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【ロケットの夏】
ロケットの夏



メーカーTerraLunar
シナリオ■■■■■■■□ 7.5
グラフィック■■■■■■□ 6.5
キャラクター■■■■■■■ 7
音楽■■■■■■■■ 8
タイトル■■■■■■■■■□ 9.5
総合【B】 73点

高みを目指す青春群像劇

かつてその街には「ロケットの夏」という季節があった――。

この導入だけでも何かグッと惹きつけられるものがあります。こういう青春ジュブナイルもの(18禁にジュブナイルも何もないかもしれませんが笑)は、僕は本当に大好きなので夢中になってしまいますねえ。

【シナリオ】
この雰囲気はたまらないですね。宇宙人とのコネクトや宇宙飛行産業が繁栄した世界という設定であるため、わくわくするようなSFモノかと思いきや、本作はそれらの時代が衰退し過ぎ去った後の話ですので、プレイ当初の世界観自体は、どこにでもあるような静かな田舎町の物語といった様相です。この「SFと田舎」という一見噛み合わない妙なギャップが非常に良い世界観を演出していて、ユーザーを虜にするのだと思います。

かつてロケット打ち上げの天才少年ともてはやされた主人公と、ロケットでの宇宙飛行を夢に持つ千星との出会いにより物語が動き出します。有人ロケット打ち上げ大会に出場し、空と宇宙の境界線とされる地上50マイルの高度、『フィフティー・マイルズ・オーヴァー』を目指すため、ロケット部を立ち上げ有人ロケットを皆で製作する過程を描く青春モノとなりますね。

あー設定がたまらん。


主要登場人物は、上記の主人公、千星、地球人と異星人のハーフであり幼馴染の歩、サヴォア星の王位継承問題のいざこざで地球に避難してきたセレン王女とその従者ベルチア、大人の協力者として、アンドロイド教師である顧問のはるひ先生、ロケット資材のジャンク屋を運営するチャックがいます。


地球が異星人鎖国政策をとったことで民間での打ち上げ取り組みがいまや現実的なものではなくなったこと、そして自作ロケットの失敗により歩に怪我を負わせてしまったことなどから、主人公はロケットに対する意欲を封印せざるを得なくなっています。その閉ざした心をこじあけるのが千星の登場であり、途方も無いそんな彼女の夢を皆で叶える過程が描かれるという意味では彼女あっての本作となるでしょう。ですから、最初にプレイするのは是非千星ルートをおすすめします。作品の世界観を最もよく体現している「夢」「仲間」「青春」を前に押し出したルートであり、僕が一番好きなルートでもあります。非常に清々しい話です。


対して最も感動的なのは歩ルートですので、逆にこれは最後にプレイするのが宜しいかと。ロケット製作があまりシナリオに関わらないことも含め、このルートのみ他のルートとだいぶ毛色が違います。異星人差別というテーマを比較的切り込んで描き、病原菌による地球滅亡という終末的な話の展開は、作品の性格から少し離れる気がしないでもないですが、ラストの地球滅亡寸前、ワクチンを積んだ数多のロケットが空を覆いつくし、その熱が雪を溶かし街に一瞬の夏をもたらすシーンは「ロケットの夏」というタイトルを活かした本作最大のピークシーンでしょう。

これは、レイ・ブラッドベリの短編連作「火星年代記」内における冒頭短編「Rocket Summer」の完全オマージュなのですが、50年以上前の傑作SFを引き合いにしたことや、シナリオでの生かし方含めて、非常にセンスが良いですよね。


サヴォアの内紛と絡めて二人のキャラの魅力に触れるセレン、ベルチアルートに、人の心を学び続けたアンドロイドとしての身の引き際を描き、同時にそれを何とかしようと奔走する主人公やチャックの頑張りが熱いはるひ先生ルートも悪くないですが、やはり印象としては千星、歩ルートが抜けていますかね。


ただまぁ正直言いますと、全体的に地味といえば地味ですね。ラスト付近まで共通したシナリオの流れですし分量も短いです。既読スキップとセーブを使えば10時間かからず全ルート終わるかと思います。雰囲気を楽しむゲームといった赴きが強いかと。

また、これは最たる不満なのですが、エロゲ界屈指のテーマ曲であろう「Rocket Summer」を擁しながらも、それをOPでもEDでも挿入歌でも、ゲーム内でまったく利用しなかったというのが実にもったいない。歩シナリオのロケットが集結するシーンや千星シナリオのロケット打ち上げシーンなんかでもしかかってこようものなら、涙腺はやばいことになっていたでしょう。


とはいえこの雰囲気は本当にいいものですね。共通の目的に向かって皆が頑張ることで物語が進む様は王道的なジュブナイル展開であり、僕もひとつの目的に向かって全員で邁進していた高校時代の夏を思い出しました。夜遅くまで残って頑張ったり、夢中になるあまりそのまま寝てしまったり朝早く作業を行ったり、テスト期間に活動できなくてやきもきしたり、合宿をしたり……そういった個々のユーザーに眠るかもしれない大切な記憶や郷愁を喚起させる作品です。



【グラフィック】
人気イラストレーターの小林立さんですね。ただ、立ち絵まわりと背景、塗りなど全体的にさすがに古さが否めませんね。一枚絵の方が魅力的ですが、全体としては可もなく不可もなくといったところでしょうか。それから、秀逸すぎる「Rocket Summer」と胸が熱くなる文章/台詞をおりまぜたこのデモムービーはたまらんですね。是非一度見てみてください。


【キャラクター】
歩の抱える異星人設定に絡んで負のキャラも幾人か出てきますが、基本、全体的には優しい世界観を体現するキャラばかりで総じて好印象です。ヒロインの中で個人的に最も好きなのは千星です。あけすけで夢に向かってまっすぐなキャラクター、たまらず応援したくなりますね。主人公は、ロケットに対する思いを心に秘めた熱い奴ですね。概ね奔放なキャラたちの中で理性役として機能しているバランス感も良いです。

また、声優さんたちも高校生ぽいというか、敢えてなのかそうでないのかは定かではありませんが、妙に拙い感じが逆に作風にはまっているように思えます。


【音楽】
ちょっと音の古さはありますが、全体的に心地良く、瑞々しい青春といった雰囲気を演出するBGMに、主題歌の「Rocket Summer」と、音楽の出来は全体的に良いです。特に「Rocket Summer」は僕の中では、エロゲ主題歌の中でも1,2を争うといっても過言ではないくらいに好きな曲で、自分の結婚式のいち演出として利用したいくらいです笑。アコギで入る歌い出しはいつ聞いても新鮮な気持ちで心にスッと入ってきますねえ。


以上、ロケットの夏でした。
少し古い作品で相応の出来でもあるのですが、どこか僕らを惹きつけてやまない不思議な瑞々しさが印象的な作品です。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

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