勝 ~あしたの雪之丞2~
前作は前説
エルフ発の青春ボクシング物語「あしたの雪之丞」の続編です。まさか続編が出てくるとは意外でしたね。前作をプレイしていることがある程度前提となってくるため、採算性の問題からシリーズものってなかなか冒険できないと思うのですが、エルフのそういう英断は好きです。ただ、前作プレイは必須です!
【シナリオ】
前作の主人公雪村雪之丞がボクシングをやめて転校するきっかけとなった、スパー中に意識不明に追い込んでしまった親友……、この親友こそが本作の主人公久保勝です。意識不明から目を覚まし復学するものの、ドクターストップにより一筋だったボクシングは辞めざるを得ず、スポーツ特待生だったため学力も出席日数も追いつかず留年、と鬱屈した日々を過ごすことになります。そんな彼を支える周囲の人間と持ち前の明るいキャラクターで状況を打破する彼のヒューマンドラマです。前作の雪之丞&せりなTRUE ENDの続きとして本作は展開します。
さて、前作と比してどうだったかというと、「前作よりはるかに良い」というのが大方の意見で、僕も賛成です。神作品として崇める人もいるくらい人気がありますね。ただ、僕は前作も普通に好きでしたので、シナリオ的に大きな差があるかというとこれは多分そこまで劇的なものではないと思うんです。ライターも同じ方ですし。では何が違ったかというと、キャラクターや設定の造形、ここに尽きると考えています。
前作の主人公は、意図せずとも加害者になってしまった人間でした。現実に耐え切れず逃避してきたダウナー気質の主人公、そんな主人公を恨み追いかけてくる晶子や明男、負を起点にしたシナリオを主人公とヒロインで共に歩み行く決意をする……そういった類のシナリオ群でした。春日せりなという稀に見る天真爛漫な良メインヒロインがシナリオを仕切るため、世界観は明るいものになっているのですが、要は表面的な設定の見え方とシナリオ展開が同じなんですね。これはこれで王道で良いと思いますが。
一方、本作は被害者側の人間ですから、彼を支える周囲が前提として温かい。プラス、彼の性格も非常にアッパーに突き抜けている。周囲を明るくする主人公と彼に同調するヒロインたち、と非常にノリが明るいため、より青春ものの雰囲気が出ていますね。前作では復讐キャラとして描かれた実妹の晶子も、本作においては健気で素直な本来の側面で描かれますし、権造といった強烈なギャグ要員の友人もいます(しかしこいつが実に熱い笑)。表面的には前作以上に明るい。しかしその実、ヒロインたちは親の浮気、父親の就職難、身分違いな家庭、自身の病気など、結構ヘビーな家庭事情をそれぞれ抱えています。勝自体も心の底にはボクシングに対する捨てられない葛藤が渦巻いてます。
このあたりのキャラクター造形の差が、如実な完成度の差につながっていると僕は考えています。
勝がかなりアップテンポな人間なのに加えて、脇を固めるメインヒロインのあきらや友人の権造、勝の母ちゃんなどのキャラが強烈に立っていますので、とにかく話のテンポが良いです。ギャグシーンも勝を起点に動きますので実に楽しげな雰囲気でサクサクさくさく読めてしまう。さらにシリーズものの強みを最大限に活かし、せりな、雪之丞をはじめとした前作の登場人物たちが惜しげもなく話に絡んできますので、シナリオに深みと広がりを与えていますね。
ま、このあたり高評価になってくるのは、前作ありきだからですけどね~。本作を単独作品として立てた場合にどこまでいいものになったかは正直わかりません。シナリオ的にはもう一息だった前作の設定やそこから派生していたキャラを、存分なまでに今作の世界内で噛み砕いて良質な作品に仕上げて開放した、そんな感じです。ゆえに前作本作の2作品まとめて「あしたの雪之丞」としての評価をしたいところですね。
ヒロイン勢をあげときましょう。メインヒロインは水島あきら。勝の相棒的ポジションに位置し、黒髪ポニテにして当時としては画期的なダウナー系ヒロイン笑。シナリオ自体も親の浮気や傷害事件騒動など、作中最も悲惨めなタイプでしたか。
あきらの友人の病弱っ子桜瀬由美子、見た目超かわいい笑。彼女は前作のとあるキャラが意外なまでに熱い働きをします。ボクシング部の新人マネージャー藍川ちはる、この子も見た目かわいい。彼女もどうにもならない重めな家庭環境が主題でしたが、当時と違い今や僕も社会人であり、また不況のこのご時世、あんま笑えないっすわ。そして財閥令嬢の三枝マキ、身分違いの恋愛を描くちょっと全体からみると浮いたシナリオですが、勝が竹を割ったような性格なのでライトに描かれていて良かったと思います。元カノという設定も効いていましたね。
そして前作ヒロインの一角であった、勝の妹久保晶子。このシナリオはとても出来がいいです。何がいいかって、恋愛劇じゃないところがいい。そりゃそうです、主人公の実妹です。実は血の繋がりがなく恋愛モードになるとか、実妹との禁断の恋愛になるとか、全くないです。ここにあるのは、失恋の痛手を引きずる晶子と、彼女を誰より大切に思う兄の家族愛シナリオ。晶子のエロシーンが無いことなど惜し……当然のことでしょう!
うーん、粗がないので悪い点をあまりあげられないな……。そうだなあ、強烈な印象に残るシナリオだったかというと、実はそうでもなく、正直このレビューを書くにあたり多くを忘れてしまっていたという当たり障りの無さが難といや難ですかねえ。しかし、どのシナリオも起伏と奥行きがちゃんと備わっていて、呼応するEDもしっかり作られている、なかなか優等生な作品でしたね。
2作品の集大成として描かれる、全ルート消化後の追加のシナリオも非常に熱いです。前作の主人公雪之丞と、本作の主人公勝の拳での語らいですね。ふたりの本気の勝負により、雪之丞はプロボクサーとして、勝は彼のトレーナーとして生きていく決意をします。シナリオもキャラ構図も、ひと世代前のスポコン青春ものの極みといった感じがしましたよ。
【グラフィック】
原画は前作同様ながせまゆさん。相変わらず魅力ある素敵な絵ですね。一枚絵の魅力が良きかなです。絵的に好きだったのは特に桜瀬由美子ですかねー。前作の由希みたいに、おしとやか病弱キャラって絵的にもあんまりそそられない子が多いのですが、この子は例外的に反則なまでにかわいいですね。
また、女の子のアップばかりで枠内を埋めようとせず、色々な要素を書きこむ一枚絵も素晴らしいと思います。鹿島学園側の5人がカウンターでラーメン食べてるカットとか印象に残ってます。こういう一枚絵を用意するってのは大切だと思いますね。そしてさすがのエルフ、塗りは綺麗ですし量も申し分ないですし、立ち絵、エフェクト、システム的な部分も問題なしですね。
【キャラクター】
前作の主人公雪之丞君は、最近のエルフでいえば土天冥海さん系といいますか、内省の多い背負ってしまう系のキャラクターでした。対して本作の主人公勝君は、往年の蛭田作品に現れそうな、バカであけすけでノリも良いが、土壇場では決める男として描かれています。どっちが読んでいて気持ち良いかは一目瞭然ですね。主役が突き抜けてかっこいい話は大抵面白くなるもんです。
本作ではトリックスターとして描かれるその雪之丞君も、せりなと付き合い過去を払拭したせいか、勝へのアシストの数々は前作のダウナーぶりからは想像できないほどにイイ奴として描かれます。主人公の面目躍如ですか。
女性陣は全体的には前作の方が良かったかなぁ…、と正直思いますが、キャラ絵とあいまって魅力はありますよ。でもやっぱ前作のメインヒロイン春日せりなを超えるヒロインはいませんでしたね~。ま、せりなは本作にもガンガン出てくるし、勝とのからみも面白いからいいんですけどね。
【音楽】
BGMは全体的にはほとんど印象に残っていません、が、歌付きのOP曲はなんか頭に残ります。前作のへんてこな歌付き曲のようでなくて良かったです。
以上、あしたの雪之丞2でした。もしかしたら評価厳しめかもしれません。全体的には欠点がほとんどなく、ビギナー向けの作品ですね。まぁ2010年である今、今更この作品をビギナーに薦めるってこともしませんが笑。
関連レビュー: あしたの雪之丞
メーカー | ALICE SOFT |
シナリオ | ■■■■■■■□ 7.5 |
グラフィック | ■■■■■■■■ 8 |
キャラクター | ■■■■■■■■ 8 |
音楽 | ■■■■■■ 6 |
スポ根 | ■■■■■■■■■□ 9.5 |
総合 | 【B】 73点 |
前作は前説
エルフ発の青春ボクシング物語「あしたの雪之丞」の続編です。まさか続編が出てくるとは意外でしたね。前作をプレイしていることがある程度前提となってくるため、採算性の問題からシリーズものってなかなか冒険できないと思うのですが、エルフのそういう英断は好きです。ただ、前作プレイは必須です!
【シナリオ】
前作の主人公雪村雪之丞がボクシングをやめて転校するきっかけとなった、スパー中に意識不明に追い込んでしまった親友……、この親友こそが本作の主人公久保勝です。意識不明から目を覚まし復学するものの、ドクターストップにより一筋だったボクシングは辞めざるを得ず、スポーツ特待生だったため学力も出席日数も追いつかず留年、と鬱屈した日々を過ごすことになります。そんな彼を支える周囲の人間と持ち前の明るいキャラクターで状況を打破する彼のヒューマンドラマです。前作の雪之丞&せりなTRUE ENDの続きとして本作は展開します。
さて、前作と比してどうだったかというと、「前作よりはるかに良い」というのが大方の意見で、僕も賛成です。神作品として崇める人もいるくらい人気がありますね。ただ、僕は前作も普通に好きでしたので、シナリオ的に大きな差があるかというとこれは多分そこまで劇的なものではないと思うんです。ライターも同じ方ですし。では何が違ったかというと、キャラクターや設定の造形、ここに尽きると考えています。
前作の主人公は、意図せずとも加害者になってしまった人間でした。現実に耐え切れず逃避してきたダウナー気質の主人公、そんな主人公を恨み追いかけてくる晶子や明男、負を起点にしたシナリオを主人公とヒロインで共に歩み行く決意をする……そういった類のシナリオ群でした。春日せりなという稀に見る天真爛漫な良メインヒロインがシナリオを仕切るため、世界観は明るいものになっているのですが、要は表面的な設定の見え方とシナリオ展開が同じなんですね。これはこれで王道で良いと思いますが。
一方、本作は被害者側の人間ですから、彼を支える周囲が前提として温かい。プラス、彼の性格も非常にアッパーに突き抜けている。周囲を明るくする主人公と彼に同調するヒロインたち、と非常にノリが明るいため、より青春ものの雰囲気が出ていますね。前作では復讐キャラとして描かれた実妹の晶子も、本作においては健気で素直な本来の側面で描かれますし、権造といった強烈なギャグ要員の友人もいます(しかしこいつが実に熱い笑)。表面的には前作以上に明るい。しかしその実、ヒロインたちは親の浮気、父親の就職難、身分違いな家庭、自身の病気など、結構ヘビーな家庭事情をそれぞれ抱えています。勝自体も心の底にはボクシングに対する捨てられない葛藤が渦巻いてます。
このあたりのキャラクター造形の差が、如実な完成度の差につながっていると僕は考えています。
勝がかなりアップテンポな人間なのに加えて、脇を固めるメインヒロインのあきらや友人の権造、勝の母ちゃんなどのキャラが強烈に立っていますので、とにかく話のテンポが良いです。ギャグシーンも勝を起点に動きますので実に楽しげな雰囲気でサクサクさくさく読めてしまう。さらにシリーズものの強みを最大限に活かし、せりな、雪之丞をはじめとした前作の登場人物たちが惜しげもなく話に絡んできますので、シナリオに深みと広がりを与えていますね。
ま、このあたり高評価になってくるのは、前作ありきだからですけどね~。本作を単独作品として立てた場合にどこまでいいものになったかは正直わかりません。シナリオ的にはもう一息だった前作の設定やそこから派生していたキャラを、存分なまでに今作の世界内で噛み砕いて良質な作品に仕上げて開放した、そんな感じです。ゆえに前作本作の2作品まとめて「あしたの雪之丞」としての評価をしたいところですね。
ヒロイン勢をあげときましょう。メインヒロインは水島あきら。勝の相棒的ポジションに位置し、黒髪ポニテにして当時としては画期的なダウナー系ヒロイン笑。シナリオ自体も親の浮気や傷害事件騒動など、作中最も悲惨めなタイプでしたか。
あきらの友人の病弱っ子桜瀬由美子、見た目超かわいい笑。彼女は前作のとあるキャラが意外なまでに熱い働きをします。ボクシング部の新人マネージャー藍川ちはる、この子も見た目かわいい。彼女もどうにもならない重めな家庭環境が主題でしたが、当時と違い今や僕も社会人であり、また不況のこのご時世、あんま笑えないっすわ。そして財閥令嬢の三枝マキ、身分違いの恋愛を描くちょっと全体からみると浮いたシナリオですが、勝が竹を割ったような性格なのでライトに描かれていて良かったと思います。元カノという設定も効いていましたね。
そして前作ヒロインの一角であった、勝の妹久保晶子。このシナリオはとても出来がいいです。何がいいかって、恋愛劇じゃないところがいい。そりゃそうです、主人公の実妹です。実は血の繋がりがなく恋愛モードになるとか、実妹との禁断の恋愛になるとか、全くないです。ここにあるのは、失恋の痛手を引きずる晶子と、彼女を誰より大切に思う兄の家族愛シナリオ。晶子のエロシーンが無いことなど惜し……当然のことでしょう!
うーん、粗がないので悪い点をあまりあげられないな……。そうだなあ、強烈な印象に残るシナリオだったかというと、実はそうでもなく、正直このレビューを書くにあたり多くを忘れてしまっていたという当たり障りの無さが難といや難ですかねえ。しかし、どのシナリオも起伏と奥行きがちゃんと備わっていて、呼応するEDもしっかり作られている、なかなか優等生な作品でしたね。
2作品の集大成として描かれる、全ルート消化後の追加のシナリオも非常に熱いです。前作の主人公雪之丞と、本作の主人公勝の拳での語らいですね。ふたりの本気の勝負により、雪之丞はプロボクサーとして、勝は彼のトレーナーとして生きていく決意をします。シナリオもキャラ構図も、ひと世代前のスポコン青春ものの極みといった感じがしましたよ。
【グラフィック】
原画は前作同様ながせまゆさん。相変わらず魅力ある素敵な絵ですね。一枚絵の魅力が良きかなです。絵的に好きだったのは特に桜瀬由美子ですかねー。前作の由希みたいに、おしとやか病弱キャラって絵的にもあんまりそそられない子が多いのですが、この子は例外的に反則なまでにかわいいですね。
また、女の子のアップばかりで枠内を埋めようとせず、色々な要素を書きこむ一枚絵も素晴らしいと思います。鹿島学園側の5人がカウンターでラーメン食べてるカットとか印象に残ってます。こういう一枚絵を用意するってのは大切だと思いますね。そしてさすがのエルフ、塗りは綺麗ですし量も申し分ないですし、立ち絵、エフェクト、システム的な部分も問題なしですね。
【キャラクター】
前作の主人公雪之丞君は、最近のエルフでいえば土天冥海さん系といいますか、内省の多い背負ってしまう系のキャラクターでした。対して本作の主人公勝君は、往年の蛭田作品に現れそうな、バカであけすけでノリも良いが、土壇場では決める男として描かれています。どっちが読んでいて気持ち良いかは一目瞭然ですね。主役が突き抜けてかっこいい話は大抵面白くなるもんです。
本作ではトリックスターとして描かれるその雪之丞君も、せりなと付き合い過去を払拭したせいか、勝へのアシストの数々は前作のダウナーぶりからは想像できないほどにイイ奴として描かれます。主人公の面目躍如ですか。
女性陣は全体的には前作の方が良かったかなぁ…、と正直思いますが、キャラ絵とあいまって魅力はありますよ。でもやっぱ前作のメインヒロイン春日せりなを超えるヒロインはいませんでしたね~。ま、せりなは本作にもガンガン出てくるし、勝とのからみも面白いからいいんですけどね。
【音楽】
BGMは全体的にはほとんど印象に残っていません、が、歌付きのOP曲はなんか頭に残ります。前作のへんてこな歌付き曲のようでなくて良かったです。
以上、あしたの雪之丞2でした。もしかしたら評価厳しめかもしれません。全体的には欠点がほとんどなく、ビギナー向けの作品ですね。まぁ2010年である今、今更この作品をビギナーに薦めるってこともしませんが笑。
関連レビュー: あしたの雪之丞
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