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【赫炎のインガノック】
赫炎のインガノック



メーカーLiar Soft
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■■□ 8.5
キャラクター■■■■■■■□ 7.5
音楽■■■■■■■■ 8
空気■■■■■■■■■ 9
総合【B+】 79点

桜井節奇譚

さすがのライアーソフト、スチームパンクシリーズ最高峰と謳われているだけのことはありました。『蒼天のセレナリア』で用いた蒸気機関や幻獣といった世界観設定を踏襲していますが、特にセレナリアをプレイしていなくとも問題はありません。

【シナリオ】
シナリオ担当はライアーソフト専属のライター、桜井光女史。作品の専用HPを見て頂ければわかるのですが、事前の世界観情報があまりにも盛り沢山、スチームパンクシリーズとして大作を何本も投下していることからもわかるとおり、彼女の頭の中には僕らの住んでいる世界とは別の確立された大きな世界が運用されているようですね。素晴らしいことです。

10年前の「復活」と呼ばれる原因不明の濃霧と、「クリッター」なる破壊生物の出現により、破壊と混沌を余儀なくされた都市『インガノック』。今では外界と隔絶され、ヒト以外の生物の外見と性質を現出させた住人たちが跋扈する、独自の文化網を発展させた異形都市と化しています。

インガノックの低所得層がひしめく下層域にて巡回医師を続けるギー。彼は「現象数式」を操り、体内の悪しき状態を置換させることで治療を施す特異な技術を持っています。自己満足と揶揄されながらも日々を巡回に費やすギー、その動機は義務なのか果たして狂気なのか。

ある日、彼の視界に映る妄想、幻の道化師の言葉に従い雑踏を見渡すと、この町に似つかわぬ清廉な少女を捉えます。異形都市の常識を何も知らず、まぶしいまでの笑顔を浮かべる彼女の名はキーア。魅かれるままにキーアを匿い共同生活を始めることになるギー、彼らの前に起こる事件に向き合ううちにインガノックが抱える闇と過去が徐々に明らかになります。


……と、全12章から成るストーリーですが、基本的には1話完結形式で進むドラマ仕立てになっています。ギーや黒猫アティ、キーアといった主人公グループを中心に、各章において特定の脇役キャラにフォーカスされた話が展開されます。そしてその各々の話には常に、インガノックが異形都市となった10年前に現れた「クリッター」なる殺戮の象徴キャラクターたちが事件の引き金として絡み、話を動的にします。メリハリがきいていて良いですね。

また各章の中盤には、主要登場人物の独白や世界観の説明を語る幕間が用意されており、物語外でこういったことをするのは少し反則技かな?と思わないでもないものの、演出が良いので特に気にはなりませんでした。


セレナリアの時にも思ったのですが、要所要所でキャラクターに長い詩的な独白をさせるのがこのライターの特徴のひとつですね。彼女特有のこの手法、とても綺麗です。またギーが奇械ポルシオンを発動させる時の文章や、「喝采せよ」のくだりもそうですが、毎章あらわれる同じような場面を敢えてまったく同じ文章でたたみかける手法は面白いですね。まぁ「しつけーな」、と思わないこともないのですが笑
この人はシナリオの組み立て方とセリフの重ね方が凄く詩的ですよね。絵本のような独特な語り口が特徴的です。物語自体はダイナミズムに溢れていますが、個々の文章は非常に繊細です。女性だと知って最初驚きましたが、文章を読めばそれがよくわかります。


最後に向かうにつれ少しずつ、41体のクリッターや、インガノックが異形都市となってしまった理由、背景などもちゃんと説明されたのは意外でしたが良かったですね。えてしてファンタジーものですとこういう設定は、「そういうものだったのだ」として処理されがちなのですが…。ファンタジー的動機に落とし込まず、41人の妊婦を収容していた産婦人科を襲った事故が原因であったというのは評価できます。そしてそれをなんとかしたかった大侯爵アステアの儀式が引き金になっているという点ですね。院長から送られるはずだった41体のおもちゃがクリッターとなり、41人の胎児が、ギーの背後にもいる奇械となったという流れも、その事故に巻き込まれ死にゆくはずだった少女がキーアであり、それを必死に救おうとした当時の研修医がギーだったという流れもまた、物語として綺麗です。やはり主要人物に大きな伏線を持たせるというのは効果的ですよね。

ラストはいくつかの謎と余韻を残して終幕します。主要人物たち、つまりギー、キーア、ケルカン、ルアハは果たして助かっているのか? また、最後に3人の子供たちが助けるひとりの子供は誰なのか?

これは想像でしかありませんが、最後の災害の後、「驚いたことに死者はほとんどいなかった」と述べられていることや、3人の子供が救い出した子供をギーとキーアに見せると話している場面から、おそらく皆生存していると考えて良いのではないでしょうか……いや、考えたいところです。また、最後の子供は、ギーの背後にいたポルシオンでしょう。本来生まれることのなかった41人の胎児たちがこの世に生を受ける奇跡を授かったことでラストを清々しく締めているのだと思います。


欲をいえば、世界観づくりに力を入れすぎて、肝心のキャラクター関係性の掘り下げがもう一歩だったことが挙げられます。例えば、ポルシオンとギーの関連が薄かったので、なぜギーの背後にいるのがポルシオンなのかに言及した話だったり、アステアとその娘の話、それから主要人物の割にいまいち報われなかったアティへの掘り下げなどがあるとさらに良かったかなと思っています。


しかし、彼女の世界観づくりは卓越してますね。いや、彼女とライアーソフトの力、ですかね。この類の作品を作らせたらライアーソフトの右に出るメーカーはありませんね。


【グラフィック】
キャラクター絵、背景ともにサイケデリックで独特の雰囲気を持っています。墨絵のような黒を基調とした全体絵図、差し込まれる金や紫などの雅色…、原画担当は大石竜子さん。シナリオもそうですが、原画も女性の方なのですね。かなりクセのある原画ですので、人を選ぶ部分もあるかもしれませんが、相当にかっこいいです。

ただ、主要人物や各話の中心人物に立ち絵があり、サブキャラはモブ背景のような塗りなしの絵で済まされてしまってるのがもったないなかった。3人の子供たちやアティの仕事仲間デビッド、現実主義の医者仲間エラリィなどはかなり良いキャラをしていたと思うのですが。

それから背景が少し足りないのがもったいなかったかもしれないですね。雰囲気は抜群なんですが。


【キャラクター】
女性が描く物語だからか、女性キャラの優しさや憂いが非常に丁寧で美しいです。特にキーアの持つ母性や温かさ、セリフの優しさは特筆すべきものかと。内面吐露のシーンが最も多いアティの感情の揺れ動きも非常に丁寧でした。だからこそアティはもっと幸せになってほしかった…。本来は人間であった機械人形ルアハの心の動きも静的ながらも訴えてくるものがありました。

男性キャラの主翼は、ダウナーな主人公ギーと殺人者ケルカンですね。対極に位置するこのふたりの奇械使いはこの世界観によくあっているふたりでした。ケルカンの伏線も良い感じに最後作用していましたね。

しかし上記しましたがキャラ関連性にもう少し書き込みがほしかったところが惜しいですかね。登場人物が多いようで、実は物語の壮大さの割に重要人物が少ない。そして関連性こそあるものの、そこの書き込みがいまひとつ薄い、そんな印象が正直ありますね。


【音楽】
ジプシーミュージックや、切迫したオーケストラなど、世界を大切にしつつも動的な音楽が多く、これは非常に評価できます。印象に残っているのは、緩やかなバイオリンが心地よい「日常/緩やかな時」、ジプシー調のアコギの音色が美しい「運命/回転悲劇」、派手な「戦闘/無限舞踊」でしょうか。が、しかし曲数が10曲強しかありませんため、どうしても使いまわしの頻度が多くなってしまったのは残念なところでしょうか。

OP「Adenium」が素晴らしいですね。サビへの持っていき方がかっこよいですね~。ブルヨグはいい仕事します。

またセレナリアもそうでしたが、パートボイスになっているのがやはり惜しいですね。ギーやケルカンなんて、あれだけ登場しておきながら数えるくらいしかボイスがなかったのでは……汗。


以上、赫炎のインガノックです。クセのある作品ですので、まずはライアーソフトのHPを。そして出来のいいOPムービーを。いけそうだとあれば、きっと引き込んでくれることでしょう。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

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