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エロゲ レビュー ブログ
【コンチェルトノート】
コンチェルトノート



メーカーあっぷりけ
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■□ 7.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■□ 7.5
ビギナー向け■■■■■■■■■ 9
総合【B+】 77点

信頼が幸運を掴む

この作品、僕はまったくもってノーチェックでしたよ。ニコ動の2008年エロゲランキングで4位だったのを受けてプレイを決めました。初めてプレイしたメーカーさんですが、あかべぇ系列なんですね、システムや塗り、背景がモロあかべぇで雰囲気が同じですので見て一発でわかります。

【シナリオ】
あらすじ。身寄りも所持金もなく、普通に生活をしているだけで様々な不運に見舞われる主人公、倉上進矢。ある日、絡まれていた同級生を救うことで長期入院を余儀なくされ、奨学生の身であった彼は結果として出席不足により学園をやめざるをえなくなります。そんな彼を救ったのはかつての幼馴染である神凪莉都、彼女が理事長を務める天都原学園に奨学生としての入学、さらに彼女の暮らす月光館への入寮を勧められます。

転校初日、不幸の最たる状況、屋上からの転落事故に見舞われる進矢と莉都。しかし通常なら即死でしかない状況の中、奇跡としかいえない助かり方をする彼らの前に、一人の人形サイズの女の子、運を司る神霊「タマ」が現れます。彼女から、「ふたりの運を利用することで助けた」「その分はこれから運を集めることで返済をしなければ死亡するほどの不幸が待っている」と、告げられる進矢。彼女に運を返済して究極の不幸を回避するため、進矢と莉都は手始めに仲間たちとボランティア部を新設し、翌週の文化祭に望みます……。



なんかつまんなそうですよね笑


正直なところ作品のHPを眺めていても、シナリオ、キャラクター共に初期設定からは引きつけられるだけの魅力を感じません。物語の導入も起伏なく入っていきますし、主人公と莉都との再会や月光館の訪問も実に簡潔で淡々としています。あかべぇ系列なため全体的に背景絵がぼんやりとしていることもあり、前もって集めた事前評価の高さがなければ僕は決してプレイすることはなかったでしょう。

ですが!! 少し読み進めていけばわかるのですが、シナリオ担当の桐月さんですか、非常にテンポよく読ませる方ですね。良い例えを出せば丸戸史明さんのような、平易で普通極まりない文章でもサクサク「読めて」しまう、そういうタイプのライターさんです。この手のライターさんはいそうでいませんので、他の作品も楽しみなところですね。


ただ、話の中核となる「運」。この要素を前面に出し、運の使用や代価、他人からの吸収等といった設定固めはしてきているものの、「運」という要素は概念としてあまりにも曖昧としすぎているため、正直イマイチとらえようのない印象が拭えない。また事前設定の割には物語内でそんなに不運を主人公がかぶっているようでもなく、かといってでは不運の描写をもっと盛り込めばよかったかというとそんな物語が別に読みたいわけでもなく、「程度」の扱いが難しい要素であったように思えます。

神霊「タマ」を用いた運の回収方法も正直微妙でした。進矢に向ける感情の強度により対象から運を吸収できる量が変わるだとか、進矢が誰かに触れれば対象から一気に運を吸い取れるだとか、「運ってなんぞや」な設定ばかりです。そもそも進矢と利都、そして彼らに対して「繋がり」の強い者、例えば莉都の専属メイドである小夜璃さんや、進矢に思いを寄せている和奏にはタマの姿が見えるというのに、会長ルートに入っても一貫して会長に見えないというのもその境界が曖昧ですしね。もっともらしく書いてはいるのですが、どうにもしっくりこないんですね。

また、各個別ルートにおいて、文化祭でソフトボールの試合や手品などで人の注目を集めることで運の返済がある程度解決するわけですが、「え、必要な運ってそれで解決しちゃう程度の量なの?」と感じるのも正直否めませんでした。


……と、最初に一気に難点を書きましたが、ライターの読ませる力量が高く、さくさく読み進めることが出来ますので問題ありません。とはいえ個別ルートは、莉都ルート以外は正直詰めが甘い

和奏ルート。熱の入れ具合が違うソフトボール部員たちとの溝を埋めるルート。タマだの運だの、って要素があまり作用せず、存在感の薄いルートでした。そして、やる気がないと思われていたソフトボール部の部長たちは結局しっかり出来る真剣な人たちだったんかい!と。部員との軋轢自体がたいした問題ではなかったとなると、問題点は最初からさほどなかったのでは……。というか、和奏が一番空気読めてなかったんじゃ……。いやはや物事片方からしか見てないと真実は見えてこないですね。


白雪ルート。目立つ不幸体質から流れに巻き込まれていくことになる彼女、心臓移植政略による家族間の確執などけっこう重めなテーマと、白雪のぽわぽわした可愛らしさが同居するシナリオでした。しかしですね、東条家の父親たちは結局どうしようもない悪役だったの? 白雪の心臓提供者である幼馴染の死亡事故の真相はどうなの? なんか大きなドンデン返しがきそうな雰囲気もあったのですが、結局それもなく表立った説明のみで終わってしまった書き込みの浅さが残念なところですかね。


星華ルート。パワーと人望で引っ張るタイプの生徒会長姉御肌キャラ、といったところでしょうか。ありがちキャラながらもかなり立ってますね。唯一タマを認識できないヒロインですから、根幹の設定がさほど生きることもなく、どちらかというとキャラが良いのでそこを楽しむルート、の意味合いの方が強かったように思えます。女の子同士の格闘描写が山場ってのもどうにも読み手的には盛り上がらずだったかなあ。


小夜璃ルート。莉都のメイドであり、幼少児の主人公と知り合いだったのだろうなあ…という伏線が序盤に提示されますね。まあ実際そのとおりで、最終的には、進矢と莉都に遠慮して否定していただけの小夜璃を解きほぐして結ばれてハッピーエンドです。


そして莉都ルートを残すのみとなります。莉都のぶっきら棒で空気の読めないながらもなぜか愛らしいキャラは、プレイすればするほど魅力を増しますね。莉都は最後に、との情報があったため我慢しましたが、正直他のヒロインを攻略しながらも、莉都ルートが非常に楽しみでした。

このルートは、タマや神凪にまつわる伏線を回収する最も大きいルートであるとともに、サブ男性キャラである陽太や上杉、担任の深弥先生などの脇役たちも皆、月光館に転がり込んでくるというこれまでにはない良設定で進むルートでした。さらに言うと、非常に暴力的な描写で読み手を引きこむ幸御魂の記憶をたどる夢のシーンで陽太、上杉、クラウスを主要メンバーに選んだり、一連の真相を彼らに打ち明け、彼らを話の中枢に引き込んでいく流れも個人的に上がりました。サブの男性キャラって、いい働きをしていても真相においては蚊帳の外ってケースが多いので、個人的にはその流れは大好きなんです。


本ルート、思っていたよりも壮大な仕掛けが提示されるルートで、古来より人身御供で人為的に地を平定していた神凪一族が儀式を行わなくなったことにより、その反動で街の抱えてきた歪みが解放され崩壊の一途をたどりつつある、というダイナミックな展開は読み手を引きつけるものがあり、さすがに終盤の盛り上げは高い評価を得ているだけのことはあるなと思いました。ラスト付近で、深弥先生や南条も話に深く関わらせる展開、キャラ総出の全体的な展開は非常に面白かった。

神凪家があっさり崩壊する様や、莉都が終盤あまり活躍しない点など、もったいない点はあったにせよ、やはり莉都ルートが頭ひとつもふたつも抜けていましたね

さらに、クライマックスのタマとの別れのシーンは、あかべぇお得意の演出といった感じがしました。やってくれますよね、あのタイミングで歌付曲「輝いたまま」を流してくるとはね。


しかし、あかべぇ系列の暁WORKSから同年に発売された「るいは智を呼ぶ」も、不幸を仲間たちと打破する話でしたが、なんか関係あるんですかね? また、かわしまりのさんが演じるマイペースなメインヒロインルートが他ルートを圧倒する出来、というのも同年のどこかで聞いた話ですね笑。



【グラフィック】
原画はオダワラハコネさん。立ち絵より一枚絵のほうがはるかに良い絵が多いですね。正直立ち絵はあまり良くなく、右を向いたときの絵が総じてバランス悪いなどの難があるのですが、一枚絵になると途端に生きる絵になります。あとあかべぇ系列はやっぱり背景が弱いかなあ。

それから、定番の紙芝居ものゲームにしては、タマを中心として、非常に効果的に立ち絵が動きますね。肩に乗ったり動き回ったりするタマや、キャラに高低差を出して立っている人座っている人を表現したり、キスする時に顔にフォーカスインしたりと、出来る範囲での動きを表現している努力は評価できます。

フローチャートのシステムも個人的に好きですね。でもこれですと、セーブシステムいらないんじゃないかと思いますが。


【キャラクター】
どのヒロインもありふれた設定ではありますが、声優さんの力が大きかったこともあり、総じて魅力的に描かれています。全ヒロイン、各声優さんのいい部分がキャラの特長と相乗で高め合っている、そんな印象を受けました。でも特に莉都だなぁ、やっぱり。

主人公は、倉上進矢。凄くいいですね、かなり気に入りました。言動がすこぶるカッコ良い。要所要所でとる行動や、堂々とした態度、ギャグ、シリアス両輪で機能するセリフ、主人公をかっこよく書けるライターさんの作品は面白くなる傾向にありますが、本作もまた例外ではありません。

そして言及しておきたい点として、莉都と進矢の関係の描き方がまたいいんです。彼らは幼馴染というには過ごした時間は少ないですし性格もだいぶ違います。ですが、幼少時の一年間に培った思い出と、偶発的な相性の良さ、ここから発展したお互いに対する絶対的な信頼関係と理解の深さは実に見事に描けています。どんな窮地にあってもお互いに対する考えが全くブレないのが素晴らしい。他ヒロインには悪いですが、この二人はやっぱりセットで見てしまいますねー。

それからクラスメイトの陽太、上杉、転校生のクラウスの男性キャラ3人も、ほどよく主人公達と絡みがあり良いと思います。実に気持ちの良い仲間、って感じに描かれていて好印象です。ま、キャラクターは全体的に温かくて良いですね。やっぱ学園ものはこういう温かさがないとな。


【音声】
音楽的にはOP「コンチェルトノート」が良曲で、更にそれをアレンジしたピアノver.とオーケストラver.が印象に残っています。特にオーケストラ ver.だな。また通常シーンで流れる音楽は平易なものですが、プレイし終えて音楽を改めて聞きなおしてみると、なにげに決めどころの熱いシーンで流れる曲のバリエーションが多いんですよね、実は。「コンチェルトノート」もそうですし、「たとえ1人でも」と「仲間がいるなら」、「必ず助けるから  Ver1、2」など、同じ曲で2~3パターン、アレンジを変えて用意している類のBGMがいくつかあって、これは凄く良いですね。


以上、コンチェルトノートでした。
物語や設定も少し似ていますが、PULLTOPの「ゆのはな」をプレイしたときを思い出しました。読みやすシナリオに、全体的に活躍するキャラクターたち、程よいサブヒロインルートと伏線回収する起伏の大きいメインヒロインルート、後を引く余韻。エロゲ初心者の方にやってほしい作品です。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【赫炎のインガノック】
赫炎のインガノック



メーカーLiar Soft
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■■□ 8.5
キャラクター■■■■■■■□ 7.5
音楽■■■■■■■■ 8
空気■■■■■■■■■ 9
総合【B+】 79点

桜井節奇譚

さすがのライアーソフト、スチームパンクシリーズ最高峰と謳われているだけのことはありました。『蒼天のセレナリア』で用いた蒸気機関や幻獣といった世界観設定を踏襲していますが、特にセレナリアをプレイしていなくとも問題はありません。

【シナリオ】
シナリオ担当はライアーソフト専属のライター、桜井光女史。作品の専用HPを見て頂ければわかるのですが、事前の世界観情報があまりにも盛り沢山、スチームパンクシリーズとして大作を何本も投下していることからもわかるとおり、彼女の頭の中には僕らの住んでいる世界とは別の確立された大きな世界が運用されているようですね。素晴らしいことです。

10年前の「復活」と呼ばれる原因不明の濃霧と、「クリッター」なる破壊生物の出現により、破壊と混沌を余儀なくされた都市『インガノック』。今では外界と隔絶され、ヒト以外の生物の外見と性質を現出させた住人たちが跋扈する、独自の文化網を発展させた異形都市と化しています。

インガノックの低所得層がひしめく下層域にて巡回医師を続けるギー。彼は「現象数式」を操り、体内の悪しき状態を置換させることで治療を施す特異な技術を持っています。自己満足と揶揄されながらも日々を巡回に費やすギー、その動機は義務なのか果たして狂気なのか。

ある日、彼の視界に映る妄想、幻の道化師の言葉に従い雑踏を見渡すと、この町に似つかわぬ清廉な少女を捉えます。異形都市の常識を何も知らず、まぶしいまでの笑顔を浮かべる彼女の名はキーア。魅かれるままにキーアを匿い共同生活を始めることになるギー、彼らの前に起こる事件に向き合ううちにインガノックが抱える闇と過去が徐々に明らかになります。


……と、全12章から成るストーリーですが、基本的には1話完結形式で進むドラマ仕立てになっています。ギーや黒猫アティ、キーアといった主人公グループを中心に、各章において特定の脇役キャラにフォーカスされた話が展開されます。そしてその各々の話には常に、インガノックが異形都市となった10年前に現れた「クリッター」なる殺戮の象徴キャラクターたちが事件の引き金として絡み、話を動的にします。メリハリがきいていて良いですね。

また各章の中盤には、主要登場人物の独白や世界観の説明を語る幕間が用意されており、物語外でこういったことをするのは少し反則技かな?と思わないでもないものの、演出が良いので特に気にはなりませんでした。


セレナリアの時にも思ったのですが、要所要所でキャラクターに長い詩的な独白をさせるのがこのライターの特徴のひとつですね。彼女特有のこの手法、とても綺麗です。またギーが奇械ポルシオンを発動させる時の文章や、「喝采せよ」のくだりもそうですが、毎章あらわれる同じような場面を敢えてまったく同じ文章でたたみかける手法は面白いですね。まぁ「しつけーな」、と思わないこともないのですが笑
この人はシナリオの組み立て方とセリフの重ね方が凄く詩的ですよね。絵本のような独特な語り口が特徴的です。物語自体はダイナミズムに溢れていますが、個々の文章は非常に繊細です。女性だと知って最初驚きましたが、文章を読めばそれがよくわかります。


最後に向かうにつれ少しずつ、41体のクリッターや、インガノックが異形都市となってしまった理由、背景などもちゃんと説明されたのは意外でしたが良かったですね。えてしてファンタジーものですとこういう設定は、「そういうものだったのだ」として処理されがちなのですが…。ファンタジー的動機に落とし込まず、41人の妊婦を収容していた産婦人科を襲った事故が原因であったというのは評価できます。そしてそれをなんとかしたかった大侯爵アステアの儀式が引き金になっているという点ですね。院長から送られるはずだった41体のおもちゃがクリッターとなり、41人の胎児が、ギーの背後にもいる奇械となったという流れも、その事故に巻き込まれ死にゆくはずだった少女がキーアであり、それを必死に救おうとした当時の研修医がギーだったという流れもまた、物語として綺麗です。やはり主要人物に大きな伏線を持たせるというのは効果的ですよね。

ラストはいくつかの謎と余韻を残して終幕します。主要人物たち、つまりギー、キーア、ケルカン、ルアハは果たして助かっているのか? また、最後に3人の子供たちが助けるひとりの子供は誰なのか?

これは想像でしかありませんが、最後の災害の後、「驚いたことに死者はほとんどいなかった」と述べられていることや、3人の子供が救い出した子供をギーとキーアに見せると話している場面から、おそらく皆生存していると考えて良いのではないでしょうか……いや、考えたいところです。また、最後の子供は、ギーの背後にいたポルシオンでしょう。本来生まれることのなかった41人の胎児たちがこの世に生を受ける奇跡を授かったことでラストを清々しく締めているのだと思います。


欲をいえば、世界観づくりに力を入れすぎて、肝心のキャラクター関係性の掘り下げがもう一歩だったことが挙げられます。例えば、ポルシオンとギーの関連が薄かったので、なぜギーの背後にいるのがポルシオンなのかに言及した話だったり、アステアとその娘の話、それから主要人物の割にいまいち報われなかったアティへの掘り下げなどがあるとさらに良かったかなと思っています。


しかし、彼女の世界観づくりは卓越してますね。いや、彼女とライアーソフトの力、ですかね。この類の作品を作らせたらライアーソフトの右に出るメーカーはありませんね。


【グラフィック】
キャラクター絵、背景ともにサイケデリックで独特の雰囲気を持っています。墨絵のような黒を基調とした全体絵図、差し込まれる金や紫などの雅色…、原画担当は大石竜子さん。シナリオもそうですが、原画も女性の方なのですね。かなりクセのある原画ですので、人を選ぶ部分もあるかもしれませんが、相当にかっこいいです。

ただ、主要人物や各話の中心人物に立ち絵があり、サブキャラはモブ背景のような塗りなしの絵で済まされてしまってるのがもったないなかった。3人の子供たちやアティの仕事仲間デビッド、現実主義の医者仲間エラリィなどはかなり良いキャラをしていたと思うのですが。

それから背景が少し足りないのがもったいなかったかもしれないですね。雰囲気は抜群なんですが。


【キャラクター】
女性が描く物語だからか、女性キャラの優しさや憂いが非常に丁寧で美しいです。特にキーアの持つ母性や温かさ、セリフの優しさは特筆すべきものかと。内面吐露のシーンが最も多いアティの感情の揺れ動きも非常に丁寧でした。だからこそアティはもっと幸せになってほしかった…。本来は人間であった機械人形ルアハの心の動きも静的ながらも訴えてくるものがありました。

男性キャラの主翼は、ダウナーな主人公ギーと殺人者ケルカンですね。対極に位置するこのふたりの奇械使いはこの世界観によくあっているふたりでした。ケルカンの伏線も良い感じに最後作用していましたね。

しかし上記しましたがキャラ関連性にもう少し書き込みがほしかったところが惜しいですかね。登場人物が多いようで、実は物語の壮大さの割に重要人物が少ない。そして関連性こそあるものの、そこの書き込みがいまひとつ薄い、そんな印象が正直ありますね。


【音楽】
ジプシーミュージックや、切迫したオーケストラなど、世界を大切にしつつも動的な音楽が多く、これは非常に評価できます。印象に残っているのは、緩やかなバイオリンが心地よい「日常/緩やかな時」、ジプシー調のアコギの音色が美しい「運命/回転悲劇」、派手な「戦闘/無限舞踊」でしょうか。が、しかし曲数が10曲強しかありませんため、どうしても使いまわしの頻度が多くなってしまったのは残念なところでしょうか。

OP「Adenium」が素晴らしいですね。サビへの持っていき方がかっこよいですね~。ブルヨグはいい仕事します。

またセレナリアもそうでしたが、パートボイスになっているのがやはり惜しいですね。ギーやケルカンなんて、あれだけ登場しておきながら数えるくらいしかボイスがなかったのでは……汗。


以上、赫炎のインガノックです。クセのある作品ですので、まずはライアーソフトのHPを。そして出来のいいOPムービーを。いけそうだとあれば、きっと引き込んでくれることでしょう。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【てとてトライオン!】
てとてトライオン!



メーカーPULLTOP
シナリオ■■■■■■■ 7
グラフィック■■■■■■■■■ 9
キャラクター■■■■■■■■■ 9
音楽■■■■■■■■ 8
常夏爽快■■■■■■■■■■ 10
総合【B+】 79点

キャラゲーの手本

とても気持ちの良い作品でした。シナリオはライトなノリで、キャラは生き生きとしています。こういう作品を良作のラインまで持っていけるあたり、PULLTOPはやはり地力がありますね。重い作品を立て続けにこなした後にプレイしたので、スッとした爽快感がありました。

最初に言いますが、シナリオ自体は普通極まりないです。泣けるわけでもなく、ゾクゾクする展開というわけでもありません。ただ、キャラクターの魅力とじんわりくる演出、原画の力により良作領域まで持っていくことに成功している希有な例といえるでしょう。

【シナリオ】
うん、凄くいい雰囲気ですねー。前述のようにシナリオとして優れているわけでは決して無いのですが、それ以上にテンポと雰囲気の良さが勝っています。

設定などはハッキリいって強引なものばかり。ですがそこを重要視せず「そういうもの」として力技で突き進むのも、キャラの魅力あってこそですね。学校設計やシステムの無理矢理感や、ガードロボの無迫力などからくる緊迫感の無さも、キャラの魅力ですべてカバー、そういうゲームです。そしてそういったキャラを立てるためのシナリオ、という観点からみるとよく出来ていると思います。シナリオは椎原旬、下原正さん。基本的に僕はシナリオありきならばキャラは重要視しない人間ですが、本作のようにキャラありきでそれを生かすための最大限のシナリオ、というのも良いものだと思いました。


主人公の鷲塚慎一郎は、発明者にして冒険家の父親に連れ出され、日本の学校教育からはかけ離れた世界各国のサバイバル環境で青春時代を過ごします。ある日、父親が設計に関わった全寮制の私立「獅子ヶ崎学園」に入学するよう言い残して消える父親。ようやくまともな学生生活が送れることに喜ぶ慎一郎。ですが向かった学園は、学校とは思えない最新鋭設備を備えてはいたものの、度重なる風害やシステムトラブルにより機能が半停止している状態で……

そんな感じの導入です。そして彼が状況打破のキーマンとなっているわけですね。システムへの干渉を可能とする彼のみが持つ「首輪」を用いて、機能回復のための一役を担います。彼と各ヒロインが「手と手」を合わせてシステムに「Try on」することで干渉することができるわけですが、これは「ライオン」ともかかっていますし、いいタイトルですね。


基本的にはどのヒロインルートにも、ヒロインと共にトライオンを繰り返しながら学園内の施設の復旧を進め、後半にて大型台風の直撃とヒロインとのちょっとした山場を乗り越えて、学園祭開催に向けてドタバタ日常を過ごす、といった共通したコンセプトがあります。

後輩の一年生、学校警備部長、頑固で生真面目な胡桃沢鈴姫ルート。実は幼馴染だったという設定をいかしての王道ルートです。慎一郎がずっと自分を思い続けてくれていたと勘違いしながら突っ走る鈴姫はなんというニヤニヤ。ただ、ちょっと設定は飛び飛びですし、主人公の好きになる過程が省かれていたのは残念かな。ラストシーンは素晴らしいです。

生徒会長、蓮見一乃ルート。彼女はカリスマ溢れる生徒会長という表向きの顔と、実は完璧さに欠けたり、いい加減な行動を取る人間味溢れる顔とのバランス感が絶妙ですね。2年前、大型台風により校舎が壊滅状態に陥ってしまった際の痛手の思い出を引きずっており、それがラスト盛り上がりへの伏線となっていきます。ラストの校舎復旧シーンで拳を突き上げるCGが最っ高ですね。OPをピアノストリングスVer.にした音楽と相まって感動します。

獅子ヶ崎学園システム復旧の要、十倉手鞠ルート。彼女は一般的に一番人気ありそうですね。登場シーンから慎一郎のことを好きになる伏線がありますが、その設定に楽してのっかることなく、程よい距離感を保ち続けているのが良かったですね。風呂場での告白シーンはとても微笑ましくてよかったです。彼女は、盲目的につくしている幼馴染の鷹子先輩が物凄いハードルになることはわかっていましたが、とても清々しく、熱い送り出し方をしてくれた鷹子最高。最後の、屋上の手鞠に会いに行く過程で登場人物たちが手引きをしてくれるシーンは仲間ものならではですね。

そして主人公と最初に出会う水泳少女、織原夏海ルート。僕は彼女が一番好きです。唯一、他のキャラルートすべてで、慎一郎がとられてしまうことを少し後悔するシーンの描かれる彼女、全体的な扱いもメイン然りとしていますし、理事長の孫にして土地の意志を伝える一族の子孫という設定(これは蛇足でしたが……)的にも、夏海がメインヒロインとみて良いでしょう。

元気いっぱいであけすけな性格の彼女ですので、慎一郎を意識しだしてからの照れる夏海は超かわいいです。実はシナリオ的な仕掛けは4人の中で最も薄いんですけどね。でも彼女の性格と展開があまりにも爽やかなもので、とてもよい印象で心に残っています。

復旧されライトアップされたかささぎ橋を天の川に、その橋の上でキスをする二人を織姫と彦星に見立てたラストシーンは本作最大のピークです。その一枚絵もBGM「ひだまりの夢」も半端じゃなく素晴らしいですし、泣きゲーでもないのにグッときてしまいました。

そう考えてみると、鈴姫の相合傘のライトアップや、一乃の生徒会長引継、そして手鞠の疑似結婚式など、本作はどのヒロインもラストシーンがとても良いですね。読後感が非常に良いのはこういったことにも関係してるかもしれないな。



【グラフィック】
んーーー、この原画家さん。なんだろ。めちゃくちゃうまくないですか!?? いや、パッと見た感じ、別に好きな画風ってわけでもなく、むしろ絵がそんなに好きでなかったので積んであったりしたのですが、一枚絵の構図や、躍動感とバランス感が絶妙な身体の描き、ツボをついた表情など、ものすごい魅力を放つ絵を描く人ですね。好きな絵師さんの仲間入りです。第一印象をここまで覆された原画というのは初めてかもしれません。

また、立ち絵の豊富さと、動きの多さが良いテンポを生み出します。いい仕事していますね。


【キャラクター】
本当に出てくるキャラ出てくるキャラいい奴ばっかりで、これがPULLTOPの特徴であり強みですよね。

主人公の鷲塚慎一郎君は、全体的に良いPULLTOP作品の中でもとりわけ良い主人公ですね。なんでも万能にこなし、素直でまっすぐ、キメる場面はかっこよくキメる。丸戸史明さんが書くようなかっこいい主人公でした。

ヒロインが総じてかわいく魅力的なのは上記でわかるかと思いますが、サブキャラも総じて魅力的です。夏海の親友ちさと、生徒会副会長の芹菜さんあたりは、攻略を望む声が聞こえてきそうですね。

男キャラ2名もとてもいい味を出しています。同室の相馬騎士君は思いやりもありノリもよくめっちゃいいやつ。主人公のバイト先「サニーサイド」の店長である鹿子木先輩もPULLTOPの温かい世界観を体現したかのような方でござんした。

もうひとりふたり、中心に絡むメンバーがいても良かったかもしれませんね。それから登場人物が高校生ばかりなので、もっと大人を絡ませても面白くなったかもしれません。キャラが良かっただけに、もっともっとと思ってしまうのは酷なことですかね~。「みんなで」というコンセプトを持つ学園もので、且つうまくいっている本作ですので、もっと見ていたかったというのはありますね。


【音楽】
実は音楽も凄くいいんすよ。OP「TRY ON」、ED「てとて、ギュット」は役割以上の良曲ですし、全体的にも作風にあった明るくアップテンポな曲が支えます。そしてラストシーンなどで流れる「ひだまりの夢」「いつかの口笛」「手と手を繋いで見る世界」など、しっとり魅せるBGMはPULLTOPはやっぱりはずしません。



以上、てとてトライオンでした。
世界観に浸らせることにおいては定評のあるPULLTOP、たまにはこういうドタバタなラブコメもいいですね。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【蒼天のセレナリア】
蒼天のセレナリア



メーカーLiar Soft
シナリオ■■■■■■■□ 7.5
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■■ 8
冒険活劇■■■■■■■■■ 9
総合【B+】 76点

蒼空への夢と童心

いまやライアーソフトの看板ライターである桜井光さんのスチームパンクシリーズ第一作目、「蒼天のセレナリア」です。古き良き宮崎駿ファンタジーの影響を一心に受けた冒険活劇です。

【シナリオ】
「赫炎のインガノック」「漆黒のシャルノス」といった、後の名作に連なる設定を共有するスチームパンクシリーズ。蒸気機関の技術をもとにして大空を飛空挺が駆け抜けるその世界観は読む者を童心に返らせます。

特に、濁った自分たちの世界から「世界の水殻」を抜けて、青空の広がる新世界に到達する前半最大の山場での高揚感はハンパではなく、はじめてみる青空に興奮するキャラクターたちの心の動きには打たれるものがあります。

蒸気機関文明が発展し繁栄を成した世界、その技術は革新的に進んではいるものの、排水と排煙により汚染された空や水は黒く濁り、暗がりの世界が広がっています。飛空挺「ウルメンシュ」を自在に操り「何でも屋」として空を駆けるコニーとシェラの少女ふたり。彼女たちは、ある日一人の少女を助けたことで、絶対権力と戦力を持つ帝国に追われることになります。ウルメンシュで逃げる先にはこの世の最果てと呼ばれる「世界の水殻」…、戻ることもままならず、その先を信じて飛びこんだ彼女たちを待っているものは…。

と、いうのが第一章から第二章にかけての導入部分です。ここから未知の新世界である本編全八章に突入していくわけですが、スピード感のある展開と、ジブリ的な冒険譚は、好きな人は本当に好きでしょうし、かくある僕もかなり食い入るように読み進めました。

もとの世界と新世界セレナリアとの対比も非常にうまく、人間が暮らす濁った世界と、人型の鳥や虫が暮らす青く美しい世界、この対比に何の情報もないまま翻弄されつつも進んでいくコニーたちの姿の書き込みは見事なものです。次々と現れる未知の存在と事件に直面しながらも、ワクワクさせる冒険モノ王道の展開ですね。

ラストに向かうにつれ、黒幕の思惑や存在感もグイグイ増していき、おおよそ登場するほとんどの主要人物を巻き込んで、最後の山場と戦闘シーンに入っていく流れも非常にアニメ映画的で好感度大でした。

この世界観の見せ方と、最後まで暴れまわるキャラクターたちの書き込み、一番大事な要素ですが、これらは本当によく出来ていたと思います。しかし一方で、大事なところの書き込みがあまりされていないのも目につきます。

たとえば、コニーやシェラといったメインキャラクターの過去が比較的さらりと説明されてしまいます。大きな設定の割には、人物背景がほとんど説明されないキャラも多々あり。活躍は派手なだけにもったいないところです。ヤーロという物語最大のキーパーソンであるべき人物が、最後まで全然登場しないうえに、たいしたキーパーソンでもなかったというのも何だかなぁ。。。マウマウも途中途中で思考シーンが入るので何かあると思わせて特に何もなかったし。

それから、コニーたちが大行程を経て奇跡を起こしセレナリアに到達した、その壮大な煽りの割には、帝国空軍が「虹の道」を通ってラクラク到達できてしまって、ひょこっと登場してくるのは、正直興冷めでした。

ま、しかしながら、決して短いシナリオではなかったというのに、この手の冒険ものをテキストの力で最後までグイグイ引っ張れたのはたいしたものです。


【グラフィック】
クセのある原画師さんで、通常のエロゲーに比べてアニメ要素の非常に強い絵柄なので、人を選ぶかもしれませんね。アニメとして動いたら非常に魅力が増すのではないかな。

というか、本作はグラフィックに力がかかっているわけではありません。枚数が多いわけでもなく、エフェクトが非常に優れているわけでもないわりには、シナリオがジブリ的なものですから、かなりユーザーの想像力に委ねられる部分が大きいんですね。これはプラスなのかマイナスなのか何ともいえないところですが、もし本作がアニメだったらさらに世界が生きてくるのではないかな、そう思います。

あ、あとMAPシーンですが、これはやっぱり余計だったなぁ。
本作は、燃料と積荷コストによって制約を受けた行動ポイントを消費しつつ各街を目指すというゲームシステムが導入されているのですが、別にこのゲーム部分がシナリオに影響を与えるわけでもなし(与えていたらいたでそれもまたうざったそうですが)、実に中途半端な位置づけになっています。


【キャラクター】
この作りこまれた世界を駆け抜けるのにふさわしい、アッパーで魅力的なキャラが盛りだくさんです。まず主人公のコニー・イル・リクール、かなり魅力的な主人公です。冒険譚にふさわしい、行動力と判断力と、思いやりに心を痛める優しい心を持っています。女性ながら、週刊少年ジャンプの主人公たる資質を持っているといって良いでしょう。

サブヒロインである獣人プセールのシェラ・マキス、天真爛漫な獣人という設定は個人的にはなんも響きませんが、彼女もなんかしらの大きな設定があるだろうとは思っていましたが、やはり最後に到達する水都のプセール女王一族の末裔でした。でもそこの書き込みもっとほしかったですね。

それから、帝国知能をつかさどる碩学の人間たちが皆いい味を出しまくっています。悪役も悪役たる素質を発揮しますし、キャラ造形はかなり良く出来ていますね。最初から最後まで芯を貫き通して男だった提督マタイオスや、その登場のインパクトと散り際の熱さが残るバベッジ、終盤の要のキャラであったレイディ・エイダ…あ、痛キャラだったルビーマンもですね笑。脇を固める布陣の立ち方というか、主役たちを喰わないながらも存在感をはっきり主張するバランスの良さは素晴らしいです。

強いて言えば、コニーの相手となる、ヒーロー役であるカルベルティが唯我独尊すぎたかな。彼の強情さに翻弄され続けるコニーがちょいとばかし可哀想でした。

あ、そうだ。あと音声が重要シーンに女性のみ、というのはやっぱりもったいなかったなぁ。といいますのも、本作は男性キャラが非常によく立っていますので、全体的に音声があるべきだと思いました。ここはちょいとマイナス点ですが、キャラ点は8.5点以上は確実にあると思っていますから、音声なので音楽点から引いときます。…というか、本サイトそんな厳密に得点設定していたの?というのはさておき。。

しかし金田まひるさん、4役ですか??
凄すぎますね。全然わかりません。

【音楽】
OPの「ジュブナイル」がまず良いです。終盤の戦闘シーンで、これをアレンジした曲がかかるシーンもなかなか良いです。数は少ないのもったいなかったですが、全体的に、ファイナルファンタジーのようなRPG的な曲が多くて世界観に貢献しているのも◎。童話部分で流れる「オルゴール」、展開が一気に動く時によく流れていた「VS帝国」など、良曲が多いです。


以上、蒼天のセレナリアでした。元世界のドロッとした部分よりも、新世界の突き抜けた爽快感を優先的に描いた作品、本作はそれで良いと思います。スチームパンクシリーズは、次作以降で世界観を深く描いていますので、オッケーでしょう。スカッと楽しめました。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【Phantom -PHANTOM OF INFERNO-】
Phantom -PHANTOM OF INFERNO-



メーカーNitro+
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■□ 5.5
キャラクター■■■■■■■■□ 8.5
音楽■■■■■■ 6
悲愴■■■■■■■■■ 9
総合【B+】 75点

大人のエンターテイメント

プレイしたのは実はかなり最近でして、全国のニトロ/虚淵ファンの皆様大変申し訳ございません m(_ _)m。ですので、正直絵や音楽などの古さが否めなく、いまのニトロプラスに慣れてしまっている僕にとって「ゲーム」としての総合力は少々欠けるところがあり、本サイトでの評価自体も、グラフィックと音楽の加算上、点数が引きずられているわけですが、反面、シナリオとキャラに注視した純粋な「物語」の部分はやっぱり名作と呼ばれているだけのことはあるなぁ、と。本当に面白かったです。

【シナリオ】
ハードボイルド系の先駆けであり、またこの手の作品が18禁業界でも成功できるという功績を残したお手本的作品でもある本作ですが、当時プレイできていたらその衝撃は計り知れなかったのでしょう。我が身の不明を恥じます。

冒頭で書きましたように、その物語構築は虚淵玄さん、最も好きなライターとしてこの名を挙げる方も多いのではないでしょうか。ニトロプラス創成期のシナリオ屋台骨の方です。彼の描く作品は、決して長くなりすぎず、ある程度の尺を以ってまとめきります。その中で、エンターテイメントに必要なエッセンスが順序よく盛り込まれている、いうなれば映画のような作品を書く方だと思います。

あらすじ。米国暗部で起きているマフィア幹部連続暗殺事件。首謀者と囁かれているのは謎の組織「インフェルノ」、そして組織最高のヒットマンである「ファントム」なる存在。そんなさなか、日本人の主人公は観光のため訪れた米国で、とある事件に遭遇してしまいます。目を覚ますとそこは見知らぬ荒れ果てた土地、記憶も消されていて何も思い出せない、そして目の前に現れたのは「インフェルノ」のメンバーと、組織最強の暗殺者「ファントム」…彼女は年も変わらない一人の少女でした。わけもわからぬまま、暗殺者としての養成を彼女から受けることになる主人公…彼らの翻弄された運命の果てには何が待ち受けているのでしょうか。

逃れられない運命の中で懸命にもがく主人公たちの姿勢が非常に美しく、ハードボイルド映画のお手本のような展開がいちエロゲで見られるとは面白い限りです。そして、そんな狂った日常下、暗殺者として訓練されてしまった主人公たちが必死に生き抜いて各々の恋愛を貫く…そのあたりも丁寧に丁寧に紡がれています。

とにかく物語の構成力が素晴らしく、非日常に巻き込まれ暗殺者としての訓練を受けていく第1章、ファントムとして名を馳せた主人公が裏世界で暗躍する第2章、逃亡劇の果てに舞台を日本に移してのクライマックス第3章、と大きな枠組みの中で、ファントムたち、インフェルノメンバー、それに絡む日本の暴力団組織のメンバーたちが暴れまわります。

特に第3章は素晴らしく、それまでキナ臭いシーンの連続だった本作において初めて「日常」ともいうべき学園シーンが付加され、平和な情景やキャラクターが描かれることで、否が応にも追いかけてくる非日常との衝突と息もつかせぬ展開を見せる流れは「凄い」の一言。収束に向けて、登場人物たちが命を張って展開を盛り上げてくれますし、ヒロインたちとの純愛の決着の仕方も非常に綺麗です。物語が物語ですので、どんな結末を迎えても苦味と切なさを残すラストになってしまうのですが、ご都合主義に走らず非常に評価できます。

中でも最も爽やかに美しくまとまるのは、冒頭から草原という伏線を張っていたアインEDなのですが、最後のアイン改めエレンの笑顔のCGは最っ高でしたね。なんというか、このCG一枚があって本当に良かったというか、傷だらけの救いようのない人生を走ることになってしまった彼らの物語における、僅かばかりの救済がそこにはありました。エロゲ界屈指のラストシーンといって良いでしょう。


さて、一方で上記したように一本の映画を通すような作品であるため、「総プレイ時間何十時間」などという長編作品ばかりプレイしている僕にとっては、テキストは比較的少ない印象を受けます。長ければいいわけでもありませんし、書き込みが足りないなどとも露ほども思いませんが、展開の早い印象が無かったといえば嘘になります。10時間程度でフルコンプできるかと思いますので。

しかし、それは面白さゆえに一気に読み込んだことの裏返しであるとも取れますし、無駄のない洗練されたテキストだったともいえるかもしれません。それに、本作における学園での戦闘シーンがあったからこそ「あやかしびと」のトーニャルートが生まれたように、超山場である教会での対峙シーンがあらゆるライターにインスパイアを与えたように、その場面場面でのインパクトと後に与えた影響力はやはり凄まじいものがあり、それだけを切り取っても十分な評価に値するといっていいと思います。


【グラフィック】
このハードなシナリオを萌え絵で展開されても困るのですが笑、そうはいってもこの絵柄の古さは正直物足りないです。アインに関してはかなり好きですし、彼女のEDのラストなど、光るCGもあるにはありますが、それでも全体としてはクセがあり塗りも平坦なため、魅力的な絵柄だとはとても言えません。2000年発売だというのを差し引いたとしても、ちょいと厳しいっす。

また、これは是非言及しておきたいのですが、スタッフこだわりの部分だったのでしょう、銃器に対するこだわりはスゴいですよ。ミッションをこなすにあたって様々な銃の中から利用する銃を選択することができ、その説明もなされるのですが、そのためにわざわざ選択メニュー、3Dグラフィック、銃器説明画面を作りこんでいるくらいですからね。


【キャラクター】
まず、第一号ファントムとして運命を翻弄されてしまった謎の少女アイン、彼女が自分の存在を問いかけながら生き抜く様血まみれの人生の果てに掴んだ主人公への想いには心を打たれること必至です。ダントツに感情移入してしまうヒロインでしょう。そして、第3のファントム「ドライ」となってしまう少女キャル。途中出場にしてラストへの最重要キーパーソンとなってくる彼女、爛漫だった彼女が宜しくない方向に巻き込まれていってしまう展開には同情の念が捨て切れませんが、話の中核として非常にいい味を出していました。

次に、すっぴんからアサシンへと鮮やかなジョブチェンジをしてしまった悲劇の主人公ツヴァイ、彼は自身の感情をしっかり保ったまま強くなっていくんですね。サイスマスターの言いなりに冷酷殺人マシーンとして育っていくわけではありません。そこがとてもかっこよいですね。まさに本作の主人公にふさわしい男でした。

かっこよいといえば、日本の暴力団員である二人にはかなり興奮させられました。アメリカがメインの話ですが、日本人キャラクターが熱く描かれるというのも、やっぱり日本人である僕にとっては気持ち良いものです。若頭藤枝桐梧の豪快な男気や、美緒ルートでの命を張った志賀さんの行動には熱くなりました。やっぱ男のサブキャラが熱くないとゲームはダメですよね。インフェルノメンバーも各々の役割を完全に全う。報われない女であるクロウディアの悲哀も、諸悪の根源であるサイス・マスターのエグさも、凶悪な見た目に反してめっちゃいい人なリズィの優しさも、他幹部の悪役っぷり(そしてかませっぷり)も無駄なく描けていました。

また、日常の象徴、つまり対比の存在として描かれる美緒も十分魅力のあるヒロインなのですが、それまでのバックグラウンドの差がありすぎるため、どうしてもアインやドライの魅力には及びません。ま、それは致し方ないところですね。ストーリー内の存在重要度としては非常に高い子なんですが。

無駄のない登場人物が、見事な立ち配置で各々の役割を全うします。素晴らしいと思います。


【音楽】
ダークで鬱々としたBGMが多いです。特に第一章は、不可避な現実に絶望する主人公の心情と相まって、いやらしいくらい苦々しい気持ちにさせてくれます。ですが全体としては特に印象に残っているBGMもなく、あくまで裏の裏での演出に徹していたという感じです。


以上、Phantom of Inferno でした。
いまや大人気メーカーの一角であるニトロプラスの処女作兼代名詞的作品です。10年経った今になってアニメ化が決定するというのもその存在感ゆえのこと、絵柄こそ癖がありますが、少しでもご興味お持ちの方はプレイを是非推奨します!



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