2ntブログ
エロゲ レビュー ブログ
【fate/hollow ataraxia】
fate/hollow ataraxia



メーカーTYPE-MOON
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■■■■□ 8.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■■■ 9
妥協なし■■■■■■■■■■ 10
総合【A+】 87点

最強のファンディスク

超絶ヒットをかました「fate / stay night」のファンディスク……とはいえファンディスクの枠を大きく越えてひとつの作品としてしっかりと出来上がってしまっています。これが本当の意味でのファンディスクですよ。この力の入れ込み具合、素晴らしいですね。

【シナリオ】
本作、日常シーンがメインに描かれ、血生臭かったstay nightではなかなか描けなかった優しい風景がわんさか描かれているのは喜ばしい限りです。ですが奈須きのこさんのテキストはとにかく言い回しが独特であると共にボリュームも物凄いので、日常シーンばかりが延々と続くと気だるくなってきてしまうのも事実。もちろん好きなキャラクターが登場する場面はそれなりに楽しめるのですが、自分の中ではどうでもいいキャラの長いシーンなど、我慢できずにスキップしてしまうことも正直ありました。……ということですが、実はそのあたりの漫然とした日常シーンはサブライターさんが担当しているみたいですね。奈須きのこさんは、本編であるhollowパートを主に執筆されたとのこと、さすがの仕事です。

しかし日常シーンが多い一方で、中心にはシリアスなシナリオが一本平行して描かれています。そちらの展開やラストシーンは正直 stay nightのものよりもまとまりがよく、非常に熱く素晴らしい出来だったことは嬉しい誤算でした。stay nightあっての本作であることは重々承知していますが、本編後半の盛り上がりが絶賛レベルですんで、個人的にシナリオ評価はファンディスクながらも元作品以上の評価を与えたいところです。


stay night の半年後、前作同様の冬木市が舞台となります。聖杯戦争はとうに終了しているにも関わらず、なぜか日常を変わらぬことなく過ごしている英霊サーヴァントの面々と、それを日常として受け入れているマスターたち。そして繰り返し続ける異質な4日間と、夜だけ進行し続ける新たな聖杯戦争。一体なぜこのような状況が起こり、そして一体誰がこの原因を作り出しているのだろうか…といった感じですね。

というわけで、4日間のうち、昼はコミカルな日常パートが、夜はシリアスなhollowパートが交互に描かれ、イベントを通過し何度もループを重ねていくごとに、徐々に士郎が真相に近づいていく、という形式をとっています。

日常パートは、セイバーや凛、桜との相変わらずの温かいやりとりもさることながら、人気の高い兄貴ランサーが日本の日常にひどく馴染んでいるシーンや、悪役ばかりだったキャスターのコミカルな素顔、眼鏡ライダーの奥ゆかしさなど、殺伐とした前作ではありえなかったシーンが盛りだくさんで、fateファンの「if」にガッツリ応える微笑ましいシーンの数々ですね。

まぁ実のところ、fateの日常描写や笑いは個人的にはそんなに馴染まないため(萌えは別)、そう求めていない部分なんですけどね。でもランサーやライダーの英霊に至る回想が入ったりするのは良かったですね。


そして本編、こちらが素晴らしい出来でした。さて以降は伏字ばかりの文章になりそうですが、まず繰り返し続ける4日間の設定が非常に巧みですね。

前聖杯戦争で神父の言峰綺礼に参加権を奪われた教会派遣のマスターがいましたが、それが本作ヒロインのバゼット・フラガ・マクレミッツですね。彼女は、最弱のサーヴァント「アヴェンジャー(復讐者)」を従え、4日間の聖杯戦争をループし続けています。

それは死を恐れ聖杯戦争の継続を願ったバゼットの思いと、アヴェンジャーが何気ない日常に触れてしまったために始まったループであり、サーヴァントであるアヴェンジャーが以前参加した第三次聖杯戦争を4日目で敗退したため4日間という期間で回転している、というカラクリでした。

そしてアヴェンジャーが借り宿して現界しているのは実は主人公の衛宮士郎。本作における士郎は、本来の士郎というよりは、アヴェンジャーが姿を借りている士郎ということになります。ただ、別に士郎の偽者というわけではなく、士郎本人であることに変わりはありません。わかりにくいですね。奈須ワールド炸裂です。
アーチャーやイリヤは士郎が士郎でありながらアヴェンジャーが潜んでいることを理解しています。ですので、今回のアーチャーは最初から士郎を殺しにかかってきますし、イリヤは全てを見抜いた上で、謎に気づいた士郎の道しるべ役となります。

いや、皆本当は気づいていたのかな?ラストの決戦の時にそのような描写、台詞がところどころありますから。相変わらず細かい設定が難しいですね。第五次聖杯戦争のメンバーをキャストとした第三次聖杯戦争の再現、本来ランサーのマスターだったバゼット、士郎を通して日常を過ごし、そんな日々に憧れたアヴェンジャー、このあたりの仕掛けを念頭において、うんうん唸って「あーこういうことなのかな」とやっと理解する感じです。


ラストの盛り上がりは凄まじかったですね。物語を終わらせるべく、ループを実行し続けている聖杯「天の逆月(杯…うまい!)」に向けて空を上る士郎もといアヴェンジャー、それを阻止しようとするアヴェンジャーの分身たる影モンスター「無限の残骸」。この「無限の残骸」と、fateメンバーとの戦闘シーンはオールスターズの大決戦といった様相でひたすら燃えまくりました。凛&アーチャーの橋梁上の迎撃シーンから始まり、マスター&サーヴァント面々の見せ場がこれでもかというほどあり、最後に守護神セイバーの超見せ場がありましたねー。また本気を出すギルガメッシュのかっこよいこと、かっこよいこと。

そして最後のバゼットとアヴェンジャーの契約破棄シーン!宿主の士朗の馬鹿正直さに感化され、異質な物語の幕を下ろす決意をするアヴェンジャーにはしびれます。弱さ、平凡さ、そんなものが溢れる日常に憧れ続けたアヴェンジャーと、強さの裏にある儚さから永遠の4日間を望み続けたバゼットが、自分たちの世界に折り合いをつけ世界を終わらせるわけですがバゼットは実は生きていた5日目の自分へ、アヴェンジャーは「終わり」の先にあるかもしれない何かへ……聖杯が崩れゆく中、お互いの希望に向かって背を向け合い走り出すシーンは落涙必至の超絶名シーン。ここのBGM「last piece」がまた神がかっていて、僕個人としては、fate 全シーンの中で最も気に入っているシーンです。セイバーの夢の続き、凛とアーチャーの別れ、といったstay night 屈指のシーンも本シーンには適いません!!


【グラフィック】
原画はstay night 同様武内崇さん。もうタイプムーンで奈須きのこさんといったら、もうこの人しかいないですよね。また、相変わらず豊富な立ち絵や、戦闘エフェクトなどの画面効果もstay nightと比べて遜色ありません。かなり気合の入った作りになっています。

またFDならではのオマケ要素。花札なんかはついつい時間を忘れてやりこんでしまいますし、オマケ原画が見られる絵馬もがんばってコレクトしてしまいますよね。それからゲストを招いての壁紙コーナーですが、ここに名を連ねた原画師さんたちのそうそうたる顔ぶれと言ったら!


【キャラクター】
日常パートは、コミカルな面から描くことで完全にキャラクターを良く見せようという意図満載なので、そりゃあ生きてきます。人気を二分する女性キャラであるセイバーと凛は、元来あった面白い面をさらに押し進める形で、3ヒロインの中ではイマイチ影が薄かった桜は、本作でより健気で明るく大胆なキャラに描かれ魅力度がアップです。

ライダーやキャスターも、hollowパートよりも日常パートに重きを置かれていますので、だいぶ印象が変わるのではないかと思います。一方、従来キャラの中では、飄々としていながらもバゼットとの絡みでシリアスシーンの楔として描かれるランサーが熱かったですかね。stay nightで最も泣かせてくれたサーヴァントであるアーチャーは、本作では登場シーンが限られ、少々影薄かったかもしれません。まぁおいしいところでしっかり活躍するのですが。

新キャラの中では、バゼットがいいです。しっかりしてそうな見た目の割には判断力が甘く後ろ向きなところもある彼女ですが、そこがまた良いです。人間でありながら法具を扱うというのもカッコイイ。後出ししながらも因果を逆転させ先制攻撃に変えてしまう「フラガラック」という法具ですが、「因果の逆転」というとstay nightファンの方ならわかりますよね。バゼットと彼との一騎打ちシーンは見ものです。

もうひとりのヒロインであるカレン・オルテンシア。彼女はループ世界という虚構の中で実体を持って行動していますが、本来は人間としての機能をほとんど失っている状態、という設定が非常に痛々しかったです。

しかし彼女をヒロインとして深く絡ませる必要があったのかイマイチ判然としません。まぁ確かに彼女がバゼットの命を救ったのも確かですし、唯一アヴェンジャーを士郎上に体現させることの出来るキャラクターとしての絡みは面白かったのですが。何故彼女はこの作られた世界に入り込んできたのかとか、そもそも彼女の本作における立ち位置だったり、悪意を自身に投影してしまう被虐霊媒体質という設定の必要性はあったのだろうかとか……。

あ、でもカレンの介入によりループが成立しているわけなので重要役といえばそうか。「もっかい読め」とか言われてしまうかもしれませんが、ここらへんはどなたか意見をくださると嬉しいです。


【音楽】
使いまわしのない、ファンディスクとは思えないその充実ぶり。ラストシーンで使われる「last piece」があまりにも秀逸すぎます。僕が今までプレイしたエロゲの中でも屈指の出来を持つBGMだと思っています。「カレンのテーマ」なんかもいいですね。儚げな存在である彼女に合った曲です。そしてラスト戦闘シーンの「outbreak」「war」も燃えます! OPも相変わらずいいですね。stay nightに比べて緩やかで流麗とした趣きの曲です。


てなわけで、hollow ataraxia でした。
単純に感心してしまいます。「月姫」という名作を経て、空前の大ヒットエロゲとなったstay nightのFDですからね。下手なことは出来ないじゃないですか。そしたらこの完成度ですよ。ファンディスクであるというに、普通のゲーム、いやそれ以上の密度ですからね。

関連レビュー: fate/ stay night



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【この青空に約束を―】
この青空に約束を―



メーカー戯画
シナリオ■■■■■■■■■■ 10
グラフィック■■■■■■■■■□ 9.5
キャラクター■■■■■■■■■■ 10
音楽■■■■■■■■■■ 10
郷愁■■■■■■■■■■ 10
総合【神】 99点

学園モノ最高峰

この青空に燦然と輝く大傑作だと思います。学園青春ゲーに弱い僕にとっては涙腺タコ殴りな作品でした。テーマといい雰囲気といい完全に僕のツボにドストライクなうえ、シナリオ、絵、音楽すべてが超王道にして最高峰レベルでまとまっています。

当時の僕は、誰が何と言おうと完全に南栄生島の住民でしたから、周りの仲間たちに散々心配されていたようです。美少女ゲームなんてものとは完全無縁な女友達にも普通に南栄生島の魅力を説いていたのですから、たぶん本当に頭が狂っていたのでしょう笑。当時は彼女もいませんでしたしね。あ、彼女は海己でした

【シナリオ】
本州から少し離れたところにある南栄生(みなみさこう)島。かつては賑やかだった島も、島の産業収益の大部分を占めていた出水川重工の撤退により過疎化が進み、主人公・星野航が通う高見塚学園の生徒数も減少の一途を辿っています。

そんな島にある高台の上に、学園の旧校舎を改装した学生寮『つぐみ寮』があります。学生の減少にともない現在は主人公とヒロインたちしか住んでいないこの寮、翌年の3月には廃寮も決定しており、またほとんどのヒロインは卒業や出水川重工に勤める家族の都合など各々の理由で島を去ることが決まっています。そんな寮になぜかこの時期にやってきた転校生を巻き込み、時には支え合い、時には反発しながら楽しい毎日を過ごしていきます。

迫る別れを肌で感じながらも ――。


も… も…… も………


…おっと、精神が島に旅立つところでした。


シナリオ担当は、ショコラ、パルフェでその名を轟かせた丸戸史明さん、パルフェと双璧をなす丸戸作品の最高作品だと思います。世間的にはパルフェが一番評価の高い印象ですが、個人的には僅差で本作の方が上です。まぁ両作とも素晴らしいシナリオ群ですので、そこでパルフェをとるか本作をとるかはもう好みなのかなとも思います。


前半部共通パートは、航とヒロインたちが暮らしている学生寮に、メインヒロイン沢城凛奈が引っ越してくるところから始まります。周囲の人間を拒絶して受け入れようとしない彼女を仲間として巻き込んでいく過程が描かれるのですが、前半部ラストの凛奈が皆に謝り和解するシーンでは、まだまだ前半だというに相当の泣きの演出が入ります。その後、選択肢で短い個別イベントをいくつかこなしていく中盤を経て、後半で各ヒロインルートに入る感じですかね。ゲームとしてはパルフェと同等の戯画システムを使った非常にオーソドックスな形態です。


兎にも角にも雰囲気がいい、これに尽きます。批評空間で、『雰囲気の良いゲーム』断トツトップなのも頷ける空気感。音楽があまりにも秀逸というのも大きな要因ですが、都会から離れた田舎の島という舞台上で、素直で求心力のある魅力溢れる主人公と優しく元気なヒロインたちが織り成す学園物語という設定には、やはり惹き付けられるものがあります。随所で描かれる登場人物たちのテンポの良い会話も非常に微笑ましく、また温かく、どんどん感情は引き込まれていきます。丸戸さんのテキストはクセがなく、いかにも狙いすましたかのような文体でもありませんので、そのオーソドックスさが余計にこちらの心象を煽ります。


さて、本作は「別れ」が全体のメインテーマになっています。どのヒロインルートでも、「卒寮」という共通のゴールラインを軸にし、各々の境遇や感情を「別れ」という観点から巧みにシナリオに絡ませています。その「別れ」という設定を最も高いレベルで描ききったのが季節外れの転校生凛奈ルートと幼馴染海己ルート。特に、ピーターパンにとってのネバーランドと凛奈にとっての南栄生島を見事に絡ませ昇華させた凛奈ルートの文化祭演劇シーンは、むしろピーターパン本編が後付の物語だったのではないかと思ってしまうほどのシナリオの練り込みを感じさせます。そりゃ言い過ぎか笑。

しかしてその凛奈、パッケージにもでかでかと載っている本作のメインヒロインにして共通シナリオの中心ヒロインですが、実は彼女は物語のコアな設定に関わってくるヒロインではなく、どちらかというと、しがらみなく "現在の"航との独立した話を一本立てる役を担っているヒロインです。

これはパルフェのレビューでも書いているのですが、丸戸史明という人は、表にメインヒロインをひとり立てる一方で、主人公の過去と因縁のある「裏ヒロイン」のような存在を設定することで有名です。それは、ショコラでいう香奈子であり、パルフェでいう里伽子でした。本作で主人公の過去と因縁を持っているのは、海己、奈緒子、そしてです。海己、は幼少時、奈緒子は中学生から島の中にいた人間であり、航との間に個別ルートでしか語られないドラマがあるのですね。

一方で凛奈が航と初めて関わったのはゲーム開始直後の時間軸であり、そういった意味ではどうしても積年の思いがある海己ルートなどとぶつかってしまうとはじかれてしまうのは致し方ないところ。とはいえ、前半共通パートの和解シーンから、上記の文化祭シーン、それから二人で思い出の地を巡り最後に航が指輪を渡すクライマックスのシーン、といったわかりやすく感動できる盛り上げどころを確実に盛り込んだメインヒロインらしい王道ルートではあります。個人的には海己ルートに次いで好きなルートです。


さて一方で、幼少時のトラウマといった負の設定を物語の核に使われているのが羽山海己ルートです。ふたりの片親同士が駆け落ちし、残された者たちが不幸になったという過去を持つ因縁の二人ですので、幼馴染といえど、僕らが夢見るいわゆる幼馴染属性ではないわけです。当人たちはおろか両親族にとっても、航と海己が結ばれるということは深刻な事態なわけです。海己も誰かが不幸になることを恐れている。その壁を乗り越えられない弱い海己と、乗り越えようとする強い航の物語……でもですね、ここにはちょっとしたギミックがありまして、最後の山場に向けて、その境遇の打開を成していく役割を、航ではなく海己が負っていくというのが本ルート最大の肝だったのだと思います。この流れは、ファンディスクのフォセットに収録されている追加シナリオ「この冬空に歌声を―」にも引き継がれていくものであり、丸戸さんの非常に長けた構成力を感じました。彼はこういった「役割の逆転」といった手法を非常に巧く書き分けます。

彼女は、物静かながらも内に秘めた情熱は強く、最もつぐみ寮の絆を信じている人間です。だからゆえに最も皆の別れを恐れている人間でもあり、作中随所に表れるそういった彼女の心の機微は、都度読み手を切なくさせます。

彼女のルートでとにかく心を揺さぶられたのは、海己がつぐみ寮の存続を訴える文化祭の演説シーンでした。海己の演説もさることながら、終了後一番最初に拍手をしたのが、羽山家と確執のある星野家の人間――、航の祖母だったというのがまた嗚咽です。おお、思い出しただけで鳥肌が。

そういった意味では、現在の航とストレートに結ばれるニューカマー凛奈と、過去を乗り越えたうえでやっとこさ結ばれる最古参海己という異なる2タイプのメインヒロインが本作にはいると考えて良いと思います。天真爛漫で直情型の日向キャラ凛奈と、目立たず大人しく献身的な日陰キャラ海己、180度正反対に描かれる性格も、その対照的な二人を同格に位置させようとした表れではないでしょうか。


そして、そんな2メインヒロインの影に隠れることなく、むしろ喰おうかってくらいの勢いで、他ヒロインも存在感をバッチリ主張しています。

まずは生徒会長にしてつぐみ寮の大参謀、浅倉奈緒子。彼女の姉御気質の裏にある仲間への思いやりと優しさはたまりません。彼女は数年前、航の過去との間にどでかい伏線を持っていて、それは完全に彼女のルート内でしか見ることができませんでした。彼女のルートは過去伏線の回想と、その過去と連動した現在を中心に描かれます。航が彼女のことを名前ではなく「あんた」「会長」と呼んでいるいきさつなども二人の過去に絡んでいるとは思いもしませんでした。そして彼女のルートを経た後ですと、他ヒロインルートでの彼女のセリフや行動がとても深みのあるものになります。

ちなみに奈緒子ルートは、本編よりもエピローグで感動したというユーザーも少なくないのではないでしょうか…。彼女の温かさ、思いやり、実行力がよく表れている全ヒロイン中最も気に入っているENDです。ここの一枚絵も完璧ですね。


高見塚学園理事長代行兼つぐみ寮管理人にして大財閥六条家の才女、でも天然ドジっ子六条宮穂。お嬢様と一般市民の恋愛、という図式に則った超王道シナリオでした。特にこれといった仕掛けもない設定だというのに、こんなに泣いてしまうのは何だろう。やっぱり演出がいいんですよねえ。宮穂の祖父が作った南栄生の校内新聞を全て集めることで彼女を迎えに行くという航の男気にも惚れました。

しかし彼女は天然で空気の読めない発言をバシバシしながらも、物事の本質を常に理解し見据えています。そういった意味ではサブキャラの立ち位置で魅力を発揮するキャラであり、実際自分のルートよりも、他ヒロインのルートでの方が彼女らしさがよく出ていたかもしれません。…まぁ泣きましたけどね、宮ルートも。


親の愛情を受けずに育ち、つぐみ寮に唯一の居場所を見出している藤村静。彼女のルートは、彼女の成長物語……ではなく、彼女を成長させ物語、ですね。静は恐ろしいくらいお子様なので、それを親代わりになっていた航や沙衣里があの手この手を尽くして彼女を成長させることが主となります。そして、本ヒロインが至らない代わりに仲間モノとしての体をみせるのがこのルートの良いところといいますか、ある理由から部屋に引きこもった静を航が何日もかけて説得する山場で、いつまでも折れない静を叩き伏せるために援軍として奈緒子が登場するシーンは感動ものであり、またここでかかるBGM「約束のブーケ」が泣かせてくれます。

因みにこのシーン、つぐみ寮メンバーのあまりの温かさと優しさに泣くシーンですが、奈緒子との過去の伏線を知ったうえでプレイすると、奈緒子の切なさに心が締め付けられるシーンでもありますよね。


最後にダメダメ教師桐島沙衣里、通称さえちゃんですが、彼女は完全にキャラクター勝ちで、丸戸さんのキャラ作りの巧みさが改めてよくわかるルートです。最年長ヒロインにしてギャグ担当という、稀に見る設定を持つ彼女は、適当で優柔不断で、社会人らしさも責任感もなく、教え子の奈緒子に頭が上がらないわ酒に逃げるわで、教師兼寮長とはとても思えない存在です笑。航との恋愛も、教え子相手に半分済し崩し的に少女のように堕ちていってしまいます。そこが可愛いのですが。

そんな彼女だからこそ、マラソン大会で凛奈を叱責するシーンや、静ルートで航に怒りをぶつけるシーン、そして自身のルート山場である退学寸前の航を救うために他の教師をたった一人で説得するシーンが恐ろしいくらい異常に際立ちます。

学園モノにおいて、攻略可能な教師キャラで愛着を持たれるキャラなんて早々いません。それは青々しい高校生ヒロイン勢の中に、大人の視点を持つ落ち着いたヒロインを入れ込むことでキャラクターの広がりを出すための役割が強く、年が少し離れていることもあり、どうしてもサブキャラ扱いになってしまうんですね。しかしこと沙衣里においては、その役割を奈緒子に譲り全く無視している笑。教師=大人というある種の定型を崩した好例であるといえます。


さてさて、上記にて僕は「別れ」がメインテーマと書きましたが、実はどのヒロインルートでも、一番の肝となりそうな卒寮シーンが描かれません。ストーリー上、3月の卒業は必然であり必涙であるはずなのに、どのヒロインルートもそこに至る前にエンドロールを迎え、エピローグはその数年後の二人が描かれるばかり。わたくし、「まぁ敢えて描かず余韻を残すのね、それもまた良いじゃない」と考えていました。


しかし、あるのですね!(ドーン)


全ヒロインルート消化後に、「約束の日」というつぐみ寮最後の日を描くエピソードが追加されます。これは泣けるなんてもんぢゃあないよ。展開なんてわかりきってるのに泣いてしまう、ずるすぎる。状況設定からして既に泣けるというのに、あの最後の皆が泣きながら合唱するシーンなんてやばすぎでしょう。またこのシーン、気づいた方は気づいたかもしれませんが、いつも人を喰ったようでいて、「海己はすぐ泣くだろうねぇ~」とか飄々と言っていた奈緒子が一番最初に泣き出します。こういう細かい演出もあざとすぎてダメですよ。



以上でシナリオは終わり……と思いきや、まだまだありました。どんだけですか!どんだけ泣かせれば気が済むのですか。

実はまだ凛奈ルートにおける重要な伏線が未回収のままになっています。それは、幼少時に航がとある少女に託した『逢わせ石』の欠片の行方、ですね。ふたつに割った南栄生特産の赤石をもとの形に合わせたふたりは幸せになれるという伝説――、しかし凛奈が持っていた逢わせ石の片割れは、航のものではなく、航の兄貴分である隆志さんのものだったということで決着していますので、それじゃあ航があげた逢わせ石の片割れは誰が持っているんだ、ということで茜ルートがおまけで追加されます。

サブキャラながら抜群の存在感を示す茜ですので、これは嬉しい流れでしたし、本シナリオ、彼女の健気さがたまらなく切なく、彼女への好感度がさらに上がります。そして、ただのギャグシーンだった本編序盤の彼女の登場シーンが非常に悲しいシーンに様変わりしますよね。


……といったシナリオレビューですが、改めて考えてもやっぱり名作ですねえ。僕は本当にどのヒロインルートでも泣き入っていました。各ルートの山場では当然のように大泣きでしたし、奈緒子の試験シーンや静の両親の現況がわかるシーン、海己が他ヒロインルートで苦しみながらもいちいち航の理解者であろうとしてくれる姿など、小さいイベントでも都度落涙していました。いやはや、恐るべしです。



【グラフィック】
パルフェ期と比べて、少し線が細くシンプルになったような気がしますが、それでもねこにゃん原画の魅力が衰えることはありません。立ち絵、一枚絵ともに魅力的なヒロインたちが描かれています。思い入れ補正もだいぶかかってしまっていますかもしれませんが、大好きな原画家さんです。

また「約束の日」シナリオにおける最後のヒロインたちのラフ画は尋常じゃない演出だと思います。

PCと連動したメニュー画面の仕掛けも面白いですね。つぐみ寮をバックにしたものですが、現実時間にあわせて昼になったり夜になったり、月に1回4日だけ夕立ちが降っていたり(4月4日が凛奈と航が出会う日なのでしょう)、その翌日だと地面がぬかるんでいたり、22時台だと航の演奏BGMに変わっていたり、「約束の日」20日の夕方ですと「さよならのかわりに」が流れていたり…と凝りすぎです。


【キャラクター】
パルフェは個々のキャラクターが目立つ感じでしたが、こんにゃくはもっと全体的、といいますか、皆が揃って初めて最強の魅力を放つ、といった趣きです。もちろん一人一人最高ですよ。寮での日常場面など非常に温かく、ひとりひとりのキャラクター性は放っておいても歩き出しそうなほど生き生きとしています。ですが、「つぐみセブン」にして個であると敢えて言わせてほしいのです。これはそういう繋がりにむせび泣くゲームなのですから。

個人的に好きなキャラは、奈緒子沙衣里、そしてですかね。奈緒子はその強さと絶対的な信頼の裏にある彼女の葛藤と優しさが丁寧に丁寧に描かれていたため、さえちゃんはそのダメっぷりと社会の歯車に翻弄される様が、そして茜はプレイ済みの方は言わずもがなですかね、本当は真のヒロインであるというのに、それを破天荒なキャラでひた隠しにする健気さからです。

主人公は星野航、丸戸作品らしい主人公ですね。元気で求心力があり、仕事も出来、それでいて情に脆い、おおよそ主人公としては理想に近い性格をしています。文句なしでしょう。

唯一ですね、これはパルフェの時も思ったことなのですが、つぐみ寮メンバーに男キャラがもう一人いればより良かったのになぁなんて思うんです。これはホント個人的な意見かもしれませんが「仲間」「チーム」をシナリオ前面に押し出す場合、男女数のバランス、ってのは大事な要素だと思うんですよ。"男ひとり、女多数" のチームってのは、やっぱり勢いに限界があると思うのです。男が数人いて始めてチームってのに勢いが生まれる、そういうもんだと思うんですよ僕は。

全員同性、ってのも良いチーム形態だと思いますが、エロゲで全員同性ですと、どちらの性に転んでも物語が成り立ちませんので笑、是非もう一人だけ、重要な男キャラを内部に配置してほしかったんです。たらればは嫌なのですが、もしも、あやかしびとやリトバスのような異性キャラバランス感があったならば文句なしだったなぁ…とか思ってしまうわけです。

んー、とはいえ、つぐみセブンに男をもう一人加えるってのは、そもそもの前提を覆す変化ですし、それにより雰囲気や流れが変わってしまうのも確かではあるんですけどね。強いて言えばわたくしがもう一人のつぐみ寮生だったのでカバーできているといえばできているんですけど、何故かわたくしに課せられた絡みはクリックをすることのみでしたので。

んまぁ、でも丸戸さんってそうなんですよね。ラブコメ至上主義といいますか、あくまで男キャラは、物語の根幹に関わるのではなく外からのサポート役として描かれますし、それが丸戸世界の味なんですよね。わかっちゃーいるのです。なので好みの問題です。美少女ゲームに男キャラなんてそう何人もいらねーよ!って人もいるかと思いますしね。

ま、こうは書きましたがキャラクター点も10点です。つぐみ寮メンバーや三田村兄妹、雅文や紀子、星野夫妻、海己の父親、吉倉先生…と素晴らしい面々が揃っているのですから。


【音楽】
音楽は、正直今まで僕がプレイしたゲームの中でも屈指の出来だと思います。

歌付き曲である、OPの「allegrette」と、文化祭シーンにて絶妙なタイミングで流れる「Pieces」、必殺シーンで流れる「さよならのかわりに」も勿論素晴らしい出来ながら、作中BGMでここまで総合的なレベルの高い作品は見たことがありません。「約束のブーケ」「もうひとつの青空」は最高クラスの名曲、ギャグシーンでこれがかかっても泣いてしまうような気がしてしまいますし、「風のアルペジオ」「春を待つ少女のように」「Two of us, Seven of us」「あの時、君が振り返ったなら」…と泣きBGMがこれでもかというほど揃っています。他、全体的に温かく穏やかな曲が多く、南栄生島の世界観に貢献しています。


以上、この青空に約束を―、でした。

設定として、決して何かが突出しているわけでもなく、強いドラマ性があるわけでもない、普通の人物たちの物語ではあります。であるがゆえに、この空気感と感動を生み出すことができたともいえますし、さらに、だからこそライターの力量とスタッフの演出に賛辞を送りたいのです。

最高に素晴らしい、僕らの「あの頃」の感情を強く揺さぶる作品でした。



【加奈…おかえり!!】
加奈…おかえり!!



メーカーD.O.
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■■■■□ 8.5
音楽■■■■■■■ 7
■■■■■■■■■■ 10
総合【A】 80点

死をエロゲーで描く

D.O.が誇るエロゲ界の殿堂入り、「加奈」です。筑紫哲也の「NEWS23」で取り上げられたことでも話題になりました。とはいっても、これはオタクバッシングのための材料として使われただけではありますが、まぁ数多のゲームの中から選ばれたということで、当時の代表作であると捉えて良いでしょう。

【シナリオ】
あらすじ。主人公藤堂隆道の妹加奈は、慢性腎不全のため幼少時から病院で大半を過ごす毎日。ある事件をきっかけに彼女を守り、幸せを願い続けようと誓う隆道と、そんな生活のため一人も友人がおらず、また皆が当たり前のように通ってきた経験を何ひとつしていない加奈の心の通わせ合いが全てとなるシナリオです。

シナリオは山田一さん即ち田中ロミオさんですね。『家族計画』や『クロスチャンネル』といった非常に優れたシナリオ作品を残しているライターさんです。本作、十時間もあれば終わる比較的ライトな作品ではありますが、「妹の死」というハンパなく重い題材を扱っているため、強い印象を残します。

妹の幸せを願い守り抜くことを誓った主人公の決意や葛藤、家族以外の世界を知らない加奈の寂しさや健気さ、そしてやがて兄妹ながらも惹かれ合ってしまう二人……、特筆すべきは、登場人物の感情の書き込み、ここが非常に優れています。本作、設定がガチに固まっていて、あとはこの2人を完全に中心として話が動くというシンプル構成だということもあるかもしれませんが、彼らの心の動きへのアプローチが非常に鋭いんですね。

死に対するシナリオや狙ったようなセリフのあざとさもなく、実に自然に物語は展開し、読者に様々な感情を投げかけてきます。特に、死期間近の叔母、須磨子さんとの触れ合いや別れを展開に盛り込むルートはその辺の心の機微が非常に巧みで、死に向き合う加奈の感情模様が切ないくらいに丁寧に描かれています。

物語を読み進めるうちに弱っていってしまう加奈と隆道の心の動きがあまりにも見事です。「死」をメインテーマに描いたエロゲーで、本作の右に出るものはないでしょう。


また、隆道の同級生鹿島夕美や、加奈の同級生伊藤勇太、彼女たちを置いて物語は語れません。プレイしている側の僕らは、兄妹で好き合ってしまっている藤堂兄妹に対して大きく感情移入をしながら物語を読んでいます。ですので、隆道や加奈それぞれを想っている夕美や勇太は障害とまでは言いませんが、あくまで僕らにとっては藤堂兄弟が結ばれる過程をお膳立てする盛り上げ役でしかありません。しかし、彼らの立ち位置、考え、行動はすべてごくごく真っ当なものであり、また誠実なものでもあります。むしろ彼女たちの方が正論であるといっても良い。だから彼女たちを意識からはじき切ることができないんですね。うまいですよ、これは。

あと、田中ロミオさんは他の作品でもそうなんですが、エロシーンを必然的に入れてくるところが巧いですね。世間で「泣きゲー」と呼ばれる類のゲームは、正直なところエロシーンがなくても物語が十分成立します。ですが、本作は夕美や加奈とのその手のシーンは物語を進める上で必然的なんですね。加奈と結ばれようが何しようが、物語展開上、夕美との一夜は必須シーンなんです。ここは、ただエロシーンを入れればそれでいいという風潮に対するライターのこだわりのようなものを感じます。

加奈と結ばれるシーンももちろんありますが、まぁソフト倫理機構的にリアルな近親相姦が許されるはずもなく、実際のところは隆道と加奈は義理の兄妹なわけで、関係を持ってしまったとしてもおおよそ問題のないところが少し物語的には勿体ないところではあります。しかし一方で加奈が義理の娘だからこその最終的な両親の決断と葛藤、そして隆道の叫びには心を揺さぶられました。このへんもシナリオの巧みさが光ります。特に父親はかなりいい働きをしますので、是非立ち絵のほしいところでした。

ラストは、隆道がドナーとなり、奇跡的に適合して加奈が助かるものがひとつあり、他いくつかは結局加奈が死んでしまうものですが、実は後者の方が、こんな言い方はしたくないですが…流れとしては妥当ですし、泣きも存分に入ります。他人である隆道の腎臓が適合してしまうのも何だかなぁというのもありますしね。

移植した腎臓がうまく機能せず死に逝くルート、それから、最後の退院暮らしの中ふたりで海へ遊びに行くルートはすばらしい出来です。前者は、加奈が隆道にプレゼントされたペンダントの録音機能に遺書を残しているシーンが、後者では加奈を背負って隆道が海を駆け抜けるシーンと、加奈の残した日記を読んで号泣するシーンが涙なしに見ることができません。


まーしかしこの作品をエロゲーマー初期にやってしまった人はトラウマになりそうだなぁ。僕がプレイしたのはごく最近でしたが、たいしたエロゲ耐性もない十代の頃とかにやっていたら、NEWS23 に出ていたのは僕だったかもしれません笑



【グラフィック】
加奈は、米倉けんごさんが原画を担当した元祖版と、綾風柳晶さんが描いたリメイク版があり、僕がプレイしたのは後者です。安定しない部分もありますが、加奈の一枚絵は魅力的に描けています。

幼少期から高校生に至るまで、病院のベッドでほぼ同じ構図のまま成長していく加奈の一連の絵は、それだけで切なくなってしまいますね…。

あとエロシーンの無駄なアニメーションはいらなかったんじゃないかなぁ。


【キャラクター】
上記したとおり、隆道と加奈が本作の大半でして、この二人の書き込みは非常に素晴らしいものがあります。特に、隆道の兄としての男気や葛藤は素晴らしく、妹を持つ同じ兄として尊敬しなければなりません。田中ロミオさんの描く主人公はいずれも劣らずかっこよいですよね。超人然りとしすぎず人間臭く、クールだけど秘めたものは熱く、ですね。

他、周囲の人間とてもよく描けています。シナリオのところで書いたように、夕実と勇太、両親の関わり方もシナリオ的に自然でした。叔母の須磨子と従妹の香奈のシナリオへの食い込み方や彼女たちの人間的な魅力も印象に残っています。また、看護婦として十年以上も藤堂家に関わっている美樹さんの強さにも心打たれるものがありました。


【音楽】
主題歌の「白い季節」がたまらなく切ないです。歌は加奈の声優さんが加奈っぽさを出して歌っていまして、うまかないですが、曲と歌詞がいい。むしろうまくないところが逆にいい。それから、「あなたへ」は歌つきよりもオルゴールヴァージョンが良いです。シナリオの泣き所で流れますが、泣きシーンでオルゴールはやばいですよ。


以上、加奈でした。
通るべき作品だと思います。翳りと希望を詰め込んだ「考える」作品だと思います。A評価にしたいので、少しオマケで点数付けしときました。田中ロミオさんの作品は、エロゲーという枠を越えて何かしらのメッセージを与えてきますよね。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム