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【Folklore Jam】
Folklore Jam



メーカーHERMIT
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■■■■■ 9
音楽■■■■■■■ 7
オカルト■■■■■■■■ 8
総合【A】 83点

バランス感抜群エンターテイメント

まさに埋もれた名作と呼ぶにふさわしい作品です。5年以上前の作品であり、すでに販売終了しているのもあるのか、HPでの情報公開を終了しているのもあるのか、とにかく無名の作品として日の目を見ませんが中身は恐ろしいほどの名作です。

【シナリオ】
さすがの丸戸史明さんといったところでしょうか。このテンポの良さと、読み手を引き込む展開には舌を巻きます。丸戸さんのテキストは、奈須きのこさんや瀬戸口廉也さんのように気合の入った小説体であるわけでもなく、誰でも気軽に書けてしまいそうなライトな感じであるというのに唯一無二さを感じさせるのが凄いですね。

学園では有名人の頭脳明晰にして傍若無人、八乙女維月が気まぐれに立ち上げた『オカルト研究会』。興味本位でやってきた大財閥のご令嬢である神応寺古都、好き放題やれる場所として選んだ道場破り少女の木ノ内ひなた、そして無理矢理入部させられる維月の幼馴染である主人公。この4人で学園や町にまつわる超常現象を追いかけていくのですが、さまざまな事件が伏線となり物語は大きく膨らんでいきます。

HERMITの作品はドラマ仕立ての1話完結形式をとります。各ヒロインルートは、プロローグ、OPムービー、本編、EDムービーで1週。これが6週分あり本ED、エピローグです。非常にすっきりしていて読みやすいですね、この形式は。1話ごとに起承転結、ドンデン返しがしっかりついており、その中で3ヒロイン後のクライマックスであるTRUEルートに向けた伏線も提示されていきます。良く出来たドラマを見ているようでした


ラブコメ大先生の丸戸さんの中では異色作品ですが、オカルトものSFものはなんだかんだ好きなので、読んでいて楽しかったです。上記しましたが、とにかく伏線が随所にちりばめられていて、3ヒロインのルートは、それぞれ全体の収束への布石にすぎません。各ルート、ばらまかれた伏線が少しずつしか回収されませんし、ラストにも謎が提示されて終わりますので、次へ次へという気になります。1人1人のヒロインでしっかり話をまとめてほしい人には引っかかるかもしれませんが、ワクワクしながら最後まで読み進められるとも言えます。最終的にはしっかりすべての伏線を回収しますし、読後感は気持ち良いですよ。


維月の様々な行動の動機や、主人公の存在自体にもところどころ不可解な点があって、それらが物語の大きな仕掛けとして機能していくあたり、非常に丸戸さんらしいですね。普通、主人公サイドの人間というものは様々な謎や困難に立ち向かっていく側なわけですが、本作のように主人公サイドにも謎や伏線が潜んでいるというのは、面白い設定だと思います。維月がなにげなく提示していた1話1話の調査ポイントも、すべてが伏線の回収のために生きていたとあってはねー。

ひなたルートは、他ふたりのルートとは少し独立した時間遡行を駆使するストーリーなのですが、その中で描かれるシーンも本筋にパラレルワールドとして起因してきたりもして、本当によく絡めているなぁと感嘆です。別物である各ヒロインルートのエピソードがTRUEルートでの主人公に影響を与えた行動をとらせるんですね。

クライマックスでの大掛かりな伏線の背景もよく出来てました。舞台となる神凪市にまつわる伝説と、その伝説に絡んで人柱として命を捧げられた双子の少女の存在、それに関わっている土地の盟主神那妓家。そしてそれに反する神那妓の分家である神応寺家が為そうとしている双子を救うためのあらゆる経済活動、建設事業。さらにこの双子の封印においては、維月と主人公の幼少時の事件が紐付けされ、彼らが重要なキーパーソンとして描かれます。

マジかいっ!となる展開も随所に見られますヨ。特に遙香先生が黒幕側だった時はやられたと思いましたねー。 神谷刑事のパートナーが敵だったのも良い展開でしたし、キーパーソンになりえるルポライターの金城さんがルートによってはあっさり殺されてしまう時も、もっていき方がうまいなーと思いました。

シナリオ展開も巧みならば、会話のテンポも面白い。クライマックスへの山の作り方も見事な、良シナリオゲーです。


【グラフィック】
厘京太朗さんですか、クセのある原画家さんですね。身体の描き方がちょい力強くてアメコミ系なんですよね。顔のグラフィックは好きなんですが…。あと、私服がちょっとなぁ…って感じです。格闘ゲームのキャラじゃねーんだから、もう少し現実的な服装にしてほしかったですね、そういった意味では会長さんの服装は一番まともだったな。

話は逸れますがエロゲのヒロインたちって大体変な服着てますよね。そんな服着てる人いないよ的な。そのほうが二次元好きにはウケがいいんですかね…?個人的には街中で見かけるようなおしゃれな女の子のような服装だとより萌えるんですけど…。

てなわけで、正直あんまり評価高くないんですけど、何枚かに1枚メチャクチャいい絵があるんですよね。洞窟で維月と脱出する際のCGとか。



【キャラ】
キャラ造形はすばらしいです、さすがの丸戸さん。主人公、ヒロイン、必要最小限に留めたサブキャラ、すべての登場人物が生き生きと己の役割を全うしていて、影を潜めてしまう人物もいない。丸戸さんは登場人物各々の立ち位置の作り方が非常にうまい方ですが、その丸戸作品の中でも、この作品は屈指のキャラバランスを保っているのではないでしょうか。

ヒロインの中ではやはり幼馴染の維月が一番かな。丸戸さんはツンデレを書かせたら敵無しですから。はじめ興味なさげなのに段々と主人公を頼りだすひなたもいいですね。呼び方が「ゆう先輩」に変わる時がたまんない

主人公は「GS美神」の横島のような何とも頼りないアホキャラです。しかし横島は横島でも、『文殊』を体得してからの後半の横島です(わかりにくい)。やるときはやれる男であり、さらに自分の出自にもひとエピソード持っている、魅力的な主人公です。

またサブキャラが最高でした。ちょいちょい入るショートコントがおもしろすぎる謎の爺さん茂蔵や、神応寺家の執事エリオット+3メイドの暗躍ぶり、刑事さんたちも要所要所で光る働きを見せてくれましたね。特にクライマックスで、すべてのサブキャラが協力して封印を解くシーンは非常に熱くなりました。だからこそその直後の遙香先生の正体にもビビったわけですが。



【音楽】
オカルト色が強くなってくると、夏を感じさせる風鈴や虫の音を効果的に使ったBGMがよく流れますがこれが実にいい。さらにこれが一番の良曲かと思いますが、ギターリフが印象的なOPがいいですね。オカルトを扱っていながらもポップなノリで進んでいくこのシナリオに非常に合っています。一話ごとにOPとEDが流れますので印象に残るってのもありますかね。

以上、Folklore Jamです。
まとまりの良い名作です。是非プレイしてみてください。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【闘神都市Ⅲ】
闘神都市Ⅲ



メーカーALICE SOFT
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■■■□ 9.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■■ 8
不遇感■■ 2
総合【A】 84点

名シリーズゆえのハードル

アリスソフトの年末リリースであることに加えて14年ぶりの闘神都市シリーズ、ということで、2008年最大級の期待をもって迎えられた本作ですが、あまり世間の評価は芳しくないようです。ですがプレイしてみると、確かに突っ込みどころはあるものの、そんな言うほどじゃなくね?むしろ良くね?という十分すぎる出来です。作品にかかる過度の期待、そしてそれ以上の結果をさらりとこなす体力を持つアリスソフトだからこその厳しいハードルだったといえます。

【シナリオ】
闘神都市で毎年開かれるトーナメント式の闘神大会――、出場者は女性をパートナーにすることを義務づけられており、勝利すれば対戦相手のパートナーを24時間好きにできる、また優勝者には「闘神」の称号が与えられ、闘神だけが入ることのできる特区での豪奢な暮らしが生涯保障される……というのが闘神都市シリーズの共通設定ですね。

闘神になったもののそれっきり失踪してしまった父親の消息を確かめることと、剣士としての自分の腕試しのため、闘神大会に出場しようとする主人公ナクト・ラグナードと幼馴染の羽純・フラメル。ふたりが幼少時に影響を受けたカラーの戦士レメディアや屈強な各出場者が集う中、ナクトはその手に優勝を掴むことができるのでしょうか…てのがⅢの導入になります。

シリーズ前作「闘神都市Ⅱ」が発売された14年前は、僕はこの手のゲームは全くやっていませんで当然今も未プレイなのですが、Ⅱは既プレイの方々から神ゲーとして崇め奉られていますね。

皆さん感じていることかもしれませんが、確かに主人公のナクト君はまったく成長しません。大局を見ずして不条理に対して一人つっかかっていく青さは、別にイライラするようなことも特にないですが、自分のスタンスと闘神大会の現実の差にあれだけ打ちひしがされた1年目があったのですから、せめて2年目の段階ではもう少し人間的に変わっていてほしかった。ライバルたちの倒し方も、腕をあげるというよりは弱点を探すといった感じで、爽快感に欠けます。自分が強くなるのではなく、相手を弱くするロジックですからね。あとは、回想シーンが非常にたるい。たいして内容が無いのに、時系列がバラバラに出てくるので、いまいち判然としません。

ついでに、2年目で晴れて闘神になった後、それまでのキャラが以降まったく出てきません。シナリオはもちろんのことエピローグすらありません。これは正直かなり寂しかった……。キャラクターの広げ方がうまいアリスだからこそ、そこのフォローは欲しかったような気がします。

ま、でもそこらへんからの物語展開は凄かったですけどねー。梨夢がコワイコワイ。絵とかもう怖すぎ。それから、闘神市長、市長夫人、そして前半からよく出てきていたフィオリ、闘神ボルトの本当の狙いと正体も明らかになり、最後は怒涛の展開が待っています……だからこそそれまでのキャラを使ってよ!!ということです。

でもやっぱりプレイしだしてからクリアまで一気にやってしまったのも確かなんで、面白かったんですよね。アリスソフトが作る、唯一無二の世界観は健在でしたし、奇人たちも満載でした。古畑ならぬ畑中さんも突飛ながらも言っていることが絶妙にセンス良くて笑えたし。

また、ランスシリーズで設定として活かされているルドラサウム世界がベースになっていますので、ランス好きならところどころで描かれる設定自体を楽しむことができます。魔人なんかはストーリー上よく出てくるものの、悪魔に関する描写がほとんど出てこないランスシリーズですので、今作で色々と描かれたのは良かったです。エティエノが具体的に登場するなんて誰も予想してなかったでしょうし。こうやって作品を超えて設定がリンクしていくのって制作陣の勢いを感じますね。


【グラフィック】
キャラ絵ですが、メインのMIN-NARAKENさんの絵が非常に良いのに加えて、織音さんの絵が個人的に大好きなので、死角なし。このふたりの絵は、好きな絵師をあげろと言われたらあげるであろう二人なので、満足です。アリスは枚数も多いし、背景も文句なしにきれいなので、なんら不満に思うところはありません。羽純、ハムサンド、エティエノの絵がかわいすぎる。

前作がどうだったのかはわからないのですが、2年目がある、というのは驚きました。そこまでが布石で、物語の折り返しでOPが流れた時はかなりグッときましたね。確かに公式HP上で紹介されているのにほとんど出てきていないキャラもいましたし、それまでOPムービーが流れていなかったので、そうといえばそうなのですけどね、気づきませんでした。街から締め出され、1年間修行し、再度戻ってくる時間の空白をアップテンポな曲にのせてOPムービーで表現したのはとても効果的だったと僕は思います。インパクトもありました。

それと、戦闘シーンが3Dなのですが、別に3Dである必然性は感じませんでした。システム的にも、ランスや大悪司などで使われている形式のほうがゲーム性があります。今後の作品に向けての実験的な意味合いもあったのかもしれませんね。


【キャラクター】
さすがのアリス、魅力的なキャラクター満載です。個人的に好きだったのは、男性キャラだとあまりにもいぶし銀の鉄騎臣と豪快な親父ボーダー・ガロアですかね。あとは主人公の親父レグルスが好きだったんですが、復活後もうちょっと活躍してほしかったな。おっさん復活後も足ひっぱってんだもん

主人公ナクトは、皆さんが言うほどヘタレてはいないと思うんですよね。最後の方とか男らしかったし。ただまぁランスや悪司と比べたら、圧倒的にカリスマが不足していることは否めないです。男性キャラの造形も非常に強いアリスソフトですが、本作は主人公含めて総じて弱い印象ですね。

主要どころの女性キャラだと、羽純と桃花が好きでした。特に桃花は、最初はお兄様お兄様ちょっとうざかったのですが、二年目でのナクトに対してツンでありながらもしっかり協力してくれるところとか、最後まで実に良い働きをしてくれました。
メインヒロインの羽純とレメディアは前半は良かったのに二年目からはほとんど出てこないためちょっと印象が薄れがちですね。でも羽純の声の人、彩世ゆうさんという方ですが、とてもいい声してます。これからもチェキします。

対戦相手だと実は双子のハムサンドと、チョイ役と思いきや結構ストーリーに絡んできた盲目の少女エムサさんが○。素直で元気いっぱいなナミールと、対照的に落ち着いたキャラのエムサさん、ともに魅力あります。


世間的には虫使いのアザミが大人気みたいですね。ぬへーっとした飄々さとわたあめ食べてる時などの花が飛ぶ立ち絵がかわいらしい。二年目はなにせパートナーなんで、そりゃあメインヒロインたちを喰ってしまいますよね。

ま、でもハッキリ言って主要キャラたちよりも町の住民のほうがキャラえらい立ってましたね。「いいのいいの気にしないで」が頭に残る宿屋のマルデさん、アホ毛が取れると180度性格が変わる道具屋リココ、最初からナクトに好意的な酒場のアリサ(と伊集院さん)もかわいかった。色情狂の記者シャリーや性堕修道女ポロロム、転落貴族の呪師タタールもストーリーへの咬ませ方がうまかったです…等々、まぁお遊び要素が入るキャラはよく生きるってことすね。

うーん、こう書くと、やっぱり男性キャラが女性キャラに比べて弱いかな……とはいってもそれはランスなどと比べてってだけで、普通に考えたら十分すぎるほどなんですが。


【音楽】
OP、EDの「get the regret over」は、アリスらしいゴリ押しのギターリフとロックなドラムでかます曲です。片霧烈火さんはこの手の曲によく合いますね。人選正しいです。

BGMは全体的によい出来で、さすがのアリスといったところ。「get the regret over」をアレンジしたラストダンジョンの曲や、最終決戦のギターが唸りまくる曲はかなり燃えます。あと「Hazumi -lovers-」「sweetz」が、メロディとアコースティックな音色が綺麗で良かったかな。


以上闘神都市Ⅲでした。
はっきり言いますが、これは十分良作の部類に入ります。いろんな評価サイトで叩かれていますが、それは闘神Ⅱが凄すぎたというだけで、この作品をアリスソフト以外のどこかが出していたら、かなりの話題になりえるレベルの作品だと思います。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【さかあがりハリケーン】
さかあがりハリケーン



メーカー戯画
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■■■□ 9.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■□ 7.5
丸戸風味■■■■■ 5
総合【A】 81点

日常とは斯くあるもの

いや、個人的にはなかなかツボでした。“個人的に”という言葉を使ったのは、どうやら「期待しすぎた」というのが大方の評価のようだからですね。まぁそれもわかります。戯画+ねこにゃん+学園モノというと、どうしても超名作「この青空に約束を―」を想起してしまいますし、それと同等の雰囲気は事前情報からも満載でした。むしろそれ以上の期待感が持てる設定だったといってもいい。実際、ねこにゃんさんの画力はこんにゃくをはるかに上回る魅力を放っていましたし、テキスト自体もかなり丸戸さんの書き方を意識していると感じました。「~なわけで。」とかね。


【シナリオ】
……とまぁそういわけですがこの作品は、木緒なちさんが描く、普通の生活をベースにした普通の学生たちによるごくごく普通の物語です。「この青空に約束を―」のように、これでもかというほどの温かい泣きと、それを為す際の熱さが際立つシナリオ展開ではありません。もっとライトで普通です。シナリオも短めです。そこが多くのユーザー的には肩透かしだったのかもしれません。これだけの材料が揃っているのですからもっと“狙って”ほしかったのでしょう。


ただ、僕はこの作品かなり好きです。

まずひとつ、なんといっても雰囲気が抜群です。ほどよく都会でほどよく田舎、そこにいるのはごくごく普通の高校生と、地元に根ざした市民たち。「学校を楽しくしよう」「学園初の文化祭を開こう」という無理のない高校生らしいテーマに則って、ストーリーは爽やかに進んでいきます。

駅前がそのまま作中背景に出てきた聖蹟桜ヶ丘と、奈都希ルートでみなとみらいが出てきていたので保土ヶ谷あたりもかな? つまり坂の多い多摩丘陵の住宅地を舞台にしているわけですが、この東京近郊の住宅街というあまりにも現実感溢れる舞台が、日常的な高校生活という作風に実にマッチしています。


もうひとつ、日常的な気だるい描写というものが好きです。わたくしごとですが、僕は派手で心躍るハリウッド映画よりも、静かで台詞の間(ま)を持たせるような日本美的な邦画の方が好きです。どちらが映画として優れているかはまた別の話ですが、つまり僕は、「普通」であることのリアリティ、こういった要素は個人的にツボなのです。ゆえに、特に非現実的な事件が起こるわけでもなく、超人的なキャラがいるわけでもない、主人公たちが等身大の生活を送るだけのこのテキスト、実にツボでした。"普通だ"とはいっても、木緒さんのシナリオはテンポよく読ませる力を持っていますし、キャラも皆魅力的でしたので、だれることもなくおもしろおかしくサクサク進んでいきます。


何かと比較されてしまった対丸戸作品、確かに「この青空に約束を―」のライター丸戸史明さんは、その「現実的」という制限内で大きな感動を描く技術に長けています。でもゆえに、なんとなく普通のまま終わるべくして終わる「普通」、ちょっとわかりにくいですが、そういった"小さくまとまるリアリティ"にはやや欠けるのだと思います。

皆でがんばっているのは、現実の自分たちでも出来るレベルの当たり前のこと。現実の高校生活に見合った出来事や人々。ゆったりと穏やかに流れていく時間。その高校生特有の気だるい生活観をそのまま使うことは、大きな事件や感情の起伏が求められがちなこの手のゲームにはそぐわないかもしれません。が、それで良かったと思います、さかハリです。


さてさて、最もシナリオ的に優れていたのは奈都希ルートだと思います。奈都希にばかり焦点が当たるのではなく、絶妙なバランスですべての登場人物が生きている部分が好感度大、親世代がなしえなかった夢を子供の世代で果たすという題材も非常に温かかった。学園祭オープニングイベントを飾る主人公巧と奈都希の二重奏、母親との確執ですっかりコンディション最悪の奈都希……。案の定ミスによりくじけそうな時に母親が登場という狙いすました感満載の展開も、わかっていながらもホロリときてしまいます。

触れておきたい部分として、さかハリでは主人公たちの親世代がストーリーに深く食い込んできていました。彼らは学生時代、同じように学園祭を開こうとして大人の事情から失敗に終わったというトラウマを抱えています。そのトラウマに固執する奈都希の母親と、それを克服し子供たちの背中を押してやりたい巧やヤスの父親たちの和解が奈都希ルートでは重要テーマとなってきます。ハルルートでの妊娠騒動における、巧の父親やハルの保護者である校長の包容力なども欠かせない要素でした。地域社会の苦悩や親の責任などもテーマとして文化祭に組み込んだり、この手のゲームではあまりクローズされることのない親世代のマストぶりは、コレコレ!コレだよ!と思わせる設定でした。

一番好きなのはそのハルルートです。敢えて利用した「妊娠」という禁じ手とも言うべきテーマをもとに、友達、親の協力を得つつ"家族"を作っていく大団円的なシナリオは、ラストにプレイするのがふさわしいですね。最後の擬似結婚式での巧の挨拶と、ハルと吟次の涙にはこちらもグッときてしまいました。ちょっと無鉄砲やなぁ~と思うところも高校生っぽくていんじゃないすかね。思い込んだらまっしぐらだからなぁ、この年代は(遠い目)

あ、あと涼ルートの「夜の卒業式」、これ凄くいい発想ですね~。花束贈呈が花火とか最高に心に残るじゃないですか。彼女のルートはゆかりルートと対になっていますが、こっちですべてが語られますし、ゆかりも涼ルートの方がいい働きをします。ルート前半で涼がゆかりに投げかける言葉をそのままゆかりが涼に返すシーンは泣きです。テーマは過去との決着ですかね。これもまた暖かいハッピーエンドです。

…と、まぁ木緒さん結構好きなので基本的に褒めてばかりいますが、やはり個別ルートの薄さは否めません。正直、学園祭開催決定までの共通パートが一番おもしろい共通ルートでは皆で盛り上がっている雰囲気がよく出ていたものの、個別ルートでは、「ん? 何この急展開」と、シナリオの短さゆえに、二人が過ごしているはずの時間や仲間たちとのコミュニケーションが薄く見えてしまう場面も正直それなりにありました。

推奨順は、奈都希⇒涼⇒ゆかり⇒ゆじゅでじゅ⇒ハル これでガチ!
特にゆかりルートより涼ルートを先にやっておかないと、ゆかりルートは何が何だか……?になってしまいますよ。


【グラフィック】
ねこにゃん無敵。いいですねーこの人の絵は。パルフェ、こんにゃく時代よりもさらにうまくなっています。キャラグラは、僕が今までやったねこにゃんゲーの中でもトップクラスですね。めちゃくちゃかわいいし表情も魅力的、すばらしっすね。

そして、背景!背景凄すぎるんですけど。淡い色調で文句なしに綺麗なうえに非常に緻密で、更にその豊富さも満点です。このシーンだけのためにこれほどの背景CGを!という場面も多々ありで、驚嘆を隠せません。背景の閲覧メニューを作ってほしいほどです
メニュー画面でも使われている坂の上から街を見下ろす景色ですが、思えば戯画HPでさかハリが発表された時もこの背景画が使われていました。「振り返っても"元気"になる―」という文言、奈都希グラフィック、そしてこの背景。衝撃を受けたものです。

いやもう、本当にグラフィック関連は非のつけどころのまったく無い文句なしの出来!文句なし10点!! ……と言いたいのですが、一枚絵CG数が少ない、あまりにも少なすぎる。もうちょっと何とかならなかったのかなぁ、とは思うものの、まぁ逆に立ち絵とエフェクト、前述の背景が非常に多いため、そこまで気にはならなかったというのが正直なところではありますけどね。


【キャラクター】
上記したとおり、ありふれた高校生活の中で、等身大高校生としての範囲内で動き回るキャラクターたちは非常に魅力的です。主人公は確かに事前設定では物凄い求心力を持ったカリスマなイメージを抱かせましたが、実際のところはきっかけの動力になったあとは、仲間と共に悩みながら行動する普通の男の子でした。でも元気よく責任感もあるので好感度は高いですヨ。どなたかのレビューに、「台風は発生時には暴風だけど、一度進みだしてしまうと中心は静かだ」のような表現がありまして、これは見事に言い得ているなぁと思いました。

ヒロインは努力型ドジっ子、姉さん幼馴染、頭脳型無口少女(実は明るい)、お天気転校生、コンプレックス地味っ子と、この手のゲームの定番設定どころがバランスよく揃っている感じです。その中でも、主人公一派として常に大活躍する高スペックガール、ハルが一番のお気に入りヒロインですかね。彼女の健気さと、無鉄砲に見えつつもその実気ぃ使いなところはたまんない。個別ルートでの巧への気遣いと二人の空気の作り方とかすごくたまんない。無茶してるようでいい女でした。

続いて良かったのは、メインヒロイン奈都希、時に元気に時にしおらしく、萌え度抜群でした。周りとバランスとるために存在しているような柚も、シナリオは弱かったものの、かみかみキャラと声はとても生きていました。他ヒロインルートの時の方がいい味出してたかな、柚は。それから、クールにふるまいつつも実は明るい猫かぶりな涼も大好きですよ。Sっ気たっぷり風音さんの声が見事にはまったゆかりも魅力的でした。

しかしなんといってもヤスでしょう。ヤスあってのさかハリ(笑)。「主人公の信頼を受ける魅力溢れる男性友人キャラクター」というのは、名作足らしめる要素のひとつだと僕は常々思っています。ヤスは笑い9:熱さ1くらいの割合ではありましたが、両サイドで活躍してくれました。

親世代連中や、脇役のグリグラ、ルートあんのかよ!の安野加代先生も脇役なりに出すぎず引きすぎずいい感じ。あ、でもユミ先輩の設定と歩先輩の発明品はシナリオ立てていくのに際してちょっと反則技だな~。キャラ自体が良かったのであまり気にならないのですが、そこだけ非現実設定作んなくても……と思いました。



【音楽】
OP、EDは可もなく不可もなく実に普通。BGMの方が良かったですね。メインBGMになっている「愛しき暴れん坊」、これは作品によく合ったコミカル調の曲ですね。それから、泣かせ所で流れる「明日が楽しくあるために」、巧が校内放送をジャックした時などに流れる「回りきった後で」あたりはとても印象に残っていますし、何度も上記している「普通さ」「優しさ」によくあった暖まる曲が多いです。


以上さかあがりハリケーンでした。
青春ものは凄く好きなんだけど、プレイ後に凹むわー。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム