだ敵国のキャラを取り込みながら日本を勝利に導いてしまう大雑把な展開、ファシズムもといファンシズムといったアイドル至上主義の国家、子供の思いつきで実行される極端な共産主義、独善的且つ米ソに操られる中国、などなど危ないネタも適度に取り込みながら、くすりとさせてくれる場面が盛り沢山です。また、史実に基づいて三国同盟や日ソ共同宣言、連合国などの展開があったのも実に胸熱でしたね。

上述の通り日本が宇宙を制覇するとEDなのですが、その過程は万別で、他国の攻め方や同盟を締結するかといった行動次第で、各国の顛末や仲間になるキャラが変化します。中でも、天才レーティアが一人で国政を背負いすぎ機能不全をおこすドクツ、フロンティアスピリッツ溢れるガメリカ提督のダグラスが財閥の権力と争う展開、貴族たちの政治腐敗により葛藤する女王セーラ、恩師の教えを穿った形で体現するカテーリンの共有主義……と主要人物たちの苦悩と絡めた各展開はとてもうまく描けていると思います。


ですが、正直言うと少しシナリオは弱かったかな。戦術パートがメインというのはこれまでの大シリーズ共通ではあるのですが、シナリオパートに割かれている力が薄いことに加え、山のようにあるイベントフェイズの中からは1ターンにつきひとつしか選択できません。それも、戦術パートの難易度が非常に高いため、キャラたちとのイベント消化をしている余裕がなく、いかに戦力増強できるかというイベントをどうしても選んでしまいがちですので、どうしてもシナリオが薄く見えてしまうのは否めませんでした。

後述しますが、エンディングもキャラに特化した誰々ENDというものがほとんどありませんので、これまでのシリーズに則ってヒロイン数名に個別に用意されている方がシナリオの厚みが出たように思えますね。ただ、各勢力の主力キャラをしっかり仲間にしたうえで展開される真ENDに関しては、人間たちの連合艦隊が大怪獣や別宇宙の天敵とラストバトルを繰り広げるという激熱展開で、凄く良かったですね。カテーリンの持つ人心を操る石や、柴神様という「神様」の存在などもただの設定乙ではなく実は伏線だったという使い方も見事でした。

また、展開により、人間を蹂躙してガメリカを滅ぼす機械人間集団COREというのが出現するのですが、彼らを主人公に据えた陵辱編大帝国を別途作ったのは発想としては素晴らしいですね。大悪司と違って、主人公勢力に鬼畜人間がいませんので、鬼畜要素を別ストーリーとして展開させたのは面白い試みだと思います。さらに言うと、人間だった頃のキングコアの回想シーンやラストの切ない締め方など、意外なまでにこのキングコア編のシナリオが良い。……のですが、本編シナリオにもっと力を入れたうえでこのキングコア編があれば素晴らしかったんだけどなぁ。



【グラフィック】
アリスのSLGは、飽きないゲーム性、洗練されたシステムまわりが秀逸ということが前提ですが、こと本作において評価できないのは、まっことこの部分でおます。実に惜しい。

本作戦闘パート、単純な火力勝負になってしまう点がもったいないですね。互いの攻撃は絶対にその数値分きっちり当たりますので、ガチンコで戦艦の攻撃数値積み上げの高い方がただ勝利する――、これではより多くの戦艦を配備できる指揮値の高い提督を優先的に登用し、ひたすら火力押しで倒すことがものを言うようになります。 これまでのシリーズと違って、キャラクターの色に依存しない指揮値次第な戦闘システムはガチすぎて淋しいですね。

さらに、前2作は、敵捕獲システムというものがあり、相手を瀕死状態に追い込んだうえで勝負に勝つと敵を捕獲できるというシステムが超秀逸でした。倒し切ってしまっては仲間にする機会を失ってしまうということですね。これにより、味方戦力も火力を調整したり、全滅まで追い込まない手加減攻撃を使えるキャラを重宝したりといった絶妙さがあったのですね。加えて、必殺技や攻撃回避といったランダム要素も非常に大きかったため、なんとか相手を戦闘不能寸前まで追い込み戦闘終了し、好きなキャラをゲットできたときは、文字通り声を出して喜んだものです。今回は戦闘に勝てば自動的に捕獲できてしまうので、そういうテンションの上がりがないんですよねー。


エリアが広いのに反して1ターン内でのキャラ移動がたった2マス限定、戦域に配備できるのが4提督までなので数押しがきかない、戦闘中に提督の配置換えがきかない、ダメージを食らうと回復するまでその提督を攻め込ませることが出来ないうえに回復が遅い、負けると強制ゲームオーバー……といったあまりにも不利な仕様が目白押しです。マゾゲーや詰将棋、パズル系ゲームが元々好きな人には良いかもしれませんが、僕をはじめ多くのユーザーは、あくまでライトに長く楽しくプレイしたい、キャラ同士の面白展開が見たい、という意識が前面にあるでしょうから、正直しんどい仕様でした。


凄くよく出来ているんですけどね、そうだなぁ……、らしくないほどに気が利いていない、そんなイメージですね。


ですが追記として、ユーザーの不満意見を吸い上げたかのようなシステム改善+自作キャラを登用できる神パッチが配布されています。こういうことさらりとやれるあたりは流石のアリスソフトですねえ。


【キャラクター】
各国実在の歴史人物をモチーフにした、濃さ満載の100名にも及ぶキャラクター陣、本当に素晴らしいです。こういった多彩なキャラ作りはアリスソフトの専売特許で感心してしまいますね。日本勢のメンツに加えて各国の代表レベルのキャラたちですね、ドクツのレーティア、エイリスのセーラ、ソビエトのカテーリン、ガメリカのダグラスなどは本当に事前情報のキャラの立ち方が凄かった。ガチで上がるOPムービーを見ていただければわかるかと思いますが、こんなに発売前わくわくしたエロゲはかつてあっただろうかというほどです。

ですが、本当に本当に残念ながらその良キャラクターたちを生かしきれていません。主要キャラたちに用意されたイベントは内容が希薄且つ、ひとつひとつが短く小出しになってくるので、いまひとつ感情移入がしきれません。

これはシナリオとシステム上の責任になります。とにかくキャラが多いというのもあるにはあるのですが、同様の大悪司や大番長と比べてなぜ本作だけこんな印象を抱くのか、これは実質のヒロインルートが本作には無いことが原因でしょう。彼女たちの重要度が、サブ女性キャラと比べてそうたいして変わらない。悪司や番長は、各々ヒロインとの話を中心としたルートが明確に立てられているうえで、更にいろんなキャラとの小イベントがあり、重厚さを感じることができました。本作は、ヒロイン格含めて小イベントだらけなのですね、ここだと思います。

主人公東郷長官について。悪司は清濁併せ呑む豪傑、狼牙は熱血好青年、そして本作主人公の東郷長官は、飄々としたカリスマ、といった赴きでしょうか。男やもめで娘がいるという設定も相まって、個人的にはかなり好きな部類の主人公です。

予想以上にいい奴でキャラ立ちしていたのは参謀の秋山と研究所所長の平賀津波。全体的に日本帝国のキャラが凄く良かったですね。帝ちゃんは超絶かわいかったですし、東郷を敵対視している山下利古里陸軍長官、ギャグ要員でしかない宇垣さくら外務長官、一度も出番がないという斬新な笑いをもたらす猫平内務長官、といった長官たちに、BL好き、ヤンキー、人妻、好々爺と、主要提督たちのキャラ旺盛さも◯。

各国の提督も皆キャラがよく立っており、印象に残らない提督を作らないそのキャラ作りの巧みさはアリスソフトだからこそだと思っています。


【音楽】
主題歌の「The Day Take Off」が頭ひとつもふたつも抜けていまして、ラストバトルで流れる本曲も激熱でしたね。ただ、他に決定的な曲がありませんため、どうしてもこの曲しか印象に残っていない部分が難でしょうか。



以上、大帝国でした。実に、惜しい……!

ま、とはいっても「気づけば朝」「いつのまにか何十時間プレイ」のような中毒性は確かにあったんですけどね。


関連レビュー: 大悪司


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【グリーングリーン】
グリーングリーン



メーカーGROOVER
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■■■□ 7.5
音楽■■■■■■■□ 7.5
ギャップ■■■■■■■■■ 9
総合【B+】 76点

晴れのち爆烈雷雨

2001年発売、GROOVERからの人気ラブコメシリーズ、通称「グリグリ」の第一作ですね。一応言っておくと、GROOVERは、「キラ☆キラ」のOVERDRIVEの前身となる会社ですね。キャラクターもシナリオもテンポも非常に軽快で、このシリーズならではのノリを持っています。

【シナリオ】
最寄り駅まで3時間、山奥に隔離されているといっても過言ではない全寮制の男子校「鐘ノ音学園」。多感な時期に山奥に押しやられている彼らですが、翌年の共学化に向けて試験的に1ヶ月の間女子生徒が編入してくることにより、その抑えがたき衝動が爆発します。夏休みまでの青春まっただ中の1ヶ月で彼らは彼女たちと仲良くなることが出来るのでしょうか。


と、普通この手のゲームは「主人公対ヒロイン勢」といった構図になるものですが、グリグリは「主人公勢対ヒロイン勢」という、「多対多」の構図にこだわるんですね。あ、いやもちろん他男キャラとヒロインがくっつくって意味じゃないですよ。

青春ものとして、この設定はひとつの正解の選択ですね。一番異性のことを学ぶべき時期に山奥の全寮制男子校に押し込まれた獣じみた野郎どもが、女の子たちと触れることで淡い恋愛を学んでいくのがとても微笑ましいです。各ヒロインとの恋愛の過程でも、必ず友人たちの行動や助言により主人公が動く決意をするところが特徴的です。

この主人公の友人として登場する、バッチグー、一番星、天神の思春期丸出しの三馬鹿。こいつらが日常パートで物語にグイグイ絡んできますのでそれを良しとするかどうかで作品の印象は変わりそうですね。

各シナリオそう長くはないながらも、ドタバタ劇の合間合間にしっかりヒロインたちと主人公が互いを意識しだすきっかけとなるような事件や行為がいいタイミングで挟まれて、無理なく期間内で気持ちが落ち合っていく過程が描けていると思います。このあたりのバランス感もグリグリファンの心をつかむところでもあるのでしょう。



さて、男性陣側が救いようのない馬鹿ばかり(笑)ということもありコメディを地でいくシナリオですが、ヒロインが抱える各々の考え方や負の事情がこの作品をただのコメディ作品では終わらせないスパイスとなります。どのヒロインルートも、エンディングが「ヒロインによる別れ」にちなんだものであり、ひと夏の恋といいますか、全ルートどこか切なさを残す閉じ方をするところがこの作品の魅力なんでしょうね。これだけアップテンポな作風でありながら、あぁこれはこの後ストレートに結ばれるんだな、というエピローグを持つヒロインが5人中たった1人しかいない、というのも特徴的です。

その上記唯一である同級生の双葉ルートと、それから校医の千種先生ルートはかなりあっさりしていて王道な展開をなぞるルートですので、訴えかけてくるものも正直そう強くは無かったかな。双葉は、クールにツンケンしていて素直になれないキャラクター造形のバランス感がとても好印象で、シナリオは互いの思いがすれ違う定番ストーリーですね。千種先生ルートはゲリラ的に恋愛推奨する放送を流す「グリーングリーン」の正体が彼女という設定をイマイチ生かし切れずさっくり終わった印象です。読めますしね。まあ、大人と学生の恋愛、という図式に則ったやはり王道展開です。


僕は千種先生、双葉、と先にルート消化したので、「グリグリは評判いいけどまぁひと世代前の作品だしこんなもんでしょ実際」と思ったものですが、そのあとに控えていた、正体が植物の式神である若葉ルート、想い人祐介に未来から会いに来たみどりルート、病による死を目前にして最後の学生生活のために編入してくる早苗ルートは、確かに切なさと重さを併せもつ、グリグリを印象的な作品たらしめるシナリオ群でした。

この3ルートに関しては、彼女たちがそのまま結ばれるような存在ではなく、ハッピーエンドにつながらないという意味で非常に切ない。若葉はそもそも人間ではありませんし、早苗は死んでしまいます。まぁみどりはまた未来での数年の時を経てみたび主人公に会いに来るところでENDですのでハッピーエンドに繋がる余地はあるのかもしれませんが、少なくとも彼女の気の長い思いと努力がすぐには報われない切なさがあります。全体的なボリュームはそうありませんが、 その儚さに彩られた展開、どうしようもない現実に思い悩み努力する主人公、とシナリオの出来は非常に良いです。


特に早苗ルートに関しては図抜けていますので、最後にプレイしないと非常にまずいことになりますよ。病弱でいつもおとなしくしている彼女、中盤あたりから日常シーンを通して彼女の可愛さをグイグイ高めつつ、後半は死を見据えた悲劇の展開ですからね。

死にゆく彼女を背負い星を観に行くシーンは涙なしには語れない屈指の名シーンですね……。セピア色の回想シーン、紡げない言葉の数々、崩れ落ちる腕のアニメーションなど、演出も随一。星は見れないわ死んでしまうわで早苗ルートのENDはあまりにも救われないためファンの間でも賛否両論で、「美しく綺麗に見せたバッドエンド」といって良いかと。

また、エピローグで祐介のもとに死の直前に打った予約メールが届くというのも切なすぎます。その内容も、祐介との出会いに感謝し、想いを告げ、未来に希望を託す内容。当時のPHSですのでそれがカタカナってのがまた雰囲気出ているんですよね。


ソレデハ マタ アエルト イイネ

とか、ホント勘弁してくださいよ……。



うぅぅ。
これ、祐介は絶対前に進めませんよね……。



次いで若葉ルート、上記した通り彼女は人間ではなく、双葉の契約のもと作られたサボテンの式神です。そんな彼女が祐介を意識しだしていく過程は非常に可愛らしかったですが、最終的に瀕死の祐介を救うために己の精を犠牲にして植物に戻り枯れてしまう展開はやはり切ないものがありました。

みどりルートも時を経た純愛というテーマが好印象です。幼い頃この時代で触れ合った祐介への思いを胸に10年の時を経て未来から再会しに来るという彼女の思いの強さを描くシナリオでした。祐介の部屋にある日転がり込んでくる過去の幼少時のみどりと、祐介、そして現在のみどりが同居しながら物語が進むのがちょっと変わった設定ですよね。

とても切ないこの3ルート、安易な奇跡を描かなかったのは読み手としては苦しくもありますが、シナリオとしてはとても良かった選択でもあると思っています。

ただ、そうは言っても、ですね。早苗に関しては、安易な奇跡でも何でもいいので、シナリオが安っぽくなってしまってもそれでもいいので、とにかく、本当に、救われてほしかった。そう思います。


……それにしても一体どこが「学園ラブコメの決定版」なのでしょう笑。どのルートも憂い要素が印象にあり、むしろ早苗ルートはド級の鬱展開が用意されているものですから、超コメディ路線の日常描写と各ルートのエンディング付近の苦味との落差は一体何なのでしょう。音楽やノリのポップさからすると双葉ルートが一番グリーングリーンっぽいんですけどね。なんとも不思議な作品です。

全体的にはフットワーク重視で、テキスト量など厚みもそこまで無いのですが、こういったギャップの展開と、早苗ルートのラスト近辺が秀逸でしたので、おまけの8点です。



【グラフィック】
原画担当は片倉真二さん。躍動感のあるセルアニメ調の原画スタイルで、一目見て片倉さんだとわかる絵柄です。ただ、今となっては非常に魅力的な構図絵を描く方ですが、まだこのころは画力が全く安定していませんね。パッケージをはじめとした女の子の表情をメインで描く絵は良いのですが、シナリオと連動して多くのキャラを登場させる「バランス勝負」となる一枚絵が多いため、発展途上さが目立ってしまっています。


【キャラクター】
主人公高崎祐介は全般的には可もなく不可もなくの鈍感タイプですが、ここぞというヒロインとの山場では男を見せます。そして、友人である3バカが主人公のまわりでいい味を出していることに加え、彼らの手綱役が主人公という構図がありますので、良い主人公像の印象がありますね。双葉ルートの彼はちょっとあまりにも独りよがりすぎてイマイチですが、若葉ルートと早苗ルートはかなり男らしかった。シナリオに連動して男の株が上げ下げされていた印象です。

悪友3人の中では一番星が好きだったかな。キザで阿呆な立ち回りをする彼ですが、3人の中では最も理性を効かせられるタイプで、主人公の状況を一番察して助言をくれる役回りでした。ルームメイトの天神は、一日の朝と晩に披露される小みどりを交えた謎の漫才が面白かったですね。直情型ゆえの熱さも良かったです。そして4人のリーダーにして一番の変態株であるバッチグーは、何をしてもオチ役にされるおいしいキャラでした。特に、不細工な女生徒と恋に落ちてしまう過程はかわいそうとすら思えましたが、彼女の魅力に向きあう決意をするシーンはそれはそれで熱く、困ったもんです笑。ただまぁ一番星、天神はいいんですが、バッチグーはキモさというかヤバさの方が前面に出てしまっていてちっと敬遠してしまう感じではありました。他、クラスメイトの毒ガスや総長など奇人変人に彩られた独特のノリは作品ならではですね。


ヒロイン勢では、個人的には圧倒的に双葉が好きです。素直に気持ちを表現できない、かなり質の高いツンデレ。ですが、シナリオと連動してしまうと、早苗、若葉あたりにどうしても感情移入してしまいますね。見た目は千種先生なんだけどな。

早苗は他ヒロインルートだと埋もれてしまってパッとしないのですが、彼女のルート上ですとその健気さが非常に染み入る良ヒロインです。それだけに報われないシナリオは切ないですね涙。若葉はなんといっても、人間として恋愛する心を得ていく彼女がとても丁寧に描かれていたのが良かった。最初の印象は最も低いながらもルートを通してグイグイ可愛さをあげていくヒロインです。みどりは痛いところもありますが、小みどりとの絡みも含めてキャラが掘り下げられているのが好印象ですね。


【音楽】
このブランドの特長ですが、音楽に力をいれています。OP「グリーン・グリーン」はタイトルを冠しているようにドタバタラブコメを彷彿とさせるアップテンポな良曲。EDはなんと各ヒロインごとに個別曲があります。メロディ、アレンジ的には早苗テーマの「星空」が抜けていますね。全体的に元気な曲ばかりな中、彼女にあてられた曲がバラードというのが切ないですね。

BGMは、盛り上がりでかかる「OVER DRIVE」は青春爆走といった趣き。それから何気にピアノの良曲が多いのが印象的で、涙を誘う場面に染み入る「ありがとう、そしてさようなら」、悲しげな入りを持つ「サンセット・サンライズ」あたりが特に良かったですかね。



てなわけでグリグリです。
システム的にも絵的にもシナリオ量的にも、まぁ古い作品ではありますけどね。ですがファンを惹きつけていまだ名作とされるだけのパワーが確かにこの作品にはあります。

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