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【車輪の国、向日葵の少女】
車輪の国、向日葵の少女



メーカーあかべぇそふとつぅ
シナリオ■■■■■■■■■■ 10
グラフィック■■■■■■■■■ 9
キャラクター■■■■■■■■■ 9
音楽■■■■■■■■□ 8.5
激!主人公■■■■■■■■■■ 10
総合【S】 93点

正義の象徴へ向けて

G線上の魔王が最高でした。ネット上での超高評価も知っていました。ネタバレが横行する各レビューサイトで本作のページだけは頑なに見ないようにしてきました。プレイするのにまとまった時間が取れるタイミングを待ちもしました。そうやってコンディションを整え、満を持してプレイした本作、噂に違わぬ名作でした。

【シナリオ】
日本に似て非なる本作の舞台、主人公の森田賢一は「義務」を負った罪人を更正させるための国家最高峰資格である「特別高等人」の最終試験を受けるべく、とある田舎町を訪れます。町の入り口は一面の向日葵に覆われ、美しい田園風景を持つ土地ですが、周囲を険しい山脈と地雷地帯に囲まれたその地はまさに陸の孤島、外界から隔離された寂しい土地でもあります。賢一は最終試験として、特別高等人の上司にあたる法月将臣から3人の少女の義務を解消するよう言われます。クラスメイト兼監督者として彼女たちと接する賢一…、ひとりひとりのヒロインで描かれる感動的な、また、登場人物の過去と国家体制を絡めた壮大な展開は読む者を虜にします。


各章で主役となるヒロインがいて、そのヒロインとの親密具合によってラストでエンディングが分岐するという形ですが、基本的にはシナリオは一本道です。ですので、2章ヒロインのさちでまず一本通すのが効率的には良いのですが、なにぶん内容が重厚なため、お気に入りヒロインでまずはクリアして世界観を堪能するのが良いかと個人的には思います。

日本の刑法とは違う、「義務」という贖罪こそが本作最大のギミックとなっています。この制度をベースにして本作最大の山場を生みだすこととなるわけですが、それは是非プレイをしていただきたい。

それから、この国で7年前に勃発したクーデター、その首謀者である樋口三郎の出身地がまさに本作の舞台であり、灯花を除く登場人物が皆このクーデターに関わっているということが本作に深みを生み出します。


さて…。

要所要所での予想もしないひっくり返し方がうますぎた本作なわけですが、事前情報ではヒロインの一角と思われていて、個人的にも一番お気に入りになりそうな予感がしていた特別高等人候補生南雲えりさんが、登場5秒ほどで法月に撃ち殺されてしまいますorz。わたし、ポカーンとしてしまいました。「え、また後で出てくるんだよね?」と。ある意味新しいこの導入には確かに引き込まれましたが、南雲さんはあまりにも不憫でした。

第1章は全体のキャラを満遍なく出しての導入です。第2章は、「一日が12時間しかない義務」三ツ廣さちルート。義務に至る経緯に弱さを感じたためシナリオと巧く関係させて欲しかったですが、泣きに関しては作中随一。彼女が同居している異人の少女と彼女との姉妹愛は本作最高の泣きを生みます。

第3章は「大人になれない義務」大音灯花ルート。親の言うことに絶対服従というこの義務、もちろん親子の絆を描きます。ラストのドンデン返しののちにある余りにも大きな灯花の愛情にはやはり涙涙…。

第4章は「恋愛できない義務」日向夏咲ルート。賢一との過去と密接につながっている彼女ですので、メインヒロインと呼んで差し支えないかと。過去と現在で、賢一と夏咲の性格が逆転している部分にライターの巧みさを感じました。ラストで魅せる彼女の強さもこれまた涙。

いやはや、しかし毎章毎章泣かせてもらいました。さすがのるーすぼーいさんです。2章の姉妹愛、3章の親子愛はもうだだ泣きでしたし、ヒロインにストレートな愛を見せつけられる恋愛系の類の感動に食指があまり動かない歪んだ僕も、4章ではやはり涙してしまいました。


しかしG線上の魔王でもそうであったように、最終章に圧倒的な山場を持ってくるのがこのライターの特徴。第5章冒頭の演出は凄まじいものがありました。

プロローグからそれまでの賢一の妙な行動がすべて伏線だったとわかる璃々子の登場シーン。その少し前にお姉ちゃんの「義務」内容が明かされる回想シーンがあり、「まさか…!いやしかし…」と深く考えるうちにあれよあれよとお姉ちゃん登場です。プレイ済みの方ならわかると思います、このシーンの興奮が!!!!

G戦上も第5章冒頭に魔王が兄だと明かされる鮮やかな演出がありましたが、その鮮やかさは本作の方が上をいっています。2章で賢一が女物の下着を隠しているギャグシーンがありますが、ただのギャグだとしたらこれは淡白すぎるだろう、いつお姉ちゃんが登場すんだと思っていましたが、ここまで後に引っ張って引っ張って強烈に登場させるとは恐れ入りました。思えば、日本によく似た違う刑法で成り立つ世界、というちょっと変わった無理やりな設定も、各ヒロインとの話を盛り上げるというよりは、この一瞬のためにあったように感じます。

また、学校校舎から行われる凛々子の演説シーンは鳥肌ものでした。セリフや短い文章を畳みかけ盛り上げていく文体はるーすぼーいさんの十八番ですね。伏線を生かすための舞台設定の組み立ては業界ピカ一ではないでしょうか。先の凛々子登場もそうですが、とっつぁんの不自由な足が実は演技だったというのもさることながら、同様に賢一の大麻の禁断症状も演技だったとは恐れ入りました。

敢えて言うならば、第5章と内乱を描くのにキナ臭い戦争の雰囲気をもっともっと出して欲しかった。また、法月将臣という国家最高クラスの人間や、国家転覆を図った樋口三郎まわりの人間が多数出てくるというのに、この山間の田舎町で話が完結しきるのも少し小さかったかもしれません。

とはいえど、凄まじい伏線使いと泣きの展開、魅力的なキャラクターを縦横無尽に走らせたシナリオは文句なしに賞賛に値します。



【グラフィック】
有葉さんの原画は、丸みと幼さを増してしまった今のものよりも、この頃の方が僕好みです。絵的にはどのヒロインも魅力的に描けています、がやっぱり夏咲が一番ですかね。キャラ的にはお姉ちゃんと灯花なんですが。

しかしEDロールは何か微妙でしたね。歌の山が来る前にEDロール終わっちゃうんですもん。でも全クリア後にメニュー画面が向日葵畑になるのは、実に心地いいですね~。


【キャラクター】
まずは何といっても主人公の森田賢一!最高です。本作のるーすぼーいさんといい、丸戸史明さんといい、田中ロミオさんといい、名作を生み出すライターさんに共通しているのは「主人公がかっこいい」だと思いますが、その中でもトップ争いをするくらいに魅力的な主人公です。

そしてとっつぁんこと法月将臣。彼のセリフひとつひとつは実に重く、賢一と私の思考に突き刺さります。また悪役としての責務も完璧にこなしていました。若本さんの超クセのある演技も頭に残ります。

次作G線上の魔王はヒロインが全体的に弱めでしたが、本作のヒロイン勢は総じて魅力的でした。3人ともがタイトルに恥じない向日葵のようなまっすぐさを持ち得ています。甲乙丙つけがたい…のですが、実はあやかしびとトーニャの声優さんがツボというのもあるのですがお姉ちゃんが一番好きでした。

磯野の伏線もなかなかに乙でした。奇行に見える一連の行動といい、触られると切れる前髪といい、ただのギャグ要因と思っていた奴がなかなかどうしてキーパーソンの一角だったとはやるじゃないですか。ラストの彼は最高にかっこよかった。


【音楽】
音楽は曲数も多く良いのですが、シナリオやキャラクターの魅力の凄さと比べてしまうと、正直なところあと一息!でした。ま、十分なんですけどね、ロッククライミングシーンで流れる挿入歌(演出は感涙でしたが)と、EDがいまひとつ盛り上がりに欠けたのもあるかもしれません。この手の作品は歌付の曲に大きな期待を寄せられてしまうものです…大作の宿命といったところでしょうか。ただ、OPの「紅空恋歌」は作品世界観を高く押し上げる良曲です。

BGM的にお気に入りは、「光の先に」「溶解」「reason to be」「watch out」、山場や泣かせ所で流れる曲がやっぱり良かったです。特に「reason to be」は沸々と湧き上がるものがあります。


と、いうわけで「車輪の国、向日葵の少女」でした。溜めに溜めた甲斐があったというものです。ネタバレ見ないで本当に良かった…。今回は伏字も強めにかけておきました。これからプレイされる皆さんも何もわからないまま最終章までプレイしてほしいと思います。


関連レビュー: 車輪の国、悠久の少年少女



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