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【CROSS✝CHANNEL】
CROSS✝CHANNEL



メーカーFlyingShine
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■ 7
キャラクター■■■■■■■■■ 9
音楽■■■■■■■■ 8
破滅型群像劇■■■■■■■■■ 9
総合【A+】 86点

友情は見返りを求めない

2003年発売、この作品を「俺的最高ゲーム」と豪語する人も少なくない、紛れもない名作です。その舞台設定といい、空虚で殺伐とした雰囲気といい、鬼才田中ロミオの真骨頂ともいえるその世界観と伏線の妙は目を見張るものがあります。

【シナリオ】
この作品について書こうとするならば、ネタバレに始まりネタバレに終わるようなものです。おそらく全てが伏字になってしまいますので、伏字はせずに書いていくことにします。未プレイにしてプレイ予定のある方はこの先は見ないようにしてくださいね。


FlyingShineのHP上で製品紹介を見ると、「放送部員たちの夏の青春ゲー」といった印象を抱きますが、とんでもない。本作「CROSS † CHANNEL」、すべての生物が消失してしまったパラレルワールドに迷い込んでしまうSFモノです。さらに言うと、ほとんどの登場人物が、社会で生きていくことが困難なほどに何かしらの心の障害を抱えています。そんな設定ですので、人間関係の歪みからバッドエンドにバッドエンドを重ねていくことになり、鬱ゲーとしても有名なようです。さらにさらに、このパラレルワールドは同じ一週間を延々と繰り返し続ける世界であり、ループものの代名詞でもあります。これだけのトンデモ設定を伏せたまま発売に至らせたFlyingShineの決断たるや、アホすぎます。もちろん褒めてますよ。

僕は、HPとデモムービー見たくらいで他に何の事前情報もなく、すすめられるままに本作を始めました。ですので、本当の本当に「普通の青春ゲー」だと思っていたのです。なので本作一週目ラスト以降の超展開にはハッキリ言って圧倒されました


さて、上記しましたが、社会で生きていくことが困難とされる、「適応係数」の高い生徒のみが通う群青学園が舞台です。主人公黒須太一自体も偶発的に強烈な破壊衝動を発現させる学園トップクラスの適応係数を持つ少年として描かれています。登場人物たちも一見普通なのですが、何かしらの心の不備を抱えていまして、その各々の不安定さをシナリオに非常にうまく絡ませてあります。

物語冒頭ですが、群青学園放送部は各々の心の歪みから崩壊寸前、そこで太一が一念発起し放送部全員での合宿を提案し実行するのですが、結局それも失敗に終わります。バラバラの状態で帰路につくのですが、そこに待っていたのは自分たち8人以外の生物全てが消失した世界…というのはまだ最初の段階では明らかにされません。確かに部員以外の登場人物が出てこないのですが、夏休みで学校が閑散としているはずだということや、回想シーンで多くのキャラが絡んでくることなどから、「何かおかしいな」とは思いつつもそこまで気にさせない流れは見事でした。

部活動どころではないうえにそもそも絆がほぼ切れてしまっている面々ですが、とりあえずこの非現実の中でいつもどおりの学園生活を送ることを選択します。そんな中、課題であった放送用アンテナを建てることで現実逃避をし、ひとり作業を続ける部長の宮澄見里。太一は彼女の行動を起点にひとりひとり部員の説得しを試み、皆を和解させることに成功します。そして夏休み最終日、8人での部活動を成し遂げアンテナは無事完成するのですね。「いやーえがったえがった、なかなかエエ話じゃないの」と完全に油断していたワタクシですが、最後のセリフ、ラジオ放送のDJ役を担うことになった太一の放送第一声目が、

「生きている人、いますか?」


ここで一週目のEDです。

うそーん!


そしてこの世界はここまでの一週間を延々とループしているのですね。同じような導入でまたゲームが始まるのですが、微妙に違うんですね内容が。世界の流れはちょっとしたきっかけで変わるもの、毎回毎回同じ結路をたどるわけではないということが、2,3週目でなんとなくわかってきます。週によっては、太一はバーサーカーになってしまったり、誰かと恋人になっていたり、誰かに殺されたり、自殺したり、前ループでは生きてた奴が死んでしまったり殺されたり…。そしてまた週終わりにリセットが成され、新しい一週間が始まるのです。


また、8人とは別に、ループ冒頭で必ず太一が出会う「七香」という謎の少女が少しずつ太一に助言をしてくれます。彼女が太一の母親だったという設定は正直個人的にはかなり微妙だったのですが、そのおかげで太一は町外れの祠の中に置いてある、ループし続ける毎週の状況を自分が記載しているノートを発見します。そして、祠周辺がループの影響を逃れることに気づくと同時に、自分のせいで皆をこの世界につれてきてしまったこと、自分が元の世界とこのパラレルワールドとの架け橋役になっていたことに気づくんですよね。

そこからの太一は良かったですね~。そこまではイマイチ好きになれなかった彼ですが、皆を元に戻すことを決心した後の彼の行動には大変感服致しました。


全ループの中では、美希がフォーカスされるループが一番おもしろかったですねー。彼女はのほほんとしているようで、自分のためなら他者を盾にするも捨て駒にするも全く厭わない、強烈な自己愛から高い適応係数を持っています。祠のからくりに気づいてしまった彼女は、自分が初期化されるのを恐れ、週終わりになると祠周辺に赴くことで何十週にも及ぶ回数、ひとり記憶と行動を継続させています。つまり彼女は本編何週目からかは知りませんが、とにかくすべてを"わかっている"のですね。ここは衝撃であると共に、彼女の不安の描き方と、その鮮やかな場面展開は、本作の評価をループもの最高峰に押し上げる瞬間ですね~。

物語冒頭で、美希が太一のセクハラを軽くいなす場面がありますが、そのギャグシーンですら、美希だけが成長し続けているからという伏線につながっていると考えると鳥肌もんですね。冒頭で美希と霧と三人で夕日を見るシーンがあるのですが、そこで美希が流す涙もとても意味合いの強いものとなっています。


また、自殺してしまった霧の義兄、豊の存在!彼は回想シーンにしか出てきませんが、超重要なキーパーソンです。太一が壊れた人間になるきっかけは、かつて彼と彼の親族が太一のことを延々と慰みものにし続けたこと、そして太一と、太一の超人幼馴染支倉曜子の手により彼らを皆殺しにしたこと、というあまりにも鬱すぎる闇過去があるため。命だけは助かった豊は記憶を喪失していたのですが、太一によりその記憶を呼び起こされ自殺してしまいます。

この設定に絡んだストーリー展開も非常に巧みでした。この狂った世界の中で、霧が太一に対して殺意を以って接し続けるというのもそうですし、何よりも全員を送還していく過程で、太一とふたりだけの世界を創ろうとした曜子を揺さぶる切り札への伏線もすばらしかった。彼女はループによってはメンバーを皆殺しにするくらい戦闘能力も半端ではないですし、記憶がリセットされても毎回世界の異常に気づくほど洞察力も優れています。そんなスーパーウーマンに対抗する切り札、それは「豊の一族皆殺しを実行したのはすべて太一で、彼女は何もできないままだった」という大ドンデン返しな事実。ここは、あぁ「家族計画」青葉ルートを書いた人だなぁと思いましたねー。


ラストは泣き所でしたね。ループを繰り返しながら、祠でひとりひとりを元の世界に戻していくのですが、太一からそれぞれに送られる言葉が堪らなく悲しく切ない。そして逆に、それまでアホなことばっか言っていた桜庭が唯一主人公の心情を見抜いていて「親友」だと語るシーンは一番の感動シーンでしょう。

全員を送還した太一は、世界に自分だけという静かな狂気に自分を見失いそうになるのですが、七香つまり母親の愛を感じ取ることで、世界が終わるまで放送を続ける決意を固めます…いや、なんてビターで切ないENDなのでしょう。


ただ、ラストのラスト、太一が寝ているシーンがあるのですが、この背後で鳴っているのは蝉の声。パラレルワールドではすべての生物が消失しているはずなので、彼は現世界に戻ってこれたのでは?というのが定説のようです。そしてゲーム一週目の幸せなENDも、すべてうまくいくことは決してなかったという途中の説明にそぐわないループなので、これはループ内のことではなく、その寝ている太一の希望を反映した夢なのだ、とも言われています。


とまぁ結局レビュー的というよりは、大体のあらすじを追った感想になってしまっていますが、ここまでの設定をうまく絡ませて完成させた本作、実に見事でした。



【グラフィック】
凄まじい完成度を誇るシナリオやキャラ造形に比べてしまうと、少し弱い気がします。とはいえ全体的に改めて見ると、綺麗で悪くはないんですけどね。コミカルな絵も含めて良いです。みんなマッチ棒のように線が細いから気になるのかな。

例に漏れず本作ムービーのニコ動を貼り付けておきますが、この販促ムービーではとても楽しげなポップな作品を想像してしまいます。非常によくできていますが、しかしてその内容は正反対。完全に狙ったつくりになっています。見事です。



【キャラクター】
まずは桜庭という男のセンスに脱帽です。彼が一番のお気に入りであり、最高クラスのお笑い要員です。女装した太一に恋をしてレイプしようとしたくだりや(でもこれも豊のレイプ事件への伏線になってるのかなぁ)、カレーパン好きなくせにカレーは嫌いなくだりは笑えます。中でもピーナッツ入り柿の種のくだりは尋常ではないセンスで、『ピーナッツ入り柿の種』に対して「ピーナッツはいらない」というのは『ピーナッツ入り柿の種』の尊厳を損なうものであり、それならば純正の柿の種を食え、と彼は言います。そして、「だから俺はピーナッツだけを食べるようにしている」とのたまう。なんというセンスの高さや。…のくせに彼が最後一番泣かせてくるものだからタチが悪い。


もうひとりの男友達、島友貴も良かったです。太一と桜庭のキャラがあまりにも強すぎるため隠れがちではありますが、彼のような中立的な存在は物語にはやっぱり必要ですね。まぁだからこそアンテナ壊したりする犯人が友貴だったときは衝撃なんですけど。突っ込み役で、太一と桜庭と3馬鹿と呼ばれていますが、僕は学園モノで男が馬鹿をやっている設定が凄く好きなのです。彼は宮澄里見と姉弟であり、規律遵守にこだわりすぎるため高い適応係数を持つその姉により、家族の仲を裂かれた過去を持ちます。上述のアンテナのくだりもそうですが、姉に対して大きな反抗心を持っている彼の心の糸を太一がほぐすのも、本作の見所のひとつです。


主人公の黒須太一君は最初どうも好きになれなかったんす。ノリがぶっ飛んでいてキチガイ的でどうも…でもバーサーカー化しないように、敢えてそうしている彼の背景が明らかになってくるあたりからは、「おいおい、この性格すらも伏線かよ」とむしろ好感度が反転しましたねー。


ヒロイン勢ではやっぱり美希が一番良かったですね~。ルートの盛り上がりがダントツですし、本当は凄く臆病で寂しがり屋だというのが、よくわかるからです。それなのに何十周も記憶を持ったまま絶望をループをし続けてきた彼女の孤独を考えると、やっぱり美希が一番になっちゃいますよ。

あとは太一の元カノである冬子。ツンデレ冬子はそのプライドの高さゆえメンバーの助けを拒絶し、大半のルートで餓死してしまいます。これは痛すぎる。またその反面、依存しだしたらそれが凄まじいものになるという設定、かつて太一にふられたのを覆すために切腹を図るほどです。これは痛すぎる。しかしツンデレ具合が実に良い。


【音楽】
うらびれた音楽が印象的です。本作の設定にふさわしい、どこか穏やかで空虚なBGMがうまく絡んできます。静かなものばかりなのですが、シナリオとのバランスがとてもイイ感じなんです。そして、全員を送還するシーンで流れる「Signal」、EDの「CROSSING」は非っ常ーに良いです。歌詞がモロですしね。この2曲が評価を高めていることは否めません。


と、いうわけでクロスチャンネルでした。
いや書き疲れた。




テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

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