遥かに仰ぎ、麗しの
良くも悪くも上品
ライター分業制が非常に面白い形で成功した好例といえます。ゲーム冒頭部分で主人公が左右どちらの寮に居を構えるかを選ぶ場面があり、その後は攻略ヒロインはもちろんのこと、主人公の性格も違えば構成立てもまるで違うため、ある意味違うゲームをやっているといっても過言ではありません。
【シナリオ】
とある半島の隔離されたお嬢様学校「凰華女学院」分校に赴任した主人公、彼と生徒ヒロインをめぐる雰囲気抜群のラブストーリーです。
本校からの転校生たちを描く本校編のシナリオ担当は、いまやお気に入りライターとしてこの人をあげる方も多いであろう、健速さん。主人公は、誠実で行動力があり仕事もできるスーパーマン的描かれ方をしていますが、嫌味はまったくなく好感が持てます。まぁこの手の主人公にありがちな超鈍感なところは共通していますけども。
一方、もともと分校に入学してきた生徒を中心に描く分校編シナリオ担当は丸谷秀人さん。こちらの主人公は非常に人間臭く少し頼りない部分はあるものの素直で親近感があるため、本校編の司とは違った意味で好感が持てます。根強いファンを獲得している「ゆのはな」のライターさんですが、ゆのはなよりも遥かにいい仕事をしていると思います。
大方の評価はヒロインとの純愛を丁寧に描いた健速さん本校シナリオの方が高いようですが、個人的にはヒロインや仲間たちがドタバタと立ち回る分校編シナリオの方が好きでしたかね。しかしここまで主人公を違った人物として描き分けることを良しとしたPULLTOPの英断には少々驚きましたねー。
物語は基本的に一話完結型で進んでいくのですが、メリハリがきいていたかというと少し疑問なところ。終わり方も曖昧だし尺も極端に違ったりします。一話完結形式にするならばひとつひとつを綺麗にまとめて欲しかったかな。このへんうまいのは丸戸さんを中心に添えたHERMITですね。
テーマもそうですし、シナリオ、出てくるキャラクター、世界観は、音楽も相まって非常に清廉な雰囲気に満ちています。それがともすれば起伏の平坦さにつながり少々物足りなくなることもあるのですが、それは空気感ゆえ、ここまでの雰囲気を作り上げたのは、PULLTOP見事といってよいでしょう。
さて、各ヒロイン。キャラ的には圧倒的に弱いですが、シナリオが最も面白かったのは、温室の主、榛葉邑那だと思います。彼女はそのスタンスから、何かしらの秘密がありそうな雰囲気が満載なのですが、各ルートで未消化のままなんとなく残っている色々な伏線を一気に回収する一番話の大きなシナリオです。最後にプレイするのが良いんじゃないかな。かにしのは、とにかく国を動かせるレベルの権力者ばかりが出てくるのですが、その最高峰の一角である蘆部一族に焦点が当たるのが邑那ルートです。特に、邑那お目付け役の李燕玲と邑那の義兄にあたる鹿野渉が非常にいい味出しています。
続いて仁礼家の桜屋敷をめぐる栖香ルートも、途中激しくエロ展開に流れてはいくものの、最後は家族の絆にホロリとさせられる良シナリオでした。彼女のルートは美綺ルートと対になっているのですが、多くを語られるのが美綺ルートなので、そちらを先にプレイした方がいいかもしれません。
並んで殿子ルート。打ち捨てられた飛行機を再び飛ばすため二人で時間を重ねるうちに恋に落ちていくという、最もまとまりが良くて綺麗なのがこのルートで、一般的な人気もこのルートが一番高いみたいですね。このシナリオは、健速さんの持ち味がすべていい方向に出ているルートです。好みは別として、本作を代表するシナリオといって良いでしょう。
日本経済の最高峰を担う風祭家の末女にして学園理事長みやびルートも、周囲のプレッシャーに屈せず必死になる彼女の不器用さと召使リーダの献身具合に萌えるシナリオかと思います。ラストの主従関係愛にはホロリとさせられます。ただ、わたくし、お子様系が正直苦手でしてね、いい子なのはわかるのですが……。
ってか、リーダ攻略させてよ!!!とだれもが思ったのではないでしょーか。僕も強烈に思いました。そうなんですよ、このルート、準ヒロインであるリーダの非攻略という現実に打ちのめされるルートでもあるのです。
さらに対人恐怖症という圧倒的負の感情からスタートして少しずつ近づいていく梓乃ルート、師弟ではなく「相棒」という関係で仲を深めていく美綺ルート、総じてひとつひとつのレベルが高いです。全体量がとにかく多く、共通パートが全くといっていいほど無いうえにひとりあたり7,8時間かかりますので、しっかり読み込んでいけば総プレイ時間50時間超えもありえるのでは・・・。社会人泣かせなゲームですが、終わったあとの達成感ハンパないです。
【グラフィック】
原画家さんは藤原々々さん。個人的には少し幼いのですが、非常に綺麗な絵を描く方で、何枚かは思わず見入ってしまう程のレベルの絵がありますね。ただ、シナリオのボリュームとCG数があってないのが惜しい。欲しいところで無いのは残念な気持ちになるわけですが、そういった場面がとても多かった。
あと背景もう少しがんばって欲しかったですね。使いまわしが非常に多いので、鳳華女学園の広さがいまいち伝わってこなかったのも惜しいところ。特にただでさえ絵に広がりが出ない地下洞窟シーンなどはつらかった。このシーンに割く時間がけっこうあるだけにです。
【キャラクター】
主人公司は上記した通り、超行動派で頭のキレる男です。就職活動に失敗したとはとても思えません。本校編、分校編でキャラが違いますが、こいつは生理的に受け付けない、となる人はほとんどいないのではないでしょうか。
ヒロインは本校分校各々それなりにキャラが立っているのですが、全体を見たときに、非攻略キャラであるリーダ、鏡花、奏の3人の魅力が強すぎたのでは・・・と。そして立ち絵すら存在しない分校編のクラスメイトたち、やはりキャラが立ちまくっているうえに、地味にエピソードが付随していたり、ゲスト声優陣が豪華だったりと、実に立ち絵がないのが勿体無かった。まぁ立ち絵を用意したらしたで、「何でこんなに魅力あるのに攻略が(ry」と現リーダ、鏡花などと同じ流れになってきますかね。さらに攻略可能キャラよりも魅力的な非攻略キャラの方が多くなってしまうと、完成してないのに出すな、と叩かれることでしょう笑。
ここらへんはFDで補完なのかもしれませんが、一向に出る兆しもありませんし、出ないような気がします。
そうだなぁ・・・好きだったヒロインは、相沢美綺かな。シナリオの出来とキャラの魅力の順位が逆転しますね、かにしのは。元気で無鉄砲ながら実は気ぃ使い、って子は凄く好きです。他ヒロインでも彼女が関わるシーンは読後感が非常にいいですし・・・。皆さんの間で一番人気があるのは殿子みたいですね。確かに本校編では一番いいキャラしてますね。彼女は、その猫みたいな雰囲気もさることながら、声優さんの声がドはまりしているのがウケたんじゃないかなと思います。えーと、遠山枝里子さんですか。
それから司を支えてくれる同僚の暁先生は分校系ルートで大活躍します。男性キャラが温かいというのもPULLTOPの特長ですね。
【音楽】
人里離れたお嬢様学校、という設定にうまく合った落ち着いた音楽ばかり。しかしここぞというところで流れる「ともしびのうた」「夜明けを運ぶ風」が群を抜いて良く、必ず司がかっこいい立ち回りやセリフを言うところで流れるので、鳥肌もんです。「ゆのはな」の時も思ったんですが、PULLTOPは盛り上げどころにディストーションを使った曲を持ってくるのがいいですね。
さらにED「With A Smile」がすばらしい。この作品に非常に合った、穏やかで優しい曲です。
以上、「遥かに仰ぎ、麗しの」通称かにしのです。
2007年美少女ゲームアワードグランプリは伊達じゃないですよ。
シナリオ | ■■■■■■■■ 8 |
グラフィック | ■■■■■■■■ 8 |
キャラクター | ■■■■■■■□ 7.5 |
音楽 | ■■■■■■■■ 8 |
静謐感 | ■■■■■■■■■ 9 |
総合 | 【B+】 79点 |
良くも悪くも上品
ライター分業制が非常に面白い形で成功した好例といえます。ゲーム冒頭部分で主人公が左右どちらの寮に居を構えるかを選ぶ場面があり、その後は攻略ヒロインはもちろんのこと、主人公の性格も違えば構成立てもまるで違うため、ある意味違うゲームをやっているといっても過言ではありません。
【シナリオ】
とある半島の隔離されたお嬢様学校「凰華女学院」分校に赴任した主人公、彼と生徒ヒロインをめぐる雰囲気抜群のラブストーリーです。
本校からの転校生たちを描く本校編のシナリオ担当は、いまやお気に入りライターとしてこの人をあげる方も多いであろう、健速さん。主人公は、誠実で行動力があり仕事もできるスーパーマン的描かれ方をしていますが、嫌味はまったくなく好感が持てます。まぁこの手の主人公にありがちな超鈍感なところは共通していますけども。
一方、もともと分校に入学してきた生徒を中心に描く分校編シナリオ担当は丸谷秀人さん。こちらの主人公は非常に人間臭く少し頼りない部分はあるものの素直で親近感があるため、本校編の司とは違った意味で好感が持てます。根強いファンを獲得している「ゆのはな」のライターさんですが、ゆのはなよりも遥かにいい仕事をしていると思います。
大方の評価はヒロインとの純愛を丁寧に描いた健速さん本校シナリオの方が高いようですが、個人的にはヒロインや仲間たちがドタバタと立ち回る分校編シナリオの方が好きでしたかね。しかしここまで主人公を違った人物として描き分けることを良しとしたPULLTOPの英断には少々驚きましたねー。
物語は基本的に一話完結型で進んでいくのですが、メリハリがきいていたかというと少し疑問なところ。終わり方も曖昧だし尺も極端に違ったりします。一話完結形式にするならばひとつひとつを綺麗にまとめて欲しかったかな。このへんうまいのは丸戸さんを中心に添えたHERMITですね。
テーマもそうですし、シナリオ、出てくるキャラクター、世界観は、音楽も相まって非常に清廉な雰囲気に満ちています。それがともすれば起伏の平坦さにつながり少々物足りなくなることもあるのですが、それは空気感ゆえ、ここまでの雰囲気を作り上げたのは、PULLTOP見事といってよいでしょう。
さて、各ヒロイン。キャラ的には圧倒的に弱いですが、シナリオが最も面白かったのは、温室の主、榛葉邑那だと思います。彼女はそのスタンスから、何かしらの秘密がありそうな雰囲気が満載なのですが、各ルートで未消化のままなんとなく残っている色々な伏線を一気に回収する一番話の大きなシナリオです。最後にプレイするのが良いんじゃないかな。かにしのは、とにかく国を動かせるレベルの権力者ばかりが出てくるのですが、その最高峰の一角である蘆部一族に焦点が当たるのが邑那ルートです。特に、邑那お目付け役の李燕玲と邑那の義兄にあたる鹿野渉が非常にいい味出しています。
続いて仁礼家の桜屋敷をめぐる栖香ルートも、途中激しくエロ展開に流れてはいくものの、最後は家族の絆にホロリとさせられる良シナリオでした。彼女のルートは美綺ルートと対になっているのですが、多くを語られるのが美綺ルートなので、そちらを先にプレイした方がいいかもしれません。
並んで殿子ルート。打ち捨てられた飛行機を再び飛ばすため二人で時間を重ねるうちに恋に落ちていくという、最もまとまりが良くて綺麗なのがこのルートで、一般的な人気もこのルートが一番高いみたいですね。このシナリオは、健速さんの持ち味がすべていい方向に出ているルートです。好みは別として、本作を代表するシナリオといって良いでしょう。
日本経済の最高峰を担う風祭家の末女にして学園理事長みやびルートも、周囲のプレッシャーに屈せず必死になる彼女の不器用さと召使リーダの献身具合に萌えるシナリオかと思います。ラストの主従関係愛にはホロリとさせられます。ただ、わたくし、お子様系が正直苦手でしてね、いい子なのはわかるのですが……。
ってか、リーダ攻略させてよ!!!とだれもが思ったのではないでしょーか。僕も強烈に思いました。そうなんですよ、このルート、準ヒロインであるリーダの非攻略という現実に打ちのめされるルートでもあるのです。
さらに対人恐怖症という圧倒的負の感情からスタートして少しずつ近づいていく梓乃ルート、師弟ではなく「相棒」という関係で仲を深めていく美綺ルート、総じてひとつひとつのレベルが高いです。全体量がとにかく多く、共通パートが全くといっていいほど無いうえにひとりあたり7,8時間かかりますので、しっかり読み込んでいけば総プレイ時間50時間超えもありえるのでは・・・。社会人泣かせなゲームですが、終わったあとの達成感ハンパないです。
【グラフィック】
原画家さんは藤原々々さん。個人的には少し幼いのですが、非常に綺麗な絵を描く方で、何枚かは思わず見入ってしまう程のレベルの絵がありますね。ただ、シナリオのボリュームとCG数があってないのが惜しい。欲しいところで無いのは残念な気持ちになるわけですが、そういった場面がとても多かった。
あと背景もう少しがんばって欲しかったですね。使いまわしが非常に多いので、鳳華女学園の広さがいまいち伝わってこなかったのも惜しいところ。特にただでさえ絵に広がりが出ない地下洞窟シーンなどはつらかった。このシーンに割く時間がけっこうあるだけにです。
【キャラクター】
主人公司は上記した通り、超行動派で頭のキレる男です。就職活動に失敗したとはとても思えません。本校編、分校編でキャラが違いますが、こいつは生理的に受け付けない、となる人はほとんどいないのではないでしょうか。
ヒロインは本校分校各々それなりにキャラが立っているのですが、全体を見たときに、非攻略キャラであるリーダ、鏡花、奏の3人の魅力が強すぎたのでは・・・と。そして立ち絵すら存在しない分校編のクラスメイトたち、やはりキャラが立ちまくっているうえに、地味にエピソードが付随していたり、ゲスト声優陣が豪華だったりと、実に立ち絵がないのが勿体無かった。まぁ立ち絵を用意したらしたで、「何でこんなに魅力あるのに攻略が(ry」と現リーダ、鏡花などと同じ流れになってきますかね。さらに攻略可能キャラよりも魅力的な非攻略キャラの方が多くなってしまうと、完成してないのに出すな、と叩かれることでしょう笑。
ここらへんはFDで補完なのかもしれませんが、一向に出る兆しもありませんし、出ないような気がします。
そうだなぁ・・・好きだったヒロインは、相沢美綺かな。シナリオの出来とキャラの魅力の順位が逆転しますね、かにしのは。元気で無鉄砲ながら実は気ぃ使い、って子は凄く好きです。他ヒロインでも彼女が関わるシーンは読後感が非常にいいですし・・・。皆さんの間で一番人気があるのは殿子みたいですね。確かに本校編では一番いいキャラしてますね。彼女は、その猫みたいな雰囲気もさることながら、声優さんの声がドはまりしているのがウケたんじゃないかなと思います。えーと、遠山枝里子さんですか。
それから司を支えてくれる同僚の暁先生は分校系ルートで大活躍します。男性キャラが温かいというのもPULLTOPの特長ですね。
【音楽】
人里離れたお嬢様学校、という設定にうまく合った落ち着いた音楽ばかり。しかしここぞというところで流れる「ともしびのうた」「夜明けを運ぶ風」が群を抜いて良く、必ず司がかっこいい立ち回りやセリフを言うところで流れるので、鳥肌もんです。「ゆのはな」の時も思ったんですが、PULLTOPは盛り上げどころにディストーションを使った曲を持ってくるのがいいですね。
さらにED「With A Smile」がすばらしい。この作品に非常に合った、穏やかで優しい曲です。
以上、「遥かに仰ぎ、麗しの」通称かにしのです。
2007年美少女ゲームアワードグランプリは伊達じゃないですよ。
| ホーム |