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エロゲ レビュー ブログ
【Scarlett】
Scarlett



メーカーねこねこソフト
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■■■■ 8
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■□ 7.5
境界線■■■■■■■■ 8
総合【A】 82点

それぞれの居場所

ねこねこソフト解散作品ということで(これを書いている今は復活しているのですが)、当時話題になった作品ですね。諜報活動を舞台とした一級エンタメ作品で、一息で読めるテンポの良さは見事です。

【シナリオ】
しかしまあやってくれますね、このシナリオのレベルの高さは。果たしてエロゲである必要はあったんでしょうか笑。良くも悪くも隙なくしっかりと硬派に高いところまで積み上げられたシナリオだと思います。

国家暗部でありながら、であるがゆえに人の興味を引く、諜報機関を舞台とした作品です。それもニトロプラスのPhantomのような派手なタイプのハードボイルドエンターテイメントではなく、情報戦や心理戦をメインとした妙に生々しいスパイものです。メインライターは片岡ともさん、マニアックな知識に裏打ちされた、独特の文章を書く人ですね。しかし知識を見せつける独りよがりなものに決してならず、あくまで読み手がわかる体を崩さないところにプロ意識を垣間見ることができます。

ふたりの主人公の視点から見る手法がとてもうまく機能しています。ひとりは別当・和泉九郎・スカーレット。国家以上の権力を持つ高級諜報員です。そしてもうひとりが大野明人、我々と同じ一般人サイドにいる普通の高校生。この住む世界の違うふたりの視点を行き来して交差する物語を紡いでゆく点がうまかった点ですね。ただ、一般人である読み手の気持ちを代弁するためにメイン主人公は明人であったと思うのですが、1章以外は完全に九郎が主人公格になっていました。

メインのヒロインは、明人の相手として別当・和泉しずか・スカーレット、九郎の相手としては同級生にして現在日本陸軍にて諜報員として働いている葉山美月がいますが、二人とも魅力的に描かれていますね。話への重要度も各々非常に高く、必要不可欠な存在感を備えています。

全4章からなる一本道の物語です。1章は日常に漠然とした不安と不満を頂いている明人が、九郎の妹にして別当家の一員であるしずかと関わることで、その非日常に手を伸ばす様が描かれます。一方で九郎たちにとって諜報活動は日常の情景ですので、そのギャップに読み手をうまく引きつけていきますね。別当・スカーレット家当主であり九郎の父親である八郎が切り札として育てていた謎の少女アメリアの存在を軸に、高級諜報家の活動の仕方や存在意義、事件の盛り上げ、一般人である明人の思い、などを過不足なく説明して魅せていくバランスの良い章です。導入としては完璧かと。

2章は、南アフリカの小国を舞台にした、九郎のスパイ活動の日々に焦点を当てています。話としては本作の性格がいちばんよく出ている話だったんじゃないですかね。小国の政権争いをめぐっての諜報活動が描かれますが、出演キャラが満遍なく活躍しますし、人間ドラマも綺麗に描けていて悪役討伐もスカッと終わります。

3章は、しずかの出自に関わる過去の一連のヒューマンドラマ。東西ドイツ時代、東側の遺伝子研究医レオン・ハイルマンの人生が描かれます。具体的には、しずかの母親となる少女エレナとの出会いと、彼女の娘イリカとの生活、そして死を間近としたイリカを救うための彼女のクローンがしずかというかなり黒めな過去話ですね。ラスト、レオンとしずかの丘のシーンは感動せざるをえませんね。

ただ、この設定はメインヒロインの重要設定でしたので、後半戦に生かしてほしかった気もしますが……、ま、インパクトのある泣かせどころの章であっただけに印象に残っていますが、この章は幕間の過去話に過ぎないんですけどね。敢えて触れないのもそれもまた良しでしょう。

ちなみに、この章は唯一ライターが片岡さんではなく、木緒なちさんが担当しています。木緒さんは、この変化球的な片岡ともさんの設定群の狭間で一章分のシナリオを任された状況、やりにくかったと思うのですが、グッジョブと言わざるを得ないですね。スカーレット3章の功績は後々彼の代名詞のひとつとなるに違いありません。


そして最終章は、明人にふりかかるどうしようもない災難をベースに、それぞれの人間関係を交差させる巧みな展開。短かったかな、という気もしないでもないですが読み応えはありました。重水と原子炉の輸出を材料に国家発言権を上げようとする意図や、宇宙空間で外部の監視衛星と手ごまの監視衛星が重なるタイミングを見計らって脱出用ヘリを戦闘機B-2と海面の間に隠す方法など、発想がマニアックすぎます。

また、ラストシーンはめちゃくちゃ良かったですね。しずかとともに日常に戻った明人と、偶然出会った九郎との一瞬の交差。わからないふりを敢えてする九郎、美月とそれでも期待してしまう明人。それでも交わらない。しかし最後の最後に九郎が粋な計らいをしてくれる……。3章のダイナミックな感動も良かったですが、この渋くて切ないラストシーンは非常に染みるものがありました。



と、いうわけで全体的にテンポよく長すぎずまとまっていますね。ただ、2章のような諜報活動の話が3,4章の間にもうひとつあって多分ちょうどいい尺だったんじゃないかな。私見ですが。

さて、この物語のベースには、九郎たち諜報員としての非日常に憧れる明人、そして明人のような普通に憧れる九郎、しずか、といった実に単純な対比があります。この単純根幹があるからこそ、物語に動きがあっても彼らのスタンスや心理がブレず、しっかりしたシナリオが形成されます。

日常から非日常、そしてラストにまた日常へと戻る明人を主人公にすることで、僕ら日常ベースで生きている人間の共感を得る構図はいいですね。そう考えると主人公の明人があまり活躍しないのも、しずかが技術こそあれど諜報活動を行わないのも、最終的に二人を日常、現実へ戻す前提があるからなのでしょう。殺人や犯罪など抵抗なく行える引きもどせないところまでいってしまえば、やはり日常に戻る際に違和感が残りますから。

僕たち人間は、現実と非日常の境を認識して、誰しもが非日常にあこがれながら時には突っ走り、時には挫折して、気持ちに折り合いをつけることで大人になっていきます。非日常に入り込んだとしても途端にそこは自分にとっての日常となり、やはり折り合いをつけることに奔走することになる。言ってしまえば非日常なんてものは結局入り込むことのできないものなのかもしれませんね。そういう曖昧でビターな感覚をラストシーンは非常に象徴的に描けていると思います。


まあ、設定が非常に面白いのですが、正直無理ないか?ってシーンや、九郎に人間味がありすぎて高級諜報員としては難がある点、最高峰のはずの技術なども意外と簡単に突破できちゃうのね、って場面もあるにはあります。明人を見ていると、日常/非日常の線の「越えられない壁」感をあまり感じないのも確か。ですが、エンターテイメントとしてそれらしく見せることにも成功できていますし、問題ないでしょう。

名作です。


【グラフィック】
ねこねこソフト解散を決めたラスト作品だったのが理由かどうかはわかりませんが、一枚絵のバリエーションが多くて嬉しい限り。エロシーンが極端に少ないから全体数が少ないのかな? 数はそう多いわけではないんですけどね、日常のなにげないシーンや、通常必要ないだろうカットに至るまで一枚絵が用意されていますので多く感じます。そのCGもどれも綺麗ですね~。特にしずかのデザインはかなりGood!

余談ですが、初回版パッケージではしずかがアイスを食べている絵なんですが、これって、ラストシーンの明人の「土産にアイスを買っていこう」という独白へのオマージュですかね。実際しずかがアイス食べてるシーンなんて出てこなかったですからね。ん、ありましたっけ?

【キャラクター】
第二の主人公である高級諜報員、九郎のかっこよさが際立っています。言動、頭の切れ、そして人間味。さらに公式の場でも常にアロハシャツ笑。明人なんて霞んでいるもいいところで、1章以外は普通のサブキャラ扱いといっても過言ではないです。と、いうか別当スカーレット家ですね。父親八郎の飄々としたキャラクターも、しずかの健気さとデレ寄りのツンデレもとても魅力的でした。

個人的には、レベルの高い諜報員がもう何人か出てきてくれたら話に広がりが出たかなと思っていますが。フリーランサーのナセルと高級諜報員のマザランのみでしたので。

そして声優さんの力演が光ります。別当の現当主である八郎には数々の怪演が光る若本さん、ギャグ一切なしのシリアスモードで、彼独自の語り口を少し抑えた渋い演技がたまりません。そしてキャリアウーマン美月役が意外や意外、まきいづみさんなんですね。あの独特のロリボイスが強烈な印象にある彼女ですが、なかなかどうして、こういう声もあるんですね。そして僕が好きな声優さんで必ず挙げる2名、籐野らんさんがしずか役、夏野こおりさんがアメリア役というのもポイント高いですよ。


【音楽】
全体的にジャジーで大人っぽいBGMが多いですかね。個々の曲はいいのですが、細かい話をすると、音がちょっと電子音に寄り過ぎているため、曲が軽くなってしまっています。せっかくジャズテイストな曲ばかりを揃えたのですから、生音寄りの音作りにこだわってくれたら良かったですね。

エピローグに合わせて流れるED「Loose」は名曲でした。曲自体も良いのですが、ラストシーンがとても美しいので、相乗で良く聞こえます。


えー、以上Scarlettでした。埋もれがちな名作って感じですかね。評判の高さは前々から知っていましたが、プレイはしばらく経ってからでした。いい作品でしたよー。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

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