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エロゲ レビュー ブログ
【el】
el

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メーカーelf
シナリオ■■■■■■□ 6.5
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■□ 5.5
音楽■■■■■ 5
同僚グロ■■■■■■■■ 8
総合【C】 60点

懐古SF

エルフでかつて発売された「elle」の移植作品ですね。そんな昔のことはよくわからないので、僕は普通にこの「el」をプレイしました。

【シナリオ】
環境破壊により生存が危ぶまれた人類…、政府は、生存可能地域に統一理想国家を作り上げるメガロアース計画を提唱します。凄腕スナイパーである主人公は、この計画に武力を以って対抗する反政府組織「ブラックウィドウ」の起こす犯罪解決にあたることを生業としています。同僚の美人スナイパー「エル」と、時には衝突しながらも共に業務をこなしていくのですが、徐々に不可解な事象が生じ始めます。やがて驚愕の事実が明かされ…と、けっこう壮大な話ですよ。

おもしろかったです。さすがの蛭田昌人だと思いました。もちろん今の感覚からすると、このモロなSF感や展開はちょっと時代を感じさせるなってのも否めないですけどね。それでも当時は素直にスゲェと思ったもんです。

でまぁ結局はけっこうスケールのでかいSFなんですよね。実は主人公やエルはヒューマノイドで、という突飛な展開は「おいおいそりゃ飛躍しすぎや」と思いましたが、全体的な流れは決して悪くないというか良い。

ドキドキハラハラの各事件をその洞察力をもってこなしていく過程と、登場人物の誰が怪しくて誰が仲間なのか全くわからない状況の創出はうまいものです。

なので、最後そういう展開にするならするで、もう少しラストシーンへの伏線や盛り上がりを作ってほしかったかな。一本道なうえに結構すぐ終わってしまうので、値段の割にはボリューム感がイマイチなんですね。当時、購入してその日のうちに終わってしまったものでちょっと虚しかったのを記憶しています。



【グラフィック】
キャラ絵の好みはあろうかと思いますが、さすがのエルフですんでとにかく技術的な部分はとても綺麗です。絵は綺麗なんですが、惨殺シーンの絵が突然現れるうえにかなりグロいのでこれがけっこうキツイ。しかも普通に出てきていた同僚がサクッと惨殺されるのでこれまたキツイ。そういうのに耐性がないひとには時々しんどいかもしれません。

また、マウスカーソルを動かしクリックすることで画面上から手がかりを探していくゲームシステムをとっています。この手法はいまや特に珍しいことでもありませんが、前身となった「elle」においてこのシステムは業界でも初めての試みであったらしく、そういったパイオニア的功績は評価に値します。


【キャラクター】
主人公は女好きでありながらも仕事はきっちりこなす出来る男、まさに蛭田昌人らしい主人公像ですね。メインヒロインのエルも…というか他にメインヒロインらしいキャラもいないんですが、勝気な美人お姉さんって感じで好感度大です。


音楽は特筆することはなしです。雰囲気ぶち壊しだったりしょぼいものではなかったのは間違いないですが。というわけで「el」。近未来的な演出は当時の作品にしてはとてもよく作り出せていたと思います。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【fate/stay night】
fate/stay night



メーカーTYPE-MOON
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■■■■□ 8.5
キャラクター■■■■■■■■■ 9
音楽■■■■■■■■□ 8.5
完成度■■■■■■■■■■ 10
総合【A+】 87点

エロゲ界の金字塔

いわずとしれたTYPE-MOONの商業デビュー大ヒット作ですね。エロゲというものはターゲット層もかなり絞られるし、販売予算も微々たるものであろうこの手の企業ですから、ユーザーの口コミやサービス力がものを言う部分は非常に大きいと思います。つまり言ってしまえば「内容如何」というなかなかシビアな世界なのでしょう。そして本作、10万本出ればメガヒットと呼ばれるそんなエロゲ界において、販売本数35万本(もっと?)以上という史上最も売れたエロゲとして数々の伝説を残しました。その軌跡はPCに留まらず、テレビアニメ、小説、プレステ2、PSPから対戦アーケードまで移植される始末。PS2版「Realta Nua」ですら20万本近く出たというのは凄まじいものです。


【シナリオ】
シナリオは圧倒的支持を得ている奈須きのこさん、独特の世界観を持っています。同人時代の「月姫」、小説「空の境界」も同一世界内の出来事ですんで、彼の頭の中には、細かい設定まで全て定められた妄想世界が独立して動いているんでしょうね。

ストーリーはあまりにも細かいんでホントさわりだけ。持ち主の願いを何でも叶えるという「聖杯」をめぐり、7人の魔術師「マスター」と、彼らが契約する英霊「サーヴァント」同士で殺し合う「聖杯戦争」が数十年に一度、日本の冬木市で起こります。偶然この聖杯戦争に巻き込まれてしまった半人前の魔術師衛宮士郎は、これまた偶然か最強のサーヴァント「セイバー」と契約を交わしてしまいます。そして彼が望む望まないに関わらず聖杯戦争の大きなうねりに巻き込まれていくわけですが…。


3つのまったく違うルートが用意されており、セイバー⇒凛⇒桜ルートと順番のロックもかかっています。いろいろな謎や伏線は、ルートを追うごとに解明されていきますね。最も出来がいいのはセイバールート、最も仕掛けが鮮やかなのは凛ルート、最も好きなのは桜ルートですが、どのルートもそれぞれの色がありとても良かったです。

初期段階で数名のマスターとサーヴァントこそ出てきますが、一体誰がマスターでどんなサーヴァントがいてどんな宝具(各サーヴァントが持つ一撃必殺のマジックアイテム)が飛び出すのかドキドキしながら読み進めることになります。セイバーにしてもかわいらしいメインヒロインですが、その正体が伝説の騎士アーサー王だったことは中盤あたりまで伏せられ続けますよね。アサシンで佐々木小次郎が出てきた時なんかはかなりテンション上がりましたねー。最古の王ギルガメッシュはセイバールートでは反則だと思って萎えましたが、凛ルートだとまた違った立ち回り方で魅力がありました。

サーヴァント同士のぶつかり合いや、主人公やヒロインに巧妙に張られた伏線、敢えてここには書きませんが、その展開たるや心躍るものがあります。


セイバールート「Fate」は、作品タイトルをそのまま冠しているように、一番オーソドックスでまとまりの良いルートですね。おおまかな聖杯戦争の仕掛けと、各キャラクターの大体の立ち回り方などがこのルートで把握できます。シナリオを追うごとに明かされていく彼女の悲痛な願いと士郎君のセイバーに対する思い。あまりにも不器用なふたりが互いを想い合う関係を作り上げ、やがて大きな決断と行動を共にしていく過程は熱くさせられますよう。

また、セイバーというキャラを作りだした奈須&武内さんにお布施を捧げたい気分です。彼女は、圧倒的戦闘力を誇る戦闘シーンのかっこよさもさることながら、日常シーンでのわがままっぷりや穏やかさも非常に魅力的です。ラストシーンもかなりグッと泣けてしまうこと請け合いです。ラスト切ないですよー。


クラスメイトにして実力派魔術師の遠坂凛ルート「Unlimited Blade Works」は、とにかくキャラたちが実に熱かった。特にこのルートはアーチャーにひたすら燃えるルートですね。他のキャラたちの存在感を霞ませるが如く、アーチャーアーチャーによるアーチャーのための感動。

英霊は過去現在未来という時間軸の概念に縛られない、という設定を使った…というかわざとその設定にしたのでしょうが、アーチャーの正体には度肝を抜かれました。彼がひとつの未来の可能性において、己の信念を全うし多くの者を救い英雄になった「衛宮士郎」の英霊だとは。しかし彼は自身の願いと現実とのギャップに失望してしまっているがゆえに、ひたすら直情的に皆を救うことにこだわる現在の士郎に嫌悪を示しているんですね~。なんというスーパー設定。

そしてそんなアーチャーが凛ルートの最後で見せるあまりにも優しい笑顔は、本作中で最も感動するシーンです。あのシーンは、アーチャーがかつての自分を改めて振り返り、とある結論を得る最高のシーンですが、凛の呼び方が「遠坂」に戻ってるんすよ!


桜ルート「Heaven's feel」は他と比べるとちょい異色ですね。というのも、他ルートでは日常の象徴として描かれる桜が積極的にシナリオに関わってくるからです。それも一般人が巻き込まれちゃいましたとかってのではなく、聖杯戦争の当事者たる絡み方。桜が、調教済み、近親相姦、凛の妹、間桐の正当後継者、聖杯に取り込まれ暴走…と、他ルートからは想像もつかない暴れ方をするルートです。それから、僕らのアイドルセイバーが不遇な扱いを受けるのが本ルートの悲しいところでもあります。それでも数々の伏線が回収され、聖杯という存在がしっかり描かれ完結し切るのが本ルートなんですね。一応これがTRUE END扱いになるのだろうと思います。

そして基本的に士郎君を好きになれない僕ですが、それは彼が頑固で幼稚であるがゆえです。しかし桜編の士郎君は違う。本ルートで彼は究極の選択を迫られます。上記したように聖杯に取り込まれ暴走する桜を前にした彼が、すべての人の正義の味方になるという信念を捨て、最も大切な人――桜だけを守ると決断する部分がこのルートにおける最大の肝です。他2ルートは、彼のその信念こそが物語を形作る大事な設定であっただけに、この流れは逆に凄く良かった。


ちなみに冬木市は聖蹟桜ヶ丘と神戸の街並みがモチーフとなっていて、さらにちなみに龍洞寺は僕の地元にある寺がモチーフとなっています。どうでもいいですかそうですか。


んまぁしかし長いですよ。3シナリオすべて読み終えるのに僕は70時間くらいかかりました。テンポが良いわけでもありませんし、途中あまりのマイワールドについていけなくなってダレる場面もあるにはありますが、それでもこれだけの世界を創出し、堂々たる結果を残したというのは、エロゲ界における金字塔であると言い切ってよいでしょう。


【グラフィック】
当初、武内崇さんの絵にそれほど魅力を感じられなかったものでして、皆さんがこぞってfateのグラフィックに賛辞を送るのに疑問を感じていました。別にうまくないですしねぇ。しかし、fateの世界観を堪能してしまった今では、この絵でないと違和感を感じるようになってしまうものですから、奈須月型効果なのでしょうか。おもしろいものです。

それにしても立ち絵とエフェクトが凄いですね。画面上をところ狭しとキャラが動き回る回る。戦闘シーンの演出もエロゲですかコレは、と目を見張るものがあります。



【キャラクター】
その長くて濃いシナリオもあって、ひとりひとりにかける思い入れが当然強くなります。メインヒロイン3名の魅力は非常に強く、セイバー、凛、桜、甲乙丙つけがたい。世間的にはセイバー、凛の2トップみたいになってますが、僕はむしろ桜大好きですよ。調教済み&兄に犯されているという設定はメインを張るヒロインにしては強烈でしたが、だからゆえの物語のアンバランスさというか、士郎君の判断の真価が問われるのが桜ルートでした。

とにかくかっけーのは英霊ランサーとアーチャー。着てるものこそ正直ダサイですが、彼らの男気溢れるセリフと行動は思わず「兄貴」と呼びたくなります。それから桜編の言峰もいきなり武闘派になるので熱いですね。

さて、主人公の衛宮士郎君ですが、彼に魅力を感じられるかどうかというのは非常に重要かと。上記しましたが僕はどうーーもダメでした。努力家でもあり直情的でもありかっこいいにはいいんですが、ちょっと頭が弱いんですよね。直観力はあるのですが、思考が短絡的で、無鉄砲さと頑固さが際立っています。物語ですんで結果的には良い方に転がっていくのですが、「すべての人を救いたい」「正義の味方になりたい」という、マクロを見据えない自己犠牲はあまりスッキリしません。


おっと、ここまでイリヤと藤ねえのことを言及していませんでした。まずはロシアからの刺客マスターであるイリヤスフィール、もともと彼女には正規ルートが用意されていたようですが、結局彼女はサブヒロインになってしまいました。彼女は自身が聖杯を受ける器そのものである人造人間という設定自体が重要な伏線となっていて、なかなか幸せな結末に向かいにくいキャラクターですが、日常シーンでの純真なキャラクターと戦争時の非情なキャラクターのギャップが魅力です。

ヤクザの娘にして主人公の担任、ギャグシーンの象徴である藤ねえですが、個人的には藤ねえルートがほしかった。まぁ藤ねえにしても同級生の美綴サンなんかにしても、とてもいいキャラしていたので、聖杯戦争が激化していく中で影が薄くなっていくのは少しさみしかったです。


【音楽】
OPは幻想的な雰囲気が漂う良曲「disillusion」です。当初あまり惹かれなかったのですが、今でもしっかり頭に残っています。ムービーと相まって効果を発揮したのでしょう。BGMは及第点かな。あまり頭に残っていませんが、作品の雰囲気にはよく合っていましたし、戦闘やスピード感のあるシーンで使われている曲はどれも高揚感を煽るものでした。


と、「fate/stay night」です。シナリオを細かく追うレビューはしませんでした。まぁ18禁ゲーム界において超重要作ですので、この手のゲーム好きなら通っておかないといけない作品だと思います。そのぶっ飛んだ世界観と尺の長さから、個人的には初心者にはおすすめできないんですけどね。


関連レビュー: fate/ hollow ataraxia



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【つよきす】
つよきす



メーカーきゃんでぃそふと
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■ 7
チームワーク■■■■■■■■■ 9
総合【B】 74点

軽快明快

主人公に対して強気姿勢をとるツンに特化したキャラクターを揃え、ギャグを重ねるシナリオとノリの良い雰囲気で絶大な人気を誇る「強気+キス」略して「つよきす」です。世間一般の評価高いですね~。


【シナリオ】
ヒロインは総勢6名、各シナリオ非常に長いのですが、その圧倒的なまでのシナリオテンポと会話の軽快さから、あまり長くプレイをしたという感覚になりません。一体どれほどのパロディとネタが仕込まれているのか、数えるのすら馬鹿馬鹿しくなるほどの引き出しの多さですねー。でも「エロゲでギャグとかどうでもいいし」と思っている人にはきついかもしれません。というのも、世間的な評価が非常に高い本作ですが、それは魅力的なシナリオ展開があるというよりは、ギャグ満載の明るいノリや、その世界にマッチした突き抜けたキャラクターたちが愛されているからなんですね。僕自身も、やっぱりエロゲに「笑い」というのをたいして求めないタイプであるにも関わらず、本作どうだったかというと、実のとこかなり楽しめました。

基本的には、さまざまな属性を持った強気な子たちをふりむかせ、恋人になってからはデレデレのバカップルになってハッピーエンドです。と、いった言葉で大体説明がついちゃいます。まぁもちろんそれぞれの子が抱える事情やら、学園行事などの盛り上がりなどもあるにはあるんですが、基本的にはそういった日常を面白おかしく過ごしていくシナリオが中心になります。でもテンポが非常に良いことに加えキャラが立っていますから、ダレを感じません。

いわゆる「ツン」と「デレ」のギャップで魅せたのは後輩、椰子なごみルート。デレに入ってからの豹変振りが凄まじく、声とか全然別人ですからね。それから、主人公憧れの完璧超人である"姫"霧夜エリカ、腕力馬鹿の風紀委員にして主人公のお目付け役の鉄乙女、といった主人公の頭のあがらない面々を落としたときの達成感というか充実感は心地よいものがあります。特に、他ルートだと完全に翻弄されたままのエリカルートですが、自分の信念を持ちながらも主人公に対して心を開いていく過程はとてもやりがいありました~。

変人ばかりの中で唯一のまともな優等生と思われるよっぴーは、その内なるドス黒い性格というのがなんだかリアルで怖すぎましたね。そこが多くのユーザーの批判を呼んでいます。姫ルートで、本作にはそぐわないかなりエグいBAD ENDがあるのも彼女によるものです。まぁでもその設定もそうですし、優等生的な時もたいして目立たず、イマイチだったかな~。他キャラの突き抜け感のがはるかに気持ちいいんすよね。

そしてダントツに一番良かったのはカニこと蟹沢きぬルート…といってもカニというよりは男友人のスバルが良かったんですよね。彼の仲間思いで一本木な性格が色濃くシナリオに絡んでくるルートです。本作唯一の泣かせどころがカニENDにあるというのもこのルートを一番と思わせる要因でしょうか。ま、その仕掛けもスバルが担っているんですけどね。

スバルはカニのことが好きなわけですが、このルートをプレイした後ですと、他ルートの随所でカニのことを気にかけているスバルがよくわかります。ぶっちゃけスバルに萌えるルートでもあるわけですね。カニも十分面白かったですが、カニの面白さはどのルートでも遺憾なく発揮されていますので笑、このルートはとにかくスバルのかっこよさを噛み締めてください。レオとの決闘レオたちの元を去るシーンは漢の極みでしたね。



【グラフィック】
個人的なものかもしれませんが、とりたてて好きな絵柄でもないって感じかなぁ…。白猫参謀さんという方ですね。もちろん上手ですし、絵のバリエーションも広いし、一般的には良い部類に入るんだと思います…って偉そうですねスイマセン。いや趣味の問題ですかね、タッチがちょっと強すぎるかなぁってのと、顔は好きなんですが身体の描き方に違和感があるんですよねー。まぁ、んなこといっても絵の出来というものは時としてプレイを断念させるほど重要項目ですから、そういった意味ではむしろ十分な及第点なんですけどね。

背景は豊富でいいですね。舞台はずばり横須賀です。横須賀は僕の現居からも比較的近いところにある街で、横須賀の駅前や三笠公園、ドブ板通りなど、僕にとってわかりやすい場所のオンパレード。舞台がどこかわかって更にそれが自分も知っている土地ですと、登場人物が俄然生き生きとしてきますので、個人的にはこの「もろ横須賀じゃん、これ」とわかるのは良かったですね。舞台探訪とかしちゃう人の気持ちはよくわかります。


【キャラクター】
幼馴染チームである「対馬ファミリー」あってのつよきすでしょう。勢いとトラブルメーカーのカニ、熱くて優しいスバル、ギャグキャラの極みであるフカヒレ、そして事なかれ主義を装いつつもやる時はやる子、主人公レオ。いいチームワークしています。毎晩レオの部屋で何をするでもなくダベってるのとかも高校生ぽくていいですねー。

特にやはりスバルフカヒレは、魅力の向いている方向は真逆ではありますが非常に魅力あふれるキャラで、この2名がいなければ本作はこんなに賛辞を送られていないだろうなと思います。

典型的ダメ人間として描かれるフカヒレの使われ方は、そのあまりの面白さゆえシナリオライタータカヒロさんの職人魂すら感じさせます。彼のフカヒレに対する愛がよく伝わってきますねぇ。彼のその性格や発言、行動などはオタクの皆様の共感を得られるようなものに溢れています。それも皮肉に満ちたものなどではなく、あくまで突き抜けた笑いとして昇華されていますので、まぁ代弁者というか何というか……余計に人気が出たんだろうなあ。

ヒロイン勢の中で好きだったのはやっぱり乙女さんかなぁ。恐ろしいくらい規律を重んじるくせに色々と抜けのある彼女のキャラクターは愛すべきものでした。その天然なところも、それでいながらも要所で相当に熱いセリフを言うところはおさえてるなぁと思いました。落ちてからがかわいいのも個人的には彼女が一番だったかな。それから姫こと霧夜エリカ。上記しましたが、彼女が落ちた時は痛快でした。

声優陣もキレてましたねー。豪華キャストである中、どのヒロインもどの男性陣もすばらしかったんですが、特筆すべきは蟹沢きぬ役の金田まひるさん、ですか。スーパーいい仕事してます。あの破天荒なキャラをここまでやりきった演技力は見事というほかありません。


【音楽】
音楽はI'veサウンド、手広く仕事をこなしますね。ストーリーに合った軽快でノリのいい曲が並びます。が、BGMは正直それほど記憶に残っていません。でも歌付2曲はとても良いです。特に「Isolation」ですかね。

OPの「Mighty Heart」は超ポップでつよきすらしい曲、EDの「Isolation」はギャグ路線満載のつよきすらしからぬ雰囲気ですが、Bメロ~サビでの90年代J-POP風の盛り上げが心地よい良曲です。何がいいってスバルの歌ですよコレ、きっと。KOTOKOさんはいいですね。


てなわけでつよきすです。ノリも軽くていい世界観つくってます。




テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【RANCE 5D ~ひとりぼっちの女の子~】
RANCE 5D ~ひとりぼっちの女の子~



メーカーALICE SOFT
シナリオ■■■■■ 5
グラフィック■■■■■■□ 6.5
キャラクター■■■■■□ 5.5
音楽■■■■■■■ 7
ゲームシステム■■■■■ 5
総合【D+】 59点

お手軽ランス

ランスシリーズ「ランス5」ですね。いやもうランスシリーズは大好きですよ。ランス、ってだけでプレイ確定というすばらしいシリーズだと思います。そんなランス5ですが、6年もの歳月紆余曲折を経て、Ver.4まで開発が繰り返されてしまったため、5"D"なんだとか。非常にライトでお手軽な作品です。

【シナリオ】
冒険中に異次元世界に迷い込んでしまったランス、シィル、あてな2号。ここを脱出するため、また最奥部「玄武城」に何故かとらわれている美少女を手篭めにするため、ランスがまたまた唯我独尊ぶりを見せつけつつも大活躍します。


サブタイトルにもあるとおり、本作登場のメインヒロインは玄武城にひとり捕らわれているリズナということになるでしょうかね。それから、冒険者バードにくっついてきて、やはり玄武城に迷い込んでくる御神籤ガール、コパンドンがサブヒロイン。

玄武城にはひとり人間が残らなければならない魔法がかかっているという設定を生かして、最後さっくりとバードをボコボコにして身代わりにするくだりはランスらしくて面白いです。シィルやランスを身代わりにしようとしつつも結果的にランスに救われることになったリズナ、バードの運勢を見限りランスの運勢に惹かれてゆくコパンドン、両者は結局シィルを選んだランスに最後ふられてしまうわけですが、次作以降への登場の伏線ともなっています。


ちなみに、この時点では当然まだわからないのですが、発見者の指名した対象を殺すために暗躍するレア女の子モンスター「復讐ちゃん」の、次作への伏線はチョイ感動的ですよ。5Dでランスは、バードに復讐対象として指名されてしまったため一方的に襲われまくり、死んだフリなどしてやり過ごすのですが、6でやはり登場する復讐ちゃんとはH含めけっこう仲良くなるのですね。で、期限切れによりランスの前を去らなくてはならなくなった復讐ちゃんの最後のセリフが、「もしランスが今後復讐の対象になっても殺したくないから、死んだフリでもしてくれ」ってモノなんですね~。ランスたちにとっては5D⇒6が時間の流れなんですが、復讐ちゃんは6が先で、リセット後異次元世界である5Dで再登場するという流れなんです。こういう時間を超えた伏線は好きですよ。


廉価版のライトな作品ですので、ストーリーも軽ければゲームシステムもサイコロの目でルーレット式に運まかせで進んでいくという今までにないようなシステムをとっています。なんというかコレが実に微妙で、斬新で面白いといえばまぁそうなんですが、結局運まかせなんでゲーム性はあるようでないんですよね。まぁ僕はゲーム性よりもシナリオ展開の面白さのほうが重要なので然程気になりませんが、ゼス崩壊や戦国のようにゲームとして燃えたい!って人にはあんまりおすすめできないかもしれませんね。


【グラフィック】
織音さんが原画から塗りまで何から何まですべてやったとか。以降中心になっていく織音ランスの第1作目ということになりますかね。織音さんの絵は結構好みが分かれるらしいと聞きますが、本当なのかな~?僕はこの人の絵がエロゲ原画師さんの中でも1,2を争うくらいにメッチャクチャ好きなので万事オーライです。


【キャラクター】
このシリーズでは新ヒロイン格として、リズナ・ランフビットとコパンドン・ドットが出てきます。これがランスシリーズのいいところですよ、今後につながる新キャラの登場です。このふたり、その後の「ゼス崩壊」にも「戦国」にも出てきますんで(戦国のコパンドンは後方援助でしたが)、継続的な登場は期待できるでしょう。特にリズナは、金髪で着物という外見と、エロエロ騙され天然少女という設定から、ユーザー人気も高いようですねー。

ランスは相変わらずです。つくづく思いますがこのキャラクターを生み出しただけでもアリスソフトは偉大ですよね。また彼は傍若無人でありますが、実は馬鹿こそやるものの頭もいいし、判断力にも優れています。そこらへんの設定も軽いシナリオながらもしっかり描けていますね。


【音楽】
Shade氏は非常にハードビートのロック色あふれる曲を作るので、エロゲ界では異色です。もちろんそれはランスシリーズにはバッチリ相性で今回もよく出来ています。デモでも使われている、戦闘「Trns Beat?」後半のギターやばかこいいっす。


ま、1日で終わってしまうようなお手軽版なんで評価点は敢えて低めにつけていますが、廉価版らしく綺麗にまとまった作品です。アリスソフトらしい遊び心や肩の抜け具合、それでいて仕事は裏切らない面はしっかり出ていますよ。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【沙耶の唄】
沙耶の唄



メーカーNitro+
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■■■□ 7.5
キャラクター■■■■■■■ 7
音楽■■■■■■■ 7
救いようのない美しさ ■■■■■■■■■□ 9.5
総合【B+】 78点

ふたりぼっち

虚淵玄さんのシナリオ世界と中央東口さんのイラスト世界が見事にリンクした作品です。虚淵さんの作品は短いながらも展開がハッキリしており、一本の映画を見ているような感覚になります。エロゲというくくりの中では異質中の異質、エロシーンがあるってだけで、これはエロゲーでもギャルゲーでもないですね。

【シナリオ】
冨樫義博が愛しそうな話ですねぇ。「レベルE」の世界観にリンクしているように思えます。

事故の後遺症によってすべてのものがグロ世界に見えるようになってしまった匂坂郁紀。友人の耕司や青海、彼に思いを寄せる瑶、主治医の涼子の声も決して彼には届きません。そんな中、彼の前に唯一人間の姿をした「沙耶」という少女が現れます。狂気的な世界の中のオアシスとして彼女に傾倒していく郁紀でありますが……。

凄い話です。公式HPの紹介からは想像もできないほどの狂気。まずゲーム開始からグロ画像ですからね。中央東口さんはじめスタッフ一同がほくそ笑んでいるのが浮かんでくるようです。

もう郁紀にとっては五感で感じるもの全てが不快感極まりないもので、その中で唯一正常に見える沙耶……ということはそうですね、むしろ彼女の方が実世界においてはグログロの肉塊生物ということです。それを理解したうえで彼女を受け入れる郁紀の思いは本当に誠実なものであり、郁紀に向けられた沙耶の献身的な気持ちもやはり本物の愛です。


そんな僕らから見たら狂気的な世界に生きている郁紀と沙耶ですから、彼らは世界にふたりだけなんですね。周囲の人間の行動は決して彼らに響きませんし、逆に彼らの行動は周囲の人間を不幸にします。しかし単純に彼らを卑下することの出来ない純粋さが苦苦しくもあるわけですね。一般的にみると狂っている彼らではありますが、プレイヤーである僕らは、郁紀と沙耶に対して感情移入をして読み進めることになります。この非現実サイドを主人公視点側に持ってきたところは本作うまかったですね。


親友の耕司は、自分の生きる世界での価値観を純粋に全うします。狂ってしまった親友を救うために奔走する彼は最後まで本当にかっこよかった。そして郁紀は、彼と沙耶の世界での価値観をやはり純粋に全うします。この違う世界、価値観をお互いに全うした果ては、やはり相容れない衝突となってしまうわけですが、決して一元的な見方では括れないその展開は、読んでいて切なくさせられました。

また、物語の核心を知る、郁紀の主治医涼子の存在感が凄かったですね。知的ながらもぶっ飛んだ武闘派女性ということで、虚淵ハードボイルドシナリオが好きな方は、本作において待ってましたの存在だったのではないでしょうか。


ラストシーンは逆に超純愛です。特に病院でENDを迎える途中終了となるルート、郁紀をもとの状態に戻すことを決意する沙耶。しかしそれ即ち自分が肉塊生物である姿を郁紀に晒すことになります。だからこそ扉越しに携帯のメールを介して彼とやりとりをしようとする沙耶の健気さ、乙女心といいますか、この場面には本当に心が打たれます。

さらに最後まで読み進めていくと、涼子をどこまで話に関わらせるか否かで、郁紀が勝利するENDと耕司が勝利するENDに分岐します。前者は沙耶によって世界が侵食される展開で、普通に考えるとBAD展開ではあるのですが、純愛を貫き通した沙耶と、これから郁紀の生きていく世界がとても美しく澄んでいるためこれこそが幸せな結末なのだと思わされてしまいます。

また後者は、耕司が、結局死ぬ間際まで互いを愛し想い合いながら死んでいったふたりを目の当たりにし、何も変えることのできなかった事実に打ちひしがれながら終幕するという、非常に後味が悪いながらも秀逸な人間ドラマでした。


……というか真人間側だった瑶があまりにも救われなさすぎて、それが一番かわいそうや。彼女はただ単に郁紀に対して淡い恋心を持っていただけだというのに、そして彼のために一歩踏み出す勇気を持っただけだというのに、沙耶の手によって肉塊ブロブにされた挙句に、友人である耕司に滅多打ちにされて苦しみながら死んでしまいます。彼女ENDも作ってあげてほしかった…。

青海だって、隣に住んでいる絵描きのオッサンだって、何の罪もないのに肉塊にされたうえに喰われてしまうしなぁ。。。


【グラフィック】
さすが、入社前までモンスターと男しか描いてこなかったという中央東口さん、ここぞとばかりに凄まじいまでの仕事ぶりです(笑)。男と肉と戦闘の絵はすばらしい。このシナリオでエロゲ界を探したら中央東口さんがまさに適任だったでしょう。

予告ムービーはやばいっすね。グロとホラーが見事に調和されていて、ホラーとか特に好物でもない僕にとってはプレイする気が失せてしまいます。でもプレイしてみると、そこそこのグロさと、あとはホラー要素はほとんどなく一気に読み終わります。名作と呼ばれているだけのものは確かにありました。

沙耶が花を咲かせるCGがめちゃくちゃ気に入っていて、展開は人類にとって非常によろしくないものなんですが…実にいいんす。



【キャラクター】
殺戮ジャンゴでも思いましたが、ちょっと壊れ気味な位かっこいい女を書かせたらうまいですよね~、虚淵さんは。マッドな女医、涼子がかなりかっこいいです。

沙耶と郁紀は上記したとおり、非常に健気で純粋です。それがまったく僕らとは違う価値感だったとしても、人外だったとしても、僕らの与り知らぬところでとにかく健気で純粋なんです。特に沙耶の造形は良かったです。恋を覚えてしまった地球外生命体、人間以上のかわいさを持ちます。



【音楽】
前面に出ることもなく、シナリオを裏から支えています。ダークな描写にはノイズを利かせた緊張感を煽る重い音楽で、綺麗な場面では軽めの音でのリフレインを効果的に使った仕事をしていたかな、と。

それから歌つきの「沙耶の唄」「ガラスのくつ」ですね、「沙耶の唄」は、良い歌というほどのものではないですが非常に綺麗で透明感のある曲です。そして「ガラスのくつ」!作品に合わせてなのかな、だとしたらグッドチョイスですが不協和音的なノイズのカットインがうまいです。こちらはエロゲ主題歌にしておくにはもったいない、といっては失礼ですが、それくらいメロディといいバンドアレンジといい歌の完成度が高いです。スネアのためとギターソロがたまらんです。歌っている方も、エロゲ的な声優というかアニメ声っぽい感じではなく、ちょい低音に魅力のあるイイ声してます。


以上、沙耶の唄です。お値段的にも安く、数時間あれば終わりますので、ちょっと映画一本見る的な感覚でプレイしてみたらいかがでしょう。

実は公式HPですが、かなりオツな仕掛けがしてあります。各ページにちょいちょい現れる沙耶をクリックして追っていってください。その先には沙耶のグロ世界視点での再説明があります。これはすごかった。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【CROSS✝CHANNEL】
CROSS✝CHANNEL



メーカーFlyingShine
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■■■■■ 9
音楽■■■■■■■■ 8
破滅型群像劇■■■■■■■■■ 9
総合【A+】 86点

友情は見返りを求めない

2003年発売、この作品を「俺的最高ゲーム」と豪語する人も少なくない、紛れもない名作です。その舞台設定といい、空虚で殺伐とした雰囲気といい、鬼才田中ロミオの真骨頂ともいえるその世界観と伏線の妙は目を見張るものがあります。

【シナリオ】
この作品について書こうとするならば、ネタバレに始まりネタバレに終わるようなものです。おそらく全てが伏字になってしまいますので、伏字はせずに書いていくことにします。未プレイにしてプレイ予定のある方はこの先は見ないようにしてくださいね。


FlyingShineのHP上で製品紹介を見ると、「放送部員たちの夏の青春ゲー」といった印象を抱きますが、とんでもない。本作「CROSS † CHANNEL」、すべての生物が消失してしまったパラレルワールドに迷い込んでしまうSFモノです。さらに言うと、ほとんどの登場人物が、社会で生きていくことが困難なほどに何かしらの心の障害を抱えています。そんな設定ですので、人間関係の歪みからバッドエンドにバッドエンドを重ねていくことになり、鬱ゲーとしても有名なようです。さらにさらに、このパラレルワールドは同じ一週間を延々と繰り返し続ける世界であり、ループものの代名詞でもあります。これだけのトンデモ設定を伏せたまま発売に至らせたFlyingShineの決断たるや、アホすぎます。もちろん褒めてますよ。

僕は、HPとデモムービー見たくらいで他に何の事前情報もなく、すすめられるままに本作を始めました。ですので、本当の本当に「普通の青春ゲー」だと思っていたのです。なので本作一週目ラスト以降の超展開にはハッキリ言って圧倒されました


さて、上記しましたが、社会で生きていくことが困難とされる、「適応係数」の高い生徒のみが通う群青学園が舞台です。主人公黒須太一自体も偶発的に強烈な破壊衝動を発現させる学園トップクラスの適応係数を持つ少年として描かれています。登場人物たちも一見普通なのですが、何かしらの心の不備を抱えていまして、その各々の不安定さをシナリオに非常にうまく絡ませてあります。

物語冒頭ですが、群青学園放送部は各々の心の歪みから崩壊寸前、そこで太一が一念発起し放送部全員での合宿を提案し実行するのですが、結局それも失敗に終わります。バラバラの状態で帰路につくのですが、そこに待っていたのは自分たち8人以外の生物全てが消失した世界…というのはまだ最初の段階では明らかにされません。確かに部員以外の登場人物が出てこないのですが、夏休みで学校が閑散としているはずだということや、回想シーンで多くのキャラが絡んでくることなどから、「何かおかしいな」とは思いつつもそこまで気にさせない流れは見事でした。

部活動どころではないうえにそもそも絆がほぼ切れてしまっている面々ですが、とりあえずこの非現実の中でいつもどおりの学園生活を送ることを選択します。そんな中、課題であった放送用アンテナを建てることで現実逃避をし、ひとり作業を続ける部長の宮澄見里。太一は彼女の行動を起点にひとりひとり部員の説得しを試み、皆を和解させることに成功します。そして夏休み最終日、8人での部活動を成し遂げアンテナは無事完成するのですね。「いやーえがったえがった、なかなかエエ話じゃないの」と完全に油断していたワタクシですが、最後のセリフ、ラジオ放送のDJ役を担うことになった太一の放送第一声目が、

「生きている人、いますか?」


ここで一週目のEDです。

うそーん!


そしてこの世界はここまでの一週間を延々とループしているのですね。同じような導入でまたゲームが始まるのですが、微妙に違うんですね内容が。世界の流れはちょっとしたきっかけで変わるもの、毎回毎回同じ結路をたどるわけではないということが、2,3週目でなんとなくわかってきます。週によっては、太一はバーサーカーになってしまったり、誰かと恋人になっていたり、誰かに殺されたり、自殺したり、前ループでは生きてた奴が死んでしまったり殺されたり…。そしてまた週終わりにリセットが成され、新しい一週間が始まるのです。


また、8人とは別に、ループ冒頭で必ず太一が出会う「七香」という謎の少女が少しずつ太一に助言をしてくれます。彼女が太一の母親だったという設定は正直個人的にはかなり微妙だったのですが、そのおかげで太一は町外れの祠の中に置いてある、ループし続ける毎週の状況を自分が記載しているノートを発見します。そして、祠周辺がループの影響を逃れることに気づくと同時に、自分のせいで皆をこの世界につれてきてしまったこと、自分が元の世界とこのパラレルワールドとの架け橋役になっていたことに気づくんですよね。

そこからの太一は良かったですね~。そこまではイマイチ好きになれなかった彼ですが、皆を元に戻すことを決心した後の彼の行動には大変感服致しました。


全ループの中では、美希がフォーカスされるループが一番おもしろかったですねー。彼女はのほほんとしているようで、自分のためなら他者を盾にするも捨て駒にするも全く厭わない、強烈な自己愛から高い適応係数を持っています。祠のからくりに気づいてしまった彼女は、自分が初期化されるのを恐れ、週終わりになると祠周辺に赴くことで何十週にも及ぶ回数、ひとり記憶と行動を継続させています。つまり彼女は本編何週目からかは知りませんが、とにかくすべてを"わかっている"のですね。ここは衝撃であると共に、彼女の不安の描き方と、その鮮やかな場面展開は、本作の評価をループもの最高峰に押し上げる瞬間ですね~。

物語冒頭で、美希が太一のセクハラを軽くいなす場面がありますが、そのギャグシーンですら、美希だけが成長し続けているからという伏線につながっていると考えると鳥肌もんですね。冒頭で美希と霧と三人で夕日を見るシーンがあるのですが、そこで美希が流す涙もとても意味合いの強いものとなっています。


また、自殺してしまった霧の義兄、豊の存在!彼は回想シーンにしか出てきませんが、超重要なキーパーソンです。太一が壊れた人間になるきっかけは、かつて彼と彼の親族が太一のことを延々と慰みものにし続けたこと、そして太一と、太一の超人幼馴染支倉曜子の手により彼らを皆殺しにしたこと、というあまりにも鬱すぎる闇過去があるため。命だけは助かった豊は記憶を喪失していたのですが、太一によりその記憶を呼び起こされ自殺してしまいます。

この設定に絡んだストーリー展開も非常に巧みでした。この狂った世界の中で、霧が太一に対して殺意を以って接し続けるというのもそうですし、何よりも全員を送還していく過程で、太一とふたりだけの世界を創ろうとした曜子を揺さぶる切り札への伏線もすばらしかった。彼女はループによってはメンバーを皆殺しにするくらい戦闘能力も半端ではないですし、記憶がリセットされても毎回世界の異常に気づくほど洞察力も優れています。そんなスーパーウーマンに対抗する切り札、それは「豊の一族皆殺しを実行したのはすべて太一で、彼女は何もできないままだった」という大ドンデン返しな事実。ここは、あぁ「家族計画」青葉ルートを書いた人だなぁと思いましたねー。


ラストは泣き所でしたね。ループを繰り返しながら、祠でひとりひとりを元の世界に戻していくのですが、太一からそれぞれに送られる言葉が堪らなく悲しく切ない。そして逆に、それまでアホなことばっか言っていた桜庭が唯一主人公の心情を見抜いていて「親友」だと語るシーンは一番の感動シーンでしょう。

全員を送還した太一は、世界に自分だけという静かな狂気に自分を見失いそうになるのですが、七香つまり母親の愛を感じ取ることで、世界が終わるまで放送を続ける決意を固めます…いや、なんてビターで切ないENDなのでしょう。


ただ、ラストのラスト、太一が寝ているシーンがあるのですが、この背後で鳴っているのは蝉の声。パラレルワールドではすべての生物が消失しているはずなので、彼は現世界に戻ってこれたのでは?というのが定説のようです。そしてゲーム一週目の幸せなENDも、すべてうまくいくことは決してなかったという途中の説明にそぐわないループなので、これはループ内のことではなく、その寝ている太一の希望を反映した夢なのだ、とも言われています。


とまぁ結局レビュー的というよりは、大体のあらすじを追った感想になってしまっていますが、ここまでの設定をうまく絡ませて完成させた本作、実に見事でした。



【グラフィック】
凄まじい完成度を誇るシナリオやキャラ造形に比べてしまうと、少し弱い気がします。とはいえ全体的に改めて見ると、綺麗で悪くはないんですけどね。コミカルな絵も含めて良いです。みんなマッチ棒のように線が細いから気になるのかな。

例に漏れず本作ムービーのニコ動を貼り付けておきますが、この販促ムービーではとても楽しげなポップな作品を想像してしまいます。非常によくできていますが、しかしてその内容は正反対。完全に狙ったつくりになっています。見事です。



【キャラクター】
まずは桜庭という男のセンスに脱帽です。彼が一番のお気に入りであり、最高クラスのお笑い要員です。女装した太一に恋をしてレイプしようとしたくだりや(でもこれも豊のレイプ事件への伏線になってるのかなぁ)、カレーパン好きなくせにカレーは嫌いなくだりは笑えます。中でもピーナッツ入り柿の種のくだりは尋常ではないセンスで、『ピーナッツ入り柿の種』に対して「ピーナッツはいらない」というのは『ピーナッツ入り柿の種』の尊厳を損なうものであり、それならば純正の柿の種を食え、と彼は言います。そして、「だから俺はピーナッツだけを食べるようにしている」とのたまう。なんというセンスの高さや。…のくせに彼が最後一番泣かせてくるものだからタチが悪い。


もうひとりの男友達、島友貴も良かったです。太一と桜庭のキャラがあまりにも強すぎるため隠れがちではありますが、彼のような中立的な存在は物語にはやっぱり必要ですね。まぁだからこそアンテナ壊したりする犯人が友貴だったときは衝撃なんですけど。突っ込み役で、太一と桜庭と3馬鹿と呼ばれていますが、僕は学園モノで男が馬鹿をやっている設定が凄く好きなのです。彼は宮澄里見と姉弟であり、規律遵守にこだわりすぎるため高い適応係数を持つその姉により、家族の仲を裂かれた過去を持ちます。上述のアンテナのくだりもそうですが、姉に対して大きな反抗心を持っている彼の心の糸を太一がほぐすのも、本作の見所のひとつです。


主人公の黒須太一君は最初どうも好きになれなかったんす。ノリがぶっ飛んでいてキチガイ的でどうも…でもバーサーカー化しないように、敢えてそうしている彼の背景が明らかになってくるあたりからは、「おいおい、この性格すらも伏線かよ」とむしろ好感度が反転しましたねー。


ヒロイン勢ではやっぱり美希が一番良かったですね~。ルートの盛り上がりがダントツですし、本当は凄く臆病で寂しがり屋だというのが、よくわかるからです。それなのに何十周も記憶を持ったまま絶望をループをし続けてきた彼女の孤独を考えると、やっぱり美希が一番になっちゃいますよ。

あとは太一の元カノである冬子。ツンデレ冬子はそのプライドの高さゆえメンバーの助けを拒絶し、大半のルートで餓死してしまいます。これは痛すぎる。またその反面、依存しだしたらそれが凄まじいものになるという設定、かつて太一にふられたのを覆すために切腹を図るほどです。これは痛すぎる。しかしツンデレ具合が実に良い。


【音楽】
うらびれた音楽が印象的です。本作の設定にふさわしい、どこか穏やかで空虚なBGMがうまく絡んできます。静かなものばかりなのですが、シナリオとのバランスがとてもイイ感じなんです。そして、全員を送還するシーンで流れる「Signal」、EDの「CROSSING」は非っ常ーに良いです。歌詞がモロですしね。この2曲が評価を高めていることは否めません。


と、いうわけでクロスチャンネルでした。
いや書き疲れた。




テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【あやかしびと】
あやかしびと



メーカーpropeller
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■■■ 9
キャラクター■■■■■■■■■■ 10
音楽■■■■■■■■ 8
声優陣■■■■■■■■■ 9
総合【S】 90点

漢 -OTOKO-

なんとなく長いことエロゲから離れていた僕を、一気にこの世界に引き戻した張本人(帳本作?)です。どの角度から見ても高次元でまとまった見事なゲームで、一気にプレイし終わってしまいました。

【シナリオ】
さて、泣きあり笑いあり燃えあり萌えありの伝奇モノとくれば面白くないはずがないわけですよ。シナリオはpropeller所属の東出祐一郎さん、メインライターとしての本格デビューは本作が初めてとのことですが、かなりの実力派です。虚淵さんや鋼屋ジンさんなど、ハードボイルド路線が強いニトロプラスの影響をおもいっきり受けている感じがします。男キャラがとにかくかっこよく、渋い。加えて荒川工さん的な笑いの取り方も随所に見られ、「ちょっと**ぽいね」と言われがちですが、それもここまで完成度をあげればむしろ高レベルなオリジナリティを感じるってなもんです。

第二次世界大戦後、通常の人間では持ち得ない能力を持つ者が世界中に現出するようになります。この能力は政府から病気として認定され、罹患者たちは、人間でありながら妖怪、と蔑み恐れられ「人妖」の呼称が定着します。

主人公の武部涼一は、幼少から離島の人妖隔離施設で暮らしているのですが、とある事件をきっかけに、「すず」という謎の少女と二人で脱走を計ります。すずの不思議な能力で脱走を成功させた後、人妖が人口の大半を占める「神沢市」に名を変え潜り込むことに成功する二人。そこで憧れの対象だった普通の学園生活と仲間を手に入れ幸せに浸るのもつかの間、二人をターゲットにした政府の追従が始まります。ようやく手に入れた幸せと周りの仲間を守るため、彼らの戦いが始まる… コレは燃えるぜ!


「学園青春恋愛伝奇AVG」とのことですが、本編前半は大体が学園生活に重きが置かれているところもあり、序盤はほのぼのとしています。当たり前の生活に憧れていた涼一もとい双七君が何気ない場面にいちいち感動しているところも、今までの彼の境遇を考えると微笑ましくなってしまいます。

また本作「あやかしびと」、仲間ゲーでもありまして、その手の設定が大好物なワタクシにとっては、双七が生徒会に入るための根回しをしてくれている愁厳や、最初から訳隔てなく接してくれる刑二郎や、二人を信じて受け入れてくれようとする狩人のシーンなどはグッとくるわけで。はじめて見つけた仲間たちのために戦うこと、これが双七君のひとつの行動理念になっていくのは気持ちよいですね。

まず神沢市における本編に入るまでに長めのプロローグがあるのですが、ここのシナリオがとーにーかーくーウマイ!人妖であるという設定と、人間の協力者「おっちゃん」を巧みに使った感動的なひとシナリオが既にここで展開されます。掴みはバッチリです。さらに学園編序盤、生徒会に入るところから、神沢市のボス八咫鴉と側近鴉天狗に出会うあたりまでが共通パート、体験版も多分このあたりまでです。なんとまぁ良いところで終わる体験版ですこと。

その後、学園編パートといくつかの選択肢を経て個別ルートに入っていくわけですが、攻略可能キャラは生徒会メンバーの一乃谷刀子、ロシアからの留学生トーニャ、隔離施設時代のお姉さんであり現在は人妖追跡機関「ドミニオン」の隊長である飯塚薫、そして3人攻略後にすずルートです。

刀子ルートは兄である愁厳に萌え、トーニャルートはやはり兄であるウラジミールに萌え、薫ルートは虎太郎先生に萌えまくります。そして九鬼先生と光念兄弟にも全ルート通して萌えっぱなしです。…はっ、すべて男キャラぢゃないか!!


一番良かったのは刀子ルートですかね。九尾狐を中心にドミニオンが脇から絡んだ展開は、シナリオバランス的に最もオーソドックスでしたし、キャラもよく生きていました。九尾に体を乗っ取られた双七君のピンチを、師である九鬼先生と恋人の刀子が救う展開もよかったですね。しっかし見せ場は主人公双七よりも圧倒的に一乃谷愁厳でしたねー。一乃谷兄妹の人妖能力は「牛鬼」、彼らはひとつの体をふたりで共有しています。どちらかが現出している時、どちらかは精神の奥に隠れています。それが最後の泣き所の伏線になってくるのは想像に難くないのですが、その場面で見せられる兄妹の絆と愁厳の優しさには号泣もんです。


トーニャルートはロシアサイドが話の中心になってくるため、他ルートとは少し毛色が違い、九尾だドミニオンだってのが完全に脇役として押しやられます。まぁそれはそれで、こちらも盛り上がりは抜群だったので良しでしょう。とにかくトーニャの小悪魔的性格に萌えますよ。また山場であるチェルノボルグとの学校での殺し合いシーンは、Nitro+「phantom」での学校戦闘シーンからの影響をモロに受けています。オマージュですね。ただそれをよく咀嚼したうえで、あやかしびと設定でうまくいかしていますね。愁厳かっちょええ!!そしてオタク兄貴のウラジミールに泣かされまくること間違いナシ。ぬあぁぁぁぁ、刮目せよ!!


薫ルートは、正直「虎太郎ルート」と呼んだ方がいいような気がします。他ルートでは、その圧倒的な強さからジョーカー的立ち位置であまり物語に食い込んでこない彼ですが、本ルートでは縦横無尽に駆け回り活躍しまくります。なんせモンスター化した九鬼先生すら彼が倒しますから、いったい主人公は誰なのか疑いたくなります。そしてこのルート、光念兄弟が実に熱い。燃え燃えの薫VS輝義、そして一兵衛の死に様は敵ながらあっぱれ。


すずルートはラストのゴジラみたいのは規模でかすぎだろと思いましたが…うしおととらの最終決戦のようで…。途中の、生徒会全員が協力してドミニオンを追撃するシーンはめちゃくちゃ面白かったんですけどね~。
本来このルートがTRUEなのかもしれませんが、他3ルートの方がまとまりがよいですね。他ルートでもしっかり問題は解決されますので、どれをTRUEとするかはユーザー次第と捉えて良いのではないでしょうか。



【グラフィック】
キャラ絵は中央東口さん。ニトロプラスの元社員さんで、「沙耶の唄」や「ヴェドゴニア」の方ですね。取り立ててうまい!と感じるわけでもないのですが、他の原画家さんと違ってキャラをかわいく描こうとするのではなく、かっこよく渋く描こうとする方なので妙に印象に残ります。入社するまでは男や化け物の絵ばかり描いていたため、ニトロ入社後に「女の子描いて」と言われて頑張ったという裏話もあるようです。

立ち絵も豊富ですし、fateばりの画面効果も素晴らしいです。十分ですね。



【キャラクター】
いいです。すばらしいです。敵味方総じて魅力あります。熱血漢で涙もろい双七も悪くないのですが、脇役たちがあまりにも熱すぎて霞んでしまいます。ヒロインたちも十分すぎるほどに魅力的なのですが、男たちがあまりにも熱すぎて霞んでしまいます

茨の道を歩き続ける九鬼先生、圧倒的に強い虎太郎先生、寡黙で仲間思いの愁厳、温かな日常の象徴である刑二朗、お笑い要員でありながらだからこそ凄まじいまでの見せ場があるウラジミールと狩人、男気を見せる光念兄弟、蔑まれながらも己の道を誤らない比良賀…。熱いぜ!

それと、九鬼先生を除いてほとんどが人外の者なんですが、皆何かしらの妖怪名が設定として付随しているのが良いですね。牛鬼だのだいだらぼっちだの七人ミサキだのぬっへっほふだの…妖怪図鑑が大好きで狂ったように読んでいた幼少の頃を思い出しました。九尾の狐はもちろんのこと、八咫鴉だ鴉天狗だと有名な妖怪が出てくるのも最高っす。

そして豪華声優陣の演技が見事ですね~。表の世界で活躍されている方たちばかりで、聞いたことのある声がバンバン飛び交います。主人公にも声が当てられているってのもいいですね。



【音楽】
曲のタイトルがすべて妖怪名になっているのが面白い。その中でも「五位鷺」が圧倒的に光っています。泣かせどころやしんみりとした場面で必ず流れてくる、かなり泣けるBGMです。序盤、おっちゃんの記憶を消して別れる場面で流れてきたときはプロローグだというに号泣でした。他に泣かせ系BGMがないため、「五位鷺」を多用しすぎているきらいはありますけどね。

OP「虚空のシズク」、男性ボーカルはこの手のゲームでは非常に珍しいですね。疾走感あるハードロック調でインパクトはあります。かといって良いかといえば、取り立てて歌がうまいわけでもなく(笑)


と、いうわけで「あやかしびと」でございました。
S評価つけちゃいます。ホントおもしろかった。


関連レビュー: Bullet Butlers
関連レビュー: クロノベルト

  

テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【Folklore Jam】
Folklore Jam



メーカーHERMIT
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■■■■■ 9
音楽■■■■■■■ 7
オカルト■■■■■■■■ 8
総合【A】 83点

バランス感抜群エンターテイメント

まさに埋もれた名作と呼ぶにふさわしい作品です。5年以上前の作品であり、すでに販売終了しているのもあるのか、HPでの情報公開を終了しているのもあるのか、とにかく無名の作品として日の目を見ませんが中身は恐ろしいほどの名作です。

【シナリオ】
さすがの丸戸史明さんといったところでしょうか。このテンポの良さと、読み手を引き込む展開には舌を巻きます。丸戸さんのテキストは、奈須きのこさんや瀬戸口廉也さんのように気合の入った小説体であるわけでもなく、誰でも気軽に書けてしまいそうなライトな感じであるというのに唯一無二さを感じさせるのが凄いですね。

学園では有名人の頭脳明晰にして傍若無人、八乙女維月が気まぐれに立ち上げた『オカルト研究会』。興味本位でやってきた大財閥のご令嬢である神応寺古都、好き放題やれる場所として選んだ道場破り少女の木ノ内ひなた、そして無理矢理入部させられる維月の幼馴染である主人公。この4人で学園や町にまつわる超常現象を追いかけていくのですが、さまざまな事件が伏線となり物語は大きく膨らんでいきます。

HERMITの作品はドラマ仕立ての1話完結形式をとります。各ヒロインルートは、プロローグ、OPムービー、本編、EDムービーで1週。これが6週分あり本ED、エピローグです。非常にすっきりしていて読みやすいですね、この形式は。1話ごとに起承転結、ドンデン返しがしっかりついており、その中で3ヒロイン後のクライマックスであるTRUEルートに向けた伏線も提示されていきます。良く出来たドラマを見ているようでした


ラブコメ大先生の丸戸さんの中では異色作品ですが、オカルトものSFものはなんだかんだ好きなので、読んでいて楽しかったです。上記しましたが、とにかく伏線が随所にちりばめられていて、3ヒロインのルートは、それぞれ全体の収束への布石にすぎません。各ルート、ばらまかれた伏線が少しずつしか回収されませんし、ラストにも謎が提示されて終わりますので、次へ次へという気になります。1人1人のヒロインでしっかり話をまとめてほしい人には引っかかるかもしれませんが、ワクワクしながら最後まで読み進められるとも言えます。最終的にはしっかりすべての伏線を回収しますし、読後感は気持ち良いですよ。


維月の様々な行動の動機や、主人公の存在自体にもところどころ不可解な点があって、それらが物語の大きな仕掛けとして機能していくあたり、非常に丸戸さんらしいですね。普通、主人公サイドの人間というものは様々な謎や困難に立ち向かっていく側なわけですが、本作のように主人公サイドにも謎や伏線が潜んでいるというのは、面白い設定だと思います。維月がなにげなく提示していた1話1話の調査ポイントも、すべてが伏線の回収のために生きていたとあってはねー。

ひなたルートは、他ふたりのルートとは少し独立した時間遡行を駆使するストーリーなのですが、その中で描かれるシーンも本筋にパラレルワールドとして起因してきたりもして、本当によく絡めているなぁと感嘆です。別物である各ヒロインルートのエピソードがTRUEルートでの主人公に影響を与えた行動をとらせるんですね。

クライマックスでの大掛かりな伏線の背景もよく出来てました。舞台となる神凪市にまつわる伝説と、その伝説に絡んで人柱として命を捧げられた双子の少女の存在、それに関わっている土地の盟主神那妓家。そしてそれに反する神那妓の分家である神応寺家が為そうとしている双子を救うためのあらゆる経済活動、建設事業。さらにこの双子の封印においては、維月と主人公の幼少時の事件が紐付けされ、彼らが重要なキーパーソンとして描かれます。

マジかいっ!となる展開も随所に見られますヨ。特に遙香先生が黒幕側だった時はやられたと思いましたねー。 神谷刑事のパートナーが敵だったのも良い展開でしたし、キーパーソンになりえるルポライターの金城さんがルートによってはあっさり殺されてしまう時も、もっていき方がうまいなーと思いました。

シナリオ展開も巧みならば、会話のテンポも面白い。クライマックスへの山の作り方も見事な、良シナリオゲーです。


【グラフィック】
厘京太朗さんですか、クセのある原画家さんですね。身体の描き方がちょい力強くてアメコミ系なんですよね。顔のグラフィックは好きなんですが…。あと、私服がちょっとなぁ…って感じです。格闘ゲームのキャラじゃねーんだから、もう少し現実的な服装にしてほしかったですね、そういった意味では会長さんの服装は一番まともだったな。

話は逸れますがエロゲのヒロインたちって大体変な服着てますよね。そんな服着てる人いないよ的な。そのほうが二次元好きにはウケがいいんですかね…?個人的には街中で見かけるようなおしゃれな女の子のような服装だとより萌えるんですけど…。

てなわけで、正直あんまり評価高くないんですけど、何枚かに1枚メチャクチャいい絵があるんですよね。洞窟で維月と脱出する際のCGとか。



【キャラ】
キャラ造形はすばらしいです、さすがの丸戸さん。主人公、ヒロイン、必要最小限に留めたサブキャラ、すべての登場人物が生き生きと己の役割を全うしていて、影を潜めてしまう人物もいない。丸戸さんは登場人物各々の立ち位置の作り方が非常にうまい方ですが、その丸戸作品の中でも、この作品は屈指のキャラバランスを保っているのではないでしょうか。

ヒロインの中ではやはり幼馴染の維月が一番かな。丸戸さんはツンデレを書かせたら敵無しですから。はじめ興味なさげなのに段々と主人公を頼りだすひなたもいいですね。呼び方が「ゆう先輩」に変わる時がたまんない

主人公は「GS美神」の横島のような何とも頼りないアホキャラです。しかし横島は横島でも、『文殊』を体得してからの後半の横島です(わかりにくい)。やるときはやれる男であり、さらに自分の出自にもひとエピソード持っている、魅力的な主人公です。

またサブキャラが最高でした。ちょいちょい入るショートコントがおもしろすぎる謎の爺さん茂蔵や、神応寺家の執事エリオット+3メイドの暗躍ぶり、刑事さんたちも要所要所で光る働きを見せてくれましたね。特にクライマックスで、すべてのサブキャラが協力して封印を解くシーンは非常に熱くなりました。だからこそその直後の遙香先生の正体にもビビったわけですが。



【音楽】
オカルト色が強くなってくると、夏を感じさせる風鈴や虫の音を効果的に使ったBGMがよく流れますがこれが実にいい。さらにこれが一番の良曲かと思いますが、ギターリフが印象的なOPがいいですね。オカルトを扱っていながらもポップなノリで進んでいくこのシナリオに非常に合っています。一話ごとにOPとEDが流れますので印象に残るってのもありますかね。

以上、Folklore Jamです。
まとまりの良い名作です。是非プレイしてみてください。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム