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エロゲ レビュー ブログ
【カルタグラ ~ツキ狂イノ病~】
カルタグラ ~ツキ狂イノ病~



メーカーInnocent Grey
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■■■ 9
キャラクター■■■■■■■■■ 9
音楽■■■■■■■□ 7.5
■■■■■■■■■ 9
総合【A+】 88点

名作サスペンスエロゲ

いや、なんといいますか。久しぶりに没頭して読み込んでしまう作品でした。僕が無知なだけかと思いますが、こんな名作が眠っていたなんて……、こういう出会いがあるからエロゲは止められないんですよね。

ガチなサスペンスものですから好き嫌いはおおいにあるとして、シナリオの流れや一枚絵の魅力、世界観などの「作品完成度」という点では非常に高い質を持っていたと思います。


【シナリオ】
舞台は戦後間もない冬の上野。主人公の高城秋五は、遊郭に居候をさせてもらっているしがない探偵。ある日、警察官時代の元上司の紹介で、令嬢「上月由良」捜索の依頼が舞い込みます。その捜索対象に驚く秋五、なぜなら彼女は秋五のかつての恋人であり、戦争の混乱や出征の中で別れたきりになっていた少女だったからです。

あまりにも出来すぎた偶然に依頼を受ける気になる秋五。到着すると、彼女と瓜二つな双子の妹、上月和菜に出迎えられます。姉とは対照的に快活で屈託の無い彼女にとまどいつつも父親の話を聞いてみると、父親は和菜を部屋から退去させ、秋五に「由良はもう死んでいる」と告げます――。

一方、上野では女性の連続バラバラ殺人事件が頻発。生きている状態での肢体切断や、子宮を食した痕跡など、常軌を逸したその殺害手口に警察の捜査と世間の注目は拡大する一方です。

この、一見平行しているように思える各々の事件はやがて引き寄せられるように交差し、秋五に惨劇の真実を突きつけます……。



終わってみれば一瞬でしたが、それは純粋に面白かったからゆえのことなのか、単純に短かったのか……。中盤あたりで殺人事件のカラクリがわかってしまうので、二周目以降に前半部分が完全に作業になってしまうのはまぁサスペンスものの宿命でしょうかね。それから猟奇殺人事件解決から真相究明に入る和菜ルートが濃厚すぎて、すべてコンプリートして後から考えてみると前半部分が遠い昔の話のように思えてしまうのは致し方ないところでしょうか。

序盤においてもう少しだけボリュームを持たせることで完成度をよりあげられるポイントがいくつもあったように思えます。例えば、連続殺人犯が学園のシスターというのは、流れとしてはとてもよかったですが、彼女が犯人だとわかる時点で、それまでに1シーンにしか登場していませんので、彼女をもっと話に登場させて、読者の印象に残しておくべきだったと思います。そのほうが演出としては鮮やかになったでしょうに、少々もったいなさを感じました。また、事件の当時者となる妹の同級生、綾崎楼子も登場と話への食い込み方が急すぎて正直少しとまどったのを覚えています。さらにいえば、秋五の過去、有島警部や遊郭の雨雀姐さん等との過去のいきさつなどが描かれていると話に深みが増したと思います。


……と、のっけから批判で入ってしまいましたが、本当に素晴らしい作品でした。伏線提示と動きのある場面が盛り沢山なものですから、冗長にだらだらと流すような日常場面を極力排し、グッとひきつける場面を程よい間隔で配置させ読む手を止めさせないバランス感はあまりにも絶妙だったと思います。キャラクターの感情の動きとたたみかけるテキストの応酬には、完全に引き込まれていました。


選択肢により初音や七七といった各ルートに分岐しますが、これらのルートは謎や伏線が投げ出され、すっきりとは終わりません。また、TRUEへの伏線を提示したまま終わるBAD ENDなんかも多々ありますね。あくまで連続殺人事件の解決以降に待っている真相究明編、つまり和菜のTRUE ENDありきの本作であり、本作評価もそのルートに値しますね。連続殺人事件を物語の中心と見せかけておきながらもそれはあくまで大局の一部にすぎず、真相編に大きな力を割いている構成が非常に良かったですね。そして殺人事件一応の解決あたりからグイグイと登場人物が事件の中心に直接絡みだすようになるのがまた読み応え抜群でした。


特にラスト付近の展開、黒幕の登場と事件の真相、予想外すぎる八木沼刑事の応援、そして最後の最後、エピローグでのダメ押しのドンデン返しであった、生きていた由良の描こうとした本当のシナリオ……、後半のたたみかける展開はどこを切り取っても完成度は非常に高く、また本当に面白い! 

有島が黒幕の一端というのも、後半に残された人物関係や当人の行動から推理は容易なのですが、シナリオの展開と演出は鮮やかなもので、単純な読み物としての引きは非常に強かったですね。しかしながら黒幕中の黒幕は上月由良そのひと、秋五を愛する彼女の意志と生まれ持った運命に抗うための思惑を実行するために起こった陰惨な事件だったわけですが、それを引きつけ引きつけ最後の最後に投下する演出も見事でした。



主人公の秋五はずっと事件に踊らされ続けています。当事者ということもありますが、彼は事件の旗振り役になりません。最終的な物語の解決役も妹の七七が負っていますしね。でもここは凄くうまいところなんですね。この物語、当事者たちが事件の根幹に関わりすぎているんですね。本来、ミステリーにおいて探偵役というのは事件の外にいなければなりません。ですが秋五はそうではなかった。そこで、七七に探偵役を担わせるのはある意味うまい描き方だったと思います。


辛口な意見を言わせてもらえば、有島警部の動機が、犯人の一画である、狂気と由良を盲信した赤尾生馬に比べてだいぶ弱かったのと、由良の能力とか予言とか、そのあたりの絡ませ方がわかりにくいというか中途半端な感じがしたので惜しかったですかね。

ま、惜しいところはそりゃあるにはあります。面白かったですからね、あれが書かれていれば……、と思うところはあります。ですが、陰惨且つ静謐な世界観を最初から最後まで保ち続けたうえに、撒きに撒いた伏線や疑問点などをしっかり回収しきった物語構成は称賛に値します。


また、エロにもグロにも力を注ぎまくっているところにも好感がもてますね。エロけりゃいいってもんでもないですし、僕はネクロフィリアでもなんでもないですが、なまじグラフィックが美しくストーリーが綺麗に構成立っているものですから、一見対極にあるエロやグロがよく際立つんですね。ここらへんの要素にも手を抜かない姿勢、いやむしろこだわりの領域なんでしょうが、とても評価できますし、ここに力を注ぐのは作品完成度としても大正解であるわけです。

また、CGはもちろん、会話や情景が非常に美しい場面シーンがいくつもあることを書いておきたい。遊郭女郎の凛とのベンチでの会話シーンや、冬史に膝枕をしてもらっているシーン、それから雨雀姐さんとの会話はそういう場面が多かったかな。

いやはや、読んでいて引き込まれていました。シナリオ担当は飯田和彦さんですか。要チェックライターさんの仲間入りです。



【グラフィック】
原画は杉菜水姫さん。非常に美しいですねー! 戦後の冬を舞台にした、うら寂しく儚い一枚絵が多いです。本作は、陰惨で静謐な不思議な世界観造りを丁寧に丁寧に行っているスタッフの様がよく伝わってくるのですが、特にその筆頭であるグラフィックの雰囲気は抜群に良いですね。死体のシーンなんかも演出や一枚絵にこだわっているんでしょうね。かなりのグロ絵ではあるのですが、そこまでの嫌悪感を抱かなかったというのが正直なところです。

キャラ絵も幼すぎず大人っぽさを出した画風ですね。個人的には萌え萌えしているよりもこれくらいの方が好きです。

ところどころ演出も良かったですね~。渾身の一枚絵を際立たせるための構図の動かし方なんかもそうですし、僕が一番「おっ」と思ったのは、犯人視点に切り替わった時に秋五のセリフでボイスが入ってきたところですかね。



【キャラクター】
高城秋五、遊郭に居候している行灯タイプの探偵です。この時代がモチーフの作品って、こういう頼りないタイプの主人公って多くないっすかね。気のせいかな。彼は、自分でグイグイ解決していくタイプでなく、ポテンシャルはそう大きくないものの、人望や求心力で周囲の助けを得ながら解決をしていくタイプですね。僕的にはこれでありだと思います。おかげさまで友人の冬史や妹の七七といった人物のキャラがすこぶる立っています。


この物語は、切ないキャラが多すぎますね。中でもなんといっても遊郭の女郎、凛。何ですかこの愛しさ全開のわりに全く報われないキャラは。まあ確かに登場時から死亡フラグがムンムンに立っている彼女ではありますけども、メインヒロインばりにかわいく秋五と良好な関係を築く彼女、確実な惨殺が約束されています。。。orz

シスターが用意した、(おそらく)凛の身体を使った料理を拒否して餓死寸前の秋五の幻覚の中で、ともに生きていけるから飢え死ぬ前に自分を食べてくれと語るシーンなんて名シーンだと思います……。

また失踪事件と殺人事件の接点を作る新興宗教「千里教」の祠草時子や上記した綾崎楼子、彼女たちもキャラ的には魅力あるのですが、どうあがいても不条理に殺されてしまいますので痛かったですね……。


妹の高城七七。清々しいまでに自身の興味に基づいて行動を取る彼女、表にはあまり出てきませんが本作のストーリーテラー役でもあります。シスターとも接触を取って仲良くなってしまっている彼女、「珍しいものを食べられた」などと語る彼女から、彼女は人間としての最大級のタブー、「人食」を犯していることがわかります。また、彼女はもうひとつの禁忌「近親愛」を犯してもいますよね。

彼女のルートは静かながらも実に壮絶で、凛の人肉を食すという、自分の領域まで秋五が入ってきた上で助けに来る……非常に聡明な少女ですね。そして秋五を手にし近親愛の線も軽く越えさせてしまうのですから、恐ろしさを覚えます。彼女はあれだけ事件に深入りしながらも唯一危険を全て回避し続けますしね。また、一色ヒカルさんのまっすぐな演技も素晴らしかったです。


そして秋五の精神的支柱であり、物語内でも何度も彼の背中を押してくれる熱い女性キャラが二名、親友にして裏社会の俊英蒼木冬史と、遊郭雪白の女将雨雀姐さん、この二人があまりにも良いキャラをしてますね。この手の物語で熱いことを成すのは大体男性キャラではありますが、最高に男前な彼女たちに胸が熱くさせられる場面が何度もありました。彼女たちが秋五に深入りしてくれるか否かがBADか生存かを分かつキーでもありますし、具体的な力も、その力を使う想いも、兼ね合わせている彼女たちが物語に幅を持たせます。秋五を救うためシスターを倒しにきたり、ラストで赤尾と大立ち回りをかます冬史や、初音を気丈に譲り渡してくれる雨雀姐さんなどには奮えましたね。

そんな殺伐とした作中で唯一、日常と萌えの象徴で存在が非常に暖かかった初音。遊郭雪白の下働きをしている少女で、和菜と結ばれるTRUE ENDの他に、唯一HAPPY ENDをもつヒロインとなります。ただ、彼女のルートは本質的には何の解決もできておらず、初音のために事件途中で舞台を降りる、といったENDでしたが、一心に秋五を慕う想いや、彼女を拾ってくれた雨雀との間にあるお互いを思い合う気持ちなど、こういう救いのある締め方もひとつはあってもいいかも…と思います。


そして最後に上月和菜。純粋で元気な天然キャラクターはメインヒロインたる様相で、実際とてもかわいく魅力的なキャラクターです。シナリオへの重要度も非常に高く、たまに空気化するメインヒロインがいますが、決してそういうこともありません。しかし、どうしても冬史や七七、凛など他のキャラの魅力に隠れてしまう部分がありましたのはシナリオのせいで、これは彼女のせいではない。こればっかりはしょうがないな……。ただその分シナリオにおける和菜と由良の使い方は面白かったですし、メインのヒロインとしての格は十二分に備えていました。


しかし、いやはや、キャラクターの使い方が実にうまい。秋五サイドにいる人間たちの書き込みはもちろんなのですが、後半のキナ臭い場面での有島警部の立ち位置、ともすれば嫌な奴のまま終わるはずだった八木沼刑事の使い方、美術監督赤尾の物語への絶妙な絡ませ方…などなど。そういった意味では、後半に絡みのない遊郭陣営は最終的な印象が薄くなりがちでしょうか。


それから是非書いておきたいこととして、秋五と冬史の関係が凄く好きでした。ラストの赤尾とのバトルシーンで、大怪我を負っている冬史に敢えてその場を託す秋五とそれを受ける冬史のシーンは大好きなシーンのひとつです。


【音楽】
切ない場面で流れる、哀愁を誘うピアノBGM「月の涙」「慟哭」、この2曲が際立っていました。あとは緊迫した場面で流れる「狂イ咲キ」が残っています。ただ、全体的に曲数は少なく穏やかな曲ばかりですので、もう1,2曲パンチのある曲があれば尚良かったのではないでしょうか。しかしながら雰囲気はとてもよく出ていて、陰りがあり懐古的な作風にあっている曲が多いです。


以上、カルタグラでした。
一般的な萌えゲー美少女ゲーといったものとは全然違いますので、敬遠されることも多いでしょうが、気に入った人からは高い評価を得られるような作品ですね。このメーカーの他の作品も是非プレイしてみたくなりました。



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