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エロゲ レビュー ブログ
【SWAN SONG】
SWAN SONG



メーカーLe. Chocolat
シナリオ■■■■■■■■■■ 10
グラフィック■■■■■■■■■□ 9.5
キャラクター■■■■■■■■■ 9
音楽■■■■■■■■ 8
悲劇■■■■■■■■■■ 10
総合【S】 92点

崖っぷち群像劇

現在は販売停止のようですし、もともとの生産本数もかなり絞られていたみたいで、まさに隠れた名作といった趣きです。ただしこれは良くも悪くも「エロゲー」という括りの作品ではありませんね。萌え要素や肩の力の抜ける独特のウケなどもなく、世界観ゆえの暴力的な性描写やリアルな死を惜しげもなく出すための18禁作品として捉えた方が良いでしょう。

【シナリオ】
クリスマスイブの雪の夜、山深い地方都市を襲ったマグニチュード9.5の大地震。街は壊滅し、都市機能がほぼ全て停止する中、とある教会で出会った同世代の6人の男女たち。性格も出自もまるで違う彼らですが、力をあわせて生存への道を模索します。やがて彼らは他のより多くの生存者と出会うために、行く手の先にある水没区域を筏で渡る決意をします。その先にて出会うものは、極限の集団行動においてあらわになる人間の本能や欲望、彼らひとりひとりはどのような運命を辿ることになるのでしょうか。

と、いった感じで、まったくタイプの違う登場人物たちを中心に添え、未曾有の大災害という極限状況下における個々の行動を非常に繊細に書き込んでいます。キャラ視点が次々と入れ換わることで多角的に場面を捉えることが出来る点は巧妙ですね。シナリオライターは瀬戸口廉也さん、正直美少女ゲーム向きのライターでは全くありませんが、彼のような存在がこの業界にいてくれたことは面白い限りです。読ませる洗練されたシナリオで、そのテーマ性から、いずれのレビューサイトでも「嫌いだ」「欝になる」といった記載はあれど、「つまらない」といった類のものは見当たらず、「凄いシナリオだ」という認識はほぼ共通しているようですね。

上記、水没した区域の先にある避難所と化した学校が主な舞台となります。一方で同区域に存在する宗教団体「大智の会」との競り合いが大きなターニングポイントとなっていくのですが、うまいのはこの二団体の争いはあくまで舞台装置であって、学校側=味方、宗教団体側=敵、といった一元的な単純構成にしなかったことですね。主人公グループや、学校サイドの人間たち、大智の会当主の少女などのそれぞれの立場や思惑を立体的に絡ませて、「いったい誰の正義が正しいのか」というテーマを際立たせるシナリオの重厚さは見事の一言。何よりもラスボスは学校サイドにいますのでね。

人間模様が秀逸な作品ですので、キャラクター面からシナリオを掘り下げてみましょう。反転してはいますが、ネタバレすれすれ気味です。

本作には、冒頭に教会で出会う3人の主要男性キャラが登場するのですが、120度ずつ違う方向を向いているようなタイプの人間たちです。その全く違うそれぞれがこの極限下でどのような行動に出るのか、それが本作の肝となります。

主人公の尼子司はストーリーテラー役、主人公としては感情移入したくなるタイプでは実はありません。あまり行動的にならず、冷静に物事を見つめています。ただそこに彼なりの生き方というか信条みたいなものは確かに一本あり、自身がかつて経験した絶望と現在の逆境にも目を逸らすことなく見据える強さを持っていますし、自ら望んですこし外れた位置に身を置いている様相です。主人公ですので彼視点になることが当然最も多く、客観的に物語を読むことが出来る役割としては確かにうまく機能していたように思えます。

続いて田能村慎。彼はヒーロー役ですね。彼はこの極限世界においての理想を体現するキャラクターで、少年誌なんかの場合ですと彼が主人公になったほうがよっぽどしっくりきます。ただ、彼を主人公にしないあたりがうまいところですね。こういう強い信念とそれを成すだけの力を持っているキャラを主役にしてしまうと、どうしてもハッピーエンドありきの真っ直ぐな話になってしまうんですね。それだとこの泥臭い世界観を表現することは厳しいんです。彼はヒーローですので、彼がどう出るかによって皆の運命が変わるほどの影響力を持ちます。しかし、彼はヒーローではありますが完璧ではなく、本作でもいくつかの判断ミスをおかし、結果としてそれが鍬形の暴走や彼の死を招いてしまいました。彼のいくつかの判断ミスのひとつを修正する選択肢がHAPPY ENDにつながることも、彼の存在感をよく表しています。

そして最後にアンチヒーロー役を負う鍬形拓馬。語弊があるかもしれませんが、本作は彼の成長物語でもあります……宜しくない吸収をしていますが。彼は、最終的な位置づけとしては「ラスボス」ということになりますが、ただただ女々しかった序盤から、他2名の主役男性陣に憧れ、悩み、行動し、戦い、そして恐怖を穿った悪い方向で克服してしまう、ある意味で最も人間臭いキャラだったといえます。司は世界を斜めに捉え達観しているところがありますし、タノさんはそのゆるぎない理性をもって逆境に屈しない人間でした。いってしまえば彼らはフィクションなキャラクターですので、僕らに一番近しい人間が鍬形なのではないでしょうか。まあ流石に自分はああはならないと僕は信じていますが……わかりませんね、こんな状況ですから。ま、そういった意味では、終盤彼はかなり悪のカリスマを発揮し凶行も凄まじいものになっていきますが、それでも憎み切れないのは、前半部分での彼の弱さや葛藤の書き込みが非常に丁寧に掘り下げられていたからでしょうね。


そして中心となる女性キャラクターが2人います。佐々木柚香川瀬雲雀、彼女たちの描かれ方も対照的ですね。
清廉とした雰囲気で優しさと慈愛に満ちた正ヒロインの様相を漂わせ、実際そういった描かれ方をする柚香なのですが、彼女はちょっとしたトリックキャラクターでしたね。実は無気力で他者に依存しないという、女の子に理想を重ねるこの手のゲームとしては黒いものを持っているヒロインですね。彼女は結局誰ともわかりあえず、違いますね、わかりあおうとせずに空虚な存在なまま物語の収束を迎える、非常に寂しいヒロインであったといえます。ただ、どちらのENDでも生き残る唯一のキャラであると共に、無気力な自分の独白がラストで入ることや、両ENDでの最後の様子を見ていると、もしかしたらアフターの世界では成長を望む彼女が見られるかもしれません。

性格的に真っ直で素直、「いわゆる」メインヒロイン的なのはむしろ雲雀ですね。彼女は自分の直感に正直であるがゆえに、最後は自分が信じられるたった一人を選びます。また、口の悪さに反して、あろえや子供の面倒を率先してみる母性も併せ持ち、柚香よりよっぽどヒロイン的な、ドラマ的な行動をとる子です。しかしあくまで彼女はメインのヒロインではないところが、男性キャラにおける司とタノさんの関係に非常に似ています。上記しましたがタノさんを主役にしなかったように、雲雀をメインヒロインにしなかった同じような設定は正解だったと思います。


さらに、主役クラス6人以外では、本作のキーパーソンともいうべきキャラがふたり。ひとりは小池希美、暴徒に強姦されていたところを鍬形によって救い出される少女です。鍬形を慕うことになる彼女が、鍬形への自信や使命感に大きく貢献し、鍬形豹変のトリガー役になります。しかしながら彼をうまいことハンドリングするわけでもなく、彼女もごくごく「ふつう」の女の子です。その弱さや思春期ゆえの脆さが独占的な黒い思いとなり、破滅への道を誘うことになりますね。登場シーンから可哀想ですし、狂気めいた日常が生んだ悲劇のキャラの一人といえます。

また、舞台近辺に根城を構える新興宗教の象徴、竜華樹様の化身として崇められている乃木妙子。対立勢力の若き旗振り役として、彼女の葛藤や行動などもなかなかに切り込んで描かれます。結局というか当然というか、彼女は神の生まれ変わりでも何でもない普通の少女、周囲の人間の依存度が高まるこんな状況下だからこその、そこを突きまくる心の痛む描写が多いです。ちなみに彼女は司の妹なのですが、この設定は蛇足。唐突ですし、物語への必然としての楔になっていたかというと、決してそんなこともありませんでした。


他、避難所にて、自衛隊員のお兄さんや、初老の医師なども出てきますね。彼らは、避難所にいる人たちにおける理性の堤防役として機能しているわけですが、彼らの物語からの退場が破滅への引き金になるという構成はとても妥当。彼らの退場という事件こそ鍬形の真価を見せつける絶好の機会だったのですから、ここを使わない手はありません。



途中の選択次第でBAD直行もありますが、基本的には一本道です。どのヒロインと結ばれるとかって流れもとっていません。EDはふたつ。ほぼ全員死んでしまい教会の崩れた女神像をあろえが再建している非常に刹那的なEND、それじゃ救われないだろうってなことでほぼ全員生き残り復興への希望を残すEND。前者がNORMAL END、後者がHAPPY ENDだと言われていますね。確かに後者は前者の「ifルート」って雰囲気が強いです。


まーしかしこの手の破滅型の作品は重いながらも考えさせられますね。
望月峯太郎さんの漫画「ドラゴンヘッド」でも思ったのですが、何をもってして「正義」「普通」なのだろうかということですね。大味な話になってしまい恐縮ですが、僕らの日常で殺人は決定的タブーですが、時代と状況さえ変われば、人を殺して英雄にさえなれるわけじゃないですか。本作も、この極限の中で普通であるはずの常識が完全に崩壊しています。僕らは平和な価値観が守られた自室のPCの前で本作をプレイしているので、鍬形一派が狂気的に見えるのですが、実は彼らが行っていることは、行為こそ残虐ですが戦略としては正しいのかもしれませんし、そういった意味では、常にブレないタノさんや司の方が普通ではないのかもしれません……ま、幸せなことに僕はここまでの極限に身を置いたことがありませんので、実際どんな自分になってしまうかはわからないんですけどね。


最後に、中心メンバーのジョーカー的立ち位置にいる、八坂あろえという少女のことに触れたいと思います。彼女は自閉症スペクトラムという病を持った障害者の少女として主人公群に登場しますが、実は最初から最後まで物語の端っこで目立たず存在し続けています。彼女のような無垢なキャラクターを巧妙に機能させられるシーンはいくつもあったのだと思うのですが、そういったシーンで彼女はほとんど登場してきません。正直僕は彼女の存在が本作に必要だったのかがよくわからないんですよね。極限の人間模様を描くにはあまりにも浮いている人物設定ですし、また、他5人で十分すぎるほどに「人間」を描くことは完結していますから。

ただ、タイトルが「Swan Song」であり、白鳥に対して無垢で真っ白なイメージを抱く僕らからすると、「白鳥の歌=あろえの紡ぐ行動」というのがタイトルを象徴していると考えて良いと思います。そういった意味では最後のシーンの崩れた女神像の再建こそが「Swan Song」であると思うのですが、これはあろえの最初で最後の意志表示だったんだろうなあ。自分の意志を以って、神を、世界を創り直したいと願ったのではないでしょうか。このスワンソングが、彼女の行動から希望を見出しそして死にゆくであろう司への鎮魂歌と、それでも希望を見いだせない柚香への応援歌となることを願いつつ。



【グラフィック】
非常に洗練されています。グラフィックの綺麗さはさることながら、場面や状況に合わせた文章表示のカットイン、視点の切り替えなど、作品の緊迫感、臨場感をいかに出すかのアイデアとそれを実現する努力がなされています。また、とても見にくいのですがメニュー画面の崩れた文字表現などもよく雰囲気が出ていますね。

そして原画担当は川原誠さん、作風に合ったすこし大人びた画風ですね。一枚絵の構図の絶妙さ、丁寧さもそうですが、カットイン画面でのキャラの表情なんかも非常にうまく、作品の迫力に申し分なく貢献しています。


【キャラクター】
キャラクター像はシナリオと非常に緻密に相まっていましたのでシナリオ部分でほとんど書いてしまいました。以下もっとライトな雑感的なところではありますが。

やっぱりタノさんと雲雀がかっこよすぎたため、主人公司とメインヒロイン柚香がキャラ的に薄かったのが残念だったかなー。凄く基本的なことに思えるのですが、主役を主役たらしめるのって難しいんですよね、ホント。どうしてもおいしいところを攫う脇役ってのは目立つんですよね。

好きだったキャラは、やっぱ田能村慎。こんなに強いケーキ屋さんは初めて見ました。タノさんは、人としてこうありたいものです。ただ、エロゲ史上稀に見るほどに死亡フラグ立ちまくりの彼がいつやられてしまうのか気が気ではありませんでした。ゆえにNORMAL ENDで鍬形一派に殺されるシーンは「やめてーーー!」と叫びだしたい気分でした。最後まで生き残るHAPPY ENDは胸を撫で下ろしましたね。えがった。


【音楽】
歌付の曲がないので、あまり印象に残っているわけではないのですが、BGMは総じてレベルが高いです。オーケストラ調のOPも仰々しすぎて、本作プレイ意欲をかきたてます。ピンチの場面で流れる急かすようなBGMや派手なBGMなど、映画的なBGMが非常に多いのが特徴です。ただ、基本的には退廃感を出すために、無音+吹雪エフェクトを効果的に用いていますね。作品世界観を大きく押し出す音楽群であることは間違いありません。


以上、SWAN SONG でした。
エロゲーとしてではなく、ひとつの作品として楽しんでください。かなり暴力的な描写も多いですので、萌えや癒しを抱いている人はプレイはなさらぬよう。そういった意味では、「エロゲー」としての評価のしにくい作品ですかね。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【リトルバスターズ!EX】
リトルバスターズ!EX



メーカーkey
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■■□ 8.5
キャラクター■■■■■■■■■□ 9.5
音楽■■■■■■■■■□ 9.5
友情■■■■■■■■■■ 10
総合【S】 93点

最大瞬間風速 10,000 m/s

泣かせる恋愛や家族愛をガッツリ描いてきたkeyが、ついに私の大好物である「仲間」に焦点を当てた本作、リトルバスターズ!2008年発売作の中でも1,2を争う出来の快心作でした。

【シナリオ】
恭介、真人、謙吾、鈴、そして主人公理樹の5人は「リトルバスターズ」と称して幼少時代を共に過ごした幼馴染。両親と死別しふさぎこんでいた理樹を救い、支え続けてくれた4人の仲間たちは、彼にとってかけがえのない存在となっています。高校生になった今も変わらず友達ではあるものの、恭介の就職活動や部活に傾倒する謙吾など、いつまでも時間を共有することの難しさが見え隠れする中、昔のように何か楽しいことがやれないかを提案する理樹。それを受け、いつも突飛な提案をするリーダー恭介が「野球をしよう」と、やはり突飛な意見を提案します。チーム名は当然、「リトルバスターズ」。そもそもメンバーが足りず、練習量も圧倒的に不足しているという行き当たりばったりの状況ながら、理樹はメンバー集めに奔走しながら、新生リトルバスターズの絆を強く期待します…。

といった感じの導入ですね。

序盤は、初期リトバスメンバーを中心に、ドタバタな学園ラブコメとして展開されていくような雰囲気なのですが、読み進めていくとヒロイン全員、何かしらのトラウマや心の闇を抱えています。それもけっこうヘビーな展開が多く、そのあたりもkeyらしさといえましょう。

そして、というか、これ"ループもの"だったんですね。いやはや、ニコ動なんかでも大人気の本作、設定を事前に調べたりしなくて正解でした。プレイ前までは、「熱い友情物語」という先入観しかなかったですし、ドタバタ日常シーンを中心に描かれますし、野球練習やタイマンバトルなどのゲーム要素も盛り込まれていますし…まさか本作舞台が実は、修学旅行のバス転落事故で死に行く仲間たちが、たった二人生き残った理樹と鈴を成長させるために作り上げた虚構の世界、という設定にはヤられました。

最初に書きますが、恭介、謙吾、真人の3人は繰り返す世界をある程度制御でき、ループの度に記憶を蓄積させ続ける、いわば世界の「マスター」であり、さらに恭介は世界にリセットをかけることができます。ヒロインたちは記憶の蓄積はできないものの世界の構築に関わっている「キャスト」のような存在です。これが「世界の秘密」であり、最大の泣きルート「Refrain」を演出する超設定でもあります。


と、いうか正直なとこ、ヒロイン個別ルートはたいしたことありません。葉留佳ルートではベタにグッときてしまいましたし、美魚ルートの丁寧さと構成にも感心しましたが、個別ルートはあくまで最終ルートである「Refrain」に向けた短編集に過ぎず、本作の評価はすべて「Refrain」に対しての賞賛であり、S評価をつけたのも「Refrain」あってのものなのです!

本作複数ライター制ですが、日常パート、鈴ルート、「Refrain」の担当が、長年keyの礎になっている麻枝准さんみたいですね。麻枝さんパートは文句なしに突き抜けた満点なんですが、ちょっと、個別ルートとの差が大きすぎるのは難かもしれませんね。「Refrain」までいって初めて評価のできる作品です。


さて、前起きが長くなりましたが、各ルートに目を向けてみましょう。まずは棗恭介の妹にして、元祖リトルバスターズ唯一の女性メンバー棗鈴(∵)
彼女こそが上記「世界の秘密」を描く後半の「Refrain」における正ヒロインであり、メインルートとなります。本作はループものなので、このルートは恐らく初期の段階だといえるでしょう。すべてを読み終えてから思い返してみると理樹と鈴のスペックの低さがよくわかるルートです。

人見知りが激しすぎ、幼馴染たちと猫以外に心を開かない彼女が、野球活動や謎の「ミッション」を通して新たな仲間たちと触れ合い、友好関係を少しずつ広げていくのが見ものです。また、鈴と付き合いだしたことを幼馴染三人に告げるシーンが実に暖かかったです。特に鈴の兄である恭介の願いが切に伝わってくる電話のシーンは涙でした。このシーンも裏を知っていると泣けますよねぇ。。。


そして他ヒロインルートはすべて存在意義としては、繰り返す世界で理樹が強くなるための教材としての物語集という位置づけになります。悩みや困難を抱えているヒロインたちと理樹が恋をして深く関わっていくことで、彼女たちは救われていき各々のEDを迎え、また世界がリフレインしていきます。

クォーターながら、日本人びいきの祖父の影響で日本文化を愛しており、一方で英語を大の苦手とするその自分のアイデンティティに大きなコンプレックスを持っているクドリャフカ、理樹が彼女を支える決意をする流れは非常に好感がもてました。でもそのコンプレックスも、周囲からの嘲笑も、宇宙飛行士の母に近づくために我慢し続けてるとは健気じゃないですか。しかしロケット打ち上げ失敗による人災で極限の内乱状態に陥る祖国の島に帰るクドと、そこでの暴力的な描写は、本作のノリとは乖離したギャップがあります。なんか山場でモノ凄いご都合トンデモ展開が起きますがそこは「keyなので」ということで言及はしませんです、ハイ。

「わふー」という変な口癖を持っているのがkeyらしいといえばそうですねー。僕はkey独特の変な口癖が基本的に嫌いなんですが、彼女はキャラと扱いが非常にかわいらしく合っていたように思います。

兄の死を現実逃避することで存在しなかったことに追いやっていた、喪失を恐れる少女小毬ルート。理樹と死んだ兄を同一のものとして重ねるようになる壊れた小毬、かなりシリアスでした。この現実逃避してしまったヒロインを救済させる展開はkeyが得意とするストーリー構成ですね。ラストで、悲しみを受け止めることができるようになった小毬を示唆するエピローグがあり物語が締められますが、このあたりの書き込みも丁寧ですね。

葉留佳ルートはこれまたヘビーなルートでした。テーマは「存在の証明」、普段から能天気で馬鹿ばっかりやってるキャラに限ってこういう伏線が潜んでいるものですからタチが悪い。彼女と彼女の周囲にある歪んだ人間関係は、それぞれがそれぞれを思いやったうえで生まれてしまった悲しいすれ違いからくるものでした。葉留佳と佳奈多がすれ違いの末に心を初めて通い合わせるシーンは涙が零れ落ちてしまいます。ふたりともが本当は不幸で、ふたりともが本当は互いを憎んでおらず、ふたりともが思い合っていました。

美魚ルートは、物静かでリリシカルな美魚らしいファンタジーなルートでした。かなり毛色の違うルートですが、個別ルートの中では最も丁寧に描かれた綺麗なルートだったと思います。彼女のシャドウである「美鳥」と入れ替わって存在が消え行ってしまう展開と、海と空を引き合いにした青と白と透明、この関係を理樹と美魚たちとの関係に置き換えた文章の綴りはとても文学的で美しく、心に響くものがありました。構成立てに関しては見事で、非常にkeyらしいといえばkeyらしく、AIRを読んでいるようでした。この担当ライターさんは誰だかわかりませんが、ひとつ長編を読んでみたい気にさせますね。

来ヶ谷ルート、全ヒロインの中でも最も超人的扱われ方をする彼女ですが、自己ルートでもそれは例外ではなく、彼女は唯一世界の仕組みに気付くヒロインとして描かれます。本作舞台が作られたセカイであるという設定を隠すことなく出すルートでもあり、恭介たちの世界とはまた別の、彼女の作り出した世界が崩れゆく切ないルートでもありました。ちなみに来ヶ谷ルートは選択次第でもうひとつEDがあり、来ヶ谷世界での出来事を経て、現実世界で記憶を思い出すことで彼女が理樹に告白をし、(恐らく)結ばれるHAPPY ENDです。

ルート導入時に、来ヶ谷のことを好きになった理樹が仲間に相談し、それを皆で面白おかしく協力していく展開は、仲間ものならではでした。感情表現が出来ない自分がリトルバスターズに入ることで変わった、と語る場面からもいえるのですが、他ヒロインルートに比べて「仲間」の重要さを前面に押し出している印象のルートでした。


…と、各ヒロインを救う各々のHAPPY ENDやBAD ENDを繰り返し、二周目の鈴ルートに入ります。


恭介の度重なる世界のリセットを経て、成長してきた経験の蓄積から、理樹の判断力や、鈴の仲間たちとの適応の速さや理解度の高さなどが格段に違います。そしてそれまで剣道一辺倒だった謙吾が野球に協力してくれる違いもあります…が、これは選択次第で他ルートでも可能だったのかな?

一周目の鈴ルートは、最終ミッションであった交換留学生の話を蹴って唐突に幕を閉じてしまいますが(恭介の判断でしょう)、今回はその話も受ける流れを取ります。そして結果的には、鈴の挫折と理樹との逃避行が失敗に終わるBAD ENDであるわけです。また、毎回鈴に与えられる謎のミッションがすべて、彼女の成長を期待し交換留学生に鈴を抜擢させるための恭介の仕業だということもわかります。その目的こそわかるものの、恭介が抱えている本当の伏線もわからないまま、すべては「Refrain」に託されます。

このルート、土手で写真を撮るシーンがたまんないっすね。リトルバスターズというチームを大切に思う理樹の願いもとてもよく伝わってくる、青春仲間モノに弱い僕にとっては最高に良いシーンです。


そして世界の秘密が明かされる「Refrain」ルート。はっきりいってこれが無ければ本作は名作とは呼べません。元祖リトルバスターズ面々の想いと優しさが溢れんばかりに書き込まれ、泣かせようとする意図満々の涙腺崩壊シナリオが展開されます。「仲間」「友情」「熱き男キャラ」、これらを美少女ゲームに強く求めたい僕としては、待ってましたの設定であり、もはやエロゲを逸脱した展開ではありますが、こんだけ泣かされたなら良いってなものでしょう。

前ループで恭介の思惑が大失敗に終わり、鈴が心の傷を負ったままになってしまっているうえに、恭介はバス事故が起きて理樹と鈴以外全員瀕死状態というまさかの現実世界で最後の行動を起こしていることにより、虚構世界の舞台上では引きこもりになってしまっています。

一方、理樹はうまくいかなかった前ループの最後で「強くなる」ことを誓っており、その意志が「Refrain」で発揮されることとなります。そんな棗兄妹の様子を受け、リトルバスターズ結成以前、棗兄妹が行動を起こし始めた過去を追いかけながら、恭介と同じように行動を辿る決意をする理樹…ここからのシナリオ、仲間それぞれの視点からの話が用意されているとは思いもしませんでした!しかもどれも泣けるんだコレが!リトバスはRefrainがすべてだとよく言われていますが、それも頷ける完成度がこのルートにはありました。

最初に表れる真人視点の物語は、男性メンバー視点展開があったことの驚きと、ただのギャグキャラじゃなかった(笑)驚きがありました。謙吾視点の物語は、彼らがどういう状況にあり、各々がどういうスタンスで動いているのかが何となく見えます。そして恭介視点、彼は物語の最も核心にいる人物で、彼の願いを実現するために断腸の思いで行動しています。ところどころでの鈴や仲間を思う独白が非常に切なく、グッときてしまうこと間違いなしです。


ラスト、世界が崩壊する直前の野球シーンなんてやばすぎますよ。真人から手向けられるボールと言葉、号泣しながら感謝をする謙吾、別れを告げる恭介の泣き顔と挿入歌「遙か彼方」…この流れ、これで泣けない人って何で泣くの??という感じです。。。

そしてもう一人、重要な世界の仕掛け人となるのが小鞠ちゃんなのだと思います。各ヒロインを救ってきた理樹のループを理解し8人の小人の絵本を描いた彼女は、世界のマスターであったリトバスメンバーが消えた後もセカイに残り、消えゆく前に最も仲の良い女友達であった鈴に対して、別れの言葉と最後の願いごとを託します。夕焼けの屋上で紡がれる彼女の言葉にはやはり泣かされること間違いなしです。

この一連のシーンは、これぞkey独壇場と言わんばかりの泣きのシナリオと演出が展開されます。「死別」を描かせたら右に出る者はいないkeyですが、本作にもその設定が適応されているとは、序盤には思いもしませんでした。

そして二人で生きる決意をしてエンドロール…なのですが、最後にもうひとつTRUE ENDに向かう最終リフレインがあります。それは小毬の「星の願い事」でナルコレプシーを克服し、事故で瀕死状態の皆を鈴と共に救出し、みんな助かりHAPPY ENDというやっぱりkeyでした奇跡発動ルートになります。正直、全員死んでしまったその後の世界で、理樹と鈴が生き抜く決意をするエンディングの時点で終わらせるのが、物語としては一番美しいですし、もしもここで終わっていたとしたら、そのあまりにもビターで切ない閉じ方に、S+まで評価は上がっていたんじゃないかな。

だってね、全員助かっちゃう奇跡を起こすルートがありなら、今まで恭介たちが行ってきたリフレインは一体何だったの?って感じじゃないですか。みんなが理樹と鈴に託した想いは何だったの?って感じじゃないですか。

…でも、それでも、やっぱりリトルバスターズ全員が笑っている結末が見たいです。そこに多少興冷めなところがあったとしても、それでもやっぱりその結末が本作にはふさわしい!と思いたいですよね。




さて、18禁Ver.の「リトルバスターズ エクスタシー」には、追加ヒロインが3人ほどいます。従来のヒロインルートよりも完成度の高い3ヒロインルートについても言及しておきましょう。

佐々美ルートは、RefrainのTRUE以降の話ということですので、何やらFDのような雰囲気に満ちています。佐々美が猫になってしまうというシナリオもそうですし、真人のギャグが一際冴えわたっているという部分でもそうです。しかしこの猫になってしまうということ自体が佐々美ルートの肝で、理樹たちが迷い込んでいた世界の「マスター」この黒猫―、佐々美が幼少時に飼っていた猫だったという設定は読み進めていけば何となくわかってくる部分ですが、やはり死別が得意なkey、猫と佐々美との別れは涙なしには見れません。いかにもサイドストーリー的な設定ではありますが、泣きどころとしては全ヒロインルートの中で屈指のものを持っていたと思います。

新たにヒロインに格上げになった佳奈多ルート、何が良いかというと、葉留佳と佳奈多が最初の時点ですでに確執をある程度乗り越えているという前提の変化があります。葉留佳ルートを知っている身としては、距離を測りながらもお互いに歩み寄ろうとしている様が微笑ましいです。このルートは、葉留佳ルートで感動させてもろた姉妹の互いを思い合う愛情をより強固に見せるためのルートであり、葉留佳ルートをより深く掘り下げるためのルートですね。この2ルートをうまく混在させれば、頭ひとつ抜けたヒロインルートになりえたことかと思います。

沙耶ルート、ダンジョンアクションというゲームパートをメインとし、軽いノリで進んでいく全体の設定の割には、とても悲しいシナリオです。「Refrain」をクリアし世界の仕組みがわかっていると彼女がどんな存在なのかが何となくわかりますが、途中の回想からも分かるとおり、彼女は土砂崩れの事故により既に死んでしまっています。青春を駆けることなく死んでしまった彼女の想念が、恭介の愛読漫画である学園スパイ小説「学園革命スクレボ」の登場キャラ沙耶という形で恭介の虚構世界に登場してしまう、これが沙耶の裏設定ですね。

イレギュラーである存在を世界からはじくために恭介が暗躍するわけですが、最後世界を去る決意をした沙耶が望んだのは、恋をした少年理樹との等身大の恋愛。再度リフレインする世界で理樹との思い出を心に刻みつけ、世界を離脱―死に行きます。ラストで、理樹と恭介、真人、謙吾、そして沙耶の5人で駆けている写真で物語は幕を閉じますが、これは沙耶の想いに手向けるため恭介が構築した世界における幻なのか、はたまた奇跡が起こり、死するはるか前の幼少期、鈴ではなく沙耶がリトバスメンバーとなったパラレルの現実世界でのことなのか…そこはユーザーに委ねられるところですが、他ヒロインルートとは違い、現在進行でわかりやすく結ばれる結末を描かないため、強い切なさを残します。


以上がリトルバスターズのシナリオ群となりますね。長くなりましたし、伏字もいっぱいです。それは書きたいことたくさん、でも未プレイの人には何もわからずプレイしてほしい!という思いから。何はともあれ「Refrain」、これに尽きます。是非です。



【グラフィック】
keyといえばシナリオ麻枝准さん、キャラクター樋上いたるさん、というのがドドド定番です。とはいえ実は私AIRのところでも書いたのですが樋上さんの画風が苦手でkey作品を敬遠していたくらいですので、今回のプレイにも一抹の不安はあったのですが、特段問題ありませんでした。

それはKANON/AIR時代に比べて格段にうまくなっていてロリ具合がだいぶ抑えられていて、むしろkey屋台骨である彼女の絵が良く見えてきたというのがひとつ。それに実は、本作でメインとなっているのは樋上さんではなくNa-Gaさんという方で、こちらの方はかなり私好みの画風でした、というのがもうひとつですね。さらに、背景、塗り、演出面など素晴らしいです。


【キャラクター】
keyといえば現実にいたらドン引いてしまうような変人ヒロインばかりを描く印象なのですが、本作も例にもれず変なヒロインばっかりです。でも、何でしょう、わたくし慣れてしまったのでしょうか…。危ない天然ヒロインたちの挙動やら「わふー」やら「ほわあ」やら「やは」やら何だか心地よさすら感じてしまいました。遅ればせながらわたくし、ここへきて鍵っ子の仲間入りを果たしてしまったのかもしれません。

どこかおかしなヒロイン群、お気に入りはリトバスメンバーでマイペースな鈴、ノリがよく天然キャラのクドリャフカでしょうか。

そして元祖リトルバスターズの男衆の熱いこと熱いこと。9人もいるヒロインたちが束になってかかっても、男性3人の魅力には遠く遠く遠く及びません。まずはリーダーであるまとめ役の恭介。本作はある意味彼が裏の主人公であったといっても過言ではありません。すべての彼らの行動の起点であり、Refrainにおける最大の仕掛け人も彼、事故現場で溢れるガソリンを瀕死の身を挺して食い止めるのも彼、TRUE ENDエピローグで皆が待ち焦がれている人物も彼… あれ?裏というか表の主人公だったようです。

そしてギャグ要因の真人。彼の筋肉ネタ、天然ボケ、理樹を溺愛している面など笑いどころは数知れず。それでいてシリアスシーンにもしっかり絡んでいるため魅力は増すばかりです。最後に謙吾、こういう一歩引いていながらも真剣に仲間を思っている頼れるキャラがいることでチームは俄然強みを増します。最も人に厳しいようで、実は最も仲間に甘く優しい奴だったというのも最後かなり泣けます。

そして忘れてはならないのが主人公の理樹です。弱く幼い彼の成長物語ともとれる本作、CVも女性声優を起用しているためその弱々しいイメージは非常に強いのですが、最後の「Refrain」で彼が見せる強さには感動すら覚えます。

男キャラクターに重きを置かない風潮が強い18禁ゲーム界ですから、これだけの熱い漢メンバーがチームに揃っている本作は非常に好感が持てますね。ただ、一方で美少女ゲーとしてどうなのよ、とも思うんですけどね。



【音楽】
key屈指のライター麻枝准という人は、音楽でも遺憾なく感動させてくれることで有名ですが、本作も例に漏れずやってくれますよ。良かったのは佐々美テーマの「猫と硝子と円い月」、メロディが切ないです。あとは歌付きの曲のインストゥルメンタルver.が総じて良いです。「Song for friends」のピアノver.とかやばいですね。あとは「Saya's Melody」「遙か彼方」ですね。麻枝さん以外ですと、かっちょいいベースラインが印象的な「Mission Possible」が残ってますかね。

それから、歌付きの曲が豊富にあるのも評価できます。その中でも要になるのはやはり「Refrain」重要どころで流れる「遙か彼方」、泣かないはずがありません。「Song for friends」も歌詞といいメロディといいズルすぎる、タイトルからしてズルいですもん。そしてOPの「Little Busters!」は、サビで歌詞が文字通り「リフレイン」する大名曲。メロディが非常に頭に残ります。プレイし終えてから改めて聞くと、歌詞がもーくちゃくちゃに響いてくるんですよね。



と、いうわけで長くなりました、リトルバスターズ!EXでした。友情と優しさが目一杯に詰まっています。仲間モノが好きなら絶対にプレイしなければならない作品であり、さらに男性キャラの熱さが好きならばプレイしない理由はどこにもありません。

何とか頑張ってルート「Refrain」までたどり着きましょう。リトルバスターズに入りたくなりますよ。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【車輪の国、向日葵の少女】
車輪の国、向日葵の少女



メーカーあかべぇそふとつぅ
シナリオ■■■■■■■■■■ 10
グラフィック■■■■■■■■■ 9
キャラクター■■■■■■■■■ 9
音楽■■■■■■■■□ 8.5
激!主人公■■■■■■■■■■ 10
総合【S】 93点

正義の象徴へ向けて

G線上の魔王が最高でした。ネット上での超高評価も知っていました。ネタバレが横行する各レビューサイトで本作のページだけは頑なに見ないようにしてきました。プレイするのにまとまった時間が取れるタイミングを待ちもしました。そうやってコンディションを整え、満を持してプレイした本作、噂に違わぬ名作でした。

【シナリオ】
日本に似て非なる本作の舞台、主人公の森田賢一は「義務」を負った罪人を更正させるための国家最高峰資格である「特別高等人」の最終試験を受けるべく、とある田舎町を訪れます。町の入り口は一面の向日葵に覆われ、美しい田園風景を持つ土地ですが、周囲を険しい山脈と地雷地帯に囲まれたその地はまさに陸の孤島、外界から隔離された寂しい土地でもあります。賢一は最終試験として、特別高等人の上司にあたる法月将臣から3人の少女の義務を解消するよう言われます。クラスメイト兼監督者として彼女たちと接する賢一…、ひとりひとりのヒロインで描かれる感動的な、また、登場人物の過去と国家体制を絡めた壮大な展開は読む者を虜にします。


各章で主役となるヒロインがいて、そのヒロインとの親密具合によってラストでエンディングが分岐するという形ですが、基本的にはシナリオは一本道です。ですので、2章ヒロインのさちでまず一本通すのが効率的には良いのですが、なにぶん内容が重厚なため、お気に入りヒロインでまずはクリアして世界観を堪能するのが良いかと個人的には思います。

日本の刑法とは違う、「義務」という贖罪こそが本作最大のギミックとなっています。この制度をベースにして本作最大の山場を生みだすこととなるわけですが、それは是非プレイをしていただきたい。

それから、この国で7年前に勃発したクーデター、その首謀者である樋口三郎の出身地がまさに本作の舞台であり、灯花を除く登場人物が皆このクーデターに関わっているということが本作に深みを生み出します。


さて…。

要所要所での予想もしないひっくり返し方がうますぎた本作なわけですが、事前情報ではヒロインの一角と思われていて、個人的にも一番お気に入りになりそうな予感がしていた特別高等人候補生南雲えりさんが、登場5秒ほどで法月に撃ち殺されてしまいますorz。わたし、ポカーンとしてしまいました。「え、また後で出てくるんだよね?」と。ある意味新しいこの導入には確かに引き込まれましたが、南雲さんはあまりにも不憫でした。

第1章は全体のキャラを満遍なく出しての導入です。第2章は、「一日が12時間しかない義務」三ツ廣さちルート。義務に至る経緯に弱さを感じたためシナリオと巧く関係させて欲しかったですが、泣きに関しては作中随一。彼女が同居している異人の少女と彼女との姉妹愛は本作最高の泣きを生みます。

第3章は「大人になれない義務」大音灯花ルート。親の言うことに絶対服従というこの義務、もちろん親子の絆を描きます。ラストのドンデン返しののちにある余りにも大きな灯花の愛情にはやはり涙涙…。

第4章は「恋愛できない義務」日向夏咲ルート。賢一との過去と密接につながっている彼女ですので、メインヒロインと呼んで差し支えないかと。過去と現在で、賢一と夏咲の性格が逆転している部分にライターの巧みさを感じました。ラストで魅せる彼女の強さもこれまた涙。

いやはや、しかし毎章毎章泣かせてもらいました。さすがのるーすぼーいさんです。2章の姉妹愛、3章の親子愛はもうだだ泣きでしたし、ヒロインにストレートな愛を見せつけられる恋愛系の類の感動に食指があまり動かない歪んだ僕も、4章ではやはり涙してしまいました。


しかしG線上の魔王でもそうであったように、最終章に圧倒的な山場を持ってくるのがこのライターの特徴。第5章冒頭の演出は凄まじいものがありました。

プロローグからそれまでの賢一の妙な行動がすべて伏線だったとわかる璃々子の登場シーン。その少し前にお姉ちゃんの「義務」内容が明かされる回想シーンがあり、「まさか…!いやしかし…」と深く考えるうちにあれよあれよとお姉ちゃん登場です。プレイ済みの方ならわかると思います、このシーンの興奮が!!!!

G戦上も第5章冒頭に魔王が兄だと明かされる鮮やかな演出がありましたが、その鮮やかさは本作の方が上をいっています。2章で賢一が女物の下着を隠しているギャグシーンがありますが、ただのギャグだとしたらこれは淡白すぎるだろう、いつお姉ちゃんが登場すんだと思っていましたが、ここまで後に引っ張って引っ張って強烈に登場させるとは恐れ入りました。思えば、日本によく似た違う刑法で成り立つ世界、というちょっと変わった無理やりな設定も、各ヒロインとの話を盛り上げるというよりは、この一瞬のためにあったように感じます。

また、学校校舎から行われる凛々子の演説シーンは鳥肌ものでした。セリフや短い文章を畳みかけ盛り上げていく文体はるーすぼーいさんの十八番ですね。伏線を生かすための舞台設定の組み立ては業界ピカ一ではないでしょうか。先の凛々子登場もそうですが、とっつぁんの不自由な足が実は演技だったというのもさることながら、同様に賢一の大麻の禁断症状も演技だったとは恐れ入りました。

敢えて言うならば、第5章と内乱を描くのにキナ臭い戦争の雰囲気をもっともっと出して欲しかった。また、法月将臣という国家最高クラスの人間や、国家転覆を図った樋口三郎まわりの人間が多数出てくるというのに、この山間の田舎町で話が完結しきるのも少し小さかったかもしれません。

とはいえど、凄まじい伏線使いと泣きの展開、魅力的なキャラクターを縦横無尽に走らせたシナリオは文句なしに賞賛に値します。



【グラフィック】
有葉さんの原画は、丸みと幼さを増してしまった今のものよりも、この頃の方が僕好みです。絵的にはどのヒロインも魅力的に描けています、がやっぱり夏咲が一番ですかね。キャラ的にはお姉ちゃんと灯花なんですが。

しかしEDロールは何か微妙でしたね。歌の山が来る前にEDロール終わっちゃうんですもん。でも全クリア後にメニュー画面が向日葵畑になるのは、実に心地いいですね~。


【キャラクター】
まずは何といっても主人公の森田賢一!最高です。本作のるーすぼーいさんといい、丸戸史明さんといい、田中ロミオさんといい、名作を生み出すライターさんに共通しているのは「主人公がかっこいい」だと思いますが、その中でもトップ争いをするくらいに魅力的な主人公です。

そしてとっつぁんこと法月将臣。彼のセリフひとつひとつは実に重く、賢一と私の思考に突き刺さります。また悪役としての責務も完璧にこなしていました。若本さんの超クセのある演技も頭に残ります。

次作G線上の魔王はヒロインが全体的に弱めでしたが、本作のヒロイン勢は総じて魅力的でした。3人ともがタイトルに恥じない向日葵のようなまっすぐさを持ち得ています。甲乙丙つけがたい…のですが、実はあやかしびとトーニャの声優さんがツボというのもあるのですがお姉ちゃんが一番好きでした。

磯野の伏線もなかなかに乙でした。奇行に見える一連の行動といい、触られると切れる前髪といい、ただのギャグ要因と思っていた奴がなかなかどうしてキーパーソンの一角だったとはやるじゃないですか。ラストの彼は最高にかっこよかった。


【音楽】
音楽は曲数も多く良いのですが、シナリオやキャラクターの魅力の凄さと比べてしまうと、正直なところあと一息!でした。ま、十分なんですけどね、ロッククライミングシーンで流れる挿入歌(演出は感涙でしたが)と、EDがいまひとつ盛り上がりに欠けたのもあるかもしれません。この手の作品は歌付の曲に大きな期待を寄せられてしまうものです…大作の宿命といったところでしょうか。ただ、OPの「紅空恋歌」は作品世界観を高く押し上げる良曲です。

BGM的にお気に入りは、「光の先に」「溶解」「reason to be」「watch out」、山場や泣かせ所で流れる曲がやっぱり良かったです。特に「reason to be」は沸々と湧き上がるものがあります。


と、いうわけで「車輪の国、向日葵の少女」でした。溜めに溜めた甲斐があったというものです。ネタバレ見ないで本当に良かった…。今回は伏字も強めにかけておきました。これからプレイされる皆さんも何もわからないまま最終章までプレイしてほしいと思います。


関連レビュー: 車輪の国、悠久の少年少女



【RANCE Ⅵ ~ゼス崩壊~】
RANCE Ⅵ ~ゼス崩壊~



メーカーALICE SOFT
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■■■■ 10
キャラクター■■■■■■■■■■ 10
音楽■■■■■■■■ 8
埋もれない多数のキャラ■■■■■■■■■■ 10
総合【S】 94点

畳み切る壮大な風呂敷

みんな大好きランスシリーズの第6作にして、今のところ正史ものでは次作「戦国ランス」に並んで最大規模の作品です。ルドラサウム世界における大国ゼスを舞台に話が大きく展開する本作、シナリオといい中毒性の高いゲームシステムといい、アリスソフトのレベルの違いを見せつけられます。

【シナリオ】
はじめに言っておきますが、ランス"6"といえど、前作までのプレイは必要ありません。知っていると既出キャラとの因縁や関係が予備知識としてあるので深みや愛情こそ増しますが、よくわからないとかつまらなくなる、といったマイナスになるものではありません。僕自身も正史作品でプレイしたのは、このゼス崩壊が初めてだったりします。

ランス5Dの舞台玄武城から帰還したランスとシィルは、例の如く路銀稼ぎのためにゼス国での雑務をこなします。しかし魔法が使える者は優遇され、使えない者は奴隷として蔑まれているここゼス王国、魔法の使えないものの気勢は激しいランスはあれよあれよと奴隷観察市場に放り込まれてしまいます。ゼスはルドラサウム世界においてリーザス、ヘルマンと並ぶ大国ですが、世直しと称して席を空けることの多い国王、高官の世襲化が進んだことによる政治腐敗、単純な魔法の実力のみで任官されたため実務そっちのけの四天王…といった原因から一部の有識人が必死に国を保っているという状態。加えて昔から続く超差別社会に反するレジスタンス活動も活発化しています。

奴隷観察市場で日々生き延びていたランスですが、レジスタンス「アイスフレーム」の手引きもあり脱出に成功します。そのままなし崩しにレジスタンスリーダーのウルザを手篭めにし組織に入ることになったランス。影番として組織を動かしあんなことやこんなことを実現するぞ!エロい計画で頭をいっぱいにしたランスがゼス王国を相手取り、動き出します。

前半部は、アイスフレームを拠点にして、様々なイベントやダンジョン攻略をこなしていくことで少しずつストーリーをすすめていくことになります。ランス周辺のおなじみメンバーに加え、ゼス政府の面々、もうひとつの巨大レジスタンスにして破壊活動を中心とする過激組織ペンタゴン、そして暗躍する魔人勢力など、たくさんの小イベントを少しずつ拾っていき、大きなうねりへと繋げていきます。

後半になると、(ランスが原因の大半ではあるのですが)魔族エリアとの国境防御線マジノラインが動作しなくなり、魔族がゼスに侵攻してくるという非常事態、そこに更に隣国リーザスが介入してくるという、かなり壮大なストーリー展開を見せます。このあたりのダイナミックな展開はかなり引き込まれましたねー。

高位魔人のカミーラを積極的にストーリーに咬ませ、国単位ではゼスだけでなくリーザスも大きく絡み、サブタイトルにふさわしくゼス崩壊の軌跡をたどり、物語の収束とゼスの復興を描ききった本作、素晴らしいと思います。そもそもランスがいなければこんなハチャメチャな展開にはならなかったんでしょうが笑、言い換えればランスがいたからこそ、ぶっ壊した後の再生があったともいえます。

しっかし、黒幕は全部アベルトですよね。最初っから最後まで彼ひとりにひっ掻き回されていたような気がします。ウルザもパパイヤも5Dのリスナでさえも…。最後は自分の主まで裏切る始末です。


そしてゲーム性に重きを置くのもALICE SOFTの魅力のひとつ、本作も中毒性の高いRPGとなっております。ダンジョンへは、ランスを含め16人のパーティーで臨むことになり、戦闘に出られるのはそのうち前衛後衛で6人です。

アイテム、武器防具、レベル、必殺技などといったRPG特有の概念は言わずもがなありますが、加えてさらに、これがうまいところなのですが、各キャラには「行動ポイント」という戦闘に出られる上限数がありますので、各々の特性やダンジョンの深さなどを考えつつ、あーでもないこーでもないと、どうやって使っていくかを考えていくことになります。このシステムが実に面白くはまってしまう。

これだけのモノを作り上げるアリスソフトとう会社は、本当にユーザーの目線に立って楽しみながら本気で制作している会社だということをひしと感じます。こういうメーカーさんとはずっと付き合っていきたいと思いますよね。


【グラフィック】
原画家は、キャラに応じて織音さん、MIN-NARAKENさん、ちょも山さんの3人が分担しています。皆さん非常にうまいですし、数も200以上あります。登場人物も凄まじい人数ならば、立ち絵もエフェクトも十分ですし、目なしの汎用キャラの数も豊富、とさすがのアリスソフト、体力ハンパないです

ダンジョン画面はユーザー視点から見る3Dをとっています。見やすくストレスなく、むしろ快適に進めることができます。戦闘シーンはFF式といいますか、キャラと敵が向かい合っているのを横から見るタイプの定番型ですね。いかにゲームを長続きさせるかを考えるアリスソフト、イベント数の豊富さと、それらを見るためにダンジョン探索の要素を必須としたやりこみ要素も非常に巧みなもので、繰返し繰返し遊んでしまう中毒のあるゲーム性は恐ろしいものです。見事。


【キャラクター】
ランスシリーズ、鬼畜王ランス、そして他のアリスソフトゲームを通じて、時間と労力をかけて構築してきたルドラサウム世界の設定の厚みは流石の一言、その世界で生きているキャラクターたるや存在感強すぎです。それに加え、次々と現れる魅力的な新キャラたち…、キャラクター点は文句なしの10点でしょう。物凄い数の登場人物がいるにも関わらず、しっかりどいつもこいつも自分の役割を果たして埋もれる奴がいません。壮大なシナリオ展開に則って、ランスを筆頭に多くの勢力、キャラクターが縦横無尽に活躍します。

本作のランス、かなりかっこいいです。相変わらず暴君気質で突き抜けた馬鹿ではあるのですが、女子供には優しいところや天邪鬼なかわいらしさ、一本通った芯を持っているところは純粋な魅力につながります。ユーザ人気がイマイチなメインヒロイン、ランスの専属奴隷シィルもシナリオにしっかり絡みながら何だかんだランスの寵愛を受けております。

既出ヒロインの中で好きなのは、魔想志津香見当かなみ。志津香は父親の仇を討つという悲願を本作で果たします。今後ぶっ壊れた義妹のナギとどういう絡みをしていくのか気になるところですね。忍者かなみは相変わらずの雑魚キャラで、相変わらずの立場の弱さですが、今後も同様にイマイチ報われないかわいいキャラを保って出続けてほしいですね(忍者の本家が登場する次作舞台JAPANではもっと雑魚キャラ扱い…笑)。

男性キャラでは、リーザス赤の軍将軍リックとヘルマン王子パットンがいい働きをしました。リックが仲間になるのは後半ですが、メチャクチャ強いうえに技がかっこよすぎます。戦闘要員として大活躍です。そして祖国の刺客から逃れつつ奴隷観察市場で鍛錬に励んでいたパットン、以前の登場と比べて、かなり人間的な器がでかくなりましたね。戦闘時もその並外れた体力から、壁要因として大活躍です。

シリーズで以前のキャラが出てくるのは素直にテンションが上がります。これが人気シリーズものの強みですね。しかし、大悪司の調教師タマネギが出てきた時が一番テンションあがったかもしれません笑。

本作初登場のキャラでは、ダントツにウルザ・プラナアイス。もうダンチでしょう。レジスタンス「アイスフレーム」の若きリーダーです。特にダニエルの死により精神的な負い目を克服してからの彼女は最高です。ウルザ、虫使いカロリア、ゼス四天王の一角マジック、あたりがシリーズ内で今後もヒロイン格として登場してきそうですね。現にウルザ、マジックは戦国ランスでは助っ人として登場します。

でもはっきりいってですね、みんな魅力的なんですよ。ランスシリーズのキャラ造形が非常に優れていることは、プレイすればするほど実感しますよね。


【音楽】
エロゲ音楽としては異質ですが、Shade氏のゴリ押しギターロックは健在です。本作のBGMは、全体としてあまり前面に出ようとはしてこない印象ですが、ギターを使った曲はやはり残りますね。ツーバス+歪みギターが好きですねーShade氏は。「ランス6」「我が栄光」「ゼス崩壊」あたり特にかっこいいです。

OP、ED、そしてキャラクターのセリフまで、「声」というものを使わないランスシリーズですが、それでも全く物足りなさがないってのは素直に凄いことです。


以上ランスⅥでした~。これはほんっとうに面白いです。本作をプレイしたら他のランスシリーズもやってみたくなりますし、ルドラサウム世界と様々なキャラ設定を理解したくなってしまうことこの上なしです。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【君が望む永遠】
君が望む永遠


↑ 注!冒頭にネタバレあり。未プレイの人は0:15から見るべし。

メーカーage
シナリオ■■■■■■■■■■ 10
グラフィック■■■■■■■■ 8
キャラクター■■■■■■■■□ 8.5
音楽■■■■■■■■■ 9
葛藤■■■■■■■■■ 9
総合【S】 90点

沈痛三角関係

とてもいいタイトルですね。エロゲ史の中で絶大な評価を得ている作品、「君が望む永遠」です。常に凹んでいる主人公+三角関係のしがらみを泥臭く描く鬱ゲーとして有名です。ま、僕は鬱ゲーとかあまり気にならないタイプなので(むしろ泣き泣きの青春ゲーの方がダメージを負います)、たいして痛い気持ちにもなりませんでした。


【シナリオ】
第一章は孝之、水月、慎二の仲良しトリオに、水月の計らいで孝之のことを想っている遥が加わるところから始まります。その後、遥の告白や孝之の葛藤などを経て、無事恋人として歩み始めるところまで。そしてその遥が交通事故により昏睡状態に陥り三年後からが第二章、いわゆる本編になるわけです。体験版はちょうどここまで、ということでそのまさかの展開は大反響だったようです。クロスチャンネルでもそうですが、こういったひっくり返し方は個人的には好きですねー。

第二章は、孝之と水月が恋人関係にあり、植物状態だった遥が目を覚ましてしまうところから始まります。慎二は大学生、水月も水泳選手の道を諦めOLに、遥の事故により受験どころではなかった孝之はフリーター生活を続けています。遥の妹の茜も高校生、当時よくなついていた彼女は、くっついてしまった孝之と水月を敵視しています。そういったすべてが変わってしまった環境下で遥とどう接していくか各々が煩悶する…というのが大筋になります。


僕が本作をプレイしたのは2009年で、実に7年前の作品です。印象としては、正直なところ特に目立ったところのない設定とシナリオなんです。三角関係も、悲劇をもとにした人間関係も、キャラクター造形も今の僕からすると別段珍しいものではない。まぁゲームに限らずメディアものは何でもそうですし、それは時間と進化がなす仕方のないところですが、それでも評価に値するのはやっぱり書き込みの深さです。孝之君は「エロゲ史上最高のヘタレ」として叩かれまくっていますが、彼のその「打たれ弱さ」、登場人物の心の動きが実に丁寧に書きこまれていて、シナリオを思い切り深くしているのは間違いありません。

遥ルート、あちらを立てればこちらが立たず、それは現実の恋愛においてもエロゲ界においても残念ながら鉄則です。本編の水月は本当に痛々しかった。遙に向いてしまう孝之君を引きとめようとする、自我が半壊するほどまでの水月の想いはあまりにも痛かったですし、遥に必死なことでそれを蔑ろにしてしまう孝之君も悲しかった。植物状態という超イレギュラーにより無理やり凍結させざるを得なかった遥への気持ちが氷解してしまうのは仕方ないです、人間そんな強いものではありません。非常にやりきれなさを感じましたし、ここに関して僕は孝之に同情的です…とはいえ、まぁもっと早くしっかり別れを告げてあげるべきでした。最後まで報われない水月がただひたすらにかわいそうでした…が、僕は水月ルートが正ルートだと思っている人間ですんで、そこは自分のルートで幸せになってください笑

最後の水月にはやられましたね。孝之と遙のことを思い皆の前から姿を消す水月に、ED曲「君が望む永遠」。その場面では孝之も、遙も、慎二も、そしてこの僕も涙をはばかりませんでした。さらにエピローグで見られる4人で映っている"現在の"写真…ここは泣きましたね… orz 
慎二がオフィスで電話をしている机にもこの4人の写真が立て掛けられているんですよね。うおぉぉん。。。

ちなみに、追い詰められることで一夜の過ちを犯してしまった水月と慎二ですが、ん~どうですかね。主人公でないがゆえに正当性を持たせてもらえない慎二君ですが、彼のとっている行動や、何よりも孝之と水月を思いやる気持ちには非常に同情できますし好感すら持てます。孝之視点なので、「おいおい何してくれちゃってるの」となるのかもしれませんが、僕個人としてはそこは気にはなりませんでしたし、話の盛り上がり的にOKだと思いました。


水月ルートが一番シナリオがうまく、キャラバランスが綺麗で、また最も感動的でした。遙には申し訳ないですが、これを正規ルートとさせてもらいたいほどです。三角関係のなれの果てにつかんだ水月との幸せ、遙との気丈な別れ、そして最後の絵本を用いた演出は神がかっていました。これで泣かない人っているの…? 絵本最後の挿絵で4匹のオコジョが集まっていたように実際にまた4人で集まれることを願ってやみません…。ED曲の歌詞「この悲しみはいつかきっと優しさになる」が響きます。

本ルート、孝之のことを「姉の彼氏」という立ち位置に置くことで、自分の孝之への想いを抑え込んでいた茜の使い方が実にうまかったですね。であるがゆえに今の「水月の彼氏」という立ち位置は自分の気持ちの置き所に破綻をきたすということですね。ちなみに茜ルートもこの設定を主軸にして進みます。水月ルートで彼女は、「(水月ではなく)私ががんばれば後悔しなかった」的なことを言いますが、それを実際に成していくのが茜ルートとなります。このへんの彼女の心の機微の書き込みは感心してしまうくらいうまいですねー。

慎二が一番いいのも本ルートです。彼は水月のそばで孝之すら知らない情報をたくさん持っていますし、水月と孝之が結ばれることを願っています。そんな彼のピッペン級のアシストの数々は、実に良いものがありました。

上記、2ルートが本作の肝で、茜ルートが準メインルートになりますかね。そして準々ルートとして他ヒロインルートがあります。お嬢様設定の王道をいく、ツンデレが絶妙なキャラ萌え大空寺あゆルート、妹系ドジっ子を支えつつ仲を深めてゆく玉野まゆルート、そしてサブヒロインにここまでの設定を持ってきたかの不治の病を抱える天川蛍ルート、あゆまゆは、遙とは関係のない孝之のバイト先の人間なので、本作の中では比較的明るいノリで大半を進んでいくのですが、天川ルートは激激激重です。なにせ死んでしまうのですから…。「生」について貪欲に描いている遙周辺にまつわるメインストーリーがある一方で、サブヒロインルートで「死」をもろに持ってくるとは思ってもいませんでした。そういった意味ではサブヒロインルートにしちゃ力入ってますし、浮いてもいるんですが、ハイ、超泣けます。

そしてそして…マナマナこと穂村愛美ルート。浮いてるって意味ではそうですね、こっちの方がダンチですかね。孝之をストーキング、監禁、調教し、ラストで孝之も精神破綻してしまう最狂にぶっ壊れたルートです。ネット上の皆さんが「緑恐怖」というのも頷ける怖さでしたが、はっきりいって本作において超異色です。

まあ、(マナマナルートはおいといて、)非常に深いシナリオ群でした。ファンタジーもSFも一切使わず、現実的に無理のあるような設定も用いず、普通である彼らに起こった悲劇を丁寧に丁寧に描き切ったシナリオ、素晴らしいですね。


【グラフィック】
原画は杉原鎧さん、特に遙の絵が総じていいと思います。塗りも丁寧で、立ち絵も豊富ですし、背景も過不足なくそろっています。バランスは良いのではないでしょうか。

またちょいちょい演出が光りますね。遙の交通事故から流れでOPムービーに入るシーンは素晴らしい演出といえますよね。さらに遙ルート、水月ルートのEDの演出もかなり凝ってます。泣かせよう泣かせようという意図満々で、僕はまんまと号泣でした

余談ですが、OPムービーのサビでヒロインたちが振り返るシーンがありますが、これを見ると「きみのぞ」だなぁって感じがします。


【キャラクター】
遙の健気さと意外な強さも、水月の健気さと隠された弱さも非常に魅力的でしたが、ヒロイン格の中では、正直大空寺あゆが一番良かったかなと。なんというか、ツンとデレのバランスが絶妙ですよ。ツンがあれくらい強い方がここぞというときに萌えますわ。それから茜です、彼女は声優さんとのシンクロ率と演技が群を抜いていました。

そして、えてして主人公とヒロインのみで進んでいきがちなこの手の話ですが、脇を固めるメンバーが非常に良い働きをします。まずは圧倒的に慎二、彼のような友人を持てた孝之は幸せ者です。彼くらいストーリーに食い込んでいる男性キャラクターがいると、作品の深みが増しますよね。

そして遥の父親、彼にも泣かされました。父親としての娘を愛する気持ちを感じさせつつも、孝之の人生についても常に考えていてくれる、人間臭さと懐の広さを感じさせるナイスミドルでした。さらにモトコ先生、彼女のご高説に涙腺が緩みかける場面も何度かありました。ただ、先生にまつわる伏線らしきセリフもいくつかあったのにそれらは結局明かされないままでした。

主人公の孝之は、確かにところどころ煮え切らない場面もあるのですが、これだけの一大事を高校生そこいらで抱えてしまった事実はやはり難しいものがあるでしょうし、都度真摯に向き合う姿勢は、弱さこそ感じるものの、ヘタレと糾弾できるものではないはずです。悲しいまでの人間味が、ユーザーさんから叩かれる結果となってしまいました。


【音楽】
BGMはたいしたことありませんので低評価か…が、しかし!OPの「Rumbling Heart」、EDの「君が望む永遠」、この2曲は本当に素晴らしいです。OP曲は「あれ、聞いたことあるな」ってくらいサビの知名度高いと思いますし。イントロの「タッタカター タカタータカター」って入るとこが好きです(わかりませんよね笑)。ED曲は名バラードですね~。遙、水月ルートEDとの強烈コンボがありますので尚更です。2番、ラストサビの「泣いてもいいよ」「あなたに会えた」でルート音が下がっていく場面が秀逸です。


以上、「君が望む永遠」でした。
誰もが幸せになれる恋愛なんてない、と本当に思います。人は弱いものですし、それを時にはさらけ出し、時には隠し、そうやって人はつきあっていきます。そういった人間味を貪欲に切なく描ききった本作、間違いなく名作でしょう。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム