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エロゲ レビュー ブログ
【殻ノ少女】
殻ノ少女



メーカーInnocent Grey
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■■■□ 9.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■■□ 8.5
惨劇■■■■■■■■■ 9
総合【A】 84点

救われない美学

前作「カルタグラ」で見せた、戦後を舞台としたサスペンスエンターテイメント。その、18禁ゲームでありながら全くユーザーに媚びない世界観と重厚怜悧なシナリオは個人的に大当たりで、InnocentGreyという会社は、今後が楽しみな会社のひとつとなりました。そして本作、同様の世界観を貫いたのは嬉しい限りです。

【シナリオ】
舞台は前作「カルタグラ」と同じ戦後間もない東京。前作は上野が舞台でしたが、今回は新宿・吉祥寺間の中央線沿線が舞台となります。自分が現在同エリアに住んでいることもあって、より思い入れを込めながら読んでいた気がしますね。

時は昭和三十一年、戦後の動乱期。世間では身体の一部と子宮を切り取られた少女が遺棄される猟奇殺人が横行。私立探偵の時坂玲人は、かつての同僚である警視庁捜査課の魚住から事件捜査の協力を依頼され、また同時期に、妹紫が通う私立櫻羽女学院から、行方不明の少女の捜索依頼も舞い込みます。不可解な要素を含みながらも増加する犠牲者と交差する2つの依頼された事件、そして6年前玲人自身に降りかかった凄惨な事件、「自分を探して欲しい」と玲人に依頼する少女、様々な事柄がひとつに収束してやがて壮絶な事件が形を結び出します。

……しかしこのメーカーさんは、四肢切断とか子宮切除とか好きですね……。長編サスペンスでありながら、まったくダレずに最後まで読ませる展開は相変わらず見事です。エロゲにしておくにはもったいないくらいの凛とした世界観と原画、BGMは高いレベルで昇華されていますし、殺人という動的場面が次々に差し込まれるため、好きな人は一気に没頭すると思います。

感情移入を促す伸びやかなシナリオでありながら、登場人物が次々と不幸な目にあっていってしまうのは、うまくもあり、つらくもあり、サスペンスとしてやれるだけのことはやってやろうという気概を感じます。世界を唯一明るく構築する綴子が惨殺されてしまうのも「やめたげてよぉ」でしたし、何よりもユーザーサービスと見せかけた前作主人公の秋五や和菜ですら展開によって惨劇の対象になってしまうあたり、いつ誰がやられてもおかしくない緊張感にはらはらさせられました。

導入から中盤にかけて猟奇殺人事件を追いかけ、その犯人が暴かれ事件が収束したと見せかけて主人公やメインどころのキャラに焦点が当たる事件へと展開していく流れは、前作カルタグラと同一のものですね。序盤は犯人探しのミステリーながら、主人公が探偵役から当事者へと役割が変質していってしまうのも同じです。この流れは単体としてみれば非常に長編物語然りとして個人的に好きですが、比べると前作の方がより鮮やかだったこともあり、前作と同じパターンにしなくても良かったのかも、とも思いましたかね。

それから各所で言われていることですが、ミステリーの傑作、京極夏彦「魍魎の匣」の密室トリックをオマージュした展開はやはりあざとかったですね。オマージュといいますか、そのままですので。ただそれを差し引いても物語としては非常によく構成されており、テキストもキャラクターも自然に動き出すような雰囲気を保ちますので、そのカラクリ部分が惜しい所ではありましたかね。終盤の盛り上がりも、もうひと山欲しかったというのが正直なところで、葛城シンや朱崎先生といった実質犯や、西藤医師が黒幕というのは、予想の線上すぎて前作の動きの激しかった展開に比べると少々華が欠けると感じました。それから、これも前作に比べて、主人公が巻き込まれた過去の事件の必然性が少し弱かった気がしますかね。現在の事件と似ている性質を持ち、かつ主人公のトラウマとなっている事件ですので、終盤においての切り込み方はもっともっと深くて良かったですし、主人公の心をガンガンに揺さぶってもらって良かった。

ですが、母性を求めて殻の少女を作ることに妄執する間宮心爾、そしていみじくも殻の少女になることを余儀なくされてしまった冬子の存在感。姿が変容してなお心爾に救いを与えることのできる彼女の神聖性、ここの描き方は本当に感心してしまうくらいに巧みなものがありました。そして、すべての登場人物が物語に絡みだして意外な点が線でつながっていく後半の構図の作り方は前作を凌駕しています。玲人が運命に翻弄されながらも確信に迫っていく様は読む手が止まりません。ラストも良かったですね。主題歌のタイトルがラストシーンに絡んでくるとはやるじゃないですか。

ただ、本当にこの話はビターです。かなり滅入る展開ばかりで、まさかのメインヒロインも四肢切断のうえ結ばれないのがトゥルーですし……。犯人サイドの狂気が比較的に成就され、多くの伏線を見事につなげながらも敢えてハッピーに持っていかないシナリオは強く評価したいですけどね。各キャラの置かれている境遇を考えると、完全無欠のハッピーエンドではなく、このようなビターな締め方をするほうがよりしっくりくるものです。ですが、精神的には解決したように描かれますが、ふと冷静になると普通の根源的な幸せを求めたくなってしまうのがユーザー真理というもので、やっぱり各登場人物を魅力的に描けているだけにわかりやすいハッピーを用意してくれても良かったなぁ、なんて思っちゃったりもするんですけどね。

また、例えば八木沼の過去話など伏線として投げられたままの話や、紫やステラといったもう少し描いてほしかったキャラなども多々おります。これは今作がカルタグラの延長として描かれたように、今後のイノグレ作品で描かれていくものなのでしょう。このレビューを書いている現在「殻ノ少女2」の制作が決まっているようですので、そういったひとつひとつの作品を越えたつながりに期待したいところです。


【グラフィック】
原画担当は杉菜水姫さん、僕の大好きな原画家さんのひとりです。世界観に会った美しいCGは健在、惨殺シーンや死体の絵まで丁寧に描かれているものですから、本当に良い仕事をしているってなものです。エロゲとしては異質なまでに美しく、艶のある原画に関しては文句なし、圧倒的な原画家さんと言えましょう。 システムとしての捜査パートも面白かったです。ただ、画面クリックでヒントを拾っていくものはちょっとわかりづらかったかな。

デモムービーは作品世界観をうまく表現した非常に美しいものに仕上がっています。ほとんどを白で覆い、主題歌「瑠璃の鳥」とあいまって高い次元でまとまっています。


【キャラクター】
非常に多くの登場人物がいますが、未登場のまま殺されてしまう女生徒たち以外は、シナリオゆえに皆よく印象に残っています。全体的にシリアスですが、夏目さんや森夜月といった、息抜き役を与えられたキャラもいまして、バランス感は見事なものでした。しかし上記しましたが、次々に良キャラが不幸な目に合っていってしまう展開には、なんともいたたまれない思いでいっぱいです。

主人公は時坂玲人、前作と同じ、元警官の探偵です。前作主人公の秋五よりもかっこよいですね。行動力も判断力も男前なところがありますし、また、前作のように彼以上の存在感で場を食ってしまう七七や冬史のようなキャラがいないということもあるかもしれません。彼を支える友人の魚住も、働きとしては申し分ないですが、やはり前作冬史と比べてしまうともうひと踏み込みほしいところでした。

メインヒロインは朽木冬子。自分のルーツをさがす、とらえどころのない女学生です。あどけない声優さんの演技も良い方向に作用していて、飄々としていながらも年相応の不安定さを抱えるキャラ作りは非常に丁寧に描けていました。だからゆえに魍魎の匣よろしく四肢切断での救命、その後も誘拐され行方知れずとなってしまう顛末には切なさが残ります。基本的に、話のメインに立つ櫻羽女子高の生徒たちには、感情移入してはいけません。なぜならほとんど惨劇を受けてしまうからです(涙)。チョイ役といって差し支えない佐藤さんが無傷だっただけで、ほかは全員殺されるか行方不明になってしまいます。特に綴子……。くっ。。。

また、妹の紫や終盤の伏線キャラとなるステラなどは玲人との距離感が絶妙で、素晴らしかった。だからゆえにキャラクターが非常に良かっただけにシナリオで活かしきれなかったところが惜しいですね。

【音楽】
冬の冷気をまとった凛としたBGMの数々が清々しいですね。日常音楽もシリアスなものも非常に良いです。笛の音のメロディ展開が綺麗な紫のテーマ「Lilac」、メインBGM「殻ノ少女」が印象に残っています。そしてなんといっても主題歌「瑠璃の鳥」でしょう。エロゲ主題歌史に残るメロディラインを誇る、秀逸な出来の曲だと思います。


以上、殻ノ少女です。しかし突き抜けてますねえ、このメーカーさんは。あまりにも硬派すぎてエロゲとしての評価は正直しにくいんですが、こういう作品は多くの人にプレイしてもらいたいと思いますね。


関連レビュー: カルタグラ ~ツキ狂イノ病~


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【ランスクエスト】
ランスクエスト



メーカーAlice Soft
シナリオ■■■■■■■□ 7.5
グラフィック■■■■■■■■□ 8.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■■ 8
旧来ファン生殺し■■■ 3
総合【A】 80点

閑話休題

待ちに、待ちに、待った5年ぶりのランスシリーズです。派手に壮大に突き詰めたシナリオを持つ「Ⅵ ゼス崩壊」、ゲーム性・中毒性を突き詰めたシステムを持つ「Ⅶ 戦国ランス」、二大ランス作品を受けてリリースされたのはRPG形式をとったマルチシナリオ形式のカラー編でした。

【シナリオ】
前作、美樹の魔王覚醒により氷漬けの呪いにかかってしまったシィルを救うために「カラーの森」へやってきたランス。シィルの呪いを解く方法をなんとか教えてもらって、且つカラーの美女たちとエッチしまくるぞーがはは、といったシナリオですね。

基幹となるシナリオは、ランスがカラーの女王パステルをレイプすること、それにより彼女の復讐を受けること、やがてランスとパステルの子ども、リセットが登場することですね。

「カラー」という存在はランスシリーズのみならず、アリスソフト全体の作品群の中でもかなり重要な位置づけとなっていますので、中途半端には描かないだろうと思っていましたが、まさかランス作品まるまるひとつ当てるほどの規模になるとは思いませんでした。

正直流れとしては妥当且つ想像しうるもので、シナリオ的に優れていたかというとそうでもありません。ですが、ランスシリーズおなじみの面々が冒険を繰り広げるだけで引き込まれてしまうのもまた事実。

旧キャラ、新キャラ多数入り交えながら様々な「クエスト」と呼ばれる大小イベントをこなしていきますが、シリアスな展開は特になく、基本的にはランスにかけられたパステルの呪いを解くためのドタバタ劇です。結局シィルの呪いは解けませんで次作持ち越しなので、扱いとしては、ヘルマン編への繋ぎとしてのカラー編、ちょうどランス5Dのような閑話的なお話であったのかなと思います。ただ、当然ながら正史のランスシリーズですので、主要キャラの交替や死亡、新キャラの登場など、次作以降への設定の引継ぎに関して重要な要素はそれなりにありました。

個人的にはヘルマン編を控えたカラー編ということで、ハンティ・カラーを筆頭としたパットン一味が話に絡んできてくれたら良かったのになあなんて思いましたけどね。ここは次作への伏線張られてましたけどね。


印象に残っているクエストは、鈴女が死ぬクエストですね。確かに戦国ランス時に「くのいちの寿命は短い」云々といった伏線こそありましたが、まさか次作で死んでしまうとは……。戦国ランス登場の中で最も立っていたキャラの一角だっただけに残念です。ですが、彼女の意志を継いだかなみが今後重要キャラに育っていくのではという期待感もあります。

魔人も、サテラカイトという鬼畜王時代ではおなじみだったキャラが登場するのは嬉しいところでしたね。彼女たちは次作以降も絡んでくることでしょう。

しかし各キャラの後日談を読んでいる限り、今回のクエストで新登場したキャラたちは今後出てくるのでしょうかね??クルックーくらいしか次につながるキャラが見当たらないのですが……。


【グラフィック】
まず原画方面についてですが、原画自体は文句なしです。織音さんを完全メインに据えたCG群は魅力に溢れています。が、Hシーンは案外物足りないかもしれませんね、というのも下にも述べますが、ランスシリーズを牽引しているはずの旧キャラのものがほとんどありません。。。

続いて、アリスソフトお得意のゲーム性の部分ですが、今回のクエストシステムはとても面白い仕様だったと思います。いわゆるダンジョン攻略、対面型戦闘、イベント、といった要素を含んだ王道RPGではありますが、面白いのは、一本道のストーリー形式ではなく、イベントをすべて個別に区切って何度でも選択可能にしたという点ですね。ひとつひとつの小さいRPGが集ってランスクエストという大きなRPGになっているという一風変わった形なのですが、これが個人的にはなかなかやりやすくて良かったと思います。

基本ダンジョンには5人編成で臨むのですが、各キャラにはそれぞれ行動回数制限があったり、パーティーメンバー交替も限られていたりと、色のある各ダンジョンで、誰をどう配置して戦い抜くかといった要素を常に考えながら進ませるのは巧いですね。このあたりは「ゼス崩壊」がベースとなっています。そもそもRPG好きということもあり、ゲーム仕様に関しては満足しています。

厳しかったのは、レベル上げの作業をだいぶ要するということですね。それも、難易度上必要とされるのではなく、シナリオ上レベル35にならないとHが出来ず、しかもHすると女の子がレベル1になってしまうという、呪い「モルルン」の仕様、これが時間のない社会人エロゲプレイヤーの僕としては本当にきつかった。まぁHシーンを見ずになりふり構わず進めるというのであれば良いのかもしれませんが……。このあたり、Hシーンをうまく豊富に配置するアリスソフトにしては珍しい単純な筋トレ仕様であり、あまり親切設計ではありません。


【キャラクター】
中心に据えられている新キャラたちが、旧キャラに比べて薄いのが難ですね。サチコ、アルカネーゼ、キバ子など好きでしたが、次作以降で楔となるようなキャラではありませんでしたし、恐らくクルックーがAL教大幹部として次作以降も関わってくるのでしょうから、彼女のキャラの魅力をもっと出してあげるべきでした。まぁこれはランスシリーズという長い歴史がありますので旧キャラと比べるのは酷なハードルかなと思うのですが、前作の戦国ランスのキャラクターたちはそのハードルを越えてきましたからね。

さらに、非常に多くの旧キャラが出ているにも関わらず、なんというかな、「出ているだけ」といった感じなんですよね。謙信やリアといった一部のキャラを除いて、ほとんどの旧キャラは登場こそするものの、シナリオには関わってきませんし、固定Hシーンも原画もありません。これは一見さんはまだしも旧作からのランスファンからすると生殺しに近く、非常にもったいない。本当に、あげるとすれば鈴女くらいかな? 旧キャラたちは彼女たちにまつわるエピソードも何も進みませんから、別にいなくても変わらなかったという位置づけでしょう。

カラー勢の中では、個人的には強いんだけどダメダメな女王、パステルが案外好きでした。彼女は次作以降も出てくるでしょうね。楽しみです。人気が高いのはリセットでしょうかね。とにかく可愛いのですね、がははー。


【音楽】
Shade節あふれる音楽で全体的には本当にいつも通りで問題ないと思います。RPGを意識したピコピコ系のBGMなんかもあって面白いですね。ですがやはり強烈なのは、おなじみの曲を大胆にアレンジした、デモムービーにも使われている「我が栄光」でしょう。やばいかっこいいです。


以上ランスクエストです。もう今からヘルマン編が楽しみで仕方がありません。


テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【グリーングリーン3 ~ハローグッバイ~】
グリーングリーン3 ~ハローグッバイ~



メーカーGROOVER
シナリオ■■■■■■■■□ 8.5
グラフィック■■■■■■■■□ 8.5
キャラクター■■■■■■■■□ 8.5
音楽■■■■■■■■ 8
脇役■■■■■■■■□ 8.5
総合【A】 84点

少年よ大志を抱け

青春ドタバタコメディ、グリーングリーン3です。3作目ともなると、キャラへの愛着が相当なところまで育っていますので、それだけでも楽しめるってなもんですね。

主人公は再び高崎祐介に戻り、メインヒロインはシリーズ共通して登場する朽木双葉、そしてバッチグー、一番星、天神の3馬鹿、毒ガス、轟教諭、2のメインキャラだったヘルスやホセやヒロインたち、さらに1のみと思われていた式神若葉なんかも登場しますので、グリグリシリーズを目いっぱい楽しむ大団円作品となります。

爽快に最後をまとめきってくれましたねえ。


【シナリオ】
舞台は言わずもがなの山奥の全寮制「鐘ノ音学園」。メインライターは「ゼロの使い魔」で名を馳せるヤマグチノボルさんです。相変わらずの男女含めた濃すぎるキャラたちの笑える会話を中心としたドタバタシナリオでありながらも、本作は高校三年生の二学期からの期間となりますので、卒業や進路など、大人への入り口がテーマとして描かれているところに注目です。秋の文化祭、そして卒業がメインのイベントになりますかね。 シナリオのボリュームも必要十分な量で、無理なく各ヒロインルートの物語は紡がれていたように思えます。

グリグリは日常シーンが派手なラブコメディではあるのですが、テーマが常に「別れ」なところが熱いですね。1は「ヒロインからの別れ」、2は「主人公からの別れ」、そして本作は「仲間たちの別れ」です。


また、注目したい点として「主人公に彼女がいる」という事前設定があります。大概この手のゲームは、なるべく主人公のキャラクター性が薄い状態からスタートさせて、各ヒロインとの事件、恋愛を経て二人の関係が色づけされていく、といったイメージで物語が形作られていきます。ですが、祐介にはグリーングリーン1から登場する少女双葉が既に彼女として存在するうえに、暴力的で嫉妬深くツンデレな双葉のキャラも相当濃いのですね。つまり相当にガッチリとした構図をもったうえで他ヒロインとの話も進んでいくわけです。

この点がリアリティを高めた人間関係を非常にうまく描けるメリットとなっているのですが、悪く言うと、祐介がはたから見ると節操のない奴に映るんだろうなぁということと、双葉をかわいそうな扱いにせざるを得なくなる部分が難しいということですね。ですが、他ヒロインルートでの彼女との別れはとても丁寧に描けていたと思いますし、その分TRUEと呼ぶべきメインの双葉ルートは本当に爽快感あふれる感動的なラブストーリーですので、まぁ良しではないでしょうか。当然双葉ルートは最後に攻略してください。1の早苗ルートとは違った意味で、途中で攻略してしまうと他ヒロインルートをやる気がなくなります。


上記したとおり圧倒的なのはメインヒロイン双葉ルート。特に、双葉妊娠発覚からの流れは、非常に高いシナリオ完成度を持ちます。基本的に魅力あるキャラ押しで引き付けるグリグリシリーズですが、双葉ルートに関してはキャラ抜きにしてシナリオが非常に良いです。

妊娠をテーマに添えるのは難しいと思うんですよね、流れもある程度限定されてしまうし、恋愛ゲームとしてはそこはかとなく反則技ですし。ですが、卒業後の不安を絡めつつ二人のための将来を模索していく展開、加えて「二人だけでは幸せになれない」という本作通して追及してきた答えを、3馬鹿、ちとせ、若葉、祐介の母などの脇役の好アシストを用いることで見事に証明しています。ホロリと泣かせる演出や台詞もところどころに散りばめられていて、読み手を引き込みます。

ヒロインは双葉の他に4名います。幼馴染の樫谷ちとせルート、恋を知り成長する天神葉月ルート、他人の心が読めることで自分を殺していた天神花月ルート。どのルートもそれなりのボリュームを以て綺麗にまとまっています。元芸能人の美杉舞ルートが少しだけ浮いていますかね。といいますのも、全ルート中最も印象の薄いルートであることに加えて、他ヒロインルートだと全く彼女は登場しませんので。この中でメインの双葉ルートがずば抜けているのは当然として、次いで抜けているのはちとせルートですね。グリグリ1のヒロインであった未来人千歳みどりの前世<という設定を利用した、過去との折り合いがテーマになるシナリオでした。


後半の卒業式付近は、長いシリーズの終わりを感じさせる各人の成長が見られる展開でした。ただ、轟先生からの言葉や、祐介やバッチグー、天神からの答辞、後輩とのやりとりなど、各々感動ポイントではあるのでしょうが、正直流れとしては容易に想像できる中で想像通りの言葉が紡がれます。ちょいとばかし泣かせようとする意図というかあざとさが前に出すぎてしまっているため、もう少しひねりがあればなぁと思いましたね。そういった意味では、文化祭後、夢のために突如学校を辞める一番星が最もシナリオの楔になっていたのは間違いないでしょう。

しかしなぁ、この3作目が圧倒的にシナリオの構成がよくできていて面白いというのが口惜しや。最もよく出来ているんですが、1,2をクリアしていないとキャラやシナリオの魅力が伝わりきらないでしょうから、シリーズものというのは難しいものですね。当然3作すべてプレイしている輩にとっては感慨深いものになることでしょう。各所で見られる互いを思い合う台詞や熱い友情シーンが、3作にもまたがる流れがあるがゆえに嘘臭くなく、本当に光りまくっています。

グリグリシリーズは単体でみると色々言いたいことはあるのですが、3まで通して考えると本当に残る作品だよなぁ、と思いますね。



【グラフィック】
片倉真二さんですね。相変わらず動きのあるアニメ調の魅力的な絵を描く方です。1や2のレビューでも触れていますが、この手のゲームではあまり見られないタイプの絵師であり、アニメの1シーンを切り取ったような構図も素晴らしいものがあります。

スピード感のあるCGの動きと最後にリズムの変わるサビを持つOPムービーがまたいいですねえ!ヒロインたちを回転しながら俯瞰する演出も定番です。


【キャラクター】
僕はグリグリ1から双葉スキーですので、3のメインヒロインが双葉になったと知って俄然胸が熱くなりました。まぁ1からの流れを継承できるヒロインが双葉くらいしかいなかったのも確かなのですが……。1の時は比較的カラッとしたキャラだったのですが、かなり嫉妬深く怒りっぽい面倒なタイプとなっています笑。まぁそれがまた双葉らしくもあり、個人的にはむしろ良かった。

他ヒロインとしては、葉月が凄く好きでしたね。個人的に、「元気っ子が恋を知る」というシナリオは大好物です。恋愛なんてどうでもいいやい!な子がしおらしくなる場面とかこちらも悶えてしまいますわ! このへんにグッときてしまうのは、多分ときめも2のほむらが原点になっているように思えます私。

また、3馬鹿の熱さには胸を打たれます。三者三様に本当に熱く、彼らは1からギャグ、シリアス両輪で活躍してくれましたね。祐介だけでなく、彼らもこのシリーズを通して成長しているのがわかるから良いですよね。特に本作、一番星が激烈に熱い。シナリオの楔にもなっていますし、双葉ルートでの彼の活躍も素晴らしいものがあります。ギャグ面で圧倒的ながらも締めるところは見事に締めるバッチグーも、天然なようで祐介や妹たちを本気で思い力になってくれる天神も、最高な友人キャラです。

そしてもう一人、初登場の名脇役、祐介のお母さん、桜子さんでしょう。ギャグもきいてるし、シリアスな言葉も親としての重みがあって響きます。豪胆な母親、というのはキャラが立つなあ。


【音楽】
相変わらず、気合の入った音楽構成で、例に漏れずヒロイン全員にED曲が用意されています。そして、どれもあまり印象に残らないのも共通しています笑。このあたり如何ともし難いのかな……。例えばニトロプラスの「スマガ」なんかも各ヒロインにED曲を用意していますが、それぞれは全く別のアーティストのものを利用しています。それくらい空気を変えないとぶつかり合ってしまって印象に残らないんだと思いますね。双葉EDの曲がグリーングリーン1のOPテーマだったのは熱かったですけどね。

1と2のいいとこどり+3新規のBGM群は良いです。出し惜しみなしですね。派手なシーンは過去の同様シーンで使われていたBGMを、泣かせどころも過去シリーズで印象深かったBGMを使っています。3新規のBGMも泣かせどころで使われるBGMが印象に残っていますね。1や2を彷彿とさせるシーンやキャラの時に、当時のBGMを使ってくる演出なども好印象です。


というわけで、グリーングリーン3でした。
シリーズものの体をとったエロゲの中では、インパクトもシナリオも折り紙つきの実力を持っていますよ。

関連レビュー: グリーングリーン
関連レビュー: グリーングリーン2 ~恋のスペシャルサマー~



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【Scarlett】
Scarlett



メーカーねこねこソフト
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■■■■ 8
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■□ 7.5
境界線■■■■■■■■ 8
総合【A】 82点

それぞれの居場所

ねこねこソフト解散作品ということで(これを書いている今は復活しているのですが)、当時話題になった作品ですね。諜報活動を舞台とした一級エンタメ作品で、一息で読めるテンポの良さは見事です。

【シナリオ】
しかしまあやってくれますね、このシナリオのレベルの高さは。果たしてエロゲである必要はあったんでしょうか笑。良くも悪くも隙なくしっかりと硬派に高いところまで積み上げられたシナリオだと思います。

国家暗部でありながら、であるがゆえに人の興味を引く、諜報機関を舞台とした作品です。それもニトロプラスのPhantomのような派手なタイプのハードボイルドエンターテイメントではなく、情報戦や心理戦をメインとした妙に生々しいスパイものです。メインライターは片岡ともさん、マニアックな知識に裏打ちされた、独特の文章を書く人ですね。しかし知識を見せつける独りよがりなものに決してならず、あくまで読み手がわかる体を崩さないところにプロ意識を垣間見ることができます。

ふたりの主人公の視点から見る手法がとてもうまく機能しています。ひとりは別当・和泉九郎・スカーレット。国家以上の権力を持つ高級諜報員です。そしてもうひとりが大野明人、我々と同じ一般人サイドにいる普通の高校生。この住む世界の違うふたりの視点を行き来して交差する物語を紡いでゆく点がうまかった点ですね。ただ、一般人である読み手の気持ちを代弁するためにメイン主人公は明人であったと思うのですが、1章以外は完全に九郎が主人公格になっていました。

メインのヒロインは、明人の相手として別当・和泉しずか・スカーレット、九郎の相手としては同級生にして現在日本陸軍にて諜報員として働いている葉山美月がいますが、二人とも魅力的に描かれていますね。話への重要度も各々非常に高く、必要不可欠な存在感を備えています。

全4章からなる一本道の物語です。1章は日常に漠然とした不安と不満を頂いている明人が、九郎の妹にして別当家の一員であるしずかと関わることで、その非日常に手を伸ばす様が描かれます。一方で九郎たちにとって諜報活動は日常の情景ですので、そのギャップに読み手をうまく引きつけていきますね。別当・スカーレット家当主であり九郎の父親である八郎が切り札として育てていた謎の少女アメリアの存在を軸に、高級諜報家の活動の仕方や存在意義、事件の盛り上げ、一般人である明人の思い、などを過不足なく説明して魅せていくバランスの良い章です。導入としては完璧かと。

2章は、南アフリカの小国を舞台にした、九郎のスパイ活動の日々に焦点を当てています。話としては本作の性格がいちばんよく出ている話だったんじゃないですかね。小国の政権争いをめぐっての諜報活動が描かれますが、出演キャラが満遍なく活躍しますし、人間ドラマも綺麗に描けていて悪役討伐もスカッと終わります。

3章は、しずかの出自に関わる過去の一連のヒューマンドラマ。東西ドイツ時代、東側の遺伝子研究医レオン・ハイルマンの人生が描かれます。具体的には、しずかの母親となる少女エレナとの出会いと、彼女の娘イリカとの生活、そして死を間近としたイリカを救うための彼女のクローンがしずかというかなり黒めな過去話ですね。ラスト、レオンとしずかの丘のシーンは感動せざるをえませんね。

ただ、この設定はメインヒロインの重要設定でしたので、後半戦に生かしてほしかった気もしますが……、ま、インパクトのある泣かせどころの章であっただけに印象に残っていますが、この章は幕間の過去話に過ぎないんですけどね。敢えて触れないのもそれもまた良しでしょう。

ちなみに、この章は唯一ライターが片岡さんではなく、木緒なちさんが担当しています。木緒さんは、この変化球的な片岡ともさんの設定群の狭間で一章分のシナリオを任された状況、やりにくかったと思うのですが、グッジョブと言わざるを得ないですね。スカーレット3章の功績は後々彼の代名詞のひとつとなるに違いありません。


そして最終章は、明人にふりかかるどうしようもない災難をベースに、それぞれの人間関係を交差させる巧みな展開。短かったかな、という気もしないでもないですが読み応えはありました。重水と原子炉の輸出を材料に国家発言権を上げようとする意図や、宇宙空間で外部の監視衛星と手ごまの監視衛星が重なるタイミングを見計らって脱出用ヘリを戦闘機B-2と海面の間に隠す方法など、発想がマニアックすぎます。

また、ラストシーンはめちゃくちゃ良かったですね。しずかとともに日常に戻った明人と、偶然出会った九郎との一瞬の交差。わからないふりを敢えてする九郎、美月とそれでも期待してしまう明人。それでも交わらない。しかし最後の最後に九郎が粋な計らいをしてくれる……。3章のダイナミックな感動も良かったですが、この渋くて切ないラストシーンは非常に染みるものがありました。



と、いうわけで全体的にテンポよく長すぎずまとまっていますね。ただ、2章のような諜報活動の話が3,4章の間にもうひとつあって多分ちょうどいい尺だったんじゃないかな。私見ですが。

さて、この物語のベースには、九郎たち諜報員としての非日常に憧れる明人、そして明人のような普通に憧れる九郎、しずか、といった実に単純な対比があります。この単純根幹があるからこそ、物語に動きがあっても彼らのスタンスや心理がブレず、しっかりしたシナリオが形成されます。

日常から非日常、そしてラストにまた日常へと戻る明人を主人公にすることで、僕ら日常ベースで生きている人間の共感を得る構図はいいですね。そう考えると主人公の明人があまり活躍しないのも、しずかが技術こそあれど諜報活動を行わないのも、最終的に二人を日常、現実へ戻す前提があるからなのでしょう。殺人や犯罪など抵抗なく行える引きもどせないところまでいってしまえば、やはり日常に戻る際に違和感が残りますから。

僕たち人間は、現実と非日常の境を認識して、誰しもが非日常にあこがれながら時には突っ走り、時には挫折して、気持ちに折り合いをつけることで大人になっていきます。非日常に入り込んだとしても途端にそこは自分にとっての日常となり、やはり折り合いをつけることに奔走することになる。言ってしまえば非日常なんてものは結局入り込むことのできないものなのかもしれませんね。そういう曖昧でビターな感覚をラストシーンは非常に象徴的に描けていると思います。


まあ、設定が非常に面白いのですが、正直無理ないか?ってシーンや、九郎に人間味がありすぎて高級諜報員としては難がある点、最高峰のはずの技術なども意外と簡単に突破できちゃうのね、って場面もあるにはあります。明人を見ていると、日常/非日常の線の「越えられない壁」感をあまり感じないのも確か。ですが、エンターテイメントとしてそれらしく見せることにも成功できていますし、問題ないでしょう。

名作です。


【グラフィック】
ねこねこソフト解散を決めたラスト作品だったのが理由かどうかはわかりませんが、一枚絵のバリエーションが多くて嬉しい限り。エロシーンが極端に少ないから全体数が少ないのかな? 数はそう多いわけではないんですけどね、日常のなにげないシーンや、通常必要ないだろうカットに至るまで一枚絵が用意されていますので多く感じます。そのCGもどれも綺麗ですね~。特にしずかのデザインはかなりGood!

余談ですが、初回版パッケージではしずかがアイスを食べている絵なんですが、これって、ラストシーンの明人の「土産にアイスを買っていこう」という独白へのオマージュですかね。実際しずかがアイス食べてるシーンなんて出てこなかったですからね。ん、ありましたっけ?

【キャラクター】
第二の主人公である高級諜報員、九郎のかっこよさが際立っています。言動、頭の切れ、そして人間味。さらに公式の場でも常にアロハシャツ笑。明人なんて霞んでいるもいいところで、1章以外は普通のサブキャラ扱いといっても過言ではないです。と、いうか別当スカーレット家ですね。父親八郎の飄々としたキャラクターも、しずかの健気さとデレ寄りのツンデレもとても魅力的でした。

個人的には、レベルの高い諜報員がもう何人か出てきてくれたら話に広がりが出たかなと思っていますが。フリーランサーのナセルと高級諜報員のマザランのみでしたので。

そして声優さんの力演が光ります。別当の現当主である八郎には数々の怪演が光る若本さん、ギャグ一切なしのシリアスモードで、彼独自の語り口を少し抑えた渋い演技がたまりません。そしてキャリアウーマン美月役が意外や意外、まきいづみさんなんですね。あの独特のロリボイスが強烈な印象にある彼女ですが、なかなかどうして、こういう声もあるんですね。そして僕が好きな声優さんで必ず挙げる2名、籐野らんさんがしずか役、夏野こおりさんがアメリア役というのもポイント高いですよ。


【音楽】
全体的にジャジーで大人っぽいBGMが多いですかね。個々の曲はいいのですが、細かい話をすると、音がちょっと電子音に寄り過ぎているため、曲が軽くなってしまっています。せっかくジャズテイストな曲ばかりを揃えたのですから、生音寄りの音作りにこだわってくれたら良かったですね。

エピローグに合わせて流れるED「Loose」は名曲でした。曲自体も良いのですが、ラストシーンがとても美しいので、相乗で良く聞こえます。


えー、以上Scarlettでした。埋もれがちな名作って感じですかね。評判の高さは前々から知っていましたが、プレイはしばらく経ってからでした。いい作品でしたよー。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【BALDR FORCE EXE】
BALDR FORCE EXE



メーカー戯画
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■■■■■ 9
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■ 7
アクション■■■■■■■■□ 8.5
総合【A】 83点

サイバーパンクエロゲ

真偽の程はさておき、「戯画はバルドチームでメシが食える」と揶揄されるほどに人気と実力を兼ねそろえた名作「BALDR FORCE」です。2002年発表の本作(18禁の『EXE』は03年)ですが、いわゆるサイバーパンクの典型ともいえるヴァーチャルリアリティの発展世界をベースにしています。世界観と物語はよく練られていて、エロゲにしておくのが実にもったいない笑。

【シナリオ】
電子世界が今よりはるかに発達し、虚構世界上での人間活動が現実世界のように多様性をもって活発化した近未来の日本。主人公の相馬透は、有名ハッカーチーム「草原の狼(ステッペン・ウルフ)」にて、電子世界上で起動する人型戦闘機「シュミクラム」を操り、仲間たちと自由な毎日を過ごしています。

ある日、リーダーである優哉の意志を尊重し、チームの解散を決定した「草原の狼」。しかし、そのラストの記念的活動となる軍隊データベースへのハッキング中、軍とテロリストの大規模抗争に巻き込まれてしまい、優哉は正体不明のシュミクラムに殺害され、仲間は散り散りに、主人公も逮捕と、最悪の形で解散を迎えてしまいます。

亡き親友の復讐を誓う主人公、スカウトされた軍隊内部にて独自行動で情報を探り始める彼ですが、やがて明らかになる大きな陰謀と事件に巻き込まれていきます…。

みたいな。


本作は、大きく分けて、ネット上の治安を司る「軍隊FLAK」、電子世界上のセキュリティ保安会社「V.S.S」、反政府テロ集団「飛刀(フェタオ)」と、3つの大きな勢力が登場します。プレイ開始時、主人公は軍隊に属すことになり、同じく軍隊に所属する彩音、みのりシナリオを読み進めることになるのですが、ゲームを進めると、V.S.Sや飛刀など所属する組織が変わるルートが出現し、本作の根幹にある事件を様々な視点から眺めることを可能とします

例えば当初、軍隊に所属しているため、テロリストである飛刀は常に敵として戦闘しますし、ゲンハという狂人キャラクターも出てきますので、飛刀は「暴力に訴える過激派」という印象が根付くのですが、リャンルートではその飛刀に属することになりますので、彼らの違った一面が見えたり(ゲンハは変わらずでしたが笑)、むしろその行動理由は正しいものであったこともわかりますし、今まで仲間だった彩音や洋介たちと敵対してしまう部分なども作品世界の幅を広げますね。

各々の立場や感情は、見る角度によって黒にも白にも変わります。現実の戦争や事件、もっと身近な日常にある個人間のいさかいなども、違う立場の人間の話を聞くと全く違った印象のものに見えてきます。本作は親友の敵を探す「主人公の復讐」を起点に物語がスタートしますが、ルートによる視点の変化や各キャラの事情がわかることにより、透の心情も事件の見え方も様変わりしていきます。この深みを与えるマルチストーリー設定は賞賛ものです。シナリオ担当は僕の大好きな丸戸史明さんも所属するライター集団「企画屋」の卑影ムラサキさん、御苦労さまです。


軍隊FLAK所属ルートは、みのりルートと彩音ルートですね。
チームの戦闘を実世界からサポートする役割を負う瀬川みのり、彼女のルートは、初期にて情報もほとんど無いため、本当にいち軍隊員からの側面的な見方しか出来ない、作品の世界観をつかむためのルートとなります。紫堂彩音ルートは、復讐が復讐を呼ぶ切ない話でした。んが、優哉の敵が愛してしまった彩音本人だったというのもあまりにもわかりやすく、ひねりのない展開で萎えますので、その引っ張り方とジレンマはもう少しうまく生かしてほしかったですかね。復讐への透の固執具合の割にはやけにあっさり解決しますし、彩音の行動原理が弟の復讐という背景も、もう少し書き込みが欲しかったところです。


これらの軍隊ヒロインルートを通ると、物語冒頭から登場していた「草原の狼」の仲間、笹桐月菜のルートに入れるようになります。健気におせっかいを焼いて透の心配をしてくれる幼馴染ですので、ふたりでV.S.Sに就職するルート分岐の登場は待ってましたといわんばかり。それもあってか、少年ハッカーを殺してしまうシーンから、月菜の存在の大きさを再確認し初めて思いを通わせ合うシーンへの盛り上がりは、丁寧且つ力を入れて書き込まれていたように思えます。また、本ルートはV.S.Sの一員として動いているため、前2ルートで共に闘ってきた軍隊の面々が同僚ではなく展開上出会う遠めのキャラとして描かれており、だからこそ彼らと透が仲良くなるシーンなどは読んでいて嬉しい限りです。

この子は何といいますか、おせっかいで元気な典型的な幼馴染キャラだというのに、けっこう扱いが報われないんですよね。貞操こそ守りますが「陵辱」という方法を用いて洗脳されるストーリー内容もさることながら、月菜TRUE ENDですらも、ふたりで地道に幸せを探す静かで暖かいENDであるものの、洗脳の後遺症で電子体に変化できない機能障害者になってしまうというヘビーなものでしたし。追加エロシーンも、唯一「浣腸器」を試されるというスカトロ設定でしたし。。。うむむ、どういうことよ。


そして、軍隊、V.S.Sときましたから、最後の勢力であるテロリスト集団「飛刀」に身を置くことになるのがリャンルート、飛刀の一員、天真爛漫で武闘派のチャイナ少女リャンです。いやはやこのルートはこれまでと毛色が違い面白かった。スラムの反体制勢力ということで雰囲気が違うという意味でもそうですし、今まで圧倒的な敵であったゲンハやクーウォンの仲間になることで彼らの違う一面が見えるという意味でもそうですね。

今まで登場してきた仲間たちがほとんど戦死してしまうのも切なかったですが臨場感はありました。さらに最初からザコキャラ扱いだった「草原の狼」時代の仲間あきらが本ルート一貫して身震いするほどに熱かったのも嬉しい誤算。ゲンハやリャンと透の過去が絡んでいそうな回想シーンや、八木澤、クーウォンなどのおっさん連中の過去など真実に向けた伏線提示がなされるルートでもありました。V.S.Sの陰謀は月菜ルートで明かされましたが、その仕掛けにみのりのトラウマも絡んでいるなど、このルートをプレイしていると、本作の登場人物ひとりひとりが過不足なく壮大な物語のファクターになっている…と、後半戦への期待がひどく高まる、中盤のつなぎとしては素晴らしいルートでした

しかしリャンルートでV.S.Sと交戦するシーンでは、主人公気づかぬうちに月菜を殺してしまっています泣

透「ふう、今の相手は手強かったな…」

ちょっと!幼馴染みですよ!今殺したの!



さて、リャンルートまでで、軍隊、V.S.S、飛刀と、それぞれの勢力に属したシナリオを通ってきていますので、三者の思惑を理解したうえで、自分たちの出自などさらに高い伏線解消に向かう最後の2ルートが、バチェラこと朝倉ひかるルートと水阪憐ルートですね。ここから先はネタバレ色が強いので、お任せします。

まずはバチェラ、「草原の狼」の仲間として冒頭からシュミクラムのみが登場し要所要所にて活躍していたものの、これまでの4ルートでただの一度として姿を現さなかった彼女ですので、満を持して登場です。とはいえ、OPムービーやタイトル画面にひとり見慣れぬ少女が出てくるのでバチェラの正体はなんとなくわかっていたのですがね。

んー、このバチェラの正体もそうですし、たまにカットインされる透の記憶シーンもそうなんですが、あまりにもネタバレすぎるんですよね。もっと巧妙にしてくれると、後半での驚きも大きかったと思うのですが……。


このルートは、バチェラのキャラクター的な魅力というのもありますが、軍隊~飛刀を横断しながら展開するシナリオと、物語の核心に向けて大きなうねりを見せるルートでもあるため非常に読み応えがあります。

彼女は幼い頃から、リアルの世界ではスラムの片隅で細々とたったひとりで、またネットの世界でも正体不明の凄腕ハッカーとして周囲と人間的な関わりを持たずに生きてきました。そんな境遇の彼女ですので、なんとしても幸せになってもらいたい次第でした。透と直に触れることで初めて人として、また女としての意識を芽生えさせていくバチェラにはなんとか手を差し伸べたくなりますし、軍隊の面々やクーウォンの彼女に対する優しさも温かいものがありました。ラストの「ワケありロリっ子が数年を経て美人になり帰ってくる」展開は、エロゲーお決まりの黄金パターン、幸せになってください、ひかる!

僕はロリでは…… ロリではないんです…… が……
彼女の健気さを守りたくなってしまいました
ロリコンがなんぼのもんじゃい。

ちなみに彼女は凄腕ハッカーなので、共闘していてラクなのがまたいいところです。あんまりこっちが動かなくても、「いけいけいけいけいっけーーー」と、バンバン敵を倒していってくれます。ですので、ラストバトルの対バチェラはイライラさせられっぱなしでしたが。


そしてラスト、電子世界で透の前にたびたび現れては突如として消える謎の電子体少女、水坂憐ルートです。最後の個別ルートに入るまではほとんど発言がありませんので、CVがまきいづみさんだとは思っていませんでした。ここまでのルートで、透、バチェラ、ゲンハにリャン、彼らが電子世界上での特殊能力を施された人体実験者だということがわかっていますので、その最後のピースを埋めるのが、透の義妹であり、実体と電子体の分離実験の結果、電子世界に取り残され、電子体幽霊<ワイアード・ゴースト>としてなかば伝説化してしまっている憐なのですね。

すべての伏線の完全解消、ラスボスの圧倒的存在感、透を守り死にゆく(実際は死んでいませんでしたが)仲間たちの熱さ、人間の魂と電子世界の関係を利用した各キャラクターの悔恨への救済もあり、その大団円的な物語構成は、ラストにふさわしいシナリオでした。

強いて言えば、透に施された能力がちょいと地味なので逆転劇をみせる展開上にて爽快感に欠けたのと、憐は実体が死んでいるため、電子体の中でのみ存在できるという概念は変わらず、どうしても現実世界での完全無欠のハッピーエンドにならない点がちょい寂しかったかなあ。まぁそういうビターな締め方は好きですけどね。

あとはリヴァイアサンが半端じゃなく強すぎるのが残念だったかな。アクションモードはサクサク進めたいタイプだったので、こいつの強さには何度もリプレイさせられることになり、気持ちが萎えかけました。

てな感じで長くなりましたがシナリオに対する感想はこんな感じですね。よく出来ていると思います。細かい書き込みで不満な部分もありますが、大枠の設定がしっかり作られていますので、ブレがありません。



【グラフィック】
シナリオもさることながら、やはり本作はシュミクラム戦――、アクションパートが非常に高く評価されていますね。正直僕はエロゲにアクションはあまり求めていないため、あってもなくてもどっちでもいいのですが、武器のバリエーションの広さや、敵とのレンジで区切った武器の発現条件、コンボの爽快感など、確かにこれは良くできている。

やりこめばやりこむほど強力な武器が増えていくシステムといい、カスタムして自分好みの武器設定を行えることといい、繰り返し要素も強いですね。アクションパートに特化したサバイバルモードという遊びも別メニューでありますし。この戦闘シーンが物語にメリハリをつけていたのも確かです。これらのシーンをすべて文章で見せなければならなかったとしたら相当ハードルが上がっていたのではないでしょうか。

あ、そうそう。繰り返し要素といえば、ヒロインとのHシーンも、ヒロインが初めて男女の関係を持つ1周目を経ると、2周目ではある程度Hに慣れた状態としてリスタートが切れたり、Hアイテムが利用できるようになったり、という仕組みもバリエーションに幅をもたせるという意味では面白かった。一応18禁ゲームだということをわかってらっしゃる


CGの数も豊富でグッドです。戦闘パートとシナリオパートを交互で進めるためメリハリは十分ついているのですが、一枚絵CGの豊富さがさらにゲームの横幅を広げています。また、OPムービーはいまやエロゲOPの代名詞ともいえる神月社さんですが、恐らくこの'01~'02頃にかけて彼個人の作品が台頭しだしていますね。本作のOPも初期最高峰として、高く評価されているようです。音楽と相まって、非常に完成度の高いOPです。


【キャラクター】
主人公は、おとなしそうな見た目の割には激情家で行動派の人間なため好感が持てます。そしてエロシーンではさらに別人のように変態君になります。

男キャラがいい味を出すゲームに良ゲーは多いですが、本作も仲間、敵、総じて男キャラのインパクトが大きいですね。まぁ圧倒的なのは飛刀の副リーダーであるゲンハさんでしょう。これくらい狂っていると逆に爽快です。彼は卑屈で汚い狂人ではなく、信念と実力を兼ね揃えたまっすぐな狂人なので笑、そこまで不快感にならないんですね。台詞はもちろんですが、声優さんのぶっ飛んだ演技も素晴らしいです。

そして意外だったのが、「草原の狼」時代の仲間あきらがかなり熱い。特にリャンルートでは何度か共闘することになるのですが、透への信頼具合や、最後の散り際など、リーダーの優哉を軽く超える友情がそこにあります。卑屈そうな立ち絵と登場時の扱いのヘタレ具合から、小物臭がむんむんだったんですが、 だからこそのギャップが凄まじい。憐ルート終盤で、透が各ヒロインと結ばれているこれまでのルートをフラッシュバックするシーンがありますが、ここにあきらの自爆シーンもあるのが、彼の存在の大きさを物語っています笑。

ヒロイン勢では、僕はロリではないですがバチェラが一番良かったです。他ヒロインルートでのクールさと自己ルートでの脆さのギャップがたまらんです。それからヒロインのリャンは、能天気なチャイナ少女、というだけで僕好みなんですが、期待にこたえるかわいさでした笑。


【音楽】
BGMは特筆すべきこともなく実に普通なので、とりたてて何も言及しません。ので、OPの「Face Of Fact」、これがすべてかと。作品の雰囲気を体現しているという意味ではバッチリの疾走感ある曲。また憐ルートで素晴らしい演出があり、透が洗脳を克服するシーンでこの曲が使われるのですが、透が自分を取り戻す瞬間にイントロの鍵盤が鳴り出す場面は鳥肌です。んーただですね、これはラストバトルだったり、月菜や彩音たちが透をかばい死にゆくシーンで使った方がより熱かったのではないでしょうか、とも思いました。


以上、BALDR FORCE EXE でした。確かにこの作品がゲーマーたちに愛されているのもよくわかります。ただ、AVGパートにおいて、EDにかけてのあっさりした演出やBGMの完成度など、やはり年代相応の作品であることは否めません。正直なところ、これは2002年にリアルタイムでプレイしておきたかったですね~。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム