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エロゲ レビュー ブログ
【こなたよりかなたまで】
こなたよりかなたまで



メーカーF&C
シナリオ■■■■■■□ 6.5
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■■■ 7
音楽■■■■■■■■□ 7.5
なんという肩透かし■■■■■ 5
総合【C+】 69点

MOTTAINAI

熱烈なファンを多く持つ、2003年におけるF&C渾身の一作。僕が知ったのはごく最近なのですが、F&Cで旧作だってのにプレイを決めたのは、とにもかくにもOPムービーを見てしまったから、そして「かにしの」で知名度を大きく上げた健速さんがシナリオ担当だったからでした。

【シナリオ】
病により死期が迫った主人公とその周囲の人々の暖かい話です。加えてクリステル・V・マリーという不死の吸血鬼が出てきますが、彼女のルートを除いてあまり本筋にその設定は作用してきません。シナリオはいまや人気ライターの仲間入りの健速さん。「遥かに仰ぎ、麗しの」でも感じましたが、穏やかな世界観と優しいキャラクターを描くのが非ッ常~~にうまい方ですね。この作品からもその雰囲気は万遍無く発揮されています。彼の真骨頂であると聞く「そして明日の世界より――」もプレイしてみたいところです。

ただ本作惜しむらくは、短いっ…!設定も素材もすばらしいのにその設定を生かすだけの量が圧倒的に足りない。どのルートも主人公の死に対して中途半端に終わります。もちろん余韻をもって終わるというのもありだと思いますし、そうすることで完成度が高まることもあるのですが、こと主人公の死という前提で走っている本作に関しては、その事実としっかり向き合って乗り越えるシーンを描ききってほしかった。特に幼馴染の佐倉佳苗ルートでそれを如実に感じました。

 ◇遥彼方・・・主人公。佳苗に自身の死を言い出せず(言い出さず)にいる。
 ◇佳苗・・・彼方の幼馴染、彼方が死ぬことを知らない。彼方のことが大好き。
 ◇耕介・・・彼方の親友で彼方が死ぬことを知っている。佳苗のことが好きだが、佳苗が彼方のことを好きなのを知っている。

この設定は神設定でしょう。設定だけでご飯三杯はいけそうです。こんな設定ですので、ベタベタにガッツリ生かして欲しかったのですが、実際のところは佳苗が自ら気づいて比較的サクッと受け入れて、すぐに前向きな歩みを進めてしまうんですよ。それはもちろんすばらしいことなんですが、求めてたのちがう!これ僕の泣きちがう!死を知るときの衝撃、彼女の中における大きな葛藤や、彼方の死を介しての耕介との絡みなど、彼女の物語はこう言ってはなんですが、「容易に」感動的に掘り下げることが出来たはずです。もっともっと膨らませてほしかったなぁ。これは本当にもったいないと言わざるを得ないですね。

同様に、クリスを囮として使いながら魔物を一掃する使命を負っている二十重ルートでも、患者の死と毎日向き合っている看護婦いずみルートでも、「彼方の死」という設定は、もちろんそれが大前提にあるからこその「こなかな」ではあるのですが、直接的にシナリオの山場への布石として使われていないのですね。

ここは、僕の期待とシナリオの狙いにズレを感じている部分で、本作は、彼方のどうしようもない運命をヒロインと共に乗り越えるのではなく、救われているのは常にヒロイン側なんです。彼方は自分の死に対する葛藤を既に受け入れているので、かなり達観してしまっていて常に救う側に立ってしまう。これが切なくもあり、シナリオ的にはもったいなかった点であるといえます。

物語冒頭で、彼方の身体にかかる負荷を知らされる強烈な場面があります。学校で教師たちに気を使われている場面や、病院での最初の場面など、非常に死が私生活に食い込んでいるものとしてリアルに描かれます。それほどまでに死の近さを見せ付けたのだから、そういった側面を土壇場まで泥臭く生かし続けても良かったのではないかなあと思いました。


クリスがシナリオ、キャラともに群を抜いていたと思います。クリスのみENDがふたつあり、ENDとして綺麗なのはBADの方だったかな、と。彼方が決めた自分の在り方、現実を受け入れ世界の流れるままに過ごすこと、これを貫き通し彼方がクリスを残して死んでしまうENDです。こちらはラストシーンがとても綺麗…ですがとても寂しい結末で、クリスがめちゃくちゃ可哀想なんです。

プレイをすればわかるのですが、クリスの健気さに皆ヤラれます(笑)。ですのでどうしても彼女を幸せにしてあげたくなる…というわけでのクリスTRUEは、彼方が環境を捨て、クリスの孤独を救うために吸血鬼として生き続けるENDなのですが、救われたような、でも助かっちゃう彼方に煮え切らないような…。かつてクリスと彼方との間で交わされていた約束の伏線も、それ自体はとても良いのですが、なにぶん説明不足で薄いものですからとってつけたようになってしまい、もったいなかったです。それから、クリスを追う妖怪の登場なんかもあまりにも唐突すぎて、「え、これ何かの伏線だったっけ?」と読み返してしまうほどに蛇足な雰囲気が満載でした。


なんというか、どちらかというと良いところばかりなのですが、その分量の絶対的不足によりどうももったいない気分に陥るシナリオ群です。ですので、まぁ全体としてC評価くらいかなって思っているのでバランスをとるのもあり敢えて厳しめのシナリオ点です。

しかしそれでもこの作品を神作品と崇める方が実際多いのも確か。音楽と雰囲気は最高峰なので、時間をあまりかけずに優しい世界に浸りたければ是非。



【グラフィック】
原画はしゃあさんという方です。ちょい幼いですが、うまいですね。何ですかねこの人、本業ではないんですかね。ただ惜しむらくは、少ないっ…!エロシーンを除いたら、OPムービーでほとんどのCGが出てきてしまいます(笑)。

OPムービーが歌と相まってかなり切ないですね。ラストで夕焼けをバックに登場人物たちが歩いている一枚絵、これプレイ後に見ると実に泣けてきますね。なぜかって、それは本編中ではありえない組み合わせの一枚絵であるからです。あれで夕焼けはずるいよ。本編よりもOPムービーのが感動したかもしれません。



【キャラクター】
キャラ造形はとてもうまいです。非常に優しい人たちばかりで、この終末的な雰囲気に非常にあっています。もう彼方の設定が設定なものですから、なにげないキャラのなにげない優しいセリフでグッときてしまいます。その中でも頭ひとつ抜けているのがメインヒロインのクリス。非常に明るいキャラですが、その裏では、不老であるがゆえの孤独と身の危険を半永久的に抱え続けています。それを救うのが彼方になるわけですが、もうクリスルートを通ってしまうと、彼女の繊細さにヤラれて幼馴染の佳苗が霞んでしまう。

それから友人の耕介がこれまたイイ奴でイイ奴で…。シナリオのところで上記しましたように、彼は葛藤を抱えながらも彼方と佳苗のためにあれやこれやと尽くしてくれます。時には言葉で励まし、時には拳で励ましてくれます。こういうのを親友と呼ぶのでしょう。



【音楽】
BGMはどってこたないですが、OPの「Imaginary Affair」、これがまぁ実にすばらしい。僕が今までプレイした全エロゲの中でも1,2を争うくらい良いOPテーマなのではあるまいか。正直なとこ、5年以上前に発売されている本作をプレイしたのは、この歌を聴いたからといっても過言ではありません。暖かい日常を感じさせる非常に"切ない"曲です。

メロディはもちろんすばらしいのですが、歌詞がまた切ない。これ一見、明日という日を迎えよう的な単純な歌詞なのですが、明日を迎えることすら困難な彼方視点の歌詞となっているからです。

EDの「こなたよりかなたまで」も静かで優しい良曲です。作中BGMはホントどってことないんですが、この2曲があまりにも良すぎます。

やっぱI'veは間違いないっすね。


以上です。
エロゲーなんてエロビデオをゲームにしただけだろ、とか言ってる奴にぶつけるには、ファーストインプレッション、世界観、キャラ、そしてシナリオの"短さ"的に取っ付きやすくていいのではないでしょうか。ま、そんでその後こんにゃくでもやらせれば、シナリオ、キャラ、システムの格段の向上によりもうエロゲーの虜…になってくれるかもしれません。やっぱはじめてエロゲやる奴にageとかTYPE-MOONみたいな作品やらせると途中で投げちゃいますからね。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

コメント
コメント
はじめまして。ハマイチと申します m( _ _ )m
タイトルに釣られてお邪魔させていただきました(笑)

自分はこの作品で、【
生】と【死】について色々と学ぶことができましたね…。
エロゲでああいった題材を持ち出すのは、
かなり勇気がいることだと思いますよ、ホントw

ただ、このゲームはe-proさんの仰る通り、
本当に短い!!
もう少し何とかならなかったんですかねぇ…(;´∀`)
2009/01/30(金) 03:06:02 | URL | ハマイチ #- [ 編集 ]
>>ハマイチさん
コメントありがとうございますー!またいくらでもいらしてください。

長きゃいいってもんでもないんでしょうけど、これはあまりにも短いんですよねぇ…(苦笑

でもこの不満は死生観や優しい世界がうまく描けていたからゆえの期待があったからなんですよねー 

マジでもったいない…
2009/01/31(土) 00:42:48 | URL | e-pro #- [ 編集 ]
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2010/11/09(火) 19:58:18 | | # [ 編集 ]
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