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【fate/hollow ataraxia】
fate/hollow ataraxia



メーカーTYPE-MOON
シナリオ■■■■■■■■■ 9
グラフィック■■■■■■■■□ 8.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■■■ 9
妥協なし■■■■■■■■■■ 10
総合【A+】 87点

最強のファンディスク

超絶ヒットをかました「fate / stay night」のファンディスク……とはいえファンディスクの枠を大きく越えてひとつの作品としてしっかりと出来上がってしまっています。これが本当の意味でのファンディスクですよ。この力の入れ込み具合、素晴らしいですね。

【シナリオ】
本作、日常シーンがメインに描かれ、血生臭かったstay nightではなかなか描けなかった優しい風景がわんさか描かれているのは喜ばしい限りです。ですが奈須きのこさんのテキストはとにかく言い回しが独特であると共にボリュームも物凄いので、日常シーンばかりが延々と続くと気だるくなってきてしまうのも事実。もちろん好きなキャラクターが登場する場面はそれなりに楽しめるのですが、自分の中ではどうでもいいキャラの長いシーンなど、我慢できずにスキップしてしまうことも正直ありました。……ということですが、実はそのあたりの漫然とした日常シーンはサブライターさんが担当しているみたいですね。奈須きのこさんは、本編であるhollowパートを主に執筆されたとのこと、さすがの仕事です。

しかし日常シーンが多い一方で、中心にはシリアスなシナリオが一本平行して描かれています。そちらの展開やラストシーンは正直 stay nightのものよりもまとまりがよく、非常に熱く素晴らしい出来だったことは嬉しい誤算でした。stay nightあっての本作であることは重々承知していますが、本編後半の盛り上がりが絶賛レベルですんで、個人的にシナリオ評価はファンディスクながらも元作品以上の評価を与えたいところです。


stay night の半年後、前作同様の冬木市が舞台となります。聖杯戦争はとうに終了しているにも関わらず、なぜか日常を変わらぬことなく過ごしている英霊サーヴァントの面々と、それを日常として受け入れているマスターたち。そして繰り返し続ける異質な4日間と、夜だけ進行し続ける新たな聖杯戦争。一体なぜこのような状況が起こり、そして一体誰がこの原因を作り出しているのだろうか…といった感じですね。

というわけで、4日間のうち、昼はコミカルな日常パートが、夜はシリアスなhollowパートが交互に描かれ、イベントを通過し何度もループを重ねていくごとに、徐々に士郎が真相に近づいていく、という形式をとっています。

日常パートは、セイバーや凛、桜との相変わらずの温かいやりとりもさることながら、人気の高い兄貴ランサーが日本の日常にひどく馴染んでいるシーンや、悪役ばかりだったキャスターのコミカルな素顔、眼鏡ライダーの奥ゆかしさなど、殺伐とした前作ではありえなかったシーンが盛りだくさんで、fateファンの「if」にガッツリ応える微笑ましいシーンの数々ですね。

まぁ実のところ、fateの日常描写や笑いは個人的にはそんなに馴染まないため(萌えは別)、そう求めていない部分なんですけどね。でもランサーやライダーの英霊に至る回想が入ったりするのは良かったですね。


そして本編、こちらが素晴らしい出来でした。さて以降は伏字ばかりの文章になりそうですが、まず繰り返し続ける4日間の設定が非常に巧みですね。

前聖杯戦争で神父の言峰綺礼に参加権を奪われた教会派遣のマスターがいましたが、それが本作ヒロインのバゼット・フラガ・マクレミッツですね。彼女は、最弱のサーヴァント「アヴェンジャー(復讐者)」を従え、4日間の聖杯戦争をループし続けています。

それは死を恐れ聖杯戦争の継続を願ったバゼットの思いと、アヴェンジャーが何気ない日常に触れてしまったために始まったループであり、サーヴァントであるアヴェンジャーが以前参加した第三次聖杯戦争を4日目で敗退したため4日間という期間で回転している、というカラクリでした。

そしてアヴェンジャーが借り宿して現界しているのは実は主人公の衛宮士郎。本作における士郎は、本来の士郎というよりは、アヴェンジャーが姿を借りている士郎ということになります。ただ、別に士郎の偽者というわけではなく、士郎本人であることに変わりはありません。わかりにくいですね。奈須ワールド炸裂です。
アーチャーやイリヤは士郎が士郎でありながらアヴェンジャーが潜んでいることを理解しています。ですので、今回のアーチャーは最初から士郎を殺しにかかってきますし、イリヤは全てを見抜いた上で、謎に気づいた士郎の道しるべ役となります。

いや、皆本当は気づいていたのかな?ラストの決戦の時にそのような描写、台詞がところどころありますから。相変わらず細かい設定が難しいですね。第五次聖杯戦争のメンバーをキャストとした第三次聖杯戦争の再現、本来ランサーのマスターだったバゼット、士郎を通して日常を過ごし、そんな日々に憧れたアヴェンジャー、このあたりの仕掛けを念頭において、うんうん唸って「あーこういうことなのかな」とやっと理解する感じです。


ラストの盛り上がりは凄まじかったですね。物語を終わらせるべく、ループを実行し続けている聖杯「天の逆月(杯…うまい!)」に向けて空を上る士郎もといアヴェンジャー、それを阻止しようとするアヴェンジャーの分身たる影モンスター「無限の残骸」。この「無限の残骸」と、fateメンバーとの戦闘シーンはオールスターズの大決戦といった様相でひたすら燃えまくりました。凛&アーチャーの橋梁上の迎撃シーンから始まり、マスター&サーヴァント面々の見せ場がこれでもかというほどあり、最後に守護神セイバーの超見せ場がありましたねー。また本気を出すギルガメッシュのかっこよいこと、かっこよいこと。

そして最後のバゼットとアヴェンジャーの契約破棄シーン!宿主の士朗の馬鹿正直さに感化され、異質な物語の幕を下ろす決意をするアヴェンジャーにはしびれます。弱さ、平凡さ、そんなものが溢れる日常に憧れ続けたアヴェンジャーと、強さの裏にある儚さから永遠の4日間を望み続けたバゼットが、自分たちの世界に折り合いをつけ世界を終わらせるわけですがバゼットは実は生きていた5日目の自分へ、アヴェンジャーは「終わり」の先にあるかもしれない何かへ……聖杯が崩れゆく中、お互いの希望に向かって背を向け合い走り出すシーンは落涙必至の超絶名シーン。ここのBGM「last piece」がまた神がかっていて、僕個人としては、fate 全シーンの中で最も気に入っているシーンです。セイバーの夢の続き、凛とアーチャーの別れ、といったstay night 屈指のシーンも本シーンには適いません!!


【グラフィック】
原画はstay night 同様武内崇さん。もうタイプムーンで奈須きのこさんといったら、もうこの人しかいないですよね。また、相変わらず豊富な立ち絵や、戦闘エフェクトなどの画面効果もstay nightと比べて遜色ありません。かなり気合の入った作りになっています。

またFDならではのオマケ要素。花札なんかはついつい時間を忘れてやりこんでしまいますし、オマケ原画が見られる絵馬もがんばってコレクトしてしまいますよね。それからゲストを招いての壁紙コーナーですが、ここに名を連ねた原画師さんたちのそうそうたる顔ぶれと言ったら!


【キャラクター】
日常パートは、コミカルな面から描くことで完全にキャラクターを良く見せようという意図満載なので、そりゃあ生きてきます。人気を二分する女性キャラであるセイバーと凛は、元来あった面白い面をさらに押し進める形で、3ヒロインの中ではイマイチ影が薄かった桜は、本作でより健気で明るく大胆なキャラに描かれ魅力度がアップです。

ライダーやキャスターも、hollowパートよりも日常パートに重きを置かれていますので、だいぶ印象が変わるのではないかと思います。一方、従来キャラの中では、飄々としていながらもバゼットとの絡みでシリアスシーンの楔として描かれるランサーが熱かったですかね。stay nightで最も泣かせてくれたサーヴァントであるアーチャーは、本作では登場シーンが限られ、少々影薄かったかもしれません。まぁおいしいところでしっかり活躍するのですが。

新キャラの中では、バゼットがいいです。しっかりしてそうな見た目の割には判断力が甘く後ろ向きなところもある彼女ですが、そこがまた良いです。人間でありながら法具を扱うというのもカッコイイ。後出ししながらも因果を逆転させ先制攻撃に変えてしまう「フラガラック」という法具ですが、「因果の逆転」というとstay nightファンの方ならわかりますよね。バゼットと彼との一騎打ちシーンは見ものです。

もうひとりのヒロインであるカレン・オルテンシア。彼女はループ世界という虚構の中で実体を持って行動していますが、本来は人間としての機能をほとんど失っている状態、という設定が非常に痛々しかったです。

しかし彼女をヒロインとして深く絡ませる必要があったのかイマイチ判然としません。まぁ確かに彼女がバゼットの命を救ったのも確かですし、唯一アヴェンジャーを士郎上に体現させることの出来るキャラクターとしての絡みは面白かったのですが。何故彼女はこの作られた世界に入り込んできたのかとか、そもそも彼女の本作における立ち位置だったり、悪意を自身に投影してしまう被虐霊媒体質という設定の必要性はあったのだろうかとか……。

あ、でもカレンの介入によりループが成立しているわけなので重要役といえばそうか。「もっかい読め」とか言われてしまうかもしれませんが、ここらへんはどなたか意見をくださると嬉しいです。


【音楽】
使いまわしのない、ファンディスクとは思えないその充実ぶり。ラストシーンで使われる「last piece」があまりにも秀逸すぎます。僕が今までプレイしたエロゲの中でも屈指の出来を持つBGMだと思っています。「カレンのテーマ」なんかもいいですね。儚げな存在である彼女に合った曲です。そしてラスト戦闘シーンの「outbreak」「war」も燃えます! OPも相変わらずいいですね。stay nightに比べて緩やかで流麗とした趣きの曲です。


てなわけで、hollow ataraxia でした。
単純に感心してしまいます。「月姫」という名作を経て、空前の大ヒットエロゲとなったstay nightのFDですからね。下手なことは出来ないじゃないですか。そしたらこの完成度ですよ。ファンディスクであるというに、普通のゲーム、いやそれ以上の密度ですからね。

関連レビュー: fate/ stay night



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

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