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ランスクエスト・マグナム
ランスクエスト・マグナム



メーカーALICE SOFT
シナリオ■■■■■■■■□ 8.5
グラフィック■■■■■■■■■ 9
キャラクター■■■■■■■■□ 8.5
音楽■■■■■■■■ 8
合作必要性■■■■■■■■■■ 10
総合【A+】 85点

両輪でランクエ無双

2011年に発売されたランスシリーズ第8弾「ランスクエスト」の追加購入版となりますね。本レビューは、「ランスクエスト」レビューの読了を前提としていますので、もし未読の方は是非ぜひどうぞ。

関連レビュー: ランスクエスト

最初に言いますと、ランスクエスト購入者であれば、この「マグナム」の追加購入は絶対必須です。「ランスクエスト」レビューを寄稿済みだったので「マグナム」は別ゲームとして分けて書きましたが、もしこれをまとまった一本のゲームとしての評価をするならば、Sランクはつけたいところです。

「ランスクエスト」でユーザーから集められたシステム上の不満点や難易度を、ぐっとユーザーフレンドリーな状態にまで改善させ、さらに追加シナリオとして、クルックーをメインに添えた「AL教編」がまるまる1ストーリー分展開するイメージですね。最初からこれを出していれば、という声もありますし、追加徴収している点に対する非難があるのもよくわかりますが、結果的な完成度としては、大悪司、ゼス崩壊や戦国ランスといった、最成熟期アリスソフトを彷彿とさせるレベルだったと思います。

【シナリオ】
本来の多数クエストに加えて、新規のクエスト、日常での小イベントやHシーンなんかも色々と追加されていますね。大きなクエストは当然として、日常での各ヒロインとの細かいイベントがたくさん加えられたのはいいですね。全体の規模の拡がりを実感できます。

さて、上記しましたが、本編では次作以降への伏線提示程度に過ぎなかったAL教次期法王候補「クルックー・モフス」というキャラ、それにまつわるAL教を描いたストーリーをすべて展開し切っています。本編における「カラー編」関連のクエスト数に匹敵するボリュームを以て展開し、その内容もカラー編以上に壮大に展開していました。AL教は世界最大の宗教組織ですから、影響力という点ではリーザスやゼスといった国家レベルの規模を持っていますので、それも当然かと思います。

本編では、クルックーをはじめとした次期法王候補者たちが、法王就任の最終審査のために世界の均衡を崩しかねない「バランスブレイカー」集めに奔走していて、クルックーはその目的のためだけに冒険者ランス一行に入り込んでいる、という程度までが描かれていました。「マグナム」ではそのすべての顛末が決着し、最終的にはクルックーが法王に就任し、ランスとのいい雰囲気のイベントなんかもありますので、ランスシリーズ的には、世界の各勢力の姫を手篭めにするというハードルもしっかり踏襲しており、正史マストな展開といえます。

世の真理は案外残酷なもので、AL教法王には、神を飽きさせないために程よく殺戮と混乱を招かなければならないという裏の責務があります。その世界設定に絶望した以前の法王が、世界に反逆を起こすというのは物語として勧善懲悪に寄りすぎず、且つ流れのうねりも大きく、とても良い設定です。カラー編は、ヘルマン編への「繋ぎ」といった雰囲気で比較的小さく完結しましたが、今回はランス一行やクルックーが結果的に世界を救う大きな展開であり、「やっぱランスシリーズはこうでなくちゃ!」と改めて感じました。

なんとなく伝わってくる雰囲気から、本編とは違う方がシナリオを担当されていたように思えます。正直今回追加分の方がシナリオの出来がいいですね。アリスソフトも旧作基幹スタッフが次々と去っていく中、どうも名作に恵まれない状態が続いていましたが、本作シナリオは十分な合格点、さてさて、リーザス、ゼス、JAPAN、コパ帝国、カラー、AL教と大勢力を従え、次のヘルマン編が俄然楽しみですね。

因みに、追加シナリオで一番面白かったのは、ホモ戯骸とランスがヤッてしまうクエストですかね笑


【グラフィック】
上記したとおり、システムの改善点が凄いですね。「ランスクエスト」でこうだったらいいのにとユーザーから寄せられていたものは大体反映されていますし、難易度の付け方もだいぶ自由度が高くなっています。

電機業界での余談ですが、初期ロットからメーカー主導で完成度の高い製品を発売する国内メーカーと違い、現在優勢状態にある米国や韓国の勝ち組メーカーは、初期出荷に関しては完成を待たずして販売開始し、実際のユーザーの声を取り入れながら製品をブラッシュアップさせていく、という話を思い出しました。最初には色々言われるんですけど、結果的には勝っているんですよね。アリスの大盤振る舞いなパッチ配布や、今回のような販売展開には、少し似た様な視点を感じました。

原画やキャラ立ち絵に関しても大幅に増えています。織音さんの原画は素晴らしいですね。


【キャラクター・音楽】
本編では、サチコやアルカネーゼを筆頭に新規のキャラが多数登場しましたが、エンディングの後日談を読んでいる限り、実はパステルやリセットといったカラー陣営を除くほとんどは本編限りのキャラなのではという懸念がありました。

その中で唯一次作以降でのキーマンになりえたクルックー・モフス、マグナムのメインヒロインと言ってしまって良いでしょう。本編では、自身の目的のためだけにランスに近づいているという、そのいまひとつ共感を得にくかったキャラクター性も、今回様々なエピソードを通じての成長や彼女の置かれている過酷な背景が深く描かれ、かなり魅力的に昇華されています。ランスに対して女の子としての感情を芽生えさせるそのさらに前段階……のようなエピソードもありましたし、今後が楽しみなキャラになりましたね。一気に人気が出たんじゃないかな。

音楽は基本的に本編のものに則りますので、特に付すことはありませんが、追加BGMとりわけアム戦BGMはめちゃくちゃかっこいいですね。上がるゲームBGMにはさすがのアリスソフトSHADE氏です。


以上、ランスクエスト・マグナムです。
最初にも書きましたが、マグナムまで込みであれば、シリーズファン必須の作品ですね。最近不調のアリスソフト、ランスがこけたら悲しいと思ってましたが、結果的には良かったですね。


関連レビュー: ランスクエスト

テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

フォセット ~Cafe au Le Ciel Bleu~
フォセット ~Cafe au Le Ciel Bleu~



メーカー戯画
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■■□ 8.5
キャラクター■■■■■■■■□ 8.5
音楽■■■■■■■■□ 8.5
丸戸底力■■■■■■■■■■ 10
総合【A+】 89点

ずっと居続けたい世界

ファン歓喜、極上の一品と言わざるを得ませんね。「エロゲの教則本」ともいえるエロゲとしての理想形「パルフェ」、その前身であるライター出世作「ショコラ」、僕の中で「学園青春ゲーの聖典」というレベルまで達している「この青空に約束を――」のファンディスクになります。

【シナリオ】
シナリオは「パルフェ」「この青空に約束を――」を舞台にした、複数ライターの手によるオムニバス形式になっています。各ヒロインとの後日談がほとんどで、大体はシリアスなものよりはファンディスクの性格を生かしたドタバタものが多いですね。全体的には「ごく平凡」なシナリオばかりで、圧倒的な完成度を誇る2作品とその中で生き生きと動くキャラクターたちが前提にある以上、各ライターさん、楽しかったであろう反面やりにくい仕事だったんだろうな~と同情します。

その中でも群を抜いて素晴らしいのはやはりオリジナルライター丸戸史明御大が書き下ろした、パルフェ里伽子ルート後日談の「里伽子抄」、そしてこんにゃく卒業式間近の一日を描いた「この冬空に歌声を――」でしょう。

こういった本編の隙間に挟むような後日談や追加シナリオというのは、要は「後付け」になりますので、実は結構つくりやすいものなのです。設定と本筋がすでにありますので、その中で自分のやりやすいところにリーチするように物語を繋いでいけばいいのですね。同人小説などで二次創作がウケるのもその辺のやりやすさがひとつの理由です。そして後付けであることを最大限に生かして、ともすれば本編以上の泣きをもたらしてくれたのがこの2作品です。

特に、「里伽子抄」におけるビデオレターシーン、「この冬空に~」における屋上演説、エア雪合戦シーンなんかは、涙なしには読めません。この文字を打ちながら思い出して鳥肌が立っているくらいです笑。

本編里伽子ルートは、ふたりが結ばれてからエピローグまでの数年間は描かれておらず、数年後に幸せを掴んだシーンが描かれ幕を閉じます。ですがその間に、腕が動かないことで、確実にあったであろう里伽子の葛藤や仁との衝突を描いたのが「里伽子抄」です。そしてその状況を打開するのは、やはり喫茶「ファミーユ」の仲間の力なんですね。「パルフェ」の良いところは、仁と喫茶「ファミーユ」従業員面々との関係の厚さを丁寧に描いていたところでした。彼は、自身の能力の高さを見せつつも、話の山場で必ず仲間の力を借りて、「ファミーユ」即ち「家族」としての温かみをヒロインに与えるんですね。それは本編でもこの「里伽子抄」でも共通していましたね。


そして、「この冬空に歌声を――」、これは本当に恐ろしいシナリオでした……。こんにゃく大団円であった卒寮式シナリオ「約束の日」の"数日前"という恐ろしい設定。それを聞いただけでも涙腺という名の堤防が決壊されるのが約束されています。僕は、物語導入で既に泣きそうになりましたからね。

前述したように、「後付け」であることをふんだんに生かした内容で、同級生である航の祖父と校長との互いを憎からずも認め合う会話、星野家と羽山家の和解回想で描いた海己の成長、そしてそこから繋がる本シナリオ最大の泣きシーンである、航が南栄生の代表として海己の父親にぶつける屋上の大演説シーン、さらにラストには各自が卒寮式のための歌を練習している風景……といった本編を踏まえた上で「これを描けば泣くだろう」というシーンを連続させ、山場では「季節外れ/土地外れの雪」をベースにしてつぐみ寮の絆の強さを描き切るという非常に"ニクい"ストーリーでした。

特に、航の屋上演説のシーンに関して言うと、丸戸史明というライターに対して戦慄を覚えるレベルの出来で、航が静かに吹っ切れつつもそこから激熱の演説シーンへとつながっていく緩急のもたせ方が本当に凄まじいです。海己ルートを見てきたユーザーからすると、このシーンは反則の泣きシーンですよね。いやホント、あくまで「普通」の世界観を描いているというのに、こんなにドラマチックでロマンチックに場面を紡げる筆力というのは並大抵ではないですよ……。

本シナリオは、どのヒロインと結ばれていたとしても整合性が取れるようになっていますが、逆に言うとどのヒロインを選んでいたとしても、ここで航が救われるのだと思うと、非常に胸が梳く思いですね。


もうひとつ丸戸さんが書いているのは、カトレアとの結婚式シナリオですが、これまた彼女のキャラを生かしきったテキストに、里伽子からの祝電が届くという予想外のホロリシーンも混ぜた良シナリオです。


他ライターさんのシナリオは、本編を継承するレベルのものにはどれも達していないというのが正直な感想ですが、唯一、同じレベルに並んでいたのが、木緒なちさんが描いた凛奈後日談ルート「わたしのかけら」でしょう。と、いってもこれは実質、航と凛奈がくっつくことで恋に破れることになった「茜シナリオ」になります。

本編では、航の「逢わせ石」の本当の相手が茜であることは最後まで伏せられ続けていて、ここに彼女の健気さが込められているため、それがバレてしまうという設定前提は賛否両論のようですね。しかし、それはさておき僕は、あまりにも切なすぎる青春の痛みをこれでもかというレベルでえぐってくるこのストーリーを圧倒的に支持しています。問い詰める航に対し、「逢わせ石」を海に投げ捨て、凛奈のために自分はあくまで黒子に徹し続けようとする茜の優しさにはこれまた涙が止まりませんでした。またここのBGMが「約束のブーケ」なんですよ。可哀想すぎるでしょう。 

僕はこのシナリオがあったから、木緒なち&ねこにゃん「さかあがりハリケーン」をプレイしたといっても過言ではないです。それくらい好きなシナリオです。


いやはや、シナリオのこのボリューム感、「ファンディスク」という名にふさわしい大満足版ですねコレは。


【グラフィック】
さえちゃんの一枚絵など、何枚か差し替えられているグラフィックもありますね。

最もパンチのある新規絵は、「この冬空に歌声を――」内における山場の、エア雪合戦シーンの一枚絵ですかね~。実際の枯れた風景と、雪が降り積もっている想像の絵が切り替わる瞬間は鳥肌モノでしたね。

他、ミニゲームや着せ替えといったファンディスクならではの機能も入っています。ミニゲームは難しすぎる笑。個人的に良かったのは、ショコラ、パルフェ、こんにゃくのメモリーメニューですかね。全4作インストールされていれば、フォセットから全場面を呼び出すことができます。ファンにとっては嬉しい機能かと。


【キャラクター】
この部分も間違いのないところです。またファミーユやつぐみ寮の面々の温かいドタバタ劇が見れるというのは嬉しい限りですね。ただ、ショコラの翠好きの僕としては彼女にも、といいますかショコラ勢にももう少し焦点を当ててほしかったですね。


【音楽】
本編でも優秀だった、温かみのあるBGMがまた心に染みて泣きを助長するんですよね。たまらないです。

新規で作られた音楽も何曲かあるのですが、その中でもエア雪合戦シーンで流れるゆったりとしながらも雄大なストリングスBGMは、彼らの青春の幕閉じにふさわしい雰囲気で、秀逸な出来だったと思います。新規のOP曲は歌声がキンキン響いてちょっと難ありですが……。


以上、「フォセット」です。
冒頭にも述べましたとおり、ファン歓喜の一作ですね。二作品に感銘を受けた人であれば、この作品は絶対マストです!


関連レビュー: ショコラ ~maid cafe "curio"~
関連レビュー: パルフェ ~ショコラ second brew~
関連レビュー: この青空に約束を―


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【俺たちに翼はない】
俺たちに翼はない



メーカーNavel
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■■■■ 8
キャラクター■■■■■■■■■□ 9.5
音楽■■■■■■■■■□ 9.5
テキスト■■■■■■■■■■ 10
総合【A+】 89点

テキストモンスター

未完の名作と呼ばれた「それは舞い散る桜のように」は、良くも悪くも王雀孫、西又葵の名をエロゲ界に轟かせました。それから数年の時を経て、企画からは実に6年、延期に次ぐ延期で前作同様不安いっぱいな事前展開をみせ「幻の作品」とまで言われた本作、マスターアップされた瞬間のユーザー期待は、それはそれは高かったことでしょう。

【シナリオ】
シナリオは王雀孫さん、非常に色のある文章を書く人です。主人公と周囲のキャラの距離感が絶妙なため、大勢の登場人物がいて、キャラクター性がバラバラ、且つヒロインの顔が同じ(笑)という本作ながらも、そのバランス感や言葉のテンポは見事であると思いました。シナリオ、というよりも「テキスト」が秀逸という印象でしたね。このテキストの巧みさを、シナリオの妙ととるかキャラ造形の妙ととるかはなんとも言えませんが……。

季節は真冬、舞台は都市柳木原。緩やかな学園生活を送る鷹志、喫茶店アレキンダーの常連であるフリーライター鷲介、夜の柳木原で何でも屋を営む隼人、町のどこかに今日も集う若者たちのありふれた恋物語が今描かれます。……と、話自体には明確な目的や進行があるわけではなく、多重人格の主人公まわりに集まった人物たちとの生活群像劇となります。群像劇スタイルの話ってそうそう見ないです。明確な目的が無い分間延びしてしまう恐れが非常に大きく、本当に難しいんですね。

そして、実は王雀孫さんのテキストは、存外に教訓めいた説教系テキストでもあるのですが、それを全く鬱陶しく思わせないほどに文体が巧みです。人格障害を抱える者や、社会の隙間で逞しく生きる者たちが語る台詞は苦々しくも実に真理を突いており、それを各キャラの明るい語り口で見事に覆い隠している様は素晴らしいと思います。

主人公視点であることを逆手に取り、各章の主人公が当初別人であると思わせる構成がまた良かったです。それぞれの主人公まわりの話を展開させ、各章のサブキャラも微妙にリンクさせていくことで、徐々に主人公が多重人格だという結論に迫っていきます。この設定は凄く面白い。ですが、これは一方で設定倒れして破綻をきたす可能性も非常に高い。そこを書ききった本作からは、やはり彼の文章力の高さと、話題の引き出しの多さを垣間見ることができるわけですね。


上記したように、各章にて主人公の人格が変わりますが、僕個人としては、飄々として軽快な鷲介と、硬派でありながらもどこか三枚目的に描かれる隼人の語り口はかなり好みでした。全方位的な会話応酬と周囲のキャラとの絡ませ方が、テンポよく展開されていて読んでいて気持ち良かったのですが、逆に内向的で優しい鷹志や人格的に飛んでいる伽楼羅の語り口などは肌に合わず、かなり頑張って読むことになりました。そこが難といえば難なのですが、すべてが同一人物の言葉なのだと考えると、その煩わしささえも脱帽のテキストですね。

多重人格が確実なものになってからは、後半の物語をどう収束させていくかが見物ですが、共通パート終盤までの選択肢により、各ヒロインとの事情に絡ませつつ残る人格が決定され、ルート分岐、収束させていきます。


学園生活が中心となる鷹志(たかし)ルート。ヒロインは、同級生の渡来明日香山科京。唯一、自身が多重人格であることを知らず、「負け知らず」という役割を負うことで結果として「ネガティブな感情を持てない」彼は、感情の許容を超えると妄想の世界グレタガルドへ旅立ってしまいます。そんな彼と、同様に心の病を大なり小なり抱えていた彼女らが徐々に通い合っていくシナリオです。鷹志編は本作のベースの章ではあるのですが、俺つばチームの先鋒戦としては非常にシナリオの出来もキャラも弱く、位置づけとしては難しい役割だったなぁと思っています。

喫茶アレキサンダーのバイト生活が中心となる鷲介ルート。ヒロインはアレキサンダーの同僚にして新鋭作家の玉泉日和子。共通パートでも群を抜いて勢いのある鷲介パートですが、個別に入ってからのテンポの良さはとどまることを知らずにむしろキレが増しております。シナリオ的にはあまり突っ込んだところにいかないため、ひたすらアレキサンダーと出版社まわりの「陽」な世界観にて、キャラ、音楽を材料に素晴らしい空気を保ちます。特に店長狩男の滑り知らずのギャグを筆頭に、紀奈子さんのノリの良さ、同僚英里子から頻繁に放たれる目から鱗な言葉たち、そしてヒロイン日和子が歩み寄りを見せることによる青天井の愛らしさ。俺つば高評価の原因の大きなところは案外このアレキサンダー組の掛け合いの面白さによる気がしています。

夜の柳木原市を派手に描く隼人ルート。ヒロインは、柳木原の夜の顔であるジャンキー鳳翔の妹、明るく孤独な鳳鳴。共通パートは、アウトローで最も話を揺り動かすパートでしたから、個別でも柳木原市の「陰」をベースに鷲介編とは違った意味で濃い魅力のキャラたちが派手に動きまわります。主人公の多重人格に憧れる鳳翔が意欲的に活動しますので、抗争、ドラッグ、復讐と最も話が激しく展開するルートであり、ゆえに最も見所の多いルートでもあります。さらに、クレープ屋のパル姉さん、AVスカウトのプラチナ、ラーメン屋のメンマ、露店商の黒人マルチネスといった、付かず離れずを保った隼人まわりの大人の仲間たちの存在感が絶妙で、ところどころで語られる彼らと隼人との仲間意識には熱くなるものがあります。

鷹志編、鷲介編、隼人編と、時間が昼から夜に進むとともに、主人公の周囲の人間たちも子どもから大人へと変化していくのですね。本作は人間群像劇ですからキャラの描き込みこそが肝要となりますが、章の経過とともに、キャラの深みが増してくるこの構成の取り方は非常に好感がもてます。


3主人公ルートを見ると、最終ルートの、基本人格である鷹志(ようじ)編に突入します。ヒロインは義妹の羽田小鳩。僕は隼人編までをクリアした時点で、せっかくの多重人格なんだから、各主人公と別パートのキャラ同士を、パートを超えて立体的に絡ませることが出来ればさらに奥行きが出たかなあ、と思っていたのですが、それを包括的に表現していくのが最終章の本ルートでした。5人の人格が統合され、日々を一貫して鷹志一人が動くことで、集大成的な話を形作る展開は非常に良かったと思います。

彼自身が多重人格になるきっかけとなった伏線も余すことなく説明され、アリスを筆頭に各章のサブキャラたちにも読後感の良いエピソードが用意され、ヒロイン小鳩もかなり愛らしく且つ意志の強い魅力的なヒロイン像として描き切り、まさに大団円ともいうべきTRUEルートでありました。

このルート、凄いのが鷹志の言葉や独白。彼独自のものに加え、他4人の語り口がところどころに潜まされているところにテキストの丁寧さを読み取ることができ、巧いなあと思いましたね。


「俺たちに翼はない」、このタイトルはとてもいいですね。まさに俺たちに翼なんてものはないんです。どのルートでも各々現実を受け入れ、前向きに生きる決意をするストーリー収束は胸に残るものがありました。


【グラフィック】
「判子絵」と揶揄される西又葵さんの絵ですが、確かにまごうことなき判子絵であり、見分けをつけづらいのは確か。鳴と小鳩なんておんなじじゃないですか笑。ですが、ひとつひとつの絵自体はとても魅力的で、可愛らしいのもやはり確かです。服装のセンスはぶっ飛んでいますが笑。

全編アニメーションで制作されたOPムービーはクオリティ高くて見ごたえあります。曲もいいですからね。サビ部分で、LR、チケドン、バニィDが出てくる絵面を見て一体どんなゲームなんだと思ったものです笑。あと、OP内で最も印象に残るカットは紀奈子、英里子、狩男の横ピースのシーンだと思うのですが、この子達ヒロインちゃうんかい、とも思いましたね笑。

また、最終章導入時にもうひとつOPムービーがあったのには上がりました。


【キャラクター】
まず、主人公の多重人格を綺麗に描き分けたという点が評価です。好きな人格もあれば、肌に合わないものもある、恐らくユーザーは皆そう感じていると思いますが、それはキャラクター造形がよく出来ていたことに他なりません。上記したように、ゲームの主人公的な描かれ方をする隼人や鷲介は非常に好感度が高い反面、伽楼羅といったぶっ飛びキャラに感情移入するという人はほとんどいないと思います笑。ただ、伽楼羅の言葉や発想はすさまじいものがありましたけどね。翔が憧れるのもよくわかる。

圧倒的にキャラ作りがうまかったのは、鷲介パートの面々。キャラとテキストだけで凄まじい完成度を誇るほどの名キャラたちのオンパレード。普段エロゲやりながらひとり笑うことなんてまず無いんですが、狩男や鷲介には何度かリアルで吹かされましたし、女性陣は全員攻略キャラでもいいくらいです。

そしてこれも上記しましたが、隼人パートの仲間たち。パル、メンマ、プラチナ、マルチネス、アリス……夜の柳木原で生きる大人たちの悲哀と優しさにはだいぶ心が動きました。基本爽やかな流ればかり用意される女性陣の中でも唯一「失恋」という役どころを負わされる香田亜衣の切なさも良かったですね。


【音楽】
音楽は全体的にかなりレベルが高いです。ドラムやベースといったビート系、ギターカッティングにアナログさを追求しているのは好感度高いですね。「世界が平和でありますように」といった穏やかな曲から、鷲介編で流れる「きんきんクールビューティー」「やばいよやばいよ」といったアップテンポでスウィングする曲まで、どれも音使い、メロディの流れいずれもセンスが良く、さらにこの手のゲームではあまり無い「Julie&Anna&時男」「ヘテロクロミア」のようなベタベタなトランス、ドラムンベース調の曲なんかも揃っています。

挿入歌含めて歌付曲も豊富にありますが、特にOP曲「Juwelry tears」ですね。リフレインするピアノとスピード感ある小気味良いドラムが特徴的な名曲だと思います。


以上俺つばでした。いやはや、世界が平和でありますように――。


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【カルタグラ ~ツキ狂イノ病~】
カルタグラ ~ツキ狂イノ病~



メーカーInnocent Grey
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■■■ 9
キャラクター■■■■■■■■■ 9
音楽■■■■■■■□ 7.5
■■■■■■■■■ 9
総合【A+】 88点

名作サスペンスエロゲ

いや、なんといいますか。久しぶりに没頭して読み込んでしまう作品でした。僕が無知なだけかと思いますが、こんな名作が眠っていたなんて……、こういう出会いがあるからエロゲは止められないんですよね。

ガチなサスペンスものですから好き嫌いはおおいにあるとして、シナリオの流れや一枚絵の魅力、世界観などの「作品完成度」という点では非常に高い質を持っていたと思います。


【シナリオ】
舞台は戦後間もない冬の上野。主人公の高城秋五は、遊郭に居候をさせてもらっているしがない探偵。ある日、警察官時代の元上司の紹介で、令嬢「上月由良」捜索の依頼が舞い込みます。その捜索対象に驚く秋五、なぜなら彼女は秋五のかつての恋人であり、戦争の混乱や出征の中で別れたきりになっていた少女だったからです。

あまりにも出来すぎた偶然に依頼を受ける気になる秋五。到着すると、彼女と瓜二つな双子の妹、上月和菜に出迎えられます。姉とは対照的に快活で屈託の無い彼女にとまどいつつも父親の話を聞いてみると、父親は和菜を部屋から退去させ、秋五に「由良はもう死んでいる」と告げます――。

一方、上野では女性の連続バラバラ殺人事件が頻発。生きている状態での肢体切断や、子宮を食した痕跡など、常軌を逸したその殺害手口に警察の捜査と世間の注目は拡大する一方です。

この、一見平行しているように思える各々の事件はやがて引き寄せられるように交差し、秋五に惨劇の真実を突きつけます……。



終わってみれば一瞬でしたが、それは純粋に面白かったからゆえのことなのか、単純に短かったのか……。中盤あたりで殺人事件のカラクリがわかってしまうので、二周目以降に前半部分が完全に作業になってしまうのはまぁサスペンスものの宿命でしょうかね。それから猟奇殺人事件解決から真相究明に入る和菜ルートが濃厚すぎて、すべてコンプリートして後から考えてみると前半部分が遠い昔の話のように思えてしまうのは致し方ないところでしょうか。

序盤においてもう少しだけボリュームを持たせることで完成度をよりあげられるポイントがいくつもあったように思えます。例えば、連続殺人犯が学園のシスターというのは、流れとしてはとてもよかったですが、彼女が犯人だとわかる時点で、それまでに1シーンにしか登場していませんので、彼女をもっと話に登場させて、読者の印象に残しておくべきだったと思います。そのほうが演出としては鮮やかになったでしょうに、少々もったいなさを感じました。また、事件の当時者となる妹の同級生、綾崎楼子も登場と話への食い込み方が急すぎて正直少しとまどったのを覚えています。さらにいえば、秋五の過去、有島警部や遊郭の雨雀姐さん等との過去のいきさつなどが描かれていると話に深みが増したと思います。


……と、のっけから批判で入ってしまいましたが、本当に素晴らしい作品でした。伏線提示と動きのある場面が盛り沢山なものですから、冗長にだらだらと流すような日常場面を極力排し、グッとひきつける場面を程よい間隔で配置させ読む手を止めさせないバランス感はあまりにも絶妙だったと思います。キャラクターの感情の動きとたたみかけるテキストの応酬には、完全に引き込まれていました。


選択肢により初音や七七といった各ルートに分岐しますが、これらのルートは謎や伏線が投げ出され、すっきりとは終わりません。また、TRUEへの伏線を提示したまま終わるBAD ENDなんかも多々ありますね。あくまで連続殺人事件の解決以降に待っている真相究明編、つまり和菜のTRUE ENDありきの本作であり、本作評価もそのルートに値しますね。連続殺人事件を物語の中心と見せかけておきながらもそれはあくまで大局の一部にすぎず、真相編に大きな力を割いている構成が非常に良かったですね。そして殺人事件一応の解決あたりからグイグイと登場人物が事件の中心に直接絡みだすようになるのがまた読み応え抜群でした。


特にラスト付近の展開、黒幕の登場と事件の真相、予想外すぎる八木沼刑事の応援、そして最後の最後、エピローグでのダメ押しのドンデン返しであった、生きていた由良の描こうとした本当のシナリオ……、後半のたたみかける展開はどこを切り取っても完成度は非常に高く、また本当に面白い! 

有島が黒幕の一端というのも、後半に残された人物関係や当人の行動から推理は容易なのですが、シナリオの展開と演出は鮮やかなもので、単純な読み物としての引きは非常に強かったですね。しかしながら黒幕中の黒幕は上月由良そのひと、秋五を愛する彼女の意志と生まれ持った運命に抗うための思惑を実行するために起こった陰惨な事件だったわけですが、それを引きつけ引きつけ最後の最後に投下する演出も見事でした。



主人公の秋五はずっと事件に踊らされ続けています。当事者ということもありますが、彼は事件の旗振り役になりません。最終的な物語の解決役も妹の七七が負っていますしね。でもここは凄くうまいところなんですね。この物語、当事者たちが事件の根幹に関わりすぎているんですね。本来、ミステリーにおいて探偵役というのは事件の外にいなければなりません。ですが秋五はそうではなかった。そこで、七七に探偵役を担わせるのはある意味うまい描き方だったと思います。


辛口な意見を言わせてもらえば、有島警部の動機が、犯人の一画である、狂気と由良を盲信した赤尾生馬に比べてだいぶ弱かったのと、由良の能力とか予言とか、そのあたりの絡ませ方がわかりにくいというか中途半端な感じがしたので惜しかったですかね。

ま、惜しいところはそりゃあるにはあります。面白かったですからね、あれが書かれていれば……、と思うところはあります。ですが、陰惨且つ静謐な世界観を最初から最後まで保ち続けたうえに、撒きに撒いた伏線や疑問点などをしっかり回収しきった物語構成は称賛に値します。


また、エロにもグロにも力を注ぎまくっているところにも好感がもてますね。エロけりゃいいってもんでもないですし、僕はネクロフィリアでもなんでもないですが、なまじグラフィックが美しくストーリーが綺麗に構成立っているものですから、一見対極にあるエロやグロがよく際立つんですね。ここらへんの要素にも手を抜かない姿勢、いやむしろこだわりの領域なんでしょうが、とても評価できますし、ここに力を注ぐのは作品完成度としても大正解であるわけです。

また、CGはもちろん、会話や情景が非常に美しい場面シーンがいくつもあることを書いておきたい。遊郭女郎の凛とのベンチでの会話シーンや、冬史に膝枕をしてもらっているシーン、それから雨雀姐さんとの会話はそういう場面が多かったかな。

いやはや、読んでいて引き込まれていました。シナリオ担当は飯田和彦さんですか。要チェックライターさんの仲間入りです。



【グラフィック】
原画は杉菜水姫さん。非常に美しいですねー! 戦後の冬を舞台にした、うら寂しく儚い一枚絵が多いです。本作は、陰惨で静謐な不思議な世界観造りを丁寧に丁寧に行っているスタッフの様がよく伝わってくるのですが、特にその筆頭であるグラフィックの雰囲気は抜群に良いですね。死体のシーンなんかも演出や一枚絵にこだわっているんでしょうね。かなりのグロ絵ではあるのですが、そこまでの嫌悪感を抱かなかったというのが正直なところです。

キャラ絵も幼すぎず大人っぽさを出した画風ですね。個人的には萌え萌えしているよりもこれくらいの方が好きです。

ところどころ演出も良かったですね~。渾身の一枚絵を際立たせるための構図の動かし方なんかもそうですし、僕が一番「おっ」と思ったのは、犯人視点に切り替わった時に秋五のセリフでボイスが入ってきたところですかね。



【キャラクター】
高城秋五、遊郭に居候している行灯タイプの探偵です。この時代がモチーフの作品って、こういう頼りないタイプの主人公って多くないっすかね。気のせいかな。彼は、自分でグイグイ解決していくタイプでなく、ポテンシャルはそう大きくないものの、人望や求心力で周囲の助けを得ながら解決をしていくタイプですね。僕的にはこれでありだと思います。おかげさまで友人の冬史や妹の七七といった人物のキャラがすこぶる立っています。


この物語は、切ないキャラが多すぎますね。中でもなんといっても遊郭の女郎、凛。何ですかこの愛しさ全開のわりに全く報われないキャラは。まあ確かに登場時から死亡フラグがムンムンに立っている彼女ではありますけども、メインヒロインばりにかわいく秋五と良好な関係を築く彼女、確実な惨殺が約束されています。。。orz

シスターが用意した、(おそらく)凛の身体を使った料理を拒否して餓死寸前の秋五の幻覚の中で、ともに生きていけるから飢え死ぬ前に自分を食べてくれと語るシーンなんて名シーンだと思います……。

また失踪事件と殺人事件の接点を作る新興宗教「千里教」の祠草時子や上記した綾崎楼子、彼女たちもキャラ的には魅力あるのですが、どうあがいても不条理に殺されてしまいますので痛かったですね……。


妹の高城七七。清々しいまでに自身の興味に基づいて行動を取る彼女、表にはあまり出てきませんが本作のストーリーテラー役でもあります。シスターとも接触を取って仲良くなってしまっている彼女、「珍しいものを食べられた」などと語る彼女から、彼女は人間としての最大級のタブー、「人食」を犯していることがわかります。また、彼女はもうひとつの禁忌「近親愛」を犯してもいますよね。

彼女のルートは静かながらも実に壮絶で、凛の人肉を食すという、自分の領域まで秋五が入ってきた上で助けに来る……非常に聡明な少女ですね。そして秋五を手にし近親愛の線も軽く越えさせてしまうのですから、恐ろしさを覚えます。彼女はあれだけ事件に深入りしながらも唯一危険を全て回避し続けますしね。また、一色ヒカルさんのまっすぐな演技も素晴らしかったです。


そして秋五の精神的支柱であり、物語内でも何度も彼の背中を押してくれる熱い女性キャラが二名、親友にして裏社会の俊英蒼木冬史と、遊郭雪白の女将雨雀姐さん、この二人があまりにも良いキャラをしてますね。この手の物語で熱いことを成すのは大体男性キャラではありますが、最高に男前な彼女たちに胸が熱くさせられる場面が何度もありました。彼女たちが秋五に深入りしてくれるか否かがBADか生存かを分かつキーでもありますし、具体的な力も、その力を使う想いも、兼ね合わせている彼女たちが物語に幅を持たせます。秋五を救うためシスターを倒しにきたり、ラストで赤尾と大立ち回りをかます冬史や、初音を気丈に譲り渡してくれる雨雀姐さんなどには奮えましたね。

そんな殺伐とした作中で唯一、日常と萌えの象徴で存在が非常に暖かかった初音。遊郭雪白の下働きをしている少女で、和菜と結ばれるTRUE ENDの他に、唯一HAPPY ENDをもつヒロインとなります。ただ、彼女のルートは本質的には何の解決もできておらず、初音のために事件途中で舞台を降りる、といったENDでしたが、一心に秋五を慕う想いや、彼女を拾ってくれた雨雀との間にあるお互いを思い合う気持ちなど、こういう救いのある締め方もひとつはあってもいいかも…と思います。


そして最後に上月和菜。純粋で元気な天然キャラクターはメインヒロインたる様相で、実際とてもかわいく魅力的なキャラクターです。シナリオへの重要度も非常に高く、たまに空気化するメインヒロインがいますが、決してそういうこともありません。しかし、どうしても冬史や七七、凛など他のキャラの魅力に隠れてしまう部分がありましたのはシナリオのせいで、これは彼女のせいではない。こればっかりはしょうがないな……。ただその分シナリオにおける和菜と由良の使い方は面白かったですし、メインのヒロインとしての格は十二分に備えていました。


しかし、いやはや、キャラクターの使い方が実にうまい。秋五サイドにいる人間たちの書き込みはもちろんなのですが、後半のキナ臭い場面での有島警部の立ち位置、ともすれば嫌な奴のまま終わるはずだった八木沼刑事の使い方、美術監督赤尾の物語への絶妙な絡ませ方…などなど。そういった意味では、後半に絡みのない遊郭陣営は最終的な印象が薄くなりがちでしょうか。


それから是非書いておきたいこととして、秋五と冬史の関係が凄く好きでした。ラストの赤尾とのバトルシーンで、大怪我を負っている冬史に敢えてその場を託す秋五とそれを受ける冬史のシーンは大好きなシーンのひとつです。


【音楽】
切ない場面で流れる、哀愁を誘うピアノBGM「月の涙」「慟哭」、この2曲が際立っていました。あとは緊迫した場面で流れる「狂イ咲キ」が残っています。ただ、全体的に曲数は少なく穏やかな曲ばかりですので、もう1,2曲パンチのある曲があれば尚良かったのではないでしょうか。しかしながら雰囲気はとてもよく出ていて、陰りがあり懐古的な作風にあっている曲が多いです。


以上、カルタグラでした。
一般的な萌えゲー美少女ゲーといったものとは全然違いますので、敬遠されることも多いでしょうが、気に入った人からは高い評価を得られるような作品ですね。このメーカーの他の作品も是非プレイしてみたくなりました。



【fate/hollow ataraxia】
fate/hollow ataraxia



メーカーTYPE-MOON
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■■■■□ 8.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■■■ 9
妥協なし■■■■■■■■■■ 10
総合【A+】 87点

最強のファンディスク

超絶ヒットをかました「fate / stay night」のファンディスク……とはいえファンディスクの枠を大きく越えてひとつの作品としてしっかりと出来上がってしまっています。これが本当の意味でのファンディスクですよ。この力の入れ込み具合、素晴らしいですね。

【シナリオ】
本作、日常シーンがメインに描かれ、血生臭かったstay nightではなかなか描けなかった優しい風景がわんさか描かれているのは喜ばしい限りです。ですが奈須きのこさんのテキストはとにかく言い回しが独特であると共にボリュームも物凄いので、日常シーンばかりが延々と続くと気だるくなってきてしまうのも事実。もちろん好きなキャラクターが登場する場面はそれなりに楽しめるのですが、自分の中ではどうでもいいキャラの長いシーンなど、我慢できずにスキップしてしまうことも正直ありました。……ということですが、実はそのあたりの漫然とした日常シーンはサブライターさんが担当しているみたいですね。奈須きのこさんは、本編であるhollowパートを主に執筆されたとのこと、さすがの仕事です。

しかし日常シーンが多い一方で、中心にはシリアスなシナリオが一本平行して描かれています。そちらの展開やラストシーンは正直 stay nightのものよりもまとまりがよく、非常に熱く素晴らしい出来だったことは嬉しい誤算でした。stay nightあっての本作であることは重々承知していますが、本編後半の盛り上がりが絶賛レベルですんで、個人的にシナリオ評価はファンディスクながらも元作品以上の評価を与えたいところです。


stay night の半年後、前作同様の冬木市が舞台となります。聖杯戦争はとうに終了しているにも関わらず、なぜか日常を変わらぬことなく過ごしている英霊サーヴァントの面々と、それを日常として受け入れているマスターたち。そして繰り返し続ける異質な4日間と、夜だけ進行し続ける新たな聖杯戦争。一体なぜこのような状況が起こり、そして一体誰がこの原因を作り出しているのだろうか…といった感じですね。

というわけで、4日間のうち、昼はコミカルな日常パートが、夜はシリアスなhollowパートが交互に描かれ、イベントを通過し何度もループを重ねていくごとに、徐々に士郎が真相に近づいていく、という形式をとっています。

日常パートは、セイバーや凛、桜との相変わらずの温かいやりとりもさることながら、人気の高い兄貴ランサーが日本の日常にひどく馴染んでいるシーンや、悪役ばかりだったキャスターのコミカルな素顔、眼鏡ライダーの奥ゆかしさなど、殺伐とした前作ではありえなかったシーンが盛りだくさんで、fateファンの「if」にガッツリ応える微笑ましいシーンの数々ですね。

まぁ実のところ、fateの日常描写や笑いは個人的にはそんなに馴染まないため(萌えは別)、そう求めていない部分なんですけどね。でもランサーやライダーの英霊に至る回想が入ったりするのは良かったですね。


そして本編、こちらが素晴らしい出来でした。さて以降は伏字ばかりの文章になりそうですが、まず繰り返し続ける4日間の設定が非常に巧みですね。

前聖杯戦争で神父の言峰綺礼に参加権を奪われた教会派遣のマスターがいましたが、それが本作ヒロインのバゼット・フラガ・マクレミッツですね。彼女は、最弱のサーヴァント「アヴェンジャー(復讐者)」を従え、4日間の聖杯戦争をループし続けています。

それは死を恐れ聖杯戦争の継続を願ったバゼットの思いと、アヴェンジャーが何気ない日常に触れてしまったために始まったループであり、サーヴァントであるアヴェンジャーが以前参加した第三次聖杯戦争を4日目で敗退したため4日間という期間で回転している、というカラクリでした。

そしてアヴェンジャーが借り宿して現界しているのは実は主人公の衛宮士郎。本作における士郎は、本来の士郎というよりは、アヴェンジャーが姿を借りている士郎ということになります。ただ、別に士郎の偽者というわけではなく、士郎本人であることに変わりはありません。わかりにくいですね。奈須ワールド炸裂です。
アーチャーやイリヤは士郎が士郎でありながらアヴェンジャーが潜んでいることを理解しています。ですので、今回のアーチャーは最初から士郎を殺しにかかってきますし、イリヤは全てを見抜いた上で、謎に気づいた士郎の道しるべ役となります。

いや、皆本当は気づいていたのかな?ラストの決戦の時にそのような描写、台詞がところどころありますから。相変わらず細かい設定が難しいですね。第五次聖杯戦争のメンバーをキャストとした第三次聖杯戦争の再現、本来ランサーのマスターだったバゼット、士郎を通して日常を過ごし、そんな日々に憧れたアヴェンジャー、このあたりの仕掛けを念頭において、うんうん唸って「あーこういうことなのかな」とやっと理解する感じです。


ラストの盛り上がりは凄まじかったですね。物語を終わらせるべく、ループを実行し続けている聖杯「天の逆月(杯…うまい!)」に向けて空を上る士郎もといアヴェンジャー、それを阻止しようとするアヴェンジャーの分身たる影モンスター「無限の残骸」。この「無限の残骸」と、fateメンバーとの戦闘シーンはオールスターズの大決戦といった様相でひたすら燃えまくりました。凛&アーチャーの橋梁上の迎撃シーンから始まり、マスター&サーヴァント面々の見せ場がこれでもかというほどあり、最後に守護神セイバーの超見せ場がありましたねー。また本気を出すギルガメッシュのかっこよいこと、かっこよいこと。

そして最後のバゼットとアヴェンジャーの契約破棄シーン!宿主の士朗の馬鹿正直さに感化され、異質な物語の幕を下ろす決意をするアヴェンジャーにはしびれます。弱さ、平凡さ、そんなものが溢れる日常に憧れ続けたアヴェンジャーと、強さの裏にある儚さから永遠の4日間を望み続けたバゼットが、自分たちの世界に折り合いをつけ世界を終わらせるわけですがバゼットは実は生きていた5日目の自分へ、アヴェンジャーは「終わり」の先にあるかもしれない何かへ……聖杯が崩れゆく中、お互いの希望に向かって背を向け合い走り出すシーンは落涙必至の超絶名シーン。ここのBGM「last piece」がまた神がかっていて、僕個人としては、fate 全シーンの中で最も気に入っているシーンです。セイバーの夢の続き、凛とアーチャーの別れ、といったstay night 屈指のシーンも本シーンには適いません!!


【グラフィック】
原画はstay night 同様武内崇さん。もうタイプムーンで奈須きのこさんといったら、もうこの人しかいないですよね。また、相変わらず豊富な立ち絵や、戦闘エフェクトなどの画面効果もstay nightと比べて遜色ありません。かなり気合の入った作りになっています。

またFDならではのオマケ要素。花札なんかはついつい時間を忘れてやりこんでしまいますし、オマケ原画が見られる絵馬もがんばってコレクトしてしまいますよね。それからゲストを招いての壁紙コーナーですが、ここに名を連ねた原画師さんたちのそうそうたる顔ぶれと言ったら!


【キャラクター】
日常パートは、コミカルな面から描くことで完全にキャラクターを良く見せようという意図満載なので、そりゃあ生きてきます。人気を二分する女性キャラであるセイバーと凛は、元来あった面白い面をさらに押し進める形で、3ヒロインの中ではイマイチ影が薄かった桜は、本作でより健気で明るく大胆なキャラに描かれ魅力度がアップです。

ライダーやキャスターも、hollowパートよりも日常パートに重きを置かれていますので、だいぶ印象が変わるのではないかと思います。一方、従来キャラの中では、飄々としていながらもバゼットとの絡みでシリアスシーンの楔として描かれるランサーが熱かったですかね。stay nightで最も泣かせてくれたサーヴァントであるアーチャーは、本作では登場シーンが限られ、少々影薄かったかもしれません。まぁおいしいところでしっかり活躍するのですが。

新キャラの中では、バゼットがいいです。しっかりしてそうな見た目の割には判断力が甘く後ろ向きなところもある彼女ですが、そこがまた良いです。人間でありながら法具を扱うというのもカッコイイ。後出ししながらも因果を逆転させ先制攻撃に変えてしまう「フラガラック」という法具ですが、「因果の逆転」というとstay nightファンの方ならわかりますよね。バゼットと彼との一騎打ちシーンは見ものです。

もうひとりのヒロインであるカレン・オルテンシア。彼女はループ世界という虚構の中で実体を持って行動していますが、本来は人間としての機能をほとんど失っている状態、という設定が非常に痛々しかったです。

しかし彼女をヒロインとして深く絡ませる必要があったのかイマイチ判然としません。まぁ確かに彼女がバゼットの命を救ったのも確かですし、唯一アヴェンジャーを士郎上に体現させることの出来るキャラクターとしての絡みは面白かったのですが。何故彼女はこの作られた世界に入り込んできたのかとか、そもそも彼女の本作における立ち位置だったり、悪意を自身に投影してしまう被虐霊媒体質という設定の必要性はあったのだろうかとか……。

あ、でもカレンの介入によりループが成立しているわけなので重要役といえばそうか。「もっかい読め」とか言われてしまうかもしれませんが、ここらへんはどなたか意見をくださると嬉しいです。


【音楽】
使いまわしのない、ファンディスクとは思えないその充実ぶり。ラストシーンで使われる「last piece」があまりにも秀逸すぎます。僕が今までプレイしたエロゲの中でも屈指の出来を持つBGMだと思っています。「カレンのテーマ」なんかもいいですね。儚げな存在である彼女に合った曲です。そしてラスト戦闘シーンの「outbreak」「war」も燃えます! OPも相変わらずいいですね。stay nightに比べて緩やかで流麗とした趣きの曲です。


てなわけで、hollow ataraxia でした。
単純に感心してしまいます。「月姫」という名作を経て、空前の大ヒットエロゲとなったstay nightのFDですからね。下手なことは出来ないじゃないですか。そしたらこの完成度ですよ。ファンディスクであるというに、普通のゲーム、いやそれ以上の密度ですからね。

関連レビュー: fate/ stay night



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム